忠臣蔵外伝 四谷怪談
製作国・製作年度 日1994年
上映時間 106分

製作 櫻井洋三
監督 深作欣二
原作 鶴屋南北
脚本 古田求 深作欣二
撮影 石原興
美術 西岡善信 丸井一利
編集 園井弘一
音楽 和田薫

出演 佐藤浩市 高岡早紀 津川雅彦 渡瀬恒彦 火野正平 荻野目慶子 石橋蓮司 渡辺えり子 蟹江敬三 近藤正臣 真田広之 田村高廣 名取裕子

深作欣二

恐喝こそわが人生

仁義なき戦い

県警対組織暴力

魔界転生

レビュー
 鶴屋南北の有名な「東海道四谷怪談」はもともと「仮名手本忠臣蔵」のスピンオフとして書かれたということで、江戸時代には忠臣蔵の幕間に演じられたらしい。だから、忠臣蔵と四谷怪談が別物として認識されている今日では奇異に映るが、この作品の試み自体は至極真っ当なものなのだ。 だから、異色作ではあるけれどうまい具合に二つの話がひとつに溶け合っている。

 お話はいまさら言うまでもない。浅野内匠頭が殿中で吉良上野介に刃傷ざたを働き切腹、浅野家はお家断絶に追い込まれる。家臣たちは吉良への仇討ちを望むが、肝心の家老大石内蔵助は色町で毎日どんちゃん騒ぎ。これが吉良を安心させるための策略だとは気付かない他の家臣たちは、絶望して自害したり脱落していく。そんな中、浅野家家臣の一人である民谷伊右衛門は女郎のお岩と親しくなり仇討ちから脱落する。しかし、たまたま暴漢から救った吉良家の家臣伊藤喜兵衛の孫娘お梅が彼を気に入り、邪魔なお岩を毒殺してしまう。そうと知った伊右衛門は、しかし打算からお梅と祝言を挙げてしまう。お岩は亡霊となって伊右衛門を苛み、錯乱した彼はお梅をお岩と思って殺してしまいそのまま出奔する。そこへ吉良の家臣清水一学が現われて大石内蔵助の暗殺と引換えに助命の約束する。伊右衛門は単身赤穂浪士が集まる屋敷へ向ったものの、内蔵助を殺すことができず堀部安兵衛ら浪士たちを相手に自殺的な戦いを挑んで斬られる。その晩、四十七士は吉良邸へ討ち入りした・・・。

 というわけで、クライマックスではお岩の亡霊の復讐と赤穂浪士の活躍がシンクロして描かれる。僕は映画やドラマで四谷怪談や忠臣蔵をちゃんと観たことがないので過去の諸作品と比較することができないが、かなりよく出来ているのではないかと思う。

 当時の江戸では赤穂浪士たちがいつ吉良邸に討ち入りするかという話題で持ちきりだったらしい。そんな中、失業してその日の食べ物にも困窮する浪士たちの日常や、芸者遊びに現を抜かす大石内蔵助に対する浪士たちの不満が的確に描かれている。浅野内匠頭の一周忌で集まった浪士たちが庶民から腰抜けと囃し立てられる短いエピソードも、浪士たちの苦悩をよく表現していて強い印象を残す。

 そんな中、琵琶を弾いて口に糊している若い浪人が本編の主人公である民谷伊右衛門。どこかニヒルな雰囲気を漂わせる二枚目で、忠義を全うしようと願いながらも打算から仲間を裏切り、お岩と添い遂げようと思いつつもやはり打算からお岩を裏切る。また、金のためには辻斬り強盗も厭わない。いわばアンチヒーローなのだが、僕のごひいき佐藤浩市がそうしたダメ男の屈折した心情を、感情を抑制したハードボイルドな演技でうまく描きだしている。父の三國連太郎もそうだが、佐藤浩市はこうした暗い影のある役を演じるとダンゼンよい。

 ハードボイルドといえば、幕府の役人から20両の罰金を言い渡された同士のために辻斬り強盗をする場面は圧巻。夜、帯刀した伊右衛門が神社の参道にやってきて側の木陰に隠れる。少年の時に犯した辻斬りの記憶が蘇る。次ぎの場面では一人部屋で小判を数えている。そこへ堀部安兵衛がやってきて小判を渡す。伊右衛門がそれを受け取って勘定すると二人合わせて20両ある。そこで伊右衛門が安兵衛に、「堀部さん、袖に返り血がついてますよ」。安兵衛慌てて懐紙で袖を拭う。ここは演出、演技ともに見事なハードボイルドタッチで、実際の殺しの場面を描かずに残酷さ・非情さをうまく表現している。同時に赤穂浪士たちの困窮振りも言外に浮き彫りにしている。この映画の中で最も優れた場面だ。

 一方お岩役の高岡早紀は爆乳も披露して熱演。えらく健康的で明るく恋に一途なお岩像を描き出している。しかし、どう贔屓目に見ても怖くない。伊右衛門に対する恨みの情がない。こういう役では愛らしいばかりじゃまずいだろう。高岡早紀はこの役で数々の映画賞を取ったようだが、それは選者が彼女の巨大なバストにびっくりしたからだと思われる。

 ただし、これは脚本に問題があるのかもしれない。確かにお岩は化けて出て伊右衛門にお梅たちを殺させるが、それは伊右衛門にとって決定的な破滅の道ではない。清水一学によって破滅を回避する道を与えられている。伊右衛門が破滅したのは自身の選択によるものだ。だから、お岩の恨みは宙に浮いてしまう。せいぜい自分の死体を戸板に打ち付けて川に流した清水一学とその仲間に「ドラゴン・ボール」まがいの電撃(吹雪)?を浴びせて殺すだけだ。そして、すべてが終わった後で伊右衛門の亡霊と一緒に歩き出す。

 というわけで、「忠臣蔵」の部分はよく描かれているが、「四谷怪談」の部分はどうも中途半端に終わっている。視点を変えてお岩の伊右衛門に対する純愛を描いたというふうに捉えてみても、どうも喰い足りない思いが残る。

 まあ、その部分が僕の目には弱点に映るのだが、素晴らしい点も多々ある。例えば、いつもどぎつい原色ギラギラの深作映画としては、映像やセット、衣装がとても凝っていて綺麗。特にお梅とその親類縁者にはすべて真っ白な白粉をつけさせ衣装も華美、おまけに画面の四隅をぼかしたソフトフォーカス的な処理をしていて美しい。これは当時愛人だった荻野目慶子を綺麗に撮ろうという配慮だろうか?お梅とその従者の一行が伊右衛門を迎えに来る一幕は、キツネの面を被った一行と乗物に乗ったお梅のシルエットがすこぶる耽美的で、深作監督にもこういう趣味があるのだなとちょっと驚いた。

 伊右衛門を招いたお梅が見せる舞と決起した赤穂浪士たちの舞、そして毒を飲まされたお岩の苦悶がカットバックで描かれる場面は、琵琶や鼓を使った音楽と歌舞伎の所作が素晴らしく、深作監督らしい迫力が盛り上がる。また、特殊効果もうまく取り入れており、伊右衛門が赤穂浪士たちに斬られて屋敷の外に飛び出した途端凄まじい吹雪が室内に吹き込んでくる場面は圧巻だった。後半の討ち入りの場面もなかなか派手でよかった。

 役者では津川雅彦、渡瀬恒彦らがタイプを生かした好演だし、石橋蓮司、荻野目慶子、渡辺えり子、蟹江敬三らは意表を突いた怪演。

 怪談的なものは希薄だが、全編にわたって切れのいいスピーディーなテンポで進行して飽きさせない娯楽映画として楽しめる作品。

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