豚と軍艦

日 1961年 108分

監督 今村昌平
企画 大塚和
脚本 山内久
撮影 姫田真佐久
美術 中村公彦
音楽 黛敏郎
出演 長門裕之 吉村実子 三島雅夫 丹波哲郎 小沢昭一 山内明 加藤武 殿山泰司 西村晃 南田洋子 中原早苗

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 米軍基地のある横須賀を縄張りにするヤクザ日森組は、売春ハウスを当局に摘発されて落ち目。そこへ怪しげな日系人崎山が現われて、彼の仲介で米軍の残飯を払い下げてもらえることになる。折からの豚肉不足から、日森組はその残飯で養豚業を始めることにする。その事業の責任者を任されたのが日森組のチンピラ欣太。ボーナス15万円と出世を目指して頑張る欣太だが、恋人の春子は真っ当な職に就くことを願っている。

 しかし、事業に介入しようとしたヤクザ春駒を殺したのがケチのつきはじめ。海に捨てた春駒の死体が岸に流れ着きヤクザたちは大慌て。組のNo2の人斬り哲次は胃癌ノイローゼで入院。日森組のかばん持ち星野は組の金を持ち逃げ。崎山は礼金を受け取ったままハワイにトンズラして約束の残飯は手に入らない。しかも、春駒の下駄が発見され犯人の捜索が始められる。

 一方欣太は春子の願いも空しく日森組に振り回される日々を送る。自暴自棄になった春子は米兵と遊びまわった末暴行される。そんな中、組長日森に愛想をつかした子分たちは欣太を仲間に引き込み、豚を横領して売り払うことにする。しかし、それに気付いた日森は子分たちより先に豚を奪って逃げる。子分たちはそれを追って横須賀の繁華街ドブ板通りで対決するが、豚を売った金を折半し春駒殺害の代役に欣太をたてることで手打ちになる。これにぶち切れた欣太は機関銃を乱射、ブタを放して町中に溢れさせるが、ヤクザたちに撃たれて死ぬ。彼の死を知った春子は、横須賀にアメリカの軍艦がやってきた日に、なけなしの金を持って横須賀を後にする。

 この映画は、基本的にはダメな男としっかり者の女とのどうにもならない腐れ縁のドラマだけれど、それに絡んで米軍に寄生して利益を上げようとするヤクザたちのドラマが描かれるのがミソ。後者の部分はジョン・ヒューストンの「黄金」や「アスファルト・ジャングル」を思わせるが、面白いのはハードボイルドではなくコメディとして描いている点。特に丹波哲郎扮する人斬り鉄次が絡むエピソードはどれも面白い。最高なのは春駒の死体を食べた豚の丸焼きをヤクザたちが食べるところ。鉄次が口から吐き出したのが春駒の歯で、一同「オエーッ!」となるエピソードは、日本映画屈指のブラックジョークの場面だろう。また、自分は胃癌だと決め付けて電車に飛び込もうとするものの怖くて出来ないという場面では、彼がしがみ付いているのが生命保険の看板だったり、「俺は業が強くて死にきれねぇ」とか言って中国人マフィアの殺し屋に金を払って自分殺しを依頼したり、払った金が偽ドルだったので殺し屋が返そうとすると殺しにきたと思って逃げ出したり、丹波哲郎がハードな魅力と情けなさをミックスした怪演で大いに笑わせる。個人的にツボだったのは、クライマックスの撃ち合いでヤクザたちがいちいち「正当防衛だぞ!」と言い訳がましく叫びながら欣太に向けて拳銃を撃つところ。しかし、本質的には闇の世界にうごめく人々の欲望の物語であり、ヤクザたちが元組員のタクシー会社社長を強請って金を奪うエピソードは、その社長が自殺したという後日談も含めて非情さが滲み出ている。春駒の死体の処置を巡るてんやわんやや、裏切りの連鎖による自滅なども頗る暗く救いようがない。こうした状況に流されていく欣太とそこから脱出しようともがく春子の物語も結果的には悲劇に終わる。

 「豚と軍艦」が、その設定からしてアメリカと日本の関係を暗示しているのは明らかだ。朝鮮特需で経済復興を成し遂げた日本は、サンフランシスコ平和条約による独立後も対ソビエトの最前線として政治的・軍事的にアメリカに隷属していた。一方アメリカ軍兵士の欲望を満たしてやることでしのいでいた日森組は、経済的にアメリカ軍に隷属したままだ。この映画が製作された1年前には60年安保闘争があり、アメリカからの真の独立を求めて日本全国でデモが行われた。アメリカ兵のオンリーになるか川崎に出て自活するかの間で揺れ動く春子の心理は、そのまま当時の日本人の心境かもしれない。そして、欣太が野たれ死んだ後で春子が横須賀を出て行くラストは決然として清々しい感動を与えてくれる。当時の状況に即してこんな面白いドラマを作った今村昌平と山内久の才能は素晴らしいと思う。なお、タイトルに出てくる「豚」は、当時の石原慎太郎の「デモに行くヤツは豚だ」という発言から来ているらしいが、だとしたらアメリカに寄生しているヤクザが豚に踏み(喰い?)殺されるクライマックスは痛烈だ。

 映画全体を通して、どの場面にも今村監督の意気込みが感じられるダイナミックな映像が見られる。ヤクザたちがタクシー会社に乗り込む場面では、クレーンによる俯瞰撮影から前進撮影へとワンショットで処理する描写が圧巻。春子が欣太を問い詰める場面では、軍港が見渡せる小高い山の上で眼下の港を背景にしてドラマチックな雰囲気を盛り上げる。春子が米兵に乱暴される場面では、彼らの様子を頭上から捉えたカメラがグルグル回り、回り終わると時間が経過しているという曲芸的なカメラワークと編集を見せる。最後のトラック同士のカーチェイスも夜の闇を背景にしてとてもシャープだし、欣太が機関銃をぶっ放し、豚を町へ放つ場面はある意味ファンタスティックだし、逃げた欣太が力尽きて便器に顔を突っ込んで死ぬインパクト、上陸する米兵を迎える娼婦たちを尻目に春子が列車で横須賀を去る様子を山の上からの大俯瞰で描いたワンショットのラスト等、まるで自分自身の刻印をフィルムに刻んでいるような、力強い描写の連続で唸らされる。

 優柔不断で軽薄、ちょっと拗ねたような欣太を演じた長門裕之が素晴らしく、春子役の吉村実子が当時高校2年生でかつデビュー作とは思えない圧倒的な存在感を振りまく。他の役者も個性全開で、滑稽で悲惨な物語をリアルにしている。

 本当にこの映画はあらゆる点で素晴らしい。スタッフ・キャストのエネルギーと時代のエネルギーが沸騰して溢れ出てくるような傑作だと思う。

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