影武者

日 1980年 179分

製作 黒澤明 田中友幸
製作総指揮 フランシス・F・コッポラ ジョージ・ルーカス
監督 黒澤明
脚本 黒澤明 井手雅人
撮影 斎藤孝雄 上田正治
美術 村木与四郎
編集 黒澤明
音楽 池辺晋一郎
出演 仲代達矢 山崎努 萩原健一 根津甚八 大滝秀治 隆大介 油井昌由樹 桃井かおり 倍賞美津子

関連映画

黒澤明

七人の侍

隠し砦の三悪人

用心棒

椿三十郎

仲代達矢

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・椿三十郎

怪談

上意討ち 拝領妻始末

 「デルス・ウザーラ」以来5年ぶりの監督作品にして、製作に自称「黒澤の弟子」フランシス・コッポラやジョージ・ルーカスが参加した黒澤映画。カンヌ映画祭でグランプリを受賞するなど話題になったが、黒澤監督の過去の作品に比べて面白い映画とは思えない。

 武田軍が三河国野田城を攻囲中、信玄が城中から聞こえる笛の音に惹かれてやってきたところを狙撃され負傷、その傷が元で死んだという「松平記」中の記述を下敷きに物語は始まる。信玄は「3年間喪を秘し、領地を出るな」と遺言して死に、長年信玄の影武者を勤めていた弟・信廉は信玄そっくりの盗人を影武者に仕立てる。影武者は信玄の子勝頼との確執に悩みながらも遺言どおり信玄の役を勤めるが、信玄しか乗れない名馬に乗ろうとして落馬、川中島で上杉謙信に切られた際の傷がないのが露見、家中に偽者だと知られ放逐される。数年後家督を継いだ勝頼は長篠の戦いで織田・徳川連合軍の鉄砲攻撃で壊滅的な敗北を喫し、現場でその光景を見ていた影武者は武田家に殉じるように死んでいく。

 というように、信玄の影武者になった男の数奇な生涯を描いており、お話はドラマチックだ。影武者の扱いなどにはコメディ的な要素も伺える。しかし、出来上がった映画は面白みが希薄。例えば、孫の竹丸に「戦は怖くないが、ジジと別れるのは嫌じゃ」と言われ影武者が思わず抱きしめる場面がある。カメラは影武者の背後からその様子を撮っているのだが、次のカットで逆方向から影武者の表情のアップが出るのかと思ったら出ない。ここは影武者の心情をはっきり描くと同時にドラマを盛り上げるためにクロースアップが必要だと思うのだ。この場面に限らずこの映画には俳優のクロースアップがあまりなく、登場人物の心理にドラマチックな抑揚が欠けているような気がする。また、高天神城攻略の場面では、夜の場面ばかりである上に、襲撃を恐れてかがり火まで消すので、真っ暗で何がなんだかわからない。史実に則ったのかもしれないし、かがり火を消すのはリアリズムかもしれないが、真っ暗の中で戦闘が行われてもまるで面白くない。

 どうも黒澤監督にはドラマチックな映画を作ろうという意思がなく、古美術品のような立派な映画を作ろうとしているような気がする。城内のセットはどれも見事だし、登場人物の衣装も華麗だ。お城が映し出される場面や野外の合戦の場面などスケール雄大。天候を非常にうまく取りいれてドラマチックな画面を作り出しているのにも感心させられる。一場面一場面が比較的長いのも演劇的で格調高い。そういえば、舞などの古典芸能の起用も映画の格調に一役買っている。しかし、そうした様式を追求するあまり、風景やセットの中に登場人物たちが埋没してしまい、何となく人間味が感じられなくなってしまったように思う。それは結局ドラマ性の放棄といっていいのではないか。

 スケールの大きな、立派で格調高い映画であることは間違いないが、僕は通俗ファンなのでドラマチックでなければ困る。そして、これが面白い映画かと問われたら首を横に振らざるを得ない。

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