切腹

日 1962年 108分

製作 細谷辰雄
監督 小林正樹
原作 滝口康彦
脚本 橋本忍
撮影 宮島義勇
美術 大角純一 戸田重昌
音楽 武満徹
出演 仲代達矢 三國連太郎 岩下志麻 石浜朗 稲葉義男 三島雅夫 丹波哲郎 中谷一郎 青木義朗

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 井伊家彦根藩の江戸屋敷に薄汚れた浪人津雲半四郎がやってきて、屋敷の庭先で切腹したいと申し出る。生活に困窮してあまりにも惨めなので武士らしく死にたいというのが理由だ。江戸家老の斎藤勘解由は半四郎の魂胆を探るために面接して、実際に起こった椿事について話し始める。

 数ヶ月前、千々岩求女という若い浪人がやってきて、津雲と同様に屋敷の庭先で切腹したいと申し出た。昨今、同様な申し出を諸藩の藩邸に願い出て、実際に腹を切られると体面に関わるという大名の心配につけこんで、金品をせしめようとする「おしかけ切腹」が流行っている。対応した家老斎藤勘解由は求女もそうした輩だろうと見抜き、敢えて切腹させてやることにする。白洲に引き出された求女は狼狽し、刃を売ってしまった竹光を笑われた上、その竹光で腹を切れと命じられる。彼は命乞いをするが、武士に二言はなかろうと井伊家の侍たちに迫られ、ついに竹光で腹を突き、舌を噛み切って悶死する。

 半四郎はその話を聞いても怖気づく様子もなく、求女が果てた白洲を借り切腹に臨むが、彼がぜひ介錯にと希望する藩の腕のたつ侍がことごとく病気で出仕を休んでいる。斎藤勘解由は不審に思い、彼らを呼びに人をやる。その間、半四郎は彼の境遇を語り始める・・・。

 ここまで、観ている僕たちは求女が武士道を忘れたやくざな侍だと思っている。だから、彼の死はその処遇があまりに酷薄であっても、またその死に様があまりに壮絶であっても(外国ではこの場面で失神する者が多く出たらしい。日本人の僕が今見てもあまりに痛々しく見ていられない)、自業自得だと思っている。また、半四郎も得体の知れない雰囲気からそうした輩と思ってしまう。ところが、ここから先の半四郎の回想で、彼が芸州広島藩の侍であったこと、求女が彼の娘婿で、寺小屋で子供を教える人格者であったこと、彼の嫁美保と息子金吾が病に倒れやむにやまれず「おしかけ切腹」を働いたこと、彼はついに帰らず美保と金吾は数日後に死んだこと、半四郎が斎藤勘解由と彦根藩士たちに復讐するためにやってきたことがわかってくる。実際、病欠している腕利きの藩士3人は半四郎と対決して髷を斬られ、恥辱のために仮病で休んでいることがわかる。

 回想が終わると半四郎は斎藤勘解由ら彦根藩藩士たちを詰る。斎藤勘解由は藩士たちに半四郎を討ち取るように命じる。半四郎は斬って斬って斬りまくるが、全身に刀傷を負いもはやこれまでと切腹する。それに追い討ちをかけるように火縄銃が彼の体を貫く。斎藤勘解由は半四郎の死を聞くと、彼に殺された藩士は病気で死んだことにし、髷を切られた藩士には切腹を命じる。

 この映画では、「武士の体面」が徹底して追及されている。他人の切腹を拒むのも、切腹をネタに小金を強請るのも、どちらも「武士の体面」に基づくものだ。求女は病の妻子を医者に診せてやるために刀を売り、果ては「おしかけ切腹」を試みる。彼は家族を守るというごく当然の人間性によって「武士の体面」を捨てるが、彦根藩側は寛容というごく当然の人間性を捨てて、「武士の体面(武士に二言はない)」を楯にとって彼に無理やり切腹させる。半四郎は井伊家によって運び込まれた求女の死体と竹光を見て、自分が「武士の体面」を慮って刀を売って娘と孫を医者に診せなかったのを悔恨する。そして、ごく当然の人間性によって復讐を誓い、井伊家の藩士たちを斬った末に、井伊家の「武士の体面」の象徴である赤揃えの甲冑を叩きつけて憤死する。一方斎藤勘解由は「武士の体面」のために半四郎の死は切腹扱いとし、髷を切られて仮病を使った藩士に切腹を申し付ける。「武士の体面」すなわち「武士道」という虚飾と非人間性が全編に渡って執拗かつ巧妙に追求されており、主題からまったくぶれない演出・脚本が凄い緊張感を生み出す。実際小林正樹の演出はシンメトリーな構図やクロースアップの多用、比較的長いカットの積み重ねによって、様式的で冷たく重苦しい場面を作り出している。重苦しいといえば、開放感のある野外のカットがほとんどなく、屋敷の庭の白洲など限られた空間ばかりで展開しているのもそうした効果を狙ってのことだろう。

 津雲半四郎に扮した仲代達矢、斎藤勘解由の三國連太郎共に演出の重厚さに相応しい重量感溢れる演技。白洲で二人が対峙する場面は文字通り火花を散らす迫力だ。また、岩下志麻の可愛らしさには、元々が目鼻立ちのクッキリした美人とはいえびっくりした。

 しかし、何よりも凄いのは観ている者の心理を引き回すような、ミステリー仕立てともいえるこの脚本だ。半四郎や求女の素性がわかってくる経過がスリリングだし、半四郎が懐から求女の仇ともいえる藩士3人の髷を取り出す場面など、犯人に証拠を突きつけるミステリー映画の一場面のようである。また、前半が斎藤勘解由の回想、後半が半四郎の回想というように、話の大半が回想形式で進められるという構成も大胆極まりない。まさに計算されつくした脚本であり、これほど見事な構成のものはそう滅多にない。

 アクションの少ない、一般的な時代劇の面白みが希薄な作品ではあるけれど、映画としての完成度の高さと現代にも繋がる重いテーマから見応えたっぷり、「七人の侍」とはまた違った方向性のリアリズム時代劇の傑作。

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