いつも2人で
製作国・製作年度 米=英1967年
上映時間 112分
製作・監督 スタンリー・ドーネン
原作・脚本 フレデリック・ラファエル
撮影 クリス・チャリス オースティン・デンプスター アンリ・ティケ
作詞 レスリー・ブリッカス
音楽 ヘンリー・マンシーニ
テーマ曲 レスリー・ブリッカス
出演 オードリー・ヘプバーン アルバート・フィニー ジャクリーン・ビセット ナディア・グレイ エレノア・ブロン ウィリアム・ダニエルズ クロード・ドーファン ジュディ・コーンウェル

オードリー・ヘプバーン

ローマの休日

麗しのサブリナ

昼下りの情事

おしゃれ泥棒

暗くなるまで待って

ロビンとマリアン

アルバート・フィニー

オリエント急行殺人事件

ジャクリーン・ビセット

ブリット

ロイ・ビーン

・オリエント急行殺人事件

レビュー

 オードリーが主演している映画はどれも素晴らしい。それはもちろんオードリーが出ているからなのだが、それ以上に監督をはじめとするスタッフが心底オードリーを崇拝していて、オードリーのために自己の才能を捧げているからだ。  

 オードリーの映画はいわゆるスター映画であり、基本的にはオードリーを魅せるために作られている。だから、ジンネマンの「尼僧物語」やヒューストンの「許されざるもの」のような監督の個性が前面に出たような例外を除き、似たような内容・雰囲気の映画が多い。それはマリリン・モンローやエリザベス・テイラーなども同じだ。しかし、彼女たちの主演作に比べて圧倒的に名作含有率が高い。「ローマの休日」から始まって「麗しのサブリナ」「昼下がりの情事」「パリの恋人」「ティファニーで朝食を」「シャレード」「マイ・フェア・レディ」「おしゃれ泥棒」・・・これらは決して映画史上のエポック・メイキングになるような傑作ではないけれど、オードリーの魅力を存分に生かした、いかにも映画らしい魅力に溢れた名作だ。それはやはり、オードリーという素材に全身全霊を傾けたスタッフの努力の賜物なのだ。モンローやテイラーならこうは行かない、と思うのは僕がオードリーのファンだからか?

 で、「いつも2人で」である。倦怠期を迎えた結婚12年目のマークとジョアンナ夫妻が車でフランスを旅行する。ただそれだけの話なのだが、二人の出会いから現在に至る各時代の旅行の場面が時系列をバラバラにして挿入され、現在の二人の関係と対比されていく。

 それぞれの時代に切り替わるきっかけがとても絶妙かつ滑らかで、スタンリー・ドーネン監督の才気を感じさせるが、描かれるエピソードも時にはロマンチックで時には滑稽、時には悲哀を滲ませ、まさに名人芸の語り口といいたい。

 個人的には二人が出会った頃のエピソードが最高で、二人がヒッチハイクしながら地中海を目指す道行きが微笑ましい。船上での出会いから路上での再会、ジョアンナがマークとジャッキー(なんとジャクリーン・ビセットだ!)の中に割り込んでマークとヒッチハイクする場面、マークがジョアンナを追い払おうと先に行かせるが、ジョアンナが標識の後ろから滑稽な素振りで出てくる場面、雨に降られて土管の中で一夜を過ごす場面、二人が土管の口から地中海を見下ろす場面、地中海の誰もいない浜辺で戯れる場面、どれも旅情を駆り立てられるような素晴らしい描写。オードリーが大学生の役というのは多少無理もあるが、地味で目立たない(この時点では処女の設定)存在で、マークがジャクリーンに惹かれていると知りながら、何とかマークの気を引こうとする姿が可憐で愛らしく、鶏や羊の物まねをするところも最高だ。

 他の時代のエピソードでは、マークとジョアンナの性格や結婚観の相違、そこから生じる嫉妬や反目、不倫や和解が描かれるが、このあたりは当時メル・ファーラーとの離婚問題を抱えていたオードリーをそのまま反映したような展開で、オードリーも過去にないリアルな演技を見せる。ただし、そうしたシリアスな内容もコメディ的なエピソード(乗っていた旧型のオープンカーが炎上して二人が慌てふためく場面や、友人との家族旅行をコマ落としで描いた喜劇的な場面)の挿入でやわらげられる。

 この映画ではどの時代でも二人が旅行をしているという、ある意味究極のロードムービーといえる作りになっている。しかし、どの旅も明確な目的地はない。言い換えればずっと旅を続けている。それは夫婦生活の象徴なのかもしれない。マークは貧乏学生から身を起こして売れっ子建築家になったし、ジョアンナはマークと結婚して子供も産んだが、それらは彼らの通過点であっても目的地ではないのだ。その後も人生はずっと続いていく。その過程で喧嘩したり仲直りしたり、あるいは劇中に印象的に描かれた、向かい合って黙々と食事をとる老夫妻のようになるかもしれない。それでも二人の旅は続いていくのだ。一応のハッピーエンディングにはなってはいるし、コメディタッチで描かれてはいるが、この映画は「バージニア・ウルフなんか怖くない」ほど辛辣ではないにしろ、夫婦生活の極限を描いた映画といえるかもしれない(なお、原作の題名は「愛情の限界」というらしい)。それでもこの映画がオードリーの魅力を存分に生かした、チャーミングで愛すべき佳品であることは間違いない。

 ところで、この映画は1967年に製作された(この年には「暗くなるまで待って」も製作されている)のだが、これ以後1976年製作の「ロビンとマリアン」まで、約9年間オードリーは映画に出ていない。再婚後に生まれた子供の育児という理由から映画出演を控えていたようだが、奇しくも1967年とは「俺たちに明日はない」「卒業」「暴力脱獄」などのニューシネマが生まれた年だ。何よりも現実を重んじハリウッドの伝統を破壊することを標榜にしたこの運動(というか機運)の中では、恐らくハリウッドのミューズであるオードリーや、そのミューズを崇めるスタンリー・ドーネンにとって出る幕はなかっただろう。この映画は二人の最後の輝きだと思う。

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