情婦

米 1957年 117分

製作 アーサー・ホーンブロウ・Jr
監督 ビリー・ワイルダー
原作 アガサ・クリスティ
脚本 ビリー・ワイルダー ハリー・カーニッツ
撮影 ラッセル・ハーラン
音楽 マティ・マルネック ラルフ・アーサー・ロバーツ
出演 タイロン・パワー マレーネ・ディートリッヒ チャールズ・ロートン エルザ・ランチェスター トリン・サッチャー

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 ビリー・ワイルダーがアガサ・クリスティの有名な舞台劇「検察側の証人」を映画化したこの一編は、彼の話術の天才ぶりを如実に示す傑作法廷劇。しかし、喜劇の神様ワイルダーだから「十二人の怒れる男」のようなシリアスな問題劇ではなく、ゲームの楽しさが全編に横溢するミステリー映画となっている。しかも、原作がクリスティだから最後に言わぬが花のどんでん返しがあって、トリックの種を明かされたら声をあげて驚くだろう。だから、ここでは細かい筋は書かないし、観ようと思う人は他人から話を聞かないようにすべし。

 舞台はロンドン。サーの称号を持つ気難しく老獪な弁護士ロバーツの元に、親しくしていた富豪の未亡人を殺したという嫌疑を受けたレナードが弁護を依頼しに来る。ロバーツは心臓を悪くしていて退院したばかり、医者からは刺激の多い刑事事件の弁護は受けてはならないと言われているが、レナードの無実を確信して弁護を引き受ける。レナードが去った後、今度は彼の妻クリスティーネが現われて彼のアリバイの証人になりたいと申し出るが、ロバーツは被告の妻は被告に有利な証言をすることは出来ないと告げて帰す。

 さて、法廷でロバーツはロンドン一の敏腕を発揮して検察側の証人の証言を次々と論破していくが、何と検察は切り札としてクリスティーネを出廷させる。証人席に立ったクリスティーネがレナードのアリバイを覆して彼が未亡人を殺したと言ったと証言したことから、それまで優勢だったレナードと弁護側は一気に窮地に立たされる。いったいクリスティーネの狙いは何なのか、そして、ロバーツはレナードの無罪を勝ち取ることができるのか・・・?!

 というわけで、後は観てのお楽しみだが、まずは何と言ってもワイルダーの演出と脚本のうまさに脱帽。ロバーツが証人たちの証言を次々とひっくり返していく際のセリフのやり取りのうまさといったら!ロバーツの片眼鏡や葉巻、魔法瓶といった小道具の使い方も絶妙。また、回想を巧みに使うのもワイルダーの特徴だが、ここでもレナードの回想を用いて裁判所内に限定されがちなお話にうまく変化をつけている。そこでディートリッヒの歌を聴かせるだけでなく、かつて百万ドルの脚線美といわれた彼女のアンヨまで見せるのだからサービス精神も旺盛だ。しかも、ディートリッヒのズボンの片足が荒っぽい水兵に破られるなんていう粋な演出を見せるのだから言うことはない。ディートリッヒ、この時五十近いと思われるが冷たい美貌とスラリとしたアンヨは健在。

 このディートリッヒが存在感を発揮してよろしいが、演技はなんと言ってもチャールズ・ロートンの弁護士が最優秀。すこぶる優秀だが頑固で気難しく、そのくせ妙に茶目っ気もあるこの老弁護士を悠々と演じていて楽しい。この弁護士に始終張り付いている口うるさい看護婦とのやり取りは息もぴったりで全編中の見どころの一つ。それもそのはずで、この看護婦を演じるエルザ・ランチェスターはチャールズ・ロートンの実の奥さん。小太りのあまり美人でない女優さんだが、いかにも世話好きで人のよい、それゆえ口やかましい看護婦を絶妙に演じている。この三人に比べれば往年の二枚目タイロン・パワーはそれほど取柄がないが、その二枚目振りがどんでん返しに生きてくるところがキャスティングの妙といえる。

 こういうどんでん返しのある映画は一度観たら二度と観ないケースが多いが、僕はこの映画を三度観ている。同じくあっと驚くどんでん返しがある「スティング」は五回以上観た。なぜなら、この二本はラストだけでなくそこに行きつくまでの伏線が巧みに張られているから、その話術を味わうために何度でも観てしまうのだ。その意味でこれは何度噛んでも味が染み出るスルメイカのような映画。

 なお、原題は「検察側の証人」で、[情婦]という邦題は最悪のネーミングだと昔から言われている。その理由は品がない上にトリックの一つをばらしていることに起因するのだが、どうばらしているかは観てからのお楽しみ。

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