核医学のためのコンピュータを開発

 私が40才のころ、ある狭い世界の中でだけれど、すこし有名になったのは、
“止まっていた心臓を動かしてみせた”からだ。もちろん生まの心臓の話では
なくて、<心臓の内部を撮影した画像>を動かしてみせた話なのだが。
 病気の人の心臓の、動きが異常になっている部分がよく見えて診断しやすい
と、その世界で評判になった装置を、コンピューターの技術をうまく使って、
開発したのである。1975年(昭和50年)、世界で初めての装置だ。

 ディスプレイの画面に心臓の内部(内腔)が映し出されて、これがヒクヒク
と動く。専門医が観察すれば、狭心症や心筋梗塞などの病気で、どの部分がど
のていど悪くなっているのか、一目で判る。診断がやりやすくなり正確になり、
治療方針を立て易くなって、病状が早く改善される。
 装置にさらに次々と改良を加えて利用効果を高めていったから、たくさんの
病院に採用されてわが社の装置はたくさん売れ、学会賞を貰ったりして、私た
ちの開発チームはその世界 −画像診断医学界(病院では放射線科が中心にな
り、内科、外科などに関連する)− では一目おかれるようになり、私の会社
の中でも評価が高まっていった。この装置は、商品名「シンチパック-200」、
一般名称では<核医学画像データ処理システム>と言うが、その時いきなり完
成したものではなく、それまでの長い間の技術的、人的蓄積が効果を挙げて、
この成功に至ったものである。

 <核医学>とは、原子核から出るガンマ線(X線よりもっと短波長の放射線 )
を利用して人体の内部を調べる手法である。数種類の放射性同位元素(アイソ
トープ)は都合のよいガンマ線を適当量放射するので、適当な薬剤にして適切な
環境のもとで人体に投与すると、 調べたい臓器に集まってくる。そこから放射さ
れるガンマ線を適当な検出器で捕捉すると、対象臓器の<生きた状態>を調べる
ことができる。そして、苦痛や危険がほとんどないのだ。
 小型のサイクロトロンで放射性アイソトープが製造できるようになり、ガンマ
線カメラが発明されて対象が画像として撮影できるようになり、コンピュータが
発達して画像がたやすく取り扱えるようになってきて、<核医学画像診断法>は
いろんな病気の実態を描出する便利な方法として発展し普及して、人々が病魔か
ら解放され、医学が進展するのに寄与してきた。

 以下の数ページに、私とその仲間が開発した<核医学画像コンピューター>を
図解する。各ページのリンクをたどれば、ほぼ以下の順序で解説が進むように
してある。

  内容紹介(このページ)  テーマの紹介、各ページの紹介、図解の読み方を説明する。
  ガンマ線心臓画像法    方法を図解して説明(下図参照)
  心臓のしくみ       心臓が血液を送り出す仕組みを、2枚の画像を重ね動かして説明する。
  ガンマ線カメラのしくみ  ガンマ線を捉えて画像信号に変換する仕組みを図解する。
  信号シミュレーション   画像信号に変換される仕組みを、シミュレーションにより説明する。
  画像を扱うしくみ     コンピューターが画像信号を画像に仕上げる仕組みを説明する。
  画像ディスプレイのしくみ 画像がCRTディスプレイに表示される仕組みを図解する。
  心臓拍動画像       コンピューターが仕上げた心臓の画像を動かして見せる。
  この装置を開発した頃   このコンピューターを開発した頃の周りの事々。