元素を高電圧スパークなどで高温に励起すると、核外電子の軌道がいろんな状態に移動してエネルギーが変わり、エネルギー差によって光が発生し、または吸収する。差し引き、光の出る方が多い。軌道状態は、元素ごとに、量子力学によって決まる飛び飛びの多数の値に決まっているので、元素ごとに決まった波長の光になる。「輝線スペクトル」という。
発生した光を「分光器」で波長順に分け、望む元素のスペクトル線の強度を測れば、試料中の元素の量が推定できる。金属などの試料は固体のままで放電して励起でき、多数の元素が一度に測定できる。簡単に短時間に測定できるので、合金などの製造や検査の過程で便利にありがたく使うことができる。ただし、定量精度を高めるためには、試料の作り方や装置の使い方の選択に多大の努力を必要とする。装置の概略を示せば下図のようになる。

分光器
試料から発生した光を導入して、輝線スペクトルに分解する。回折格子と呼ぶ、表面に細線を数千本刻み込んだ凹面鏡で、光の干渉を起こさせて分光する。干渉によって、反射光が集まる方向が、波長によって少しずつずれるので分光できる。プリズムによる分光は、光の吸収がある(特に紫外線の領域で)こと、きれいな面が2面必要であること、集光レンズが別に必要であること、などの不利な点がある。
大きな波長分解能がいるので、焦点距離は1〜2mの長いものになり、温度による変形が問題になるので、分光器内部は温調して定温に保つ。空気中の酸素は紫外線を吸収してしまうので、内部は真空にしてある。機械的精度の高い機構になっている。発光装置
試料と対向電極の間(2,3mm)に高い電圧を加えて放電させ、試料の原子を励起して発光させる。どのような火花が高感度になり再現性が保てるか、1930年代から研究が蓄積されてきた。容量C2に蓄えた電荷をサイリスター・スイッチで瞬間的に昇圧変圧器に加えて試料面に小さな放電を起こし、これでできたプラズマによる導電性の電流路に容量C2の電荷をどっと流して励起を強める。試料の種類に応じてインダクタンスLや直列抵抗Rの値を適切に選択して、分析精度を確保するのは、見通しのきかない難しい仕事である。測光装置
輝線の強度を光電子増倍管で電流に変換し、積分容量に蓄積して、数秒後の積分強度を電位計増幅器(電位を乱さないように電流をほとんど使わない増幅器)で読みとり、元素順に記録計に記録する。発光強度の変動などを補正するために、ふつう、試料の主体元素(鉄鋼の場合はFe)の積分値が設定値に達するまで、全元素を並列に積分する(Fe強度で割り算することになる)が、実際には、積分時間が変動するほどの異常がある測定は信頼できないので棄却する。試料に異物が混入したり放電面が汚れたりしたときにこのようなことがよく起きる。
輝線強度はその元素の含有量にほぼ相関するが、励起プラズマの中での吸収や相互作用によって、直線関係は保てず、また、ほかの元素の影響が強い例もある。標準試料のセットとして、良質な同種の試料を多数集め、化学分析法によって含有量を精密に測定しておいて、「検量線 working curve (=校正曲線)」を作成して、この曲線(またはその近似計算式)を使って未知試料の定量をおこなう。一種の比較分析である。
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元素
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記号
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波長
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燐 |
P
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1775
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| 硫黄 |
S
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1807
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| 砒素 |
As
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1889
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| 炭素 |
C
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1931
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| ニッケル |
Ni
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2316
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| 珪素 |
Si
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2516
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| クロム |
Cr
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2677
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| 鉄 |
Fe
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2714
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| モリブデン |
Mo
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2816
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| マンガン |
Mn
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2933
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| アルミニウム |
Al
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3082
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| スズ |
Sn
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3175
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分析線対
ひとつの元素から発光する輝線スペクトルは多数あり、励起条件や金属の状態などによって出方が異なる。また、他の元素の線と近接すると干渉ができて良くないので、どの輝線を選ぶかは重要な課題である。長年にわたって多くの研究が積み上げられ、ほぼ推奨できる線対が決まってきた。鉄鋼には右のような線対が選ばれている(波長の単位として、伝統的にオングストローム[Å]が用いられる。1Å=0.1nm。)。
鉄鋼中の重要元素 C,P,Sの分析線対は紫外域にあり、酸素の吸収のほか、反射面の性能や入射窓板の汚れの影響、検出器の感度低下など難題が多いが、いろんなくふうによって実用上問題なく分析できるようになっている。Pの分析はとりわけ難しかったが、放電光の部位によってSN比が大きく違うことが発見され、光源を光軸から少しずらすことによって分析精度が改善された。
全元素定性分析
発光分光分析は、多数の元素を一度に検出できる特長がある。不純物がどのように存在するか分からない試料のおよその状態を知ろうとする時には、きわめて古典的であるが、検出器として写真フィルムを用いて広い波長範囲を検索する。どの波長にどのような輝線があるか、詳細をきわめた資料が古くから出版されている。謝辞
本ページの記述には、当社の大先輩、発光分光分析装置の開拓者、遠山健次郎氏の著書を参考にさせていただいた。感謝する。