§4.30代の私:  ビワ湖の魚貝から極微莱汚染物を検出 v.3 
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GC−MS分析装置-2 質量分析計

   0. 装置の構造   1. 試料が来た   2. ガス分離   3. イオン化  4. イオン加速

(順にクリック)    5. 磁界で偏向   6. イオン検出  7. 質量軸走査

質量スペクトル
 一例として下に、化学物質PCBのマス・スペクトルと、その構造式を示す。PCBはビフェニールの2〜6,2'〜6'に1〜10個の塩素が置換した化合物で、210個の異性体がありえるが、そのうちの塩素数5個の精製試薬を同僚が測定した。

 このPCBの分子量 M は、
   炭素 C 12×12個=144
   水素 H  1 × 5個=  5
   塩素 Cl 35×5個=175 計 324
となり、分子イオン M324 が強く現れているが、ほかに、フラグメント(断片)イオン
   M−Cl(1〜5) の 289, 254, 219, 184, 149 が見える。これらは親イオンから塩素が何個か離脱した断片である。(それ以下のイオンは今の私にはよく分からない。)

 塩素には同位体があって、分子量35の35Clに対して37Clが24.5%含まれている(ほぼ3:1)。それでイオンは2おきに複数現れて、その質量比は、
 塩素1個が付くと +35と37で、   3:1
 同 2個    +70, 72, 74   9:6:1
 同 3個 +105, 107, 109, 111 27:27:9:1
 同 4個+140,...148   81:108:54:12:1
 同 5個+175,.. 243:405:270:90:15:1
と、特有のパターンになるのが、上図に現れている。

 質量スペクトルに現れるピークの高さは、イオン化の条件によってかなり変わってくる。電子ビームを浴びせる電子衝撃イオン化法 EI では、分子はかなり分裂し、分子イオンは出ないことも多い。化学イオン化法 CI、電界脱着イオン化法FDなど、ソフトなイオン化法が種々開発されている。

 試料がGCから連続して送られてくるGC−MSでは、質量軸操作を、できるだけ高速に連続して繰り返して、測定データをコンピューターに貯め込む。この時、全イオンの総量をあわせ検出して、平行して記録しておけば、これがGCから送られてきた試料の濃度、すなわちクロマトグラムとして参照できる。
 測定後に、クロマトグラムをまず描かせ、一つのピークが現れた時刻の質量スペクトルを描かせれば、分離された物質が解読できる。
 しかし物質が複雑で、多成分がGCでも分離できかねているところでは、多成分の質量スペクトルが重なってしまって、解読がほとんど不可能になる。

 そこで開発されたマス・クロマトグラフィーは、任意に選定したイオンによりクロマトグラムを描かせて、成分の同定、試料物質の解析を支援しようとする。コンピューターのデータ蓄積・再構成能力を活用した強力な武器になっている。

 その創生期の実例を下に示す。このデータを得た由縁を別ページに述べたが、GC−MS+コンピューターの効用を顕著に示して、この手法が環境監視や生化学、医化学、食品、天然物理解のために広く使われる端緒となった。

【質量】(mass)
物体が有する物質の分量。

【質量スペクトル】
質量分析器などで得られた試料のスペクトル。原子質量の精密測定、同位体存在比、元素分析等に用いる。

【質量数】
原子核を構成する核子(陽子と中性子)の総数。

【質量分析器】
イオンの質量を測定する装置。磁場と電場を用いて、イオンの運動する方向やエネルギーが違っても質量の等しいものが一点に集まるような集束を行なって、イオンをふるい分ける。

【電場】(electric field)
電荷の周りに存在する力の場。この場の力線は、正電荷に始まるか、負電荷に終るか、閉曲線となるか(電磁波の場合)である。電界。

【磁場】(magnetic field)
磁石や電流のまわりに存在する力の場。

補足
電気工学の分野では、電圧のかかっている空間を「電界」、磁気が加えられている空間を「磁界」と言う。物理学では、これらを「電場」「磁場」と言う。ついでながら、周波数と振動数、超電導と超伝導、などの慣習の違いがある。ちなみに私は電気屋である。

【BHC】(benzene hexachloride)
有機塩素系の殺虫剤の一。分子式 C6H6Cl6  ヘキサクロロ‐シクロヘキサンにあたる。八種の立体異性体があり、ガンマ(γ)成分が最も殺虫効力が強い。現在わが国では環境汚染防止のため使用禁止。

【DDT】(dichlorodiphenyltrichloroethane)
有機塩素系の殺虫剤の一。現在わが国では環境汚染防止のため使用禁止。

【PCB】(polychlorobiphenyl)
ポリ‐クロロ‐ビフェニル。ポリ塩化ビフェニル。分子式 C12H(10-n)Cln をもつ物質の総称。ビフェニルを塩素化して得られる。水には溶けにくいが、油には溶ける。化学的に安定し、耐熱性や電気絶縁性にすぐれ、絶縁油・熱媒体・可塑剤・潤滑油等に広く使ったが、自然物および生体の中に蓄積されやすいため、現在使用を厳しく制限。

【ダイオキシン】(dioxine)
ポリクロロ‐ジベンゾ‐ダイオキシン(二個のベンゼン環が二個の酸素原子で結びつけられたものの塩素化物)の略称。多くの種類があるが、そのうち特に 2,3,7,8‐テトラクロロ‐ジベンゾ‐パラ‐ダイオキシン(TCDD と略記)を指すのが普通。これは猛毒で、発癌性や催奇形性が強い。トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5‐T)という除草剤の製造の際、副産物として、また焼却施設から検出される。

 ビワ湖でフナやシジミを採取し、公定の前処理法で脂溶性成分を抽出して、GC-MSに注入した。8秒ごとに走査して約40分、280スペクトルをコンピューターの磁気テープに集録。後刻、図の右にある質量数を指定して、プロッター上にクロマトグラムを描かせた。
 探索した化合物はいずれも塩素を持つので、2または35の質量差の2本のイオンを平行して描かせた。

 これらのピークが本当にその物質なのかは、もっとたくさんの断片イオンを描かしてみればよい。すべてのデータはコンピューターに保存されているのだから。

 例えば 最下段のガンマBHC(今は禁制の農薬)は、1分子に塩素を6個含む。塩素が2個とれた217と3個離脱した182とを描くと、走査番号80のあたりに揃ったピークが現れた。 DDTやDDE(これらも禁制の農薬)でも、揃ったピークが見つかる。
 PCBでは多種類の化合物や異性体があるので複雑であるが、質量差2の同位体イオンが平行していることをたよりに曲線をたどると、各々の存在が見えてくる。

 このように、いろんなものがごちゃまぜになった物質、それは環境や生体からの試料がたいていそうなのだが、そのなかから知りたいものの存在を見つける確かな手法ができあがった。今日、さらに発展している。

さらに高感度なマス・フラグメントグラフィー

 マス・クロマトグラフィーでは、全質量範囲を均等に走査するので、ひとつのイオンの測定時間は走査時間の1/1000以下になる。試料から出たイオンのほとんどは測定されずに管壁で消滅する。それでも高感度なのは、選択性が高いから、ノイズになる妨害成分も同率でカットされているからなのだが、うんと微量になるとイオンの数が少なくなって、統計的変動が大きくなり、データの信頼性が低下する。

 

マス・フラグメントグラフィーは、測定の前に、対象イオン(複数)を指定する。測定が始まると、コンピューターは加速電圧と励磁電流を精密に制御して、指定のイオンのみの測定を高速に繰り返す。こうすれば、全測定時間のほとんどを対象イオンの測定に当てられるので、むだに消滅するイオンが少なくなり、感度を数百倍に上げることができる。

 未知成分の探索にはマスクロを使い、

 知りたい成分の見極めにはマスフラを用いる。

データ処理装置を完備した GC−MS分析装置

 右から、
 測定コンソール、
 GCMS分析系、
 データ処理装置、
 タイプライター、
 プロッター。

 人物は、コンピュータープログラムを隅々まで書き上げた 浅井 聡 君。
 (1971年)

 

 

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