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MRIの 夜明け

その1. X線CTの出現、画像診断法の発達

エリザベス女王の来朝みやげ
 1975年、英国 エリザベス女王が日本を訪問された時に、大きなお土産を持ってこられた。タダでいただいたのではない。「CTという医療診断装置が英国で発明された。医学上とても効果があるので、日本でもぜひお使いなさい。」と、じょうずにセールスされた。
 このセールス・トークは、実に効果的であった。日本の医療水準の向上に大きく貢献したのはもちろん、当の英国だけでなく、世界中の医用機器産業と、関連する研究陣を、大きく鼓舞したのだ。
               

MRI: Magnetic Resonance Imaging
    磁気 共鳴 撮像法

CT: Computed Tomography
  コンピューター式 断層像 撮影法

X線CTの誕生
 女王様のお薦めを、日本政府の官僚陣が受けて調べてみると、なるほど、CTという人体内部撮影装置は、数年前に英国EMI社で発明され商品化されて、いくつかの病院で試用されている。販売活動を展開して、日本にも売り込みが繰り返されているが、従来機器の常識からすると並み外れて高価なので、どこにも相手にされない。しかし識者に聞くと、医療技術を一変させるほどの効果的な診断装置である、という。
 
大学病院に一挙に導入
 政府は、これはドル消化の好策、と飛びついた。折から、国内では輸出産業が発展していて、諸外国に売るばかりで、買う方は倹約精神が続いているものだから、外貨が国内に貯まるばかり。これでは世界経済がいびつになる、と諸国から責められ続けていたので、予算を工面して、数年間にわたって数十台のCTを英国から買い付け、全国の大学病院に配った。
               
E M I: レコード、CDで高名な
     英国の電機会社

断層撮影の威力
 CT(Computerized Tomography)は、対象人体の断層像を撮影する。周囲から測定した多方向のX線透過データから、計算によって断層画像を算出するのだ。
 断層画像の診断上の利点は、背景が写らないこと、にある。例えば見たい患部が小さな腫瘍だったとして、その周囲が正常組織や筋肉や脂肪に覆われていれば、普通のX線写真では影どうしが重なり合って、腫瘍はほとんど識別できない。まして骨と重なってしまうと全く見えなくなるが、断層像にして、重なるものがなくなると、うんと見易くなる。(←左図)

常X線像
頭部正面
透過像

X線CT像
頭部横断像

(しかし、その腫瘍のX線透過率が周囲組織と同じならば、これはX線CTでも見えない。そのような場合には、造影剤を併用したり、核医学像やMRIが用いられるのだが、細かいことは別の話にしよう。)
技術力向上効果と経済効果
 好評に悪乗りした文部省や通産省は、以後しきりに各種の高額機器の購入予算を傘下の大学病院や国公立の研究所に与えて、その機種は外国製品を選定するように陰に陽に指導し、貿易黒字の削減を計りながら、国内の科学・技術研究の基盤整備を促進させていった。
 おかげで困ったのは国内の大型医療機器や研究機機メーカー(島津製作所のような)で、顧客が予算を獲得したとみるや、さっと外国製品が指定されるので、売り上げは激減し、販売競争は激化して、通産省に公平競争を訴えても相手にされない、などの事態もあったのだが、総じて見れば、国内メーカーを鍛え上げ、円安を維持して製品の輸出を促進し、なによりも、国内の医療機関、研究機関の技術レベル向上に大きく貢献した、と思える。国民の生活レベルは、円安誘導による国産品保護政策で、今しばらく抑えられたのではあったが。
               
 こうしてCTは、これまで見ることができなかった体内異常を、鋭敏に検知し診断できる実にありがたい装置として、人々に認知されることになり、医療技術は大きく向上し、人々は、病魔から解放される機会がぐっと増大して、幸福な生活へと導かれた。
  
大型技術の普及を促進
 こうした発展は、国際的にも、先進の欧米諸国のみならず、諸国に大きな刺激を与えた。
 CTの成功によって、医療に大型機器を利用することが当然になり、以後の各種の革新的な診断機器、治療器機の開発、普及が促進された。
  ここに述べるMRIや、超音波エコー画像装置、アイソトープを用いるECT(Emission CT)、などの開発関係者に大きな意欲を与え、利用する側でも大胆に採用し、資金を調える側も、予算の額が一桁やそこらは上がるのを厭わなくなった、など、エリザベス女王は、こうした知的産物の普及促進に大きく貢献されたのだ。
 

医用機器の開発競争
 こうして、CT以後、各種の原理や方式の、効果ある大型医用診断機械、治療装置が、研究され開発され、商品化され、普及していった。
 CTという語は、当初はX線式のものを意味したが、開発初期にはNMR-CT と呼ばれたMRIや、超音波CT、エミッションCT、光CTなどが続出して、本家は「X線CT」と称えなければならなくなった。

 医療の分野は、先端的科学技術が高度に大量に広く普及する場として大勢の科学技術研究者を刺激して、大型医療機器の研究開発が促進された。
 医療機器メーカーは膨大な開発資金と陣容を整えて商品開発に努め、企業競争は国際的な市場のなかで熾烈を極めて、互いの消長が激しくなった。本家の英国EMIですら、いつの間にか医療機器市場からは撤退してしまっている。

 X線CTがもたらした「医療の技術化」への革新加速は、とても大きなものがあるのだ。
               

(もちろん、女王のセールストークが無かったとしても、CTはいつの日にか、評価され、普及していったであろう。だが通常、新技術が登場する前には、かなり長い間の ためらい期間があって、そこがどう突破されるか、ずいぶん運不運があるのを、しばしば経験する。ある場合には、長引く雌伏期間の間に別の技術進展があって、ひとつの新技術が消え去ったり、ある幸運をきっかけに著しく成長する姿を見せつけたりする。いったいどなたが女王に進言されたのであろうか。)
ノーベル賞を獲得
 X線CTを発明したEMI社の技術者 Godfrey N. Hounsfield氏は、アメリカでその理論面を研究していたAllan M. Cormack氏とともに、1979年、ノーベル賞(医学・生理学部門)を授けられた。 
 放射線医用機器の販売量に関する統計表を工業会より見せてもらって、上のようなグラフを描いてみた。
 残念ながらこの表には、1970年代(昭和54年以前)のデータが載っていない。独立の項目がなく、輸出入量も捉えられていない。

 この期間、X線CTは激しく伸びている。それをMRIが追っている。ガンマ線カメラは一定の地位に納まっている。

  次のページに、私の体験記が続く。

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