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MRIの 夜明け

その4. 激戦の販売競争

製品:気持ちよく使ってもらえる装置 への改善
 私たちのMRI装置は、治験を終え、厚生省の審査会をパスして販売資格を得た。
  その以前から、医用機器事業部は大勢のベテラン技術者を起用して、製品化チームを作り、私のチーム、中央研究所電子技術グループと机を並べて、製品 :利用する人に気持ちよく使ってもらえる装置、の設計をすすめていた。
  電磁石にはきれいなカバーがかかり、木製のベッドは、クッションを敷いて電動で上下し前後進する金属製に変わった。鉄材など磁気を乱す材料は使えないので苦労していた。電気モーターだけはやむをえず、影響のほとんど出ない場所を探して使った。
  コンピューター・コンソールも新型X線CTと同じ形のスマートな使いやすいものになり、もちろん、コンピューターやディスプレイ、もろもろの電子回路はすっかり最新のものに入れ替わった。これらの技術の進歩は早く、この数年間で当初の装置、部品類は旧式になっていた。
 でも、うかつに改良の手を加えると、予期しない不調が、必ず出る。綿密な事前検討が必要だが、限りがある。ここで役立ったのが、作り貯めてきた「研究会資料」だ。後継者が読んで、技術の要点を把握する。はじめの開発者が説明するのだが、数年前の細かい問題は記憶になかなか戻らないものだ。

技術伝達に役立つ「研究会資料」
  私たちのグループは、発足当初から、毎週半日の「研究会」を開催し、相互の仕事の情報交換、討議・研鑽、状況保存を計っていた。特に状況保存を心がけて、そのために各人が「研究会資料」を制作し、コピーをメンバーに配って、その説明を中心に研究会が進む。ちょっとした学会のシンポジウムだ。
 「電子研はカッコウだけつけて、」など影の声も聞こえたが、おくせず進めた。この資料には、各担当業務の内容、問題点、分かったことなどが、図表入りで説明されている。作るのはたいへんだ。「まるでこの資料を作るために会社に来ているようです」とこぼす横着者もいたが、「そう、これが君の仕事なのだ」「あとから読んでもらえるような内容にしようよ」と説いた。まだパソコン。ワープロのない時代だから、手書きで、「せめて読める字を書いてよ」と私は悪者におさまって部下を責めた。

 仕事って、始めたころはすらすらと進む。やがて険しくなり、難しくなる。進まない。混乱する。時間が足りなくなる。しかし、その時の忠実な記録が大切だ。資料に整理していると、問題が整理されてくる。限界が読めてくる。やがて展望が開ける。
 できたものが、動けばいい、という世界ではない。やがて、同じもの、改良したものを、どんどん作らなきゃならないのが、企業での仕事だ。
            

 MRセンターに集まったMRI担当の技術陣(1990年)
 それぞれが仕事に使う道具を手にしてもらった。口が道具の要員も幾人か。
 超電導 0.5T MRI
SMT-50X

私の提案
  MRIで病巣のありそうな部位を測定し始めると、マルチスライスで3方向断面(サジタル:横から見た像、コロナル:前から見た像、トランスアキシャル:上から(または下から)見た像)を撮影し、ついでT1(縦緩和時間)像、T2(横緩和時間)像を撮影すれば、たちまち数十枚の画像が出てくる。これらを突き合わせて患部を探すのは時間を浪費する作業になるので、必要な画像を選抜し、疑う部位の諸情報を合成して患部を浮き出させる表示方法を考えてみた。
 1985. 4. 3 医学放射線学会 鹿児島大会にて発表

MR像の提示技術の改良
 島津 中研、医用事 喜利元貞、藤田明徳、清水公治
MR画像には、 水素核の存在量、縦および横 緩和時間の、3種類の情報および多方向・多層測定による空間分布情報が豊富に含まれる。これら情報を豊富に活用するべく、島津試作MRIで測定した百余の症例を対象に、より短時間に測定・診断できる測定法と画像提示技術を検討し、患部検索のために「多断面3方向連続測定・多面表示プログラム」を、また微少な緩和時間差から疾患部を読み取るために「緩和時間像抽出プログラム」を開発した。
        (医放会誌 45-1 p245)
多断面3方向 連続測定・多面表示 プログラム
↑ 画面のどれかのポインターを、見たい部分に当てると、他の断面のポインターが、互いに対応する位置に自動的に動いて、異なった投影像の、相互の位置関係を、明示する。
↑ 左画面のポインターが指示する断層像を拡大表示する。
緩和時間像抽出プログラム

↑←:下垂体腺腫  ↑:脱髄疾患

←:多発性硬化症

 緩和時間差合成像

T1像、T2像、PD(密度)像の
どれかのポインターで指された部位の、
濃度範囲(濃度スケールを拡げた範囲)が、3像ともに一致する部分を、
   右下の合成像に描く。
病巣が強調して描出されている。

  ポインターの動きにつれて
   合成像を追従表示

遅くて使いやすくできなかった
 これらのプログラムは、意図は評価されたものの、当時のコンピューターやディスプレイの動作速度では、快適な操作にはできず、使い物にならなかった。
 マウスがまだない時代で、矢印キーやトラックボールでは操作もままならなかった。
 現在の技術ならばスムーズな動きを実現できるかと思うが、現行の診断ルーチンは違う方向に進んでいるのかも知れない。もっと巧みな方法が開発されているのかも知れないが。
私の手を離れた
 この頃から社内では、MRI開発・製作技術陣は医用機器事業部にまとめて所属されることになり、同僚は全員そちらへ転属していった。
 私だけは中央研究所に残って、別のチームを編成し、新たなテーマを追求することになった。(それらはまた別の章で述べることができるだろう。)

 MRIのビジネスは、以後、善戦していたようだが、ここに書けるほどの情報を聞いていない。いずれ私らの話を書きますよ、といってる若手もいるから、かれらにゆずろう。

 しかし、ひところ、欧米や全アジアへの輸出が好調、と聞いたこともあったが、近年は貨幣レートの偏移もあったりして、苦しいビジネスになっているようだ。
巻き返しを祈る。

統計表から
 最初のページに示したJIRA(放射線医用機器工業会)の年次統計から、MRIの成長状況を図化してみる。

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