2003年ノーベル賞(医学・生理学賞)を受賞.............. <回想>


20余年前、1981年10月1日〜3日の2日半、アメリカ南部の古い街ウインストンセイラムにあるボウマングレイ医科大学で、“International Symposium on NMR Imaging”とタイトルする国際シンポジウムが開催された。これは、70年代から進展してきたMRI開発研究の集大成となる、記念すべき学会であった。
ダマディアン、ラウターバー、マンスフィールド、ヒンショウ、などの先端研究家から、ハッチソンやエルンストなど重要技術を推進してきた先鋭研究家、実際の人体の画像を見せ始めた英ハマースミス病院や実験動物の高磁界画像を示すボストンMGH(病院)の研究者など、そのほか、装置開発に励んでいるUCSF(カリフォルニア大サンフランシスコ校)、フィリップス社、ジーメンス社の研究者などが講演者として招かれて、最新研究の成果を次々と述べた。
シンポジウムの前半には、画像法の原理を解説する入門講座が組まれて、まず、ラウターバー教授が、“Zeugmatography”、すなわち、自らが発案し自らが名付けた「核磁気共鳴信号を傾斜磁界で位置づけして画像として読み取る原理」、を重々しく講じた。
次に、マンスフィールド教授が登壇した。教授は、画像として測定するためのいくつかのアイデアを説明する。
「まず諸君に NMR=nuclear magnetic resonance の、挙動を、お目に掛けよう」
と言いつつ、抱えてきた箱のようなものを、OHPの上に置いた。映写スクリーンの上に、ふらふら揺れている球の列が映った。
「これがプロトン(水素原子核)だと思ってください。均一な静磁界の元で、ある周波数(ラーモア周波数)の高周波磁界を浴びせると、プロトンたちは共鳴して振動を始める」
と、球の頭をなでると(クリック1)、球の列はいっせいに揺れ始めた。「磁界が一様だと、どのプロトンも同じ振動数で、位相も揃って振動している。高周波磁界を取り去っても振動を続けている。これが核の磁界下での共鳴だ。」
「この状態で、磁界の強さを場所によって少し変えてやろう。すなわち、傾斜磁界を加える。」
と教授が箱の縁のレバーを動かすと(クリック2)、球の揺れ方が右側ほど速くなる。球を支えるバネの長さが右ほど短くなって、揺れが速まるのだ。「諸君、これが画像化の原理だ。」
キョトンとしていた聴衆は、ここでいっせいに拍手を始め、この見事なアイデアの説明具の巧みさに、満座の歓声はしばらく鳴り止まなかった。
お分かりいただけただろうか。
傾斜磁界を加えると、磁界強度の傾斜(位置が違うと磁界の強さが変わること。磁界の方向が変わるのではない。)の量に応じて、共鳴周波数が変わる。共鳴周波数は磁界強度に比例するから。
この簡単な自然現象の原理を活用して、共鳴原子の位置を知ること、すなわち画像化ができる。ラウターバーが先鞭を付け、続く研究者たちも種々の変形や展開を考案して画像化技術が進展してきた。
この座を満たしている聴衆、画像化技術に強く関心を抱いている人たち、も、この原理はよく理解しており、そしておそらく、周りの人にこの新しい技術を説明することを何度か試みてきた。
(私だって、このシンポジウムに出席する許可を得るために、社内で何度も説明、説得を繰り返した。帰社してから早速まねて作って、以後の説明に重宝した。)
しかし、この簡単な原理が、なかなか理解してもらえない。式を黒板に書き出したりしたら、とたんに拒絶反応が起きる。簡単な比例式なのだが。
こんな経験を満座の人々はすでに蓄えていたので、このマンスフィールド教授の巧妙な説明具に、感嘆し共鳴して、いっせいに拍手を送ったのである。マンスフィールド教授は、早くからNMRを使って、物質のくりかえし構造を共鳴干渉信号から解析するなど、画像化につながる研究を進展されていた。教授が編み出したのは、原子核を「選択的に」励起する方法だ。
「諸君、この球を1個だけ励起する方法を考えよう。」と、中央の球1個を指先で弾く(クリック3)。
「傾斜磁界を加えた状態で、この球だけが共鳴する周波数の高周波磁界を浴びせると、ほかの球は共鳴しない。これだけが振動する。」
「このオモチャにはそこまでの仕掛けは組み込んでいないが、この枠を一定の振動数で揺すってやると、1個だけを振動させることができる。」
「人体の断層像を撮影するには、まず、ある断面の中のプロトンだけを励起してやる。」
「それには、体軸方向に傾斜磁界を加えておいて、あるバンド幅の高周波磁界で視野全体を励起すれば、共鳴条件下に存在する原子核のみが励起される。ある断面だけが選択される。」
「傾斜磁界の加える方向を選べば、断面はどの方向にも選択できる。これが私の考え出した“選択励起法”だ。」
「ついで、共鳴したプロトンに直交方向の傾斜磁界を順次加えて、共鳴信号を測定し解析すれば断面の画像が得られる。」と説明は専門的になって、詳しい図がスライドに現れて、講義が進んでいくのだが、画像化技術の詳細は、私の別ページなどで読んでいただこう。
この“選択励起法”と、ラウターバーの“位置標識法”とを組み合わせれば、人体内部など測定対象の、内部のある平面内を、n回の測定で、n2個の画素に分割した画像が測定できる。
そして平面内のn2個の共鳴信号を同時に測定できるので、ノイズを1/nに減らすことができる。だから、n2個の画素を1点ずつ測定する場合に比べて、測定時間とノイズを、どちらも1/nに減らすことができる。
実際の撮影では診断上の必要に応じて、n=128,256,512 などに選ばれ、測定間隔は、共鳴が静まる(緩和)まで待つ必要から 0.3〜1秒ほど空けるので、撮影時間は1回に40秒から8.5分を費やす。もっと長い撮影時間が必要となれば、MRI診断法は、ほとんど実用に供されなかったであろう。緩和について少し補足する。原子核の共鳴が緩和する時定数をT1(縦緩和)、T2(横緩和)で現す。原子の拘束状態によって大きく変わり、水素の緩和時間は自由水では1秒以上、堅い組織の中では0.1秒以下、軟部組織の中ではその中間の種々の値になる。(ガン組織の緩和時間は正常組織のそれより長くなることをダマディアンが見出し、NMR信号の画像測定でガンを検出する技術を最初に提唱した。)
原子核を励起して共鳴させた後、緩和が静まるまでに次の励起を加えると、共鳴が揃わなくて信号が衰退してしまうので、励起間隔を少しあけなければならない。(逆にこの現象を利用して、組織の性状の差を画像上の濃淡差に反映させる撮影法もよく使われる。)
これがMRIの撮影時間を長くしている主因であり、実用効果をかなり阻害している。(緩和を待つ間に別の断層を撮影して、数枚の平行な断層画像を同時に撮影する「マルチスライス法」が発達している。)画素1点ずつを順次測定する走査法では、測定点の位置を飛び飛びにすれば、緩和を待つ時間は節約できる。しかし、1点の測定に数十ミリ秒は要するから、256×256の画像測定には数十分が必要になる。ダマディアン氏は自分で製造会社を作ってまでこの方法を推進したが、成功しなかった。
(シンポジウムのプログラムにはダマディアン教授の講演も組み込まれていて、教授は着想と成果を懸命に説明した。聴衆は礼儀正しく拍手を送った。)マンスフィールド教授は70年代の英国で、MRI開発研究を国家的に推進させるために力を尽くした。複数の研究チームを誘発させ、公的研究資金をそれらに引き出し、技術交流の場を運用するなど、後に英国技術公社(NRDC、のちにBTG)が、たくさんの特許を世界中のMRIメーカーに供給して巨利を得させる政策を導き出したと言えよう。
MRIが実用になるためには、撮影時間の短縮(20分以内に)と、医学的に効果ある描写能力が必須と説いて、頭部X線CTの画像を下敷きに、脳内組織の水分含有量を濃淡に現した想像図を描いて77年のシンポジウムで見せたりしている。
撮影時間を画期的に短縮するために、選択励起法を駆使して多数の場所を同時に測定する“エコープレナー法”を考案し、これは技術的難点が多くてすぐには実用化にならなかったが、1980年代、多数の人がいろいろ改良を加えて、ついに心臓の拍動が描出できる高速画像法として完成した。
さて、シンポジウムは続いて、人体画像を描出している諸機関の研究者たちが、発表を競った。なかでも、早くから試用機(EMI社が試作した超伝導磁石を使った高性能装置)を院内に設置した英ハマースミス病院は、多数枚の有症症例を報告した。
スライド映写で次々と示される人体のMRI画像は、X線CTに比べていまだ解像力は劣るものの、臓器や病変部の描出力においてはX線CTをはるかに凌ぐことを示唆して、MRIの存在価値が、初めて、実証的に支持された。頭部断層像では、脳を構成する白質 white matter と 灰白質 gray matter とがくっきりと描出された。“White is white, gray is gray.”と講演者は強調した。X線CTでは、白質と灰白質とが逆の濃淡になり、あまりコントラストも付かないのである。
腹部では呼吸性移動によるアーティファクト(構造性ノイズ)はあるものの、軟部組織の差異が明瞭な濃淡で描き出された。腫瘍の像も明確に現れた。
脊髄 spinal cord の長い紐が、体の縦割り断面にくっきりと現れたスライドには、聴衆はいっせいに拍手した。縦割りのサジタル断(矢状断)、横割りのコロナル断(冠状断)は、体軸横断像(トランスアキシャル)しかできないX線CTに比べて、縦長の臓器を描出できる著しい利点がある。
描写対象の緩和時間の差異を画像の濃淡に現すと、体内組織の性状の差を識別するのに効果的であることも示された。緩和時間を変える作用のある「造影剤」の効果も示唆された。総合して、MRI(このシンポジウムでは、まだ“NMRイメージング”と呼んでいたが)の医学上の利用効果が、X線CTの存在におびやかされない独自のものがあることを如実に示していた。
こうしてこの1981年の国際シンポジウムを契機として、MRIの実用化が始まったのだ。
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今年 2003年のノーベル賞・生理学医学賞に、P. C. Lauterbur氏と P. Mansfield氏が選出された。お二人の業績を偲んでいる内に、上のようなシンポジウムの情景を、まざまざと想い出した。歴史的に貴重な体験と思い、資料はすでになく、記憶違いもあるかも知れないが、ここに一文として掲げた。
インターネットを探しているうちに、以下のようなページを見付けた。勝手ながらここに紹介させていただいて、諸兄のご参考に供したい。
EMRF online(European Magnetic Resonance Forum )
“ A Short histry of magnetic resonance imaging from a European point of view”
http://www.emrf.org/FAQs%20MRI%20History.html入口 紀男・ 上野 照剛 の Web講座 磁気共鳴イメージング
http://133.95.45.65/~imaging/
私の関連ページ
§5.40代の私: 体の中を見る、MRIの開発
あらまし MRIの元信号 「フーリエ変換」の効用 MRI画像 作成法
MRIの黎明期( MRIの夜明け その1 その2(シンポジウムなど) その3 その4 )( もくじへへ戻る )