あらまし X線撮影法の改革を目指して X線光子を数える ICを作る 体内を見る 創世期のX線撮像技術  もくじに戻る

§6.50代の私:  体の中を見る、X線を半導体で数えて (あらまし)

光子計数型X線撮影法の開発

 X線をつきつめて調べると、
粒子の集団である。
量子、光量子、光子などと言う。)

  粒を数えれば、
X線の量を正確に測定できる。

  半導体をうまく使えば、
X線粒子の、検出・増幅・計数が、効率よく行える。

  半導体素子を巧みに集成すれば、X線画像の高品質なディジタル撮影ができる。

  すなわち、古典的なレントゲン写真術が改革される。

←左は、 この方法で撮影した胸部のX線画像。神戸大学付属病院放射線科のご好意による。


 濃度表示
   連続動作

レベル1 レベル2 レベル3
レベル4 レベル5 レベル6
レベル7 レベル8 レベル9
濃淡圧縮(周囲を暗くして見てね)

(濃度範囲が格段に広いので、 濃度レンジを変えながら表示 している。)

光子 photon (フォトン) を数える

 X線に限らず、光=電磁波は、粒子の性質との性質を、あわせ持っている。強い光では粒が多くて重なり合っているから、個々の粒は識別できないが、弱い(暗い)光では、粒がポツポツとまばらになっているので、応答の速い系で観測すると、粒子として測定できる

(読者は、すでに核医学に用いられる「ガンマ線カメラ」の動作を学んで、光子計数 photon counting の極意を知っている。)

 弱い光はノイズにまぎれて正確に計測することが難しいが、光子の数を数える方式にすれば、ノイズと区別して信号を捕捉できる。 すなわち、暗い部分がよく見えてくる。

レントゲン写真を光子計数で撮影すれば

 体内を透視するX線画像では、臓器が重なり合う部分は暗くなり、写真フィルムなど通常の観測手段では、ノイズにまぎれて、臓器や病変の識別(読影)が難しくなる。

 光子計数画像では、暗いところもよく見えてくる。
  明るいところは粒子が多いから、重なり合って飽和しやすいが、たくさんの検出素子をぎっしり並べて、検出エリアを分担すれば、測定レンジは明るい方にも拡がる。

 半導体素子製造技術をさらに改良して、多数の素子を高密度に集積させれば、広い視野を高分解に撮影する検出装置を製作することができ、美麗な有益な体内透視画像が得られる。

ところが、これは、たいへんな仕事だ。 10年かかった。

X線検出結晶
 X線光子を検出し、パルス電流を出力する。
  半導体単結晶
の両面に電極を付け、高電圧を印加しておく。入射した光子は内部で電子と正孔を発生させ、両電極に正負のパルス信号が出てくる。
 Cd(カドミウム)とTe(テルル)の化合物半導体を用いる。原子番号が大きい(Cd:48, Te:52)ので、人体を透過するようなエネルギーの高い光子でも捕捉効率が高い。電荷移動度が大きいので、高い計数率が得られる。
  一方の電極は、細かく格子状に区切り、それぞれに接続用のハンダバンプを盛りつけて信号出力端子とする。

 3mm × 8mm、厚み 0.8mm のチップとし、この上に16画素×6列,相互間隔 0.5mm の、分割取り出し電極が形成されている。6列の内、4列を信号検出に使い、上下の2列は接地してシールド電極とする。

 CdTe結晶は性状がなかなか安定せず、加工に弱くて、安定した性能を引き出すのに苦労した。

増幅器IC

 シリコン基板の表面に、32チャネルのC-MOS型のアナログ集積回路が、形成されている。
  入口の初段増幅回路信号整形回路で、入射エネルギーに比例した波高の電位パルスに変換され、波高比較回路で比較基準電圧を越すパルスが選別されて通過し、出力端子に現れる。

 半導体加工プロセスの全ラインを我々の研究所内に設備し、3ミクロンルールで自分たちで設計し製作した。

 幅4mm、長さ8mm。高抵抗や大容量の素子が多いので、大きな面積になっている。全端子に接続用のハンダバンプを盛りつけている。

  IC:Integrated Circuit  集積回路

検出器モジュール
 高密度配線基板の上に、いわゆる表面実装の方法で、組み立てる。すなわち、チップを配線基板上に伏せて置き、周囲温度を上げてハンダバンプを溶かし、基板上の金メッキ銅パターン配線に接続する。(難しい技術だった。)

 ←鉛筆で指しているのが、検出チップ、4個 横並び。

 ←その下が、増幅器IC、8個 横並び。

 ←その下は、電源平滑用容量素子、4個 横並び。

 ←その下には、4個の64チャネル-14ビット計数回路が取り付けられ、通常のワイヤーボンディング技術によって接続されている。透明のパッシベーション材で覆って保護している。

  計数回路は、外部からの信号により、作動・停止され、計数結果は、外部制御によりチャネル順に、外部コンピュータ(画像メモリ)に読み出される。

 1枚のモジュールは、32mm幅。256チャネルの検出点が乗っている。これを横に隣接して12枚並べると、1台の胸部撮影用 検出ユニットになる。幅 384mm、全3072チャネルである。
 この横長の検出ユニットを、約14度傾けて視野の上から下まで走査すると、視野幅 373mm、解像度 373/3072 = 0.12 mm の画像が得られる。
 縦方向に400mmを4秒間で走査し、0.12mmごとにサンプリングすると、1画素に最大1000個の光子を数え上げることができる。

撮影装置

 後方の連結棒材左端にX線管出口スリットが固定され、棒材右端には検出ユニットを上下させる機構が接触している。途中に、中間スリットが固定されている。
  棒材はX線出射位置を軸として回転し、横拡がりの扇状に放射されたX線ビームが、中間スリットを通り抜け、被写体を通り抜けて検出ユニットに入射する系路を確保している。
  1回の撮影ごとに、上から下まで視野を走査し、上に戻って静止する。

  簡素な装置だが、機構はしっかりしている。検出ユニットには、直進するX線のみが捕捉され、途中の系路で散乱するX線は画像には入らないので、カブリのない、すっきりした画像が得られる。

 しかしながら、X線管から放射されるX線は一部分のみが利用されるので、容量の大きなX線管が必要になる。

 人体に照射されるX線は、検出器の感度が高いので、通常のフィルムによる撮影に比べると、数分の1ですむ。

↑ マウスで触れると被写体が現れる

改良した検出器モジュール

 数次の改良をへて、最終の検出器は左の形状となった。

 検出器はピッチ 0.375mm、6列検出 と細かくなり、6000素子で検出して、高解像度と高計数率を得ている。

 ほぼ倍増した増幅、計数チャネルは検出器列の上下に設け、上側は視野を首下まであげるために折り曲げている。
 撮影時間は、1.4秒に高速化した。

 パルス検出効率は、実測で64--57% / 60 -- 120kVに達した。上に掲げた症例画像は、この検出器を用いた製品モデルを用いて撮影したものである。

参考文献:
1) 木村、糸氏、河野:量子計数型X線撮影法の胸部疾患の画像診断における有用性の検討、医放学会誌 57-12 (1997)

2) 石田ほか:量子計数型X線撮影装置の開発、島津評論 51-1(1994)

3)佐藤ほか:マルチチャンネルCdTe放射線検出器とその応用、放射線 22-3(1996)

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