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ディジタル分光光度計
測定値が、数値=ディジタル値 でパッと現れる。それも、ログ変換された「吸光度」で表示される。「ゼロ点調節」「100%調節」も、ボタンを押せば自動的に設定される。
測定法は、精度の高い「ヌル・メソド」で行う。ログ変換も近似ではなく、精度高く刻まれた「光学的目盛り板」で行う。下の図が、測定精度を保証する「目盛り板」である。

透明フィルムの円板の円周に、吸光度 0.000〜1.000に対して500本の目盛りが、透過率0.000〜110.0%に対して 550本の目盛りが、正確な位置に焼き付けられている。1本の目盛りの両端が刻み目となるので、目盛りとして、それぞれ、1000本、1100本の目盛りとして使われる。
吸光度の測定の時には、最初の測定で1.000以上の値が測定されると、測定レンジを自動的に×10倍にして、もう一度測定し、計数値に1を足して1.000〜2.000の範囲の測定値を表示する。(×100倍にしてもう一度測定すれば2.000以上の測定値が得られるわけだが、測定精度が悪くなるから行わない。)この目盛り板を、精度の良い回転式のポテンシオメーター(可変抵抗器。両端に加えた電圧 potential を、接点の移動量または回転角に比例 ratio して分圧する装置なので、古来、物理学の世界で、poten-tio-meterと呼ぶ。)に直結して、2秒ほどで1回転させながら、ポテンシオメーターの出力電圧と光信号とを比較して、一致するところの目盛りを読み取る。電気的な誤差の入りにくい、精度の高い測定法である。
動作を説明
(全体の原理・構造 説明図 (←クリックで別窓に現れる)を、貴ディスプレイの他端に表示しておくとよい。)
未知試料を測定する前に、対照試料(測定成分を含まない、溶媒だけの試料。)を光路に入れて、フルスケールを合わせる操作を行う。
「FULL SCALE」ボタンを押すと、設定の動作が始まる。

まず、シャッターが自動的に閉じて、光電子増倍管に入る光が遮断される。この時、光電子増倍管の出力はゼロであるべきだが、いくらかの暗電流が流れ出て誤差電圧Vdが発生するので、Vdを補正したゼロ点を設定したいのだ。
そこで図のように、0点保持回路が差動増幅器につながれて、出力が入力に戻る負帰還回路を形成する。V1とV2の差が増幅されてVAとなり、これがV0となってV2に戻るので、V0≒Vdとなる。数式で書けば、
差動増幅器の出力電圧 VA は、 VA = Gain (V1 - V2) ..........(1) なので、
0点設定の時には、 VA = V0 = Gain (Vd - V0) .....(2)
すなわち、 V0 = Vd × Gain/(1+Gain)
ここで、Gain が2000倍くらいに大きければ、Gain/(1+Gain) = 2000/2001≒0.9995≒1 だから、
V0≒Vd ..........(3)
となって、0点保持器の容量C1 には、暗電流信号Vdが蓄えられ、以後は常に、入力信号からVdが減算されることになる。ついで、シャッターが開いて、動作後半の、100%設定に移る。上図の右半のように、0点保持回路の入口は切り離され、代わりに100%保持回路が接続される。100%保持回路の出力はポテンシオメーターの一端に接続されており、この信号はまた、100%設定の期間中は負荷抵抗の負端に接続されて、光電子増倍管の出力信号をマイナス側に引き下げる。
光電子増倍管には対照試料を通過した光が入射して、光信号 Vr が暗電流信号Vdと重なって現れる。こうして、差動増幅器の出力が、100%保持回路を経由し負荷抵抗を通じて差動増幅器の入力に負に戻る負帰還回路の作用の結果、100%保持回路の保持容量 C2 には、光信号 Vr が V100 となって蓄えられる。
計算をして確かめれば、 VA = Vr+ Vd = Gain ((Vr + Vd - V100)- Vd) ..........(4)
すなわち、 V100 ≒ Vr ..........(5)こうして、ポテンシオメーター両端には、対照試料の光信号が(暗電流を差し引いて)荷電される。すなわち、対照試料(測定成分による吸収を含まない)を用いて、測定レンジの100%側(吸光度では、=0)が設定された。
設定動作のおのおのに2秒の時間を当てている。
続いて、未知試料の測定を始めよう。「MEASURE」ボタンを押すと、測定の動作が始まる。

動作の前半は、シャッターが自動的に閉じて0点設定(暗電流分補正)を、先と同様に行う。暗電流はゆっくりとふらついているので、測定ごとに補正をし直した方がよいとされている。
後半の測定動作では、ポテンシオメーターの回転が始まる。それと同軸に結合した目盛り板が回転し、その周辺に刻まれた目盛りの計数が始まる。
ポテンシオメーターの出力電圧(回転とともに負に大きくなる。最大は-V100である。)は、測定試料を通過してきた光信号を差し引くようにつながれて差動増幅器のV1端子につながっている。
目盛りは光学系で読み取り、検知した目盛りパルスは増幅して計数・表示回路に送られるが、その途中に、通過/遮断ゲート回路が入っていて、差動増幅器の出力が負であればパルスを通過させ、正になると遮断するようになっている。
そして、透過率で測定する場合と吸光度で測定する場合とでは、差動増幅器から通過/遮断ゲート回路への駆動信号の極性が反対になるように、差動増幅器の出力に切り換えスイッチが入っている。
このため、透過率で測定する場合には、ポテンシオメーターの出力レベルが、測定試料を通過してきた光信号のレベルよりも小さい間、すなわち、回転スタートから両レベルが等しくなるまでの区間、目盛りパルスがゲートを通過し、計数回路で数えられる。
一方、吸光度で測定する場合には、ポテンシオメーターの出力レベルが、測定試料を通過してきた光信号のレベルよりも大きい間、両レベルが等しくなって以後から目盛りが無くなるまでの区間、目盛りパルスがゲートを通過し、計数回路で数えられる。
そしてもちろん、透過率で測定する場合と吸光度で測定する場合とでは、用いる目盛りはパルス増幅器の入り口のスイッチで切り換えられている。ここで、このページの冒頭に掲げた目盛り円板の写真を子細に観察していただこう。
目盛り板は、反時計回りに回転するので、目盛りは[透過率:0%]の手前から時計回りに読み取られる。
ポテンシオメーターのゼロ点は[透過率:0%] の角度に合わせてあって、その点以後、角度に比例した電圧がポテンシオメーターから発生する(発生電圧=-V100×θ。θは回転角、100%でθ=1)。
今、たとえば、測定試料を通過する光が、対照試料の透過光の半分近くであったとすると、光信号とポテンシオメーター出力電圧は、目盛り円板の真上ふきんで等しくなる。
透過率で測定する場合には、スタートから真上までの内側の目盛りが数えられる。だから、光信号が大きいほど、透過率のの計数値は多くなる。計数値は、一致までの回転角にきちんと比例して大きくなる。
吸光度で測定する場合には、真上から最後までの、外側の目盛りが計数される。だから、光信号が大きいほど、吸光度の計数値は少なくなる。目盛りは後ろほど対数的に荒く刻まれているので、計数値は吸光度の定義に従う。吸光度によって測定した値は、未知試料の中に溶けている光吸収物質の濃度に比例するので、その物質の量を知りたい「定量分析」が、こうしてディジタル自動設定式分光光度計を用いることによって、たやすく実施できるのだ。
検出器の感度設定
「SENSITIVITY」ボタンを押すと、検出器(光電子増倍管)の感度を適切に設定する自動動作が始まる。
光電子増倍管は、受けた光を光電膜で電子に変換し、その光電子を多段の加速増倍電極に通し、電子の数を増やして大きな信号にする。加速増倍電極には1段に100ボルト、全10段で1000ボルト近くの高電圧を荷電するが、その電圧を加減する(300〜1000ボルト)ことによって電子増倍率すなわち光検出感度を数倍〜1万倍ほどに広範囲に変えることができる。
一方、分光器から出てくる単色光の強さは、波長やその純度、光源の種類(紫外線域は重水素放電管、可視光〜近赤外光域は白熱電灯)によって大幅な違いがある。
そこで検出感度を適切に整えるために、光電子増倍管に与える加速電圧を加減して条件を設定しなければならないのだ。感度の調節は、負高圧電源(約−1000ボルト)から光電子増倍管に至る経路の途中に入れた感度調節抵抗(アッテネーター(減衰器)と呼ぶ。)を変えて行う。電圧がわずかに変わっても感度が大きく影響されるので、電源とこの抵抗とは、充分に安定でなければならない。
一方、感度はぴったり合わせる必要はなく、フルスケール設定でカバーできる範囲(およそ1/3〜3倍)に入ればよい。
そこで、高安定抵抗 1R, 2R, 4R, 8R の直列接続をリレー接点でつなぎ変えて、O, 1R, 2R, 3R, 〜15Rの16通りの組み合わせを自動的に適切に選び変える。1段で感度が1.8倍ほど変わる。設定動作が始まると、差動増幅器の入力には、光信号と基準電圧との差が接続され、感度調節回路に差動増幅器の出力が接続される。
感度調節回路は、差動増幅器の出力が正(すなわち、光信号が基準より大)ならば、抵抗の組み合わせを1段上げて加速電圧を下げ、その結果、差動増幅器の出力が負に変われば、そこで動作を完了するが、正のままであればもう1段上げることを続ける。
最初に差動増幅器の出力が負(すなわち、光信号が基準より小)であったならば、抵抗の組み合わせを1段下げて加速電圧を上げ、その結果、差動増幅器の出力が正に変われば動作を完了するが、負のままであればもう1段下げることを続ける。
組み合わせが両端まで走って、なおかつ状態が変わらなければ警報ランプを点ずるが、通常はどこかで差動増幅器の出力が反転して、そこで動作が完了する。信号メーターには信号量が表示され、中央の緑レンジ(1/3〜3)に指針があればよいとしている。(このやり方だと、ある安定状態で感度調節を何度も行うと、その都度、組み合わせが1段ほど入れ替わる。それでも緑レンジに入っているのでかまわないのだが、制御論理をくふうして、状態が変わらないようにしたように思う。しかしどのようにしたのか、今ではよく思い出せない。)
測定範囲の拡大
吸光度を測定の時、試料が濃くて吸光度>1.000となった時には、レンジを10倍にしてポテンシオメーターをもう一度廻し、計数値に1.000を加えて表示する。
すなわち、-V100を抵抗2本で分圧して1/10の電圧を作り、これをポテンシオメーターに荷電して測定動作を繰り返す。計数・表示回路の初期値を1.000にしてから計数すれば、吸光度 1.000〜2.000の範囲が測定できる。
この場合には目盛り板を2回転させるので、4秒の測定時間となる。初めの0点設定時間を加えれば6秒になる。また、透過率測定レンジは、100%近辺を測定できるように、110%までのおまけを付けている。さらに実際には、ポテンシオメーターの抵抗が有効な範囲は目盛りの110%部分よりも余裕をもって大きくなければならないから、ポテンシオメーターにはV100の1.2倍ほどの電圧(V120)を荷電しなければならない。また、目盛りと合わせるための調節機構も必要だ。
これらのため、ポテンシオメーター周辺の実際の回路は、上の図のように追加されている。
装置を設計
上述のような回路や要素を、実験しながら開発し、続いて、製品として販売するための装置の設計に入った。
分光器本体や付属品は、当時の主力製品であった“QV-50”(手動で測定するタイプ)の主要部をそのまま用い、自動設定とディジタル測定を担う電子回路ユニットを、筐体(きょうたい)1箱に収めて、追加の部分とする。
QV-50の電気系統は真空管式(といっても、ごく簡単な増幅回路と光電子増倍管のための負高圧安定化電源だけ)であったが、この追加部分はすべてトランジスターを用いる。(オペアンプやICなどの集積部品はいまだ出現していない時代である。)(当時としては)膨大な数の部品を使って回路を形成するので、大面積のプリント配線基板を使い、トランジスターや抵抗、容量、リレーなどの部品をハンダ付けで組み付けていく。A4サイズほどの大きさのプリント配線基板4枚に全回路が搭載できた。(参考ページ:論理回路の設計)
コストを抑えるために、両面配線でなく片面にしか配線パターンを付けないことにする。その配線パターンを設計するのは、たいへんな根気と才気を要するきつい仕事だったが、幸いに、新鋭のU君を設計助手として配属してもらえたので、二人で頑張って、すべての必要な回路、機構を、QV-50と同形の筐体1箱に納めることに成功する。何度か、設計をやり直しての成果だ。下に、そのおよその構造を図示する。拙い図だが、概要を想像して貰えるだろうか。取り付け機構などは描き切れていないが。
(図にマウスを載せると、組み上がりの形状を示す。)
全体を下の写真に示す。右の筐体がAQV-50と化すための“CONTROL UNIT”である。手前の分光器本体の上面に、表示器や操作スイッチを設けている(QV-50では手動のダイヤルなどが装着されていた)。
右の試料室の試料交換レバーには「リモート・スイッチ」が付加してある。レバーを押し込んで、対照試料を光路に置いた状態でリモート・スイッチの白ボタンを押すと、フルスケール設定の動作が始まる。レバーを引き出して、測定試料を光路に入れた状態で白ボタンを押すと、測定操作が始まる。便利なくふうだと好評であった。

装置全形 (参考文献・「島津評論」23-3(1966)より)
さて、製品として販売開始を公表し、いくつかのステージで展示、発表を繰り返すと、がぜん大評判となり、注文が殺到するのだが、、、、 (04.9.30)
後の顛末は次節に記述。