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失敗の記録・世界初ディジタル分光光度計

うまく進んだ話だけでなく、ひどい失敗に終わった話も、語っておかなければなるまい。
後車の戒めとしてもらうために。

ずいぶん昔の話だ、1960年代である。関連文書もさすがに残していない。
切れ切れの記憶をつないで、要点を述べてみよう。

でも、装置のアイデアとしては、見所あり、と思う。
また、分光光度計は、「定量分析」の基本の道具として、いまなお重要なものだ。
分光光度計(spectro-photometer)による「吸光分析法」についても知って貰いたい。

[あらまし]

 分光光度計は、ある選んだ波長の単色光を透過させて、試料(主として溶液)の中のある成分について、その化学的濃度を測定するのが、主たる用途だ。
 対象とする成分による光の吸収が、極大になる波長の単色光を選んで、分光計をその波長に設定しておき、たくさんの試料を次々と測定する。
 (光学的濃度の測定から、溶液中の成分の化学的濃度を推量する。以下の文中の“濃度”は、化学的濃度を示す。)

 単色光が、試料の中で、溶質に吸収される度合い=吸光度は、溶質の濃度にほとんど比例するので、溶液を四角なセル(ガラスまたは水晶製の箱)に入れて分光光度計の試料室に装着し、光の透過量を精密に計れば、右の図→のようにあらかじめ用意しておいた検量線を参照することによって、ただちに溶液の濃度が精度良く求められる

 この方法は、重さや体積や屈折率や温度変化といった他の物理量から物質の存在量を測定する方法にくらべて、たいていの場合に、はるかに手軽に、精度良く測定できるので、物質を定量する必要のある現場(化学研究室や製造工場、検査施設、、、、)で広く用いられている。

 測定対象の成分は、手頃な波長の吸収バンドを持たなければならない。また、ほかに混在する成分の吸収帯が重複しないように、精製したり測定法をくふうしたりしなければならないが、適当な試薬を加えて発色させるとか、複数の波長の測定値から計算によって求めるなどの方法もある。

 

 ただし、求める濃度は、右の説明→のように、入射光と出射光の比を対数変換した吸光度に比例するので、光量をメーターの直線目盛りではなく、吸光度目盛で読み取らなければならない。

 吸光度目盛は下の図↓のように、対数目盛になっていて、目盛り幅が場所によって違うので、読み取るのはけっこう辛い仕事である。

 そもそも、メーターの細かい目盛りを読み続けることが、回数が重なれば、また大切な試料であれば、辛い仕事だ。

 さらに、より精度の高い測定をするためには、ゼロ位法(Null method)といって、光信号と電位差がゼロになるようにポテンシオメーター(精度の高い可変電圧源)のダイヤルを手で微細に廻し、ダイヤルの細かな目盛りを読み取る(当社の当時の分光光度計はゼロ位法を採用して精度が高いことを誇っていた)ので、測定作業はなおさらに神経をとがらす作業になる。


 『分光光度計にディジタル技術を持ち込んだら、使いやすい装置ができないかな?』と上司に示唆されて、アイデアを練り、バラック・セットを何度も作り直す、などして、ともかく動く物を作り上げた。別項に述べた私の初の作品:鉄鋼分析用ディジタル計算機が、つまずきながらも製品として何台か販売され、効果が上がり始めて鼻が高くなっていた頃だ。


 ご覧のように、測定結果を、ずばり“数値で”ディジタルに表示する。
 [MEASURE]のボタンを押せば、吸光度は0.000〜2.000、透過率は0.0〜110.0の間の測定値を、2秒以内に4桁の数値で表示する。

 また、[SENSITIVITY]のボタンを押せば、検出器(光電子増倍管 PM)の感度を最適に調節する。
 [ZERO]ボタンを押せば、ゼロ点を整える。
 [FULL SCALE]のボタンを押せば、対照試料(濃度ゼロの溶液)に対して感度を100%に整える。

 右端の小さなメーターは、信号レベルが適切な範囲に収まっているかどうかを表示する。

 こうして、測定操作がすべて自動化された分光光度計が誕生した。

 1965年、私は30才だ。

 

 装置の概要は、私のはじめての学会発表として、電気学会の予稿集に記載されている。1966年、上司にすすめられて、おそるおそる発表した。わずか10分ほどの口頭発表だった。かなり特殊な領域だから、聴衆は10人ほどだった。それぞれが、「これも特殊な領域の話ですが、、」と前置きしながら、交互に発表した。

 当時の学会の習慣として、発表内容を、所定の原稿用紙に手書きで記載して学会本部に投稿し、採択されれば、予稿集に縮小印刷で掲載され、学会場で販売される。発表するセッションや日時と会場が、題目、著者名とともに学会誌に予告され、参加者はたくさんの会場を行き来しながら発表と聴講をこなす。
 初めての大きな学会での発表だったが、それまでにローカルな学会で「分析用コンピューター」についての講演のようなものは何度か経験し、手応えもいくらか経験していたから、以後、大学会への発表はやめた。

                            (手書きの読みにくい字で恐縮ですが。)

 

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