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 解説・モノを調べる技術: ノーベル賞受賞タンパク質の分析を例に

モノを調べるって?  かっての仕事仲間・田中耕一さんが完成させたノーベル賞受賞技術『MALDI-TOF MS法』は、モノを調べる技術の、一つの美しい姿である。 この技術を例に、「モノを調べる技術」を、分かりやすく説明してみよう。例としてとりあげる対象物は、「タンパク質」である。 説明に入る前に、一言、お断りを述べる。

臨床検査法研究の一例  病院で、患者さんの症状や病因を調べるために、体の組織や血液の少量を取り出して、測定している。これを臨床検査という。 タンパク質を手軽に調べることのできる MALDI-TOF MS法は、その有力な武器になっている。研究が進んでいる一例を紹介しよう。

質量分析装置の開発  飛行時間型 質量分析装置 (TOF MS ; Time of Flight Mass Spectrometer) の原理を概説する。

タンパク質の構造解析研究  タンパク質の分子構造を調べる技術の一つを紹介する。田中耕一さんが最近に完成させた MALDI-TOF QIT MSn 分析装置は、ある場に存在するたくさんの種類のタンパク質の「かたっぱし分析」に必要な能力を備えている。さまざまな知恵、くふうを集積した 調べる技術の典型として、これを眺めてみよう。

 §0.は じ め に:

「おまえは なんて オッチョコチョイ や」  技術屋って何だ?「モノ造りに夢中な人」。私は技術屋として人生を過ごした。そのコースを決めたのは、中学生の時に読んだ二三の本だった。そんな本をここに書いてみたい。

 §1.15才の私:

どんな大人になるんだろうか?  私の「三つ子の魂」を自己紹介。中学校で学校新聞制作に熱中、友と語らい、社会を覗く。読んで、書いて、未来を探る。

恩師追悼  “ことば=意思伝達の手段”を、熱っぽく伝授してもらった福島清人先生。今にして思う、社会はことばで動く。

 §2.40才の私:  心臓を動かしてみせる

内容紹介  私が40才のころ、ある狭い世界の中でだけれど、すこし有名になったのは、 “止まっていた心臓を動かしてみせた”からだ。もちろん生まの心臓の話では なくて、<心臓の内部を撮影した画像>を動かしてみせた話なのだが。
 病気の人の心臓の、動きが異常になっている部分がよく見えて診断しやすい と、その世界で評判になった装置を、コンピューターの技術をうまく使って、 開発したのである。1975年(昭和50年)、世界で初めての装置だ。
 テーマの紹介、各ページの紹介、図解の読み方を説明する。

ガンマ線心臓画像法  生きた心臓の内部を撮影して、動く画像で診断する『核医学』の手法を図解。

心臓のしくみ  ヒトの心臓の内部構造を図解。

拍動画像  ごく初期に撮影された画像の一例。動画で表示。

ガンマ線カメラのしくみ  体内に注射された放射性核物質が発するガンマ線を、画像として捉える『ガンマ線カメラ』の構造を図解。

信号シミュレーション  ガンマ線カメラがガンマ線の放射位置を検出する仕組みを、表計算ソフトでシミュレーション(模擬計算)で調べてみる。

画像を扱うしくみ  ガンマカメラの捉えた心臓の拍動画像が、コンピュータに取り込まれ、データが整理されてディスプレイに表示させるまでの仕組みを述べる。

画像ディスプレイのしくみ  この時に開発した表示装置は、コンピューターの内部メモリーをディスプレイの画像メモリーとして共有している。後世に言う「ビデオRAM」である。
 だから、コンピューターの動きにつれて画像が早く現れる。また、表示枚数も多くできる。 こうして、世界初の『心臓内部の動画像表示』に成功した。

この装置を開発した頃  病院に泊まり込んで、循環器内科の先生方と、画像の見せ方をくふうしながら、コンピューターのプログラムを作り込んでいった。連続して動くようなプログラムを作った。「これで動きが良く判る、この表示が一番良く判る。弁の逆流も、梗塞部の逆動も、一目で分かる、見れば見るほど良く判る」と先生が叫んだ。


最近の核医学診断技術
  最新の核医学画像診断技術につき、勉強する機会を得た。心臓心筋症の診断・治療に、核医学データ処理技術が活用されている状況を、いただいたデータを中心に提示して、当技術がいかに進歩・発展しているかをお目に掛ける。


PETの活躍  陽電子を放射する核種を活用した『PET診断技術』は、高価な施設を必要としながらも、病変部をポジティブに示す能力が買われて、近年、ガンの検診などに賞用されてきている。その現況を紹介。

PET:その概要  陽電子放射薬品 FDG(フルオロ・デオキシ・グルコース。グルコースの分子構造の一部を18Fで置き換え)を体内に注射すると、FDGは、グルコースを要求する体内組織にグルコースとともに吸収されるが、グルコースはそこで分解して栄養源になるのに対し、FDGは分解されずにそこに留まり、陽電子を放射し続けるので、栄養要求組織のマーカーになる。 陽電子放射を手がかりに、見慣れない栄養要求組織を検出すれば、ガン組織が早期に発見できる!

その躍進 最新鋭のPET装置を主力に、CTやMRI、超音波イメージングその他の臨床検査技術を駆使して、早期ガンの検出に挑む『PET健診センター』が各地に建設されている。米欧ではすでに数年前から普及が進み、数百台のPETが活躍しているという。健診の経済的効果が認識されているのだ。

その機構 PETによるガン健診の、経済性を高める大きなカギは、PET装置の高性能化だ。 感度を高めることによって、測定時間を短縮でき、すなわち、検査人数を増加できて、被検者一人当たりの必要経費を激減できる。解像度を高めることによって、診断能力を高め、見落としを激減できる。

その情報処理 最新型のPETでは、50層もの検出リング列を備え、これらを斜めに切る断層もきちんと測定するので、同時に得られる測定断面は、2500面になる。頭部から下半身まで全身を走査撮影するので、全測定層数は、数万層になる。斜め層のデータは直立平行層に座標変換をしながら加算されて、通常 2.6mm刻みの断層データ700枚ほどの投影データに整えられる。計算方法の革命的な改良がいくつも積み重なって、これほどの性能が確保できるようになってきたのだ。

その開発史 PETが今日の隆盛にいたるまでには、二十数年の前史がある。当時、島津製作所で医用機器事業部・技術部長であった服部 博幸さんは、身をもって時代の先端を切り開いてきた。ここに氏の貴重な体験記を紹介させていただく。

 §3.25才の私:  鉄を調べるコンピュータを創る

製鉄所の分析室で考えたこと 高度成長期、大きな製鉄所が次々に建設されて、高品質の鉄鋼を生産するために、高速・高精度の成分分析装置が必要になってきた。島津製作所の先輩技術者たちは懸命に試作・試験を重ねて、「発光分光分析装置」を開発し、私も下っ端で参加して、製鉄所に据え付けて廻った。だが、分析装置の運転には人手と時間がかかる。自動化が望まれた。私は熟慮の末、「コンピューターを作って自動化させましょう」と名乗り出た。「えっ、君にコンピューターが作れるの?」と驚く上司、、、。

動く論理回路の設計法 一冊の本を熟読して、論理回路の設計法を身につけた。これでコンピューターが設計(論理設計)できる。

発光分光分析方法 試料を高電圧スパークで励起すると、元素ごとに決まった波長の光が出る。発生した光を「分光器」で波長順に分け、望む元素のスペクトル線の強度を測れば、試料中の元素の量が推定できる。

ものを作る苦しみの一部 第1号機は苦労したが1963年3月完成、日本鋼管・川崎製鉄所に収まって、しばらくは華々しく動いた。「Quantac-501」である。ひと月ほどは順調に動いて、製鋼現場へ、正確な間違いの無い分析値が、速く、自動的に届くようになり、生産効率が急上昇して、ユーザーも営業も、もちろんキリさんも、笑いが止まらず鼻高々であった。ところがやがて、しばしば故障するようになり、キリさんは電話の都度、夜行列車に揺られて修理に駆けつけることが続いた。

 §4.30代の私:  ビワ湖の魚貝から極微量汚染物を検出

GC-MS 分析装置 GCMS(ガス・クロマトグラフを直結した質量分析計)は、有機物が混合した物質の組成を検討するのに、きわめて有力な分析装置である。 ガスクロマトグラフ GCは、混合物の分離能力に優れるが、定性能力が低い。質量分析計 MSは、純品の定性能力に優れるが、混合物の定性、同定は困難である。  両者をうまく結合して、GCによって試料中の混合物を分離し、GCの出口から直接にMSに導いて、分離した多数の成分を順に測定すれば、微量の成分を無駄なく汚さずに、便利に高感度に分析できる。各装置の動作原理を図解し説明する。

開発物語 1973年(昭和48年)ごろ、世間は公害さわぎで沸いていた。環境の汚染状況を調べるのに、GC-MS 分析装置はぴったりの装置だ。これにコンピューターを接続して、測定データをわかりやすい図形に変換すれば、さらに有用な分析システムになる。私たちはビワ湖にフナやシジミを採りに行き、成分を分析して、PCBやDDTがたやすく検出できることを世の人々に示した。

 §5.40代の私:  体の中を見る、MRIの開発

あらまし  1. MRI(Magnetic Resonance Imaging)の特長(同様の人体内断層画像法「X線CT」に比較して)
(1) 水素原子の分布と、その信号緩和時間(原子の結合の強さを反映)に対応した濃度の画像が得られる。
  組織の性質の差異に応じた濃淡を呈し、組織の違いを診断しやすい。

MRIの元信号 強い磁界の中に置かれた水素原子に、ある共鳴周波数の電磁波を浴びせて励起すると、水素原子核の内部が共鳴して回転する。電磁波を止めると、回転を止めながら電磁波を逆に発信する。共鳴周波数は磁界の強さに比例するので、磁界を巧みに変動させると、水素原子の位置と量が観測できる。つまり、人体内部の水素分布の画像が得られる。

フーリエ変換の効用 MRIの信号、水素原子核のささやき、は、「フーリエ変換」 と呼ばれるありがたい計算法によって解析され、ささやいた原子がどこで鳴いたか、その場所を探り出すことができる。フーリエ変換は、振動信号の固まりを分析して、周波数ごとに分ける。それがどんなにありがたいものかを感得していただこう。

MRI画像 作成法 MRI画像作成法を図解。 その1−位置情報: 磁界操作の妙法 をくり出して。 その2−パルス・シーケンス: 磁界操作と測定の手順。 その3−共鳴波の受信・検波技術について。

MRIの黎明期 X線CTが英国に出現、ドル減らしのため、日本中の大学病院に一挙に導入されてから、画像診断法は臨床的に急速に発達してきた。体内の断層写真が示す病変画像は、診断をゆるぎないものに高めた。この成功に刺激されて、別種の断層情報を提示するMRI法は、急速に進歩した。われわれがいち早く開発した試作装置は、京都中の研究病院の先生方から支援されて、診断困難な患者さん方の病因を次々に解明していった。

<回想>マンスフィールド氏のMRI説明具 2003年のノーベル賞(医学・生理学賞)を受賞されたマンスフィールド氏の講演を聞いたことがある。氏は、自ら案出したMRIの画像化原理を説明する道具を、プロジェクターで見せた。とたんに起こる満場の拍手。それまで聴衆たち、MRIの研究者たち、は、MRIの原理を人々に説明するのに苦労していたのだった。

 §6.50代の私:  体の中を見る、X線を半導体で数えて

あらまし  体内を透視して撮影するX線画像では、臓器が重なり合う部分は暗く写り、写真フィルムなど通常の観測手段では、ノイズにまぎれて、臓器や病変の識別(読影)が難しくなる。X線の光子を数で数えて画像にすれば、暗いところもよく見えてくる。半導体素子製造技術を改良して、多数の検出素子を高密度に集積させれば、広い視野を、、広い階調分解能で、高解像度に撮影する装置を製作することができ、美麗な有益な体内透視画像が得られる。 ところが、これは、たいへんな仕事だ。10年かかった。

X線撮影法の改革を目指して これまでのX線画像撮影手法を見直してみると、長年にわたり写真法を軸に発達してきた「一般X線撮影」は、材料の性質に合わせた技法の適応と運用の妙とで便利に使われているが、改良要望はたくさんあり、その改善が熱望されている、しかし、既得の優れた点は絶対に後退させられない、という事情が良く判ってきた。一般撮影の大半を占める「胸部」「腹部」は、元々、撮影が難しい部位だ。

戯画「X線像撮影技術の移り変わり」 今は昔、X線写真技術華やかなりし頃、『カラダの内が見える!』。やがてX線TVが現れて、『すぐに見える! 解像力が不足だ』。そしてFCRが出現して、『きれいな写真だが、めんどうさは変わらない』。さて、時は移って、高解像ディジタルX線TVができた、『いい絵だ、感度もいいし、撮りながら見える!』。そして、『2D-LSIセンサーはすばらしい。X線の素粒子を数えるやり方だから、最高の絵になるのだ!』。

X線光子を数える 1. X線光子を検出するしくみ(半導体検出器の構造)を図示。 2. X線光子が捕捉された信号粒子の動きを動画で示す。
3. X線検出器が良くないと、画像が汚くなる。検出結晶の動作温度を上げてやると、内部の流れが良くなって、飽和しなくなる。これは「大発見」だった。わずか20℃の昇温で、計数特性が格段に改善された。

ICを作る-1 ICを作る-2 ICを作る-3 検出したX線パルス信号を、増幅し計数する電子回路が、幅380mmのなかに、実に6048チャネルが必要になった。こんなアナログ回路はどこも作ってくれないから、施設を整えて自製した。何度作っても、動くICができない。どこかに異常が残って、まるで動かないのだ。分かる原因もあるが、動かなければ原因を調べようがない。やっと動くチップができたとき、仲間はそわそわしながらICテスターの前に集まってきた。

体内を見る-1 X線でからだの中を見ると、何がどのように見えるのか? X線像は透過画像だ 。日常目にしている反射画像とは、物体の見え方、影の出方、が、かなり異なる。
体内を見る-2 胸の中を見よう。胸部単純X線写真に写る物体の代表例を示す。肺の内部、肩の骨、腫瘍など結節影、など。
体内を見る-3  微細組織の症状の陰影。画像を見るための道具、シャーカステンやCRTディスプレイの濃度表現特性。 むすび:肺ガンの早期検出をめざして。

創世期のX線撮像技術 100余年前、ドイツ国レントゲン氏の新種の報が伝来すると、京都では三高研究陣と島津製作所首脳とが共同して、懸命の追跡を始めた。高圧電源装置や管球製作の技術蓄積を元に、やがて、諸試料や手足の透過画像撮影に成功する。技術黎明期の実状を、島津創業記念資料館に残された資料で追ってみた。

最新のX線撮像技術 島津製作所の技術者たちが、まさに画期的な、X線画像撮影のための平面型検出器 FPD を開発してくれた。X線画像は直接に、フィルムや蛍光光学系を介さず、正確なディジタル画像として情報機器の中に高速に入手でき、情報処理技術をフルに活用して、体内の諸状況を容易に観察することができるようになった。その概況をここに紹介してみたい。

 §7.父 の 仕 事:  鉄を削る、巨大な工作機械

あらまし  私の父は、生涯に会社を4度、変わった。社業の推移に応じて社命により転社した。機械技術を一貫して担当し、最後の会社では自分の発案で大型工作機械の開発をリードし、商業的にもかなりの成功をもたらした。技術者として幸せな生涯であったと思う。この期間は、日本の産業の勃興期から戦時体制へ、戦後の混乱から高度成長へと、変化に富んでいた。

機械の母、工作機械を創る-1 工作機械の代表例、旋盤、ボール盤、フライス盤。フライス盤をうんと大きくしたのが、プラノミラーだ。最初の会社「東洋製罐」では、製缶機械の修理に工作機械の使いまくった。そこから、生産効率日本一の「東洋機械」が、昭和14年に広島市郊外に建設され、旋盤の大量生産を開始した。戦争が始まり、増産に励んだ。戦争末期には航空機エンジン製造への転換を強いられた。
 その2 昭和26年に、京都市にある「寿工業」に転職し、高性能工作機械 プラノミラーを開発して、好評を得た。

原爆体験記 いたましいできごとは、昭和20年8月6日の原爆による従業員222人(動員学徒50名を含む)の被爆死だ。広島市内へ建物疎開の支援に動員されて被爆した。父はその救出隊に加わって、被災下の爆心地に突入した。忘れられなかったこの痛烈な記憶を、後日、一文に記した。

 §8.息子の仕事:  創る仕事を探して、デジカメの開発

あらまし デジカメを使い始めて4代目(実は最近5代目を使い始めた。)。ディジタル・カメラの中には、立派なコンピューターが収まっている。計算能力も記憶容量も相当なものだ。 現代のコンピューター技術は、こういう領域ではどんな様子なのか、ここで、すこし勉強してみようと思う。

デジカメと私 私のデジカメの楽しみ方を紹介。アルバム作り、ヨットレースの記録、ウェブに動画像を載せる、画文集の制作、ほか。

800万画素デジカメを使うと  ヨットレースの勘どころ・スタートのシーンを高精細に記録してみたいと、最新のデジカメを使い始めた。うまく使えば、期待した効果が得られているが、いろんな悪条件下でも良好な画像を得るためには、使い方にくふうが必要なようだ。

 §9.総 括:  会社と社会と 技術者と会社と世の中とのつながり、役割、規範、考え方、その生活、など。そしてエピソード。

1. 技術者無限責任論 技術者は、自分が担当する製品の、すべてについて、限りなく責任を持たなければならない。持たざるを得ない。モノは、技術者が設計しなければ、生まれない。その機能は、技術者が機構を考え出さなければ生じない。 誰かがこんなモノが欲しいと言い出しても、こんなことができるといいなと望まれていても、それが実現するのは、技術者の誰かが考え出すからだ。作り出すからだ。

2. 技術者は無口ではつとまらない  現代企業に働く技術者たちは、無口であっては役に立たない。単にしゃべれれば良いというのではない。自分の考えていることを、相手に分かるように説明できなければならない。専門が違う者どうしが実のある対話を交わすことは、容易ではない。対話効果を高める方法は、「筆談」だ。

3. 苦し紛れの新製品開発策  モノを調べる計測技術の分野のような、進歩の早い、潜在需要の多い領域では、常に新製品の出現が求められる。企業の体質・・体育会系剛直団体。開発上の巨大課題・・創造力の欠落。活力ある開発体制・・動けば身体が温まる。

4. 僚友にノーベル賞 かっての仕事仲間・田中耕一さんが、ノーベル賞、2002年の化学賞1/4を獲得した。

1.問題提起: 自由と、偶然と、で?
 この仕事は、1980年、島津製作所に新たに中央研究所ができ、私が研究部長となったとき、[レーザーを活用した生体物質の分析法]を開拓しようとして配下にチームを編成し、開始したものだ。 そこで何がどのように生まれ、どのように育ったか、今、それを概説してみたい。

2.目標の設定 ==何を研究し、開発するか==
 TOF MS を見付けた、おもちゃのような装置だ。「コンピュータと組み合わせたら、もっと良くなりませんかねえ」と吉田多見男。「それだ! それで行こう。」 と、思わず私は叫んだ。 これは、ショックだった。われわれの技術分野にピッタリのテーマじゃないか。なぜ、もっと早くに、このアイデアを思いつかなかったんだろう。

3.TOF-MS開発 グループ内の定期報告会で相互に教育し合う「研究会」制度を、きっちりと実施した。ある日、グリセリンを加えれば、試料の「親イオン」が出やすくなる、、という実験結果が、淡々と(間違って偶然に、、などとは一切述べず)、かつ、いろんな条件で測定して、詳しく報告されている。

4.さて収穫は ▼ 成果の発表 ..... 国際的な反響へ。  田中耕一によって発表された人類初の発見は、その情報をもっとも必要とした人に、速やかに的確に伝わり、そこに大きな刺激を与えて次の発見を促し、以後の技術進展を、両者が手を携えて促進させた。 ▼ 初回の製品化 ..... 手応えあれども売れず。 ▼ 世を追いかけて..... 英 好子会社で再開発、製造、販売。アプリケーション・ソフトの重要性。仕事の進め方について 。探さなければ、答は無い。

5.世界初は世界一? せめぎ合って、モノは良くなる。 世界の何社もが、競り合って改良を続け、市場を開拓して新規の利用方法を発展させ、ユーザーが参加して、分野が拡がる。たくさんの人々の競争と協調が進歩を招く。

ご参考に 参考図書など紹介。

5. 練り上げた講演録 講演「ノーベル賞受賞者を生んだ 企業風土」の記録が、「機械技術」誌に掲載されて、その内容がとても分かりやすい(実際の講演を生で聞いた以上に)と評判になっているそうだ。実は、この講演録は、ライターの柿川 鮎子さんが自身で聴講されて基本稿を作られ、私がそれに補筆して成文とした[合作]というより、文筆専門家の具体的な誘導:設計図に従って、穴埋めし加工した[塗り絵」作品である。だから、分かりやすい文となって当然なのだ。

6. 初の海外出張 ルーマニアへ  1967年、32才の時、海外出張を命じられた。わが社の製品を、ヨーロッパの展示会に出品して、販路を開拓するのだ。

初の海外出張 ルーマニアに行き、そこで初めて開かれる「日本工業展」に、ガスクロや分光光度計などの分析機器類を展示し、講演や顧客訪問も試みて、これまでほとんど縁のなかった東ヨーロッパの市場を偵察する。約1カ月を予定する。

日本工業展  戦時中ドイツに隷属したルーマニアは、数年前にチャウシェスクが政権を獲得してロシアの占領から独立した。日本との国交も回復して、記念の工業展が開催されたのである。日本の主要な製造会社がほぼ参加している。家庭電気器具や衣料などの企業は張り切っているそうだ。
 ルーマニアは石油が出るので、化学工業を発展させようと企図している、と。

街にて 1カ月滞在したホテル・ノルドは、首駅ノルド(北)の近く、新しくて大きなホテルだ。トロリー(電動バス)や通常のバスが盛んに発着している。 バスやトロリーの料金はきわめて安い。中心街は駅から少し離れている。道は広く、石畳の舗装が多い。歩道も整備され、植込みも多い。東欧のパリと自賛している、とか。

大平原、黒海 日曜日、適当なバスに乗って、終点まで行ってみた。この国には地図がないからよく分からないが、東の方角だ。子供が集まってきた。

7.失敗の記録、世界初のディジタル分光光度計 うまく進んだ話だけでなく、ひどい失敗に終わった話も、語っておかなければなるまい。 後車の戒めとしてもらうために。

あらまし  分光光度計は、ある選んだ波長の単色光を透過させて、試料(主として溶液)の中のある成分について、その化学的濃度を測定するのが、主たる用途だ。

分光光度計の原理  分光吸光光度計は、単色光を作り出して、これを試料に照射し、透過した光の量を測定して、試料の、その波長における吸光度を求める。吸光度が、試料中の吸光物質の濃度に比例するところから、定量分析の重要な道具として便利に用いられる。

ディジタル分光光度計 測定値が、数値=ディジタル値 でパッと現れる。それも、ログ変換された「吸光度」で表示される。「ゼロ点調節」「100%調節」も、ボタンを押せば自動的に設定される。測定法は、精度の高い「ヌル・メソド」で行う。ログ変換も、近似ではなく、精度高く刻まれた「光学的目盛り板」で行う。そんな装置を開発した。大きな手応えを得た。

新製品の生涯  画期的な新製品が生まれた。日米欧の大きな展示会で発表して、「なんと刺激的な、、」と評価された。ところが生産技術が伴わない。トランジスターが壊れやすい。無理を押して出荷していったが、故障が続く。とうとう、生産中止、既納品も引き取り、と最悪の事態に至った。設計の傲りか、我が技術生涯の最悪の結果になってしまった。

8. 古希を迎えて、3万ご来客に感謝 2005年年頭あいさつ。70歳になって古希を迎える。昨年末、ご来客数が3万名様を越えた。このサイト例月更新はまだしばらく続けたいが、書きたいテーマは大きすぎて取り上げかねている。中学生に科学的創造性を発展させる刺激を与えたい。適案はないものだろうか。読者の方々のお知恵を借りたいものだ。

9. 随想・モノを見る『眼力』について 技術者の眼力(勘、感性)は、新しい発見、改良、改革、高適応、をもたらす。眼力は、生まれ育った自身の感性の上に、職業的訓練努力と周りからの育成によって育ち磨かれる。さりとて今日の眼力には、最高の測定手段を経由しなければ情報は入らない。周到な準備過程が必然なのだ。

10. 動的説明図を用いた技術解説法   このホームページでは、表紙にも記したように、「技術の上手な説明方法の探求」を目標の一つとして掲げた。図と説明を動的に組み合わせた、ブラウザーの表現能力を活用した、紙上やこれまでの電子機器では実現されていないようなインタラクティブな説明手法を追求してみたいと考えた。以来、丸4年の開発期間が過ぎて、その成果のひとつ、動的な説明図の作成手法を述べてみよう。

11. 70才の私: 老境を楽しむ  7月20日に誕生日を迎えて、遂に70才に至った。とりわけ頭脳の記憶能力の劣化がいちじるしい。
 ついに、[老人モード]への転換を宣言し、これまで守ってきた「定期更新:例月1日」の看板は下ろして、以後、更新随時とさせていただくことにした。
 老境で取り組むに相応しい相手は見付けた。オーボエを手にとって、アンサンブルに取り組んでいる。実に楽しい遊びだが、覚悟も必要。

 §10.余  録: 身辺雑話、いろいろ。

銃後の少国民の記 集団疎開学童の耐乏記。「銃後」とは、銃をもって戦う戦線の後ろ、すなわち祖国・日本のこと。「少国民」とは戦線に参加するまでに至らない年代、すなわち子供たち、当時は国民学校と呼んだ初級学校の生徒たちを指す。いずれも、戦時の人々の気を引き締め、戦局の苦難に立ち向かわせるべく使われた政治用語である。 かの大戦の末期、私たち少国民は、戦果を避け次代に温存されるべく、山中に集団で避難させられた。飢餓と重労働が待っていた。

あるヨットとそのお供 1963年、島津ヨット部の仲間が初めて持ったクルーザータイプのヨット“Epicurean ”にはエンジンがなかった。その不便をおぎなうべく、足船を手作りした。レディがトイレに通う足船にもなった。

チラと見るオランダ  オランダに、ちょこっと行って来ました。ヨット・レースに3日間、あと、ハーグ、ロッテルダム、アーネムをめぐって、オランダを分かったつもり。忘れない内に感想を記録しておきます。

50年前のビワ湖周航アルバム 1955年。ほぼ50年前である。私は京大ヨット部2年生。20歳だ。この一文は、“歴史物語”としてご覧ください。

今年の年賀状 私の賀状には、その年、もっとも印象に残ったフネを描くことにしている。2004年の賀状に載せた版画の『ヘダ』号は、1855年に日本国 西伊豆・戸田(ヘダ)村で建造された、ロシア海軍プチャーチン提督の乗艇。夏に戸田村を訪ねて、その足跡を偲んだ。

『北から来た黒船』 ロシアの作家、ニコライ・ザドルノフが、『ヘダ』号にまつわる故事を、3冊の小説に纏めていた。そこに展開する日ロの人々の交流が、とても楽しい。150年前の素晴らしいできごとを追ってみた。

あるパソコン勉強会 私たちの仲間、シルバー世代が集まって、少しおもしろい活動をしている。楽しみを「画文集」に盛り込むパソコン活用術を勉強しているのだ。成果はまもなく3冊になる。

潜遊子・抄  けなげに生きた、愚弟の生涯。

07年の年賀状  2007年の不出来な年賀状にかこつけて、これは内容の濃い 海事資料室『鬼崎文庫』をここに紹介。

08年の年賀状  昨今はまっている室内管弦楽団での演奏体験。合奏のおもしろさを私なりに解析してみた。

 §11.理科啓育のための分析体験講座:

ぶんせき体験スクール  モノを調べる技術、“分析化学”は、生物や物質の内容を明らかにしようとします。ここに企てを披露する“ぶんせき体験スクール”は、 自身で考えることを快しとする中学生の方々を対象に、 代表的な分析手段の、アイデア、技、装置の心髄を、体感的に味わってもらって、 学ぶ日々の道しるべに、新たな灯火を加えてもらい、 歩む足取りに活気を加えてもらうための 機会を提供します。

光で調べる分光分析  “分光分析”の原理を、シンプルな装置を自身で製作して理解し、また実機を使って、食品中の重要物質を定量的に測定するアイデアを学び、機器分析の基本、物理学的原理の応用、数学の活用、などを、体感してもらいます。

紙で作るアミノ酸模型  中学校の部活として、アミノ酸・アラニンの紙模型を作り、 この複数個を接続して、タンパク質の一部分であるα-ヘリックスを組み上げて、 身体の重要要素であるタンパク質の本質を体感してもらいます。さらに、生体アミノ酸20種の製作用紙を提供します。

分けて調べるクロマト分析  100年前から、それぞれの時代の先端的研究者が取り組んで明らかにしてきた、体内ホルモンの好適例である“インスリン”の研究史を辿りながら、 その一部を薄層クロマトグラフィーによって再現して実感してもらい、 また、石油製品、食品などの中の複合した重要成分を分離させながら定量的に測定する手法を、実機と実データを見ながら解説して、装置化技術の重要性を体感していただきます。

DNA模型(準備中) 中学校の部活として、DNA、RNAからタンパク質にいたる転写、翻訳 過程の紙模型を作り、遺伝情報再生の過程をを体感してもらいます。

質量分析(準備中) “質量分析”の原理を、これは実機を、分解して眺め、運転して体感し、また生体内試料など複雑にして巧緻な実在物質(特に遺伝情報再生過程)を対象に、細かく分離しながら分子の情報を得ていく“質量分析”手法の巧妙さ、アイデアの集積を、
つぶさに眺めてもらいます。これは生体の働きを実感的に知識づける貴重な機会であります。また、我らが誇る、田中・ノーベル賞の意義を、実感的に知っていただく機会でもあります。

 コミュニケーション:

質問に答えて  よくある質問について、作者の考えを表明。

言い訳とお礼の頁  毎月の定例更新を終えるつど、至らなかった言い訳やお世話になった方々へのお礼を記載。アクセス状況を報告。

余暇の楽しみ:My Spare Time  作者の余暇の紹介。所属団体へのリンクもあり。

作者にメールをください  クリックすると、作者へのメール送信が始まります。ぜひ。

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