解説「モノを調べる技術」   臨床検査法研究の一例  質量分析装置の開発  タンパク質の構造解析研究  ご参考に  もくじへもどる 

いらっしゃいませ。初めての方は、このページからご覧ください。

解説「モノを調べる技術」....................モノを調べるって?

表題の裏に、こう書いた。−−

 モノを調べる装置: これを、分析装置とか計測装置、測定器、試験機、センサーなどという。
調べる対象によって、いろいろ言う。
いろんな方法、形態がある。
ヒトの病気を対象にすると、診断装置となる。
 コンピュータが出現して、装置の能力が上がり、ずっと便利になった。
オッチョコチョイの私は、苦労を嬉しがりながら種々開発してきた。
そんな装置の仕組みと働きを、楽しみながら説明したい。
理解してもらえると嬉しい。

分かりやすい一例を、まず解説してみよう。−−

 かっての仕事仲間・田中耕一さんが完成させたノーベル賞受賞技術『MALDI-TOF MS法』は、モノを調べる技術の、一つの美しい姿である。 この技術を例に、「モノを調べる技術」を、分かりやすく説明してみよう。
 『MALDI-TOF MS法』が、何を調べ、それはどんな効果があって、人類社会に何を貢献しているのか、を解説しよう。 調べられる対象物=モノについても、簡単に説明を加える。 調べる技術と、調べられる対象、とは、表と裏の関係だからだ。

 例としてとりあげる対象物は、「タンパク質」である。タンパク質は、人体を作り上げる主要成分であり、たくさんの(猛烈にたくさんの)種類のタンパク質が、人体の各所に陣取って、身体の形を作り、身体を動かし、成長させ、人格を活動させている。人体の、仕組みや動きを理解するには、いろんな方法でタンパク質を調べることが重要になる。どんな調べ方があり、何が分かるか、その効果的な一端をここに紹介する。
 タンパク質を調べる研究分野は、現在、もっとも関心が注がれている分野の一つである。熱気溢れるこの研究分野を、かいま見ながら進めるこの解説が、読者に、「モノを調べる技術」の、神髄を味わってもらう楽しい説明、になれば嬉しいが、さて−−。

 私は、20年前、創設直後の島津製作所・中央研究所で、この受賞成果を生んだ研究計画の、立案・立ち上げを担当し、担当の研究者を集めて、「この研究が成功すれば、生命の根源、医療の根本を究明することが可能になるのだ。 高分子・生体試料の質量分析技術を完成させるべく、諸君は力量を発揮してほしい。」と説いて、開発プロジェクトをスタートさせた。
  予期以上の成功を得て、この技術は、生化学分野の先端研究を急速に進展させる測定技術に成長し、その鍵となる原理を導き出した田中耕一さんには、2002年のノーベル賞化学賞を授けられるという輝かしい成果が得られた。

 田中さんは、この技術、すなわち、MALDI 質量分析法
  MALDI-TOF-MS (Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)
   マトリックス支援によるレーザー脱離イオン化法を用いた、飛行時間型質量分析法
   (口語では「マルディ」、と洒落た名で呼ぶ。)
を、1980年代、吉田多見男君率いる研究チームの一員となって取り組んで、試行をくりかえす研究の中で、まず、MALDI法の基本原理を発見し、さらに、その装置の製品化と改良活用ソフトの開発と普遍化を担当して、世界中の高分子物質研究家とさかんに共同研究を進めて、
  ついにこの方法を、『生体高分子を研究するための強力な分析方法』に仕立て上げた。

 2002年10月9日に化学賞が発表されて以来、テレビ、新聞、その他には、受賞者についての、好ましい人柄や身辺境遇は、詳細報道が満載されてきたが、授賞対象の技術面についての解説は、技術的関心を満足させるほどのものが見当たらない。 このページでは、その技術の内容を解説することに努める。その技術を理解し、効果を知り、役割を認識していただければ、これも嬉しいことである。

 以下に続く最初のページで、MALDI法を活用した、病気の診断法、の一つを紹介する。あわせて、タンパク質の基礎的なあらましを説明する。

 ついで、ここに用いられる質量分析法の概略を、理解に必要な知識とともに、解説する。

 そして、さらにタンパク質の構造を調べるための、近年進歩してきた多段階に組み合わされた質量分析装置を紹介する。

 以上の解説の中から、「モノを調べる技術」の役割や、方法を支えている技術的努力について、諸兄の関心を高め、探求心をそそらんとするのが、私の願望である。

 ただし、あらかじめここで読者に、いくぶんの覚悟を迫っておきたい。

 以下の解説は、かなりに難解であろう。文はていねいに書くことに努めるが、記述しようとする内容は、単純な事柄ではない。 広い範囲の技術分野にまたがっていて、たくさんの要素が互いに絡み合うのが、「モノを調べる技術」の特徴だから。

 しかし、 個々の要素を一応 理解するのは、さほど難しくはない(実は、それぞれに突っ込めば、難しいことは無限にあるのだが、一応の理解に必要な範囲にとどめている)。 難しいのは、ある場面に関係するたくさんの要素を、いちどきに理解し記憶して、その絡み合いを呑み込むに至るまで、だ、と思う。
 文章は、一本道を記述するのは比較的に書きやすいが、絡み合いを説明するには適していない。問いと答が前後することがしばしば起こる。 説明図でも、平面的な展開は描出できるが、描いた要素群の、動きや絡み合いは、すぐに読み取れるものではない。 動画にしても、単純な動きをしか表現できない。
 要素群の絡み合いを理解するには、個々の要素の意味を頭に入れた上で、順序不同にたくさんの要素を思い浮かべて、その関連をあちこちから構築して、順につなげ、認識し理解していくことを、頭の中で、続けなければならない。

 このホームページの記述は、そういう努力を読者に迫ることを、ここでお断りしておきたい。 だが、そのような頭脳の努力は、多くの読者にとって、実はとても楽しい作業なのだ、と私は確信している。

 使うことばや文章の形は、ていねいに選んだが、あえて易しい文章にはしなかった。漢字もかなり使った。易しいことばが分かりやすいとは言えない。難しい言い回しの方が、良く表現できることが多い。そして、分かりにくくても、説明を省略することはしなかった。手抜きの説明は、分かりにくくする主因だと思っているから。

  「技術」は、要素を絡み合わせる仕事である。その創作を、楽しいことだ、と感じている人々が、このページの読者なのだ。そういう方々に、このWebのすべてを捧げたい、と私はいそしんでいる。

では、参ろう。         <次節:  臨床検査法研究の一例 

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