2004年、バリ滞在記

1月20日から2月18日までの30日間バリ島に滞在した。今年も例年のとおりサヌールで数泊してからウブドへ移る。ウブドは昨年から日本人女性(Sさん)がいるあるバンガローに泊ることにしている。ここは自炊ができるので長期滞在にはとても助かる。また、Sさんがいることにより、バリの知識を得たり、いろいろな体験ができることが魅力だ。今回はそんなバリの体験を書いてみる。


 

 南の島の暮らしはとてものんびりとしていて好きだ。中でもバリ島が好きなのは、人々の暮らしが身近に見られ触れられることと、豊かな自然の中でゆったりとできることだ。夜になると、ヤモリが「トッケイ」と鳴き、朝早くには、ニワトリが「ヒッパタクゾー」(ここのニワトリは「コケコッコー」ではなく、いつまでも寝ていると「ヒッパタクゾー」と聞こえる)と鳴く。時には犬やカエルの鳴き声が入り乱れすさまじい音となる。それでも何日かすると慣れてしまうから不思議だ。宿のテラスの前には赤・白・黄などの様々な花が咲き競い、そして時々シラサギなどのきれいな鳥が身近なところまで飛んできては目を楽しませてくれる。中でも嘴が赤く羽の色が青い鳥はテンゲッと呼ばれとても美しい。

 また、バリ島の心なごむ風景に田んぼがある。私たちが滞在した地区は稲刈りが終わったばかりで、まだ籾を干しているところだった。それでも田んぼではもう次の準備のため田起こしが始まり、機械でやっているところもあるかと思えば、鍬でやっているところもあった。多くのところでは朝夕の涼しい時に、急ぐでもなくゆっくりと鍬を下ろしている。稲が実っているときはアヒルの群れが田んぼの中で草をついばんでいる姿が見られたが、今回は田起こしが終わった後の水が張られた田んぼの中を楽しそうに泳ぎ回るアヒルの群れがどこでも見られた。
 アヒルは集団で移動する。歩き方も腰を振っている姿がユーモラスだが、畦道を1列になって移動する様は見ていても飽きない。リーダーはいると思うのだが、途中で田んぼに入り泳ぎだすものがいたり、わき道へそれるものがいたりと、けっして常に同じ行動をとっているわけではない。しかし最後まで見ていると、かれらはちゃんと目的地へみんなそろって到着しているのだ。

 ある日、宿の人にお願いしてニワトリの丸焼きをしてもらった。そこらじゅうで歩き回っている元気なニワトリの丸焼きが食べたかったからだ。希望をかなえて彼の実家のニワトリを2羽提供してくれることとなった。1羽は生後6ヶ月、もう1羽は闘鶏用に育てていた年季入りのニワトリだ。私たちの要望により、殺すところから始まる。(このときは3歳になるSさんの子どもも真剣になって見ていた。こうやって親がやることを学んでいくのだろう。)まず頚動脈を切り、血を抜く。次に熱湯に浸け、羽を抜く。そして水洗い。腹を切り裂き内臓を取り出す。そしてまたよく洗う。内臓は腸内の汚物をその場で作った竹ナイフでそぎ落としたり、肝の砂を取ったりしてきれいに洗う。焼くときは、うこん、にんにく、塩、油を混ぜて作った特性にタレを付ける。5〜6回念入りに付けて焼きこむ。火は炎が当らないようにして、炭火の状態でじっくりと焼く。燃料はからからに乾いた椰子のカラを使う。焼き上がるまで約1時間。その後も煙でいぶし、適度に乾燥させてカッラとした食感になるように仕上げる。これが30分ぐらい。出来上がりは全体があめ色できれいに焼きあがっていた。
 ついでに書いておくと、闘鶏用の肉はマッサージが効きすぎていてかなり硬かった。かんでもなかなか噛みほぐせないほどだ。そこで肉は煮直してやわらかくしてもらったら、これがまた美味だった。
 バリの人にとってニワトリは多くのことに関わっているように思う。サテといばニワトリの肉だし、闘鶏は時々目にすることができる。またオダランなどの行事にも登場する。そんなわけだから、Sさんの夫も食べる前に正装に着替え、肉の一部をちゃんとお供えしていた。これは大切な生き物だからこそ行う行為ではないだろうか。こうやって私たちは生かされているということを感謝したいと思う。

 またある夜、私たちが泊った宿の人にリンドゥン(田うなぎ)捕りに連れて行ってもらった。ポンプ式の大きな灯油ランプを片手に持ち、もう一方の手にはリンドゥンを捕まえるヤットコのようなものを持つ。素足で畦道を歩きながら(けっして田んぼの中には入らない)、稲の古株の根元にいるリンドゥンを見つけてはヤットコでサッと捕まえてはビクの中へ入れていく。これがすごい早業なのだ。私たちの目ではそこに生き物がいるのかさえわからないのに、静かに潜んでいるリンドゥンを見つけては次々とビクの中に放り込んでいく。その視力には脱帽だ。また、畦道に隠れているカエルを見つけては「これもうまいよ!」と言って捕まえる。カエルにはかわいそうだが飛び出さないようにその場で殺される。宿に戻ると、すぐにから揚げにして食べることになる。ビールのつまみにちょうどよかった。

 別の夜、こんどはオダラン(お寺のお祭)に連れて行ってもらった。宿の人から参詣する時に着る衣装を借りてお寺へと向かう。まだ始まってはいなかったが境内には座り込んでいる人の姿が多く見られた。楽団の人も到着していたがまだ演奏はしていない。しばらくすると、お坊さんが到着したらしくみんなぞろぞろと寺内へ入っていく。寺内にはアトラン(くだもの、お菓子、米、肉、塩を山のように積んだお供え物)が人々をとり囲むように供えられている。参詣者たちは地面に腰を下ろし、お祈りが始まるのを待つ。すると、突然演奏が始まったかと思うと、お坊さんやそのお供の人たちが二手に分かれて聖水をかけ始める。かけ終わるとニワトリを殺す儀式。1メートルもある大きな刀を取り出し殺す真似をする。実際はそのあとナイフで殺していたようだが暗くてよく見えなかった。ガムランが止み、お祈りが始まる。花びらを両手でつまんで頭の上にかざす。これが2回。花びらとコインをつまんでかざす。これが1回。これでお祈りは終わる。この間、お坊さんがマイクで何事かを唱えていた。最後の締めくくりも聖水かけ。これはまず両手をかざして聖水を受け、次に右手を上にした両手のひらで聖水を受け、口に含む(ずるずると飲んでいる人もいる)。これが3回。4回目に受けた聖水は頭にかけたり、顔をぬぐったりする。そして、米粒をもらい、おでこ・こめかみなどに付ける(食べる人もいる)。これですべて終了。始まってみればことはてきぱきと進み、40分ぐらいで終わっていた。

 オダランはバリ島内では毎日のようにどこかで行われていると言う。このようにバリ島の日常は宗教と密接に結びついているといえる。お店や家の出入り口にはいつもお供えのチャナンが出ている。そして、いたるところでお供えをする人々を見かけることができる。こんな宗教心の篤いおだやかな人々に囲まれた暮らしは心を癒してくれるのに十分だ。この快さがいつまでも私たちをひきつけて離さないバリ島の魅力なのかもしれない。

リンドゥンと
カエル
揚げる前
揚げた後
絞める前の
ニワトリ
焼きあがった
ニワトリ