読書録/2002年5月
5月2日 浦賀和宏『浦賀和宏殺人事件』(講談社ノベルス)
私が『ネメシスの哄笑』なんかで、作家本人を登場させる内輪ミステリをやっ
ていたのと、同種の路線の作品。浦賀和宏本人が出てきて、現状のミステリ界
に不満をぶつけたりしながら、話が進む。YMOに関する蘊蓄は、素養のない
ところなので流し読み。別に『ネメシス』と同じネタを使っているわけではな
いのだけれど、この手の話ってやはりこういう着地になるよね、と感じた。
「氷川透ってかっこいい名前だ」とか「二階堂蘭子を超える推理だ」とか作中
に実名が頻出していて、了解とらずに書いててよいのかな?と危ぶまれる場面
もいくつか。
5月12日 古処誠二『未完成』(講談社ノベルス)
丹念によくかけていると思った。自衛隊の内部事情は知らないのだけれど、リ
アル感をもって描写されているように感じたし、作品の仕上がりが丁寧。自衛
官が駐在する孤島のクローズドサークルものなのだが、メインの事件は小銃の
紛失事件──一見すると、少々しょぼい事件を主眼に据えているが、抑制的な
謎解きの構成が舞台とマッチしている。作中に出てくる政治的判断も、理性的
で、右にも左にも偏らず、共感できるものだった。惜しむらくは、真相が一点
に凝縮せずに並列型になっているあたりかな。
5月14日 コリン・ウィルソン『世界超能力百科』(上下)関口篤訳・青土社
この分厚い本の中で、私にとって面白かったのは、上巻の初めの二章と、下巻
の最後の章「意識の地平の拡大」。頭と締めの箇所で、総括と理論編をやって
いるので、そこは思想的に興味深い。中盤の超能力の題材がたくさん並んでい
るのは、まあそれなりに、ところどころ興味をひかれる題材もあった。しか
し、ポルターガイストのあたりなどは、著書『ポルターガイスト』や『世界不
思議百科』で読んだ内容と大同小異。おなじようなことばっかり書いてるなあ
と思ったりもする。上巻139ページには、グルジェフがアメリカで生まれた、
などととんでもない偽りの情報が書いてある。ところどころミスが目立ち、訳
文の出来はいま一つかと。結論部は面白いけれど、これも実は『超オカルト』
の結論部で述べられていることと大同小異。
5月25日 カール・マルクス『資本論』(一)〜(三)岡崎次郎訳・大月書店・国民文庫
大学時代に、マルクスの資本論のドイツ語講読会に少しだけ参加したことがあるが、なかなか読みこなすのが大変だったのを覚えている。ドイツ語力で歯が立たなかったのもあるけれど、元の書物の論理性の乏しさが、そのとき読めなかった一因にあると思う。そのときには本当にごく一部しか読まなかったので、かねてより全体を通読してみたいと思っていた書物。しかし、ごたまぜというかごった煮というか、体系立ってないというか──筋道だってはいないけれど、ある種この混沌としたエネルギーないし情念の渦巻きを感じさせるという点では旧約聖書に似た読後感がある。マルクスが生前に刊行したのは第一巻のみ、この九分冊の文庫では前の三巻にあたる。前半の論述は、剰余価値に着目して、まだしも体系をつくろうと目指しているけれど、後半に進むにつれて、その場その場で著者が目についた、搾取や労働条件の過酷さを述べたテキストをひたすらに引用列挙していく書物になっていく。こんなに読んでて疲れる書物は他に知らない。エンゲルス編集になる後半の箇所は、もう少しちゃんとまとまっているとよいのだが。
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