読書録/2002年6月

6月2日 法月綸太郎『法月綸太郎の功績』(講談社ノベルス)

  朝日新聞日曜の読書欄に出た野崎六助の書評では、シャーロック・ホーム ズものの最後の短編集にちなんだ命名、とあった。ホームズものの最後の短編 集の題名は言うまでもなく『事件簿』である。なんでそんな初歩的な情報間違 いをチェックしないかね〜。
「イコールYの悲劇」と「ABCD包囲網」は既読。あとの三つの短篇もそれ ぞれによく練られた好編。「中国蝸牛の謎」は、密室ものの発想からスタート したと思われる。密室もののアイディアをあべこべ殺人と結びつける発想が面 白いけれど、かなり無理筋な気がした。クイーンの『チャイナ橙』へのよきオ マージュと言える。「縊心伝心」は、法月作品によくある人物の布陣と道具立 て。ロジカルでスマートで美しい。「都市伝説パズル」が協会賞受賞作らしい が、たしかにこの中でも随一の名篇。意外性が若干そがれても、見事にロジカ ルな安楽椅子探偵ものの名作。

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6月12日 歌野晶午『館という名の楽園で』(祥伝社文庫)

第一回めの400円文庫が一斉発刊になったときに、一番よい作品と思ったのは 歌野作品だけれど、この作品もまたまた秀作。全作は読んでいないけれ ども、400円文庫全体で一、二を争う作品になっているのではなかろうか。綾辻の館シ リーズへのオマージュとリスペクトが基底にあるのは、殊能将之『鏡の中は日 曜日』に共通している。作品構成とトリックは、初期作品の家シリーズを彷彿 とさせるものがある。中編の中で、犯人当て館ものを盛り沢山にやってのけた 技量に感心。

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6月14日 千街晶之『怪奇幻想ミステリ150選』(原書房)

「ロジカルナイトメア」との副題をもつ。気鋭の評論家、千街晶之の初の単独評論書。ブックガイドにして長編評論書という二つの側面をもつのは、著者自身が序文で言っているとおり。読んでみて、ブックガイドとしては二重丸をつけたいが、評論書としてはちょっと物足りなく感じた。各作品の書評は手堅く的確だし、通史総覧も博学と見識両面で秀でている。視座をもった切り込みのある批評がもう少しほしかったというのは望蜀の念か。そのあたりはジャーロの連載評論がまとまるときに期待しよう。

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6月25日  "SAHAJ PRAKASH:THE BRIGHTNESS OF SIMPLICITY"edited and translated by HARRY AVELING & SUDHA JOSHI
MONITIAL BANARSIDASS,INDIA 2001

"SHOWERING WITHOUT CLOUDS"で扱われた18世紀のインドの女性神秘家・サハジョバイ(SAHAJO BAI)の初の英訳書にして全詩集。これまでインドの外に紹介されてこな かったサハジョの著作と生涯が、この訳書によって初めて外国に紹介されるこ ととなる。本書は285頁で、左がヒンディー語で、右頁が英語の対訳形式。 七章からなり、一章が「導師(THE GURU)」二章が「離欲の養成」三章が「真実 の実践」四章が「サッチダナンダ等」五章が「知識と献身」。ここまでが元の サハジョ歌集(SAHAJ PRAKASH)の全体。六章は日々の数え唄と曜日の数え唄。 七章は、チャランダスの死後にチャランダスを讃えた歌集の中から、サハジョ 作と思われるものをぬきだしたもの。
一章のグル讃歌はあまり面白くなかったが、二章以降はなかなかに興味深い宗 教詩が散見される。二章の長詩では、正しい道を歩まない人の描写を、誕生か ら幼年・少年・青年・中年・壮年と年をとっていく段階ごとに描写し、死の描 写では、六千の毒蛇に咬まれたようだ(133p)とその恐ろしさを強調している。 サハジョの生涯については、他の文献からは断片的にしかわからず、結婚して いるかどうかも本によって情報が食い違っていた。今回序文に載った伝記に よって、初めてその全貌が伝わった。それによると生まれは1725年で、わずか 12歳のときに、幼児結婚をさせられそうになるが、そこで生涯の師・チャラン ダスに出会ったサハジョは、彼に弟子入りして、結婚をしないと誓ったとい う。五章の末尾に付されたサハジョの、あと書きの年代では、彼女はまだわず かに十八歳。チャランダスが没した1782年にはサハジョは六十才近くになり、 その後弟子の跡目争いに巻き込まれたとある。サハジョの没年ははっきりしな いようだ。

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