読書録/2003年5月
5月3日 松本清張『黒い画集』(新潮文庫)
松本清張の連作短編集。といっても、各作品ごとの人物の共通性はまったくないので、どこが連作なんだ?と思わせるが、各作品とも不倫とか情事がからんできて、それが事件を起こす動機になっている場合が多い。そういう連作テーマというのもありなのか。集中でミステリとしては「紐」が断然すぐれている。アリバイ崩しの趣向のみならず、最後の一段落で事件の様相が一変するあざやかな幕切れ。「凶器」は、ロアルド・ダールのあの作品と共通性が……。ただ、この事件を担当した警察官は、能力が低い気がする。もっとちゃんと調べたら、突き止められるだろうにと思った。「坂道の家」とか「寒流」は、サラリーマンの情痴の、どろどろした生態を描いていて、あまり好みでない世界なのだが、それでも読ませる筆力は大したもの。
5月12日 米澤穂信『氷菓』(角川スニーカー文庫)
高校の古典部にはいった主人公の奉太郎は、「氷菓」という古い文集に出会う。
作風としては「日常の謎」派のミステリ路線で、高校生の生活を描きながら、遭遇する小さな日常的な謎を解きあかしていく、連作短篇の趣向もあるデビュー作品。文章や描写はしっかりしていて、高校生の生活もよく描けているように思う。ただ、日常の謎にしても、一つ一つがかなりしょぼいので、もう一つ華に欠ける印象。
5月15日 米澤穂信『愚者のエンドロール』(角川スニーカー文庫)
『氷菓』に続く長編ミステリ。人物たちも共通していて、前作『氷菓』のあとをついだ内容になっている。
あとがきには我孫子武丸(字が安孫子と誤記されているが)『探偵映画』への言及があり、あの作品と似て、自主制作の探偵もの映画を部員たちが撮影しようとする趣向。その脚本担当者が病気でリタイアし、中途までしかできていない脚本は謎解きがなされないまま宙ぶらりんになっている。
うーん、ミソとなる趣向、鷹城宏氏が評価していたのだけれど、史的解釈としても異議があるし、あまり成功していない気がする。20代前半の若さのミステリの書き手たちが、多くかなり非正統的な作風になっている中では、正統派本格を志向している作者は珍重されるべきかと思うけれども。
5月24日 二階堂黎人・編『新・本格推理02』(光文社文庫)
『新・本格推理』では03の方を先に読んでしまったが、「湖岸道路のイリュージョン」、02と03でちゃんと続きものの趣向になっているところに感心した。作者は大胆である。集中で特に力作と言うべき「『樽の木荘』の惨劇」、真相は、リアリティの観点からすると少し無理がある気がする。それでも、偉大な先達に敬意を伴ったオマージュに挑み、真っ向から本格ものを構築しようとしている意気込みは買える。「恐怖時代の一事件」、おお、ミステリファンにも(特にカーファンには)なじみのフーシェが登場する趣向がうれしい。巻頭の東篤也作品は、不可能もので処理の仕方は手練れたもの。
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