読書録/2004年5月

5月3日 井波律子『中国ミステリー探訪』(NHK出版)

   中国もののミステリーというと、ほとんど知らずにきたのだが、これだけ面 白いものがぎっしりあることを教えてくれた好著であった。一部邦訳がある のもあるが、未訳のものから筋立てを紹介してくれているのが、書誌として も貴重。

 トリックやミスディレクションといった技法のつかわれている物語もあり、 普通にミステリと呼んで異論のない話もかなりあると知った。ただ、これら の物語が本格ミステリないしミステリの祖として扱われないのにも理由があ ると思えた。というのも、中国での犯罪捜査の方法が、自白に偏重し、証拠 を重視する近代的で民主的な仕組みになっていない点である。この制度が、 この物語世界にありさえすれば、遜色ないミステリなのになあと思った。


5月5日 谺健二『赫い月照』(講談社)

 分量があり、内容が重たく、読みとおすのに結構時間がかかった。神戸が舞 台で、阪神大震災だけでなく、その後に頻発した酒鬼薔薇事件などの猟奇的 な事件を題材にしている。それらの事件に対してなされたさまざまの解釈に 対しては、現象学的還元がなにより必要だと感じたが、この小説、前半部で はそういう還元を経ない考察をしている気がして、若干いらだたされた。た だ、最後まで読むと、そこを含めて納得のいくものがあった。
 ミステリのつくりとしても、テーマとしても、重たさに重たさを積み重ねて つくりこまれた感じ。2003年の指折りの力作なのは疑いがない。


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