読書録/2004年7月
7月10日 マリー・コレリ『二つの世界のロマンス』尾高樹良訳・東明社
黒岩涙香と江戸川乱歩が『白髪鬼』として翻案した『ヴェンデッタ』の作者
マリー・コレリのデビュー作。こんなものが翻訳刊行されたことを、うっか
り見落としていた。『ヴェンデッタ』に関しては、東京創元社の世界ロマン
全集で、『復讐』という題で平井呈一訳で刊行されているが、完訳ではなく
抄訳である。ヴィクトリア朝時代には、ブラッドンやバーサ・クレーらと並
ぶ、人気女流作家で、ヴィクトリア女王やロシアのアレッサンドラ皇后(ラス
プーチンに傾倒し、ロシア革命で殺害された)の最大の愛読作家だったという
コレリのデビュー長編。
語り手の女性は、作中に名前が出てこないが、イタリア系イギリス人で、ピ
アニスト。作者のコレリがまだ22歳のときの作品で、語り手が作者の分身と
思われる。神経症に苦しむ語り手は、転地療法のためにイタリアを訪れ、
チェリーニという画家と知り合う。彼はなにやら神秘的な療法を知ってい
て、彼のくれた霊薬によって語り手は元気を取り戻す。生命の神秘を知って
いるヘリオーバという人物がパリにいると知り、語り手はパリに彼を訪ねて
いく。ヘリオーバは、人体の秘密の根幹をなす「電気」の教えを説く。ヘリ
オーバのサロンにいたザラという人物が、不可解な死をとげる。雷があった
わけでもないのに、感電死と思われる状況だ。この謎は解けるのか?
コレリ自身は、心霊主義にのめりこみ、当時のオカルト・心霊主義の立場か
ら作品を書いていたが、売れるために『ヴェンデッタ』などの大衆ものも書
いたと訳者の解説には書かれている。このデビュー長編は、ミステリにはあ
たらないが、19世紀のイギリスの精神文化を知る上では貴重な一冊。
「幻想文学」65号に、翻訳家の大滝氏がコレリ論を寄せているが、この『二
つの世界のロマンス』が「邦訳されることはないだろう」と書いていて、こ
の邦訳書の存在に気づいていない様子である。
7月5日 ベロック・ローンズ『下宿人』加藤衛訳・ハヤカワミステリ
ヒッチコックが映画化したことで、有名な(でもないか?)作品。発表年代は
1913年と、いまだ英国のミステリ黄金時代が開幕する1920年代より以前の時
代である。作中に名前そのものが出ているわけではないが、切り裂きジャッ
クをモデルにした犯罪サスペンス小説。
生活費にこと欠いていた貧しい夫婦が、払いのよい下宿人が見つかって喜
ぶ。その男は、生活態度が風変わりで、大きなカバンをいつも持ち歩いてい
て、夜間に外出したりしている。おりしも、謎の連続殺人事件が近所で発生
していて、おかみは、その下宿人が殺人犯ではないかと疑いをいだくように
なる……。
古典的な犯罪サスペンスものとして、古雅な味わいがあるけれども、一本気
にラストまで行ってしまって物足りない感じもした。
7月22日 副島隆彦『人類の月面着陸は無かったろう』(徳間書店)
大学のころに、都市伝説の噂を小耳にはさむことがあったが、「アポロは本
当は月に行っていなかったんだって。その証拠に、空気がないはずの月面に
たてられた旗がそよいでいる」と聞いたことがあった。その話が、この本の
中にも出てくる。一読して、著者の主張が正しいと説得はされなかった。い
ろいろと著者の論証には不備が散見し、専門家に校正をあおいだ方がよかっ
たのではなかろうか。思い込みの強い人だとはよくわかるのだが。
ただ、著者の主張とおり、映像に関して、いくらか奇妙な点があるのはその
とおりだと思うところもあった。アポロ映像の公開に関して、アメリカ側
が、なにか作為をはたらかせ、事実と異なる粉飾をしている可能性はあると
は思った。
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