読書録−−98年6月

6月2日 津島誠司『A先生の名推理』(講談社ノベルス)

 カミの『オルメスの冒険』のときには、この人こそ(桃色ペンギンさん提唱の)〈トンデモミステリ〉の王者ではないかと指名したものですが、かくもカミに似た作風の人が出るとは……。「ニュータウンの出来事」なんかもうオルメス譚そのものという感じで、なんでオルメスが出てこないのか、と思ったくらい。解決ドミノ倒しというか、なんというか……。「山頂の出来事」もかなりトンデモナイ話だけれど、『奇想の復活』(立風書房)の「叫ぶ夜光怪人」の冒頭に掲げられた綾辻行人氏の紹介文には、既にこの作品への言及があるから、書き下ろしとは言っても、相当前に書かれていたものらしい。家屋消失ミステリというと、その元祖とも言うべきクイーンの「神の灯火」、世評高き作品ですが、私は最初に読んだときに解決が予想範囲内だったので、なんだこんなものか、と失望した憶えがあります。クイーンの作品は、その謎系列の嚆矢の作品として、名作の名に値するとは思いますが、それを安易に追従したこの津島氏の作品は……。冒頭に不可解きわまる謎を呈示するだけでは、必ずしも魅力あるミステリにはならないという例証のような作品である。「宇宙からの物体X」は、とにかく、隕石とエイリアンの謎を呈示しておいて、強引に解決をこじつける。その解決のあまりの無理さ加減が、涙ぐましく思えてしまう。「夏の最終列車」は、被害者が死亡現場に行けないという不可解性そのものが、犯人の犯行計画の破綻を意味している。こんな犯行計画をたてた犯人は、そもそもバカとしか言いようがないし、それを不可解な謎としてとらえてしまう捜査陣も相当に頭が悪い。
 というわけで、トンデモミステリとして笑える要素はたっぷり含まれていますが、ミステリとしては、現実味がなく、意外性もない(どの作品も解決はほぼ見え見えだった)ので、せめてどちらか一方はほしいところである。

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6月6日  笠井潔『巨人伝説・復活篇』(トクマノベルズ)

笠井潔の小説は、ミステリ系のものは大体読んでいるが、伝奇・SF系のものはあまり読んでないので、これから読むことにしようと思う。
 ジャンル的には一応伝奇小説に分類される、いわゆる〈コムレサーガ〉を形成する三大山脈の一つ『巨人伝説』(全3巻)の第一冊め。
 天皇制批判・縄文人と弥生文明の相剋・超古代文明をつなぐ謎の古文書。そして
氷河時代に突入し、滅亡の危機に瀕した中での、マルキストと、ヤマト政権と、エゾ
勢力の三つ巴の争闘−−と内容は、非常に盛り沢山。人肉食を、共産主義理論で擁護
しようとする革命派委員長の演説は、読んでて爆笑。しかし、この設定で、巨人を
出す必然性は、一巻めを読んだ限りでは、いま一つ判然としない。
 近未来の破滅の危機に瀕した日本と世界を描き、現代の日本社会を批判するテーマを鋭く照射している。

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6月29日 西澤保彦『猟死の果て』(立風書房)

 西澤作品は、あとがきで、発想の元になった作品を明記することが多いが、『殺意の集う夜』(講談社ノベルス)のように、どこが元になっているのかわからないくらいにまで原型作品が咀嚼され変形している場合がある。しかし、本書は、巻末でクイーン『九尾の猫』と明記がなくても、クイーン読者にはそれとわかるほど、類似性と共通性は明瞭である。タイトルは江戸川乱歩の『猟奇の果て』のもじりだろうが。ミッシングリンクテーマの連続殺人ものであるだけでなく、ラスト近くのひねりで、真犯人を○○○と思わせて実は××であるという構成そのものが、『九尾の猫』と同一である。この作品での死者の数は、ちゃんと数えてないが、十数名にはのぼり、次々とバタバタと殺されていく。本作が成功作か失敗作かと問うならば、失敗作になりそうである。というのも、二つの並行する連続殺人の有機的連関が薄いからである。これなら、メインの女子高生連続殺人だけに話をしぼった方がよかったかも。しかし、結末での反転には鮮やかな一瞬があり、その仕掛けは称揚されてよい。

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6月29日 綾辻行人『殺人鬼II−逆襲編−』(新潮文庫)

 綾辻行人の長編の中で唯一未読だった本作を遅ればせながら読了。読みやすく、登場人物の描き方はさすがにうまい。シリーズ前作(『殺人鬼』)に劣らず、えぐい殺戮シーンが頻出し、目をそむけたくなってしまう。前作のラストで明かされる仕掛けについては、あくどすぎるという印象があり、蓋然性も必然性も欠けていると思ったものだが、この続編の仕掛けの方が、前作のそれよりは受け入れやすかった。そうは言っても、残虐な殺人をしてまわる殺人者が、同じ場所で同時多発することの理由付けはどうなるのだろう。単なる偶然にしては、あまりに符合が大きすぎるし、ユングの言うシンクロニシティによるとでも説明をつけるのかなあ。

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