読書録──98年11月
11月1日 アン・バンクロフト『20世紀の神秘思想家たち』吉福伸逸訳・平河出版社
イギリスの宗教社会学者・アン・バイクロフトが、今世紀の注目すべき宗教思想家19人を取り上げて論じた書物。翻訳では19人のうち、マハラジ、マハリシ・マヘッシ・ヨーギ、ディラヴォンサ、ダグラス・ハーディンの四人が割愛されている。この割愛は私の判断でも、結構妥当に思われる。この四人のうち、TMのマハリシ以外は、日本に(少なくともまともな形では)紹介されていないと思われるし、私もその三人は名前すら知らない人たちだからである。マハリシに関しては、ビートルズのメンパーが入信したせいで有名になりはしたが、あまり実質がなさそうな人だからである。
で、ここで取り上げられた15人は、過半数は私の興味のある思想家なので、よく読んでいる人も多い。順に自分がどれくらい読んでいるかというと
○は私がほぼ全部読んでいる。△は一部読んでいる。×は全然読んでない。
・オルダス・ハックスレー……SFでは『素晴らしき新世界』が有名。『島』とか『恋愛対位法』が有名だが、もっているのに読んでないや。『知覚の扉』と『天国と地獄』は私の愛読書です。△
・アラン・ワッツ……邦訳された『心理療法東と西』(春秋社)と『タブーの書』(めるくまーる社)は読んでいて、あと原書で"THIS IS IT""THE WAY OF ZEN""WISDOM OF INSECURITY"など何冊か読んでます。○
・トーマス・メルトン……読んでないや。巻末リストでは1960年代に何冊か邦訳されてるんやね。×
・ティヤール・ド・シャルダン……みすず書房の『ティヤール・ド・シャルダン著作集』のうち、存在の六層について論じたところだけ、他で引用されていて興味深かったので拾い読みした覚えが。そのうちちゃんと読んでみたい思想家の一人です。×
・クリシュナムルティ……数年前までは、翻訳されていた本30数冊全部読んでたし、原書でも三冊ほど読んでいるけど、金太郎飴のごとく、どの本でも同じことを延々と言っているので、さすがに読み飽きた。最近も新刊翻訳書は年に二〜三点は刊行されているようなのだが、フォローしなくなっている。この人のを一冊だけ読むなら『自我の終焉』(篠崎書林)か。題名は原題どおり"THE FIRST AND LAST FREEDOM"としてほしいところだが。○
・グルジェフ……邦訳に関してはパーフェクトに読んでるね。『ベルゼバブの孫への話』(平河出版社)『注目すべき人々との出会い』『生は私が存在してはじめて真実となる』(めるくまーる社)の三部作と、弟子の書いた『奇蹟を求めて』『グルジェフ・ワーク』(平河出版社)『グルジェフ・弟子たちに語る』『グルジェフと共に』『魅偉の残像』(めるくまーる社)。唯一未訳の『来るべきよきもの前触れ』の原書も最近ゲットしたし。○
・パク・スブー……彼に関する邦訳書は『スブド 生命の歓喜』(めるくまーる社)のみ。だからこれもパーフェクトに読んでますね。○
・メハー・ババ……この人のは邦訳されたこと皆無と思われるから、日本語で書かれた
文献もこのアン・バンクロフトのが唯一ではないかな。原書の"GOD
SPEAKS"は所持して
ます。この一冊で、メハー・ババはパーフェクトでしょう。○
・ラマナ・マハリシ……『ラマナ・マハリシの教え』(めるくまーる社)『南インドの瞑想』(大陸書房)の二冊をおさえれば、ほぼパーフェクトでしょう。○
・チョギャム・トゥルンパ……めるくまーる社から『タントラへの道』『タントラ狂気の智慧』の二冊が翻訳刊行されているが、興味がもてないので読んでない。×
・マルティン・ブーバー……大学院時代にこの人の研究ゼミで『我と汝』『架橋』などをドイツ語の原書で読んだ。他に『対話』など、著作数冊の邦訳は読んでいて、ほぼ全集をもっているのだが、未読著書多し。○
・ダイアン・フォーチュン……国書刊行会の『心霊的自己防衛』のみ読んだが、つまらない本だった。△
・ルドルフ・シュタイナー……次のカスタネダと、この人は私はあまり性にあわない。『ニーチェ』(人智学出版社)『アカシャ年代記より』(国書刊行会)は前に読んだ。△
・カスタネダ……最近このパティオで『夢見の技法』(二見書房)は取り上げましたね。呪術師シリーズをいくつか。△
・マザー・テレサ……興味なし。×
本書は、あまり深い考察はなされていないが、20世紀の神秘思想家を総覧するハンドブックとしては、日本語になったものとしては、最適。19人のセレクションもまあまあ妥当と思うが、スブー、トゥルンパ、マザー・テレサは外した方がいいと思うし、鈴木大拙、ウスペンスキー、クロウリーは入れるべきだっと気がする。
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11月5日 氷川竜介『20年目のザンボット3』(太田出版)
最近通して全23話の『無敵超人ザンボット3』を通して見て、かなり感動してしまった。作画レベルは70年代当時のアニメの中でも劣悪だし、スーパーロボットも敵メカも幼稚で子供っぽく思えるのだが、しかし、なんと豊かな物語がこめられていることだろう。富野由悠季の作家としての才能をまざまざと見せつけられる傑作!である。
ウルトラマンや仮面ライダーを嚆矢とする特撮ヒーローものや、マジンガーZなどの巨大ロボットものは、話として見た場合、リアルでなくご都合主義であるのが多い。
感じる不満は特に、
・敵側の攻撃や作戦が頭を使わず、戦略も作戦もないこと
・被害を受ける一般人の様子や対応が描かれていないこと
の二点が大きい。前者に関しては、一度ヒーローに撃退されたら、なにかもっと対策をこらせばよいのに、と思う次第である。しかし、「ザンボット3」はこの二点に関してみても、かなりシビアでリアルなのだ。
戦禍で家を失い、逃げまどう人々の様子がかなり執拗に克明に描かれている。
神ファミリーの先祖は、かつてガイゾックという異星人の侵略を受けて故郷の星を失っていたが、そのガイゾックが今度は地球を襲撃する。神ファミリーはザンボット3とビアルという戦艦をもって対抗するが、地球人側は、自分たちが神ファミリーのせいで惑星間紛争に巻き込まれたと信じて神ファミリーを迫害するのである。地球人の進入によって神ファミリーの恵子が人質にとられ、戦艦の中枢部が破壊されるというエピソードもある。神勝平にしてみれば、ガイゾックの巨大ミサイルよりもかつての親友たちから投げられる石の方がずっと痛かったろうと思わせる。
敵の攻撃もシビアきわまりなく、勝平の思い人・アキは、ガイゾックに人間爆弾にされをビアル内に送り込まれて、勝平の目の前で爆死する。他のヒーローものなら、敵を倒せば、仕掛けも直るのが普通だが、「ザンボット」の人間爆弾は一旦仕掛けられたが最後、助かりようがない。勝平の友人の一人は、爆弾が仕掛けられていることがわかって、集団爆発場へと強制的に地球側の人間によって追いやられ、「助けてくれ、母ちゃん!」と泣き叫ぶが、爆死してしまう。
最後の戦いも悲壮きわまりない。ザンボット3に乗っている他の二人、神北恵子と神江宇宙太も犠牲になり、神ファミリーの一族は次々と戦死していく。そして最後に勝平が遭遇した敵の正体とは、意外にも……!? 最後に勝平は自らの戦う意味と正義までもを失う羽目となり、精神が崩壊する。
テレビアニメ史上、最も悲惨で、スーパーヒーローものの中でもっともリアルなストーリーであろう。絵のレベルの低さを度外視すれば、テレビアニメ史上最高傑作ではないかと思ってしまった。
氷川竜介による本書はそのザンボット3の全話解説がついた概説書。視聴のための手引き書としては最適(^_^)
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11月12日 山本弘・安田均・高井信『妖魔夜行 しかばね綺譚』(角川スニーカー文庫)
他人の著作に自分が使われるのは、自分でもしていることですし、決して嫌ではないのですが……。ただ、もじるときは、単体の人間としてもじってほしかったなあ。合体したような名前でなく(^^;)
そのうちささやかな意趣返しとして、私も高井信氏に作中で登場してもらおうかな。しっかり殺され役で。
この作中の芦野健太郎も大森拓次も殺される役、いや正確には不審な死を遂げる役
です。それが明治時代に黒石紅玉が書いた幻のホラー小説「屍綺譚」をめぐってのこ
となわけで、この作中に出てくる人たちって、前の作品読んでないから知らないのだ
けれど、シリーズキャラクターなのかな?
これを機に若い人の間でも、黒岩涙香のファンが増えてくれるとよろしいのですが。
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11月12日 P・K・ディック『P・K・ディックの最後の遺訓 ラスト・テスタメント』(阿部秀典訳)ペヨトル工房
フィリップ・K・ディックのインタビューをまとめて死後刊行された一冊。コリン・ウィルソンの『世界不思議百科』にも、ディックに憑依した霊の不思議という一項があった。ベンジャミン・クレームのマイトレーヤの教えシリーズは、日本でもいくつか刊行されているが、晩年のディックは、彼と係わりがあったとは。タゴール・ヴィジョンというのが出てくるので、インドの詩聖タゴールのことかと思ったが、どうやらそうではなく、ディックが遭遇した霊の名前をそうつけているらしい。本書321頁の註に、『高い城の男』の着想のもとになった日本の小説について、大森望氏によれば、大江健三郎、福永武彦、中村真一郎が可能性があるとしているが、これは福永武彦の『海市』できまりではないかなあ。ディックが書いている小説の構造にぴたり一致する作品といえば、これだと思うが。
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11月24日 コーネル・ウールリッチ著『黒い天使』黒沼健訳・ハヤカワミステリ
ウールリッチの読みのがしていた長篇の一つ。文章がときに韻文のようになり、さすが「サスペンスの詩人」といわれるだけのことはある。死刑執行の期日までに真犯人を見つけるために奮闘しなければならないというのは、『幻の女』や『暁の死線』と同工異曲だし、順順に証人にあたっていくのも『喪服のランデヴー』や『恐怖の冥路』と似ている。愛に殉じるヒロイン像というのも『暁の死線』や『暗闇へのワルツ』と共通しているな、と思わせて、最後のひねりは、そういった作品のヒロイン像を知っているとより皮肉がきくようになる。冒頭は叙述トリックかと思って読み返したが、必ずしもそういうわけでもないらしい。
ウールリッチ=アイリッシュの長篇の中では水準レベルか。
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11月28日 ワルター・ハーリヒ作『妖女ドレッテ』稲木勝彦訳・東京創元社世界推理小説全集63巻
昭和34年5月20日初版
渡辺剣次篇・『13の密室』(講談社)の巻末解説に、密室ミステリの路程表となる名作にあげられていた諸作の中で、「妖女ドレッテ」だけは未読で作者も知らない作品だった。ドイツのあまり知られていない作品なので、無理もないが、近くの古書店で売価二千円で売られていたのを見つけて買った次第。で、読んでみると、いかにも古色蒼然たる内容のものでした。江戸川乱歩は本書を評して『カラマーゾフの兄弟』を想起させるところがあると言ったそうだが、たしかに骨格として似ていなくはないが、迫力も文学性も、ドストエフスキーとは雲泥の差がありますね。密室の謎はたしかに出てきますが、割合他愛のない解決で、中盤には解法がほぼ明かされてしまう。古典ミステリの古物愛好家にのみお勧めの一編でした。
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11月28日 中井英夫『他人(よそびと)の夢』(中井英夫著作集・第9巻「時間」所収)三一書房
中井英夫の作品は体質が合うせいか、どれも好きだ。ミステリとしてはほぼ『虚無への供物』一編きりの人だが、夢を紡ぐ幻想短篇群はどれも好きで、片々たる掌篇にいたるまで、ぼくにとって、中井作品で気に入らない作品は存在しない。というわけで、中井英夫の書いたものは、雑誌掲載号まで追い求め、ほぼ全部読み尽くしている。調べてみたら「錆びた港」という短篇だけ未読だが、他の全作品を、単行本未収録のものまで含めて全部読んでいる。長篇はあまりなく、「虚無」以外だと「蒼白者の行進』と『デヴォランは飛翔したか』は、中絶・未完作品だし、唯一完結した『光のアダム』はまとまりのない、とりとめのない幻想譚である。唯一読まずにとっておいた中編と長篇の境目くらいの長さの作品(約300枚)の『他人の夢』を今日読んでしまったので、これで中井作品に未読のものがほぼなくなってしまったかと思うと、なんだか寂しい。短篇「見知らぬ旗」でも、代々木近くの参謀本部に勤務した自身の体験を投影したさまが描かれていたが、この話も、参謀本部に務める三人の若い将兵と、狂ってしまって、透視力をもつかにも思われるようになった杏子という女性が中心人物で、たんたんと物語は進む。何年か前の、杏子の家で起きたガス中毒死事件が、殺人ではないかということで、その推理をする場面が少しあるところで、かろうじて、少しだけミステリの要素があるが、謎解きというほどのものはない。昭和19年の東京を舞台にした自伝的幻想小説である。
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11月29日 アーサー・モリスン『緑のダイヤ』延原謙訳・東京創元社
世界大ロマン全集・昭和31年10月初版
江戸川乱歩のベスト30の、古典期ベスト10の一角に選ばれた作品。マーチン・ヒュー
イットものの作者として有名だが、あちらは短編ミステリとして現代でも読むに耐える
ものだけれど、「緑のダイヤ」は実に古色蒼然たる冒険小説でした。インドの王宮から
盗まれた[グーナの眼]というダイヤモンドが、輸入されたワイン壜一ダースの中のどれ
かに隠されて英国に輸入された。手違いで、イギリスで売られてしまった12本のワイン
の壜を追って、三つ巴、四つ巴の争奪戦が繰り広げられ、その過程で、連続殺人事件が
発生する。特にフーダニットやハウダニットの要素がないので、広い意味でもミステリ
には含まれない話でした。しかし、こういう話を読んでいると、かえって、ホームズも
のを書いていたコナン・ドイルは偉く思えてくる。大衆小説の古物愛好家ののみお勧め
の一篇でした。
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11月30日 エドヰン・アーノルド著『亜細亜の光』島村苳三訳・岩波文庫
昭和15年11月25日初版
ミステリの世界でも、『ビッグ・ボウの殺人』のザングウィルや、『トレント最後の事件』のベントリーや、『虚無への供物』の中井英夫や、他の文学でも、『ドラキュラ』のブラム・ストーカーや、『ピーター・パン』のバリーのように、一作のみの代表作で記憶される作家というのがいる。アーノルドも、ほとんどこの『アジアの光』のみで記憶されている作家である。昭和15年の訳者解説では、本書は英国で60余の刊、米国では80以上の刊本があるというから、20世紀前半においては、非常によく読まれた作品であることがわかる。前に読んだ、『ガンジー自伝/わが真理の実験』(中央公論社)でも、若いころ、イギリスに留学したマハトマ・ガンジーが、本書を読んで感銘を受けるくだりがある。
著者のアーノルドは、19世紀の英国のインド・東洋学者。
原著"LIGHT OF ASIA"は1879年に刊行された、アーノルド一世一代の名作の散文詩。
ゴータマ・ブッダの生涯と教えを、散文詩の形式でつづった一作である。原著が名著なのはわかるが、訳文は非常に読みづらい。口語でなく文語文だし、生硬な文章だし、これなら、英語版で読んだ方がわかりやすかったかも。原書ももってるから、そのうち挑戦してみたいとおもう。
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