甘える
「勉強しろよ。悔しいんだったら勉強しろよ。あのね、俺もね、十六の時、一年でやめんたんだよ、高校を」
「なんでやめたんですか」
「あなたと同じ理由だね」
「そんなことないですよ」
「どうしてそんなことないと決めつけるの。俺は船乗りをやって、家に送金したよ。だけど、やる気があったからね、俺は。勉強したよ。悔しい悔しいって思うだけで一生終ったら、悔しいのがうそになるよ。悔しかったらやらないとしょうがないよ。そうだろう?違う?」
「ええ・・・・・・」
「ね、ね、学校が、高校がすべてじゃないよ、いまの世の中は。違うかね」
「わかんないよ、俺には」
「なら俺が言ってやるよ、関係ないって。あなたにやる気があれば関係ないよ。君はやる気はあると思う。悔しさを持っているんだからね。十七歳だろ、どうなりたい?夢は?」
「夢なんてないよ、もう」
「甘えるな!」
「甘えてないよ、誰にも」
「夢なんてないなんて言ってね、誰が同情なんかするものか」
「・・・・・・・・・」
註:太字はHP管理人よるもの
沢木耕太郎「ホットライン」(「彼らの流儀」より)
沢木耕太郎の「彼らの流儀」に収められている「ホットライン」という文章からの引用で、沢木耕太郎の学生時代にあった「青春ホットライン」というラジオの人生相談の一幕である。相談者の悩みは、家の事情で高校に進学が出来ず仕事をしているが、高校いけずに勉強できないのがくやしいというもの。これを読んだとき、なんだか、こころに響くようなセリフがいくつもあって、自分のことを見返しちゃった思い出がある。