取材日記vol.15

NHK教育「サイエンス・アイ」 01年6月16日放送

取材日:5月22日

場所:理化学研究所

 

世界最速コンピューターで
宇宙とミクロをシミュレーション

 2001年3月に誕生した超高速コンピューター。
このコンピューターで、体の中でのたんぱく質の振る舞いや宇宙の銀河をシミュレーションして、バイオテクノロジーや天文学に革命を起こそうとしている研究者、理化学研究所情報基盤研究部・戎崎(えびすざき)俊一さんを訪ねました。


<世界最速>


 スーパーコンピューターが数多く並んでいる一室。その一角に1秒間に6兆3千億回もの演算を行うことが出来る分子のシミュレーション専門コンピューター「MDM」がありました。このスピードは、今までの世界記録の4倍だそうです。

 (例)食塩に熱を加え、そのときの原子の振る舞いを見るシミュレーション。
 ナトリウム原子と塩素原子は固体の状態では規則正しく並んでいますが、熱を加えると方々へと散らばり、固体の食塩は液体へと変わります。固体から液体に変化するスピードは1兆分の1秒そのわずかの間の原子一つ一つの動きをシミュレーションしています。(図がなくてゴメンナサイ・・・)

<最速の秘密>

 分子のシミュレーションでは、膨大な計算が必要です。
原子と原子の間に働く力「クーロン力」を計算しなくてはならないからです。
 原子がイオンとなり、プラスやマイナスの電気を帯びたとき、原子の間にはクーロン力と呼ばれる力が働きます。クーロン力は、隣りあった原子の間だけでなく、周りにある原子すべてとの間に働くため、原子の数が多ければ多いほど計算量が増えます。原子の数が1000万を超えると、市販のコンピューターでは計算に100年以上かかってしまうといいます。
 しかし、MDMではこのクーロン力の計算を瞬く間に処理することが出来ます。
 MDMは司令塔の役割を果たすホストコンピューターと、クーロン力を計算する専用コンピューターから出来ていてます。ホストコンピューターは刻々と変わる原子の位置情報を専用コンピューターへと送りつづけます。この位置情報を使って、専用コンピューターではクーロン力の計算だけを処理します。
このように、クーロン力を独自に開発した高速計算機で処理して作業を分散させたことで、計算の効率化を行ったわけです。
MDMの心臓部であるチップの数は4200枚。
←左写真は、膨大なクーロン力の計算を効率よく処理するために開発した、原子と原子の動きを計算するチップ。このタイプは主にクーロン力の遠く離れた原子を計算するそうです。ひとつの正方形の中に8つのチップが入っているそうな。

<宇宙とミクロ>

 スケールの大きな宇宙と極小のミクロの世界。
なぜ、この対極にあるものを同時に研究しているのでしょうか。

 もともと戎崎さんは銀河の生成過程を研究されていました。
地球から5000万光年の距離にある昆虫の触角に似た「アンテナ銀河」や5億光年の彼方にある車輪銀河など、個性的な形の銀河がどのようにして出来たのか、シュミレーションで探ろうとしていたのです。 何億という星が集まる銀河をシミュレーションするには、星々の間に働く重力を一つ一つ計算しなければなりません。そのため、自ら開発した専用コンピューターで計算し、シミュレーションを行っていました。
 そんなとき、たんぱく質の研究者との会話の中で「重力の方程式と分子のクーロン力の式って同じじゃない!」という話になったそうです。
広大な宇宙で数億年規模で起こる現象とミクロの世界で100万分の1秒というオーダーで起きる現象。実は同じ原理で成り立っていたのですね。
それに気づいた戎崎さん。その後、宇宙だけでなく分子にも研究の幅を広げられたそうなんです。
研究室を入ってすぐのところには、宇宙ステーションの模型が。


<シミュレーションで実現する未来>

 戎崎さんが最も注目しているのがたんぱく質のシミュレーション。
 たんぱく質は私たちの体の代謝などを司っており、その研究は新しい医薬品の開発につながります。
 水分子に触れたり体温に温められることでたんぱく質の構造は変化しますが、その詳しいメカニズムはわかっていません。そこで、戎崎さんたちは、身体の中に入ったたんぱく質の変化を探ろうとしています。
 コンピューターの中にたんぱく質を作り出し、シミュレーションすることで、たんぱく質の構造の変化を詳細にたどることが出来るようになりました。
 同じ方法で、新しく開発した医薬品が、体内でどのように働くのか調べることが出来ると期待されています。
 近い将来には計算スピードが飛躍的に伸びて今の10倍くらい、10万個程度の原子数のたんぱく質をシミュレーションできるようになるそうです。そうなれば、たんぱく質を自由にデザインし、製薬実験に利用したりするなど、シミュレーションの可能性が大きく広がることになるということです。



<余談ですが・・・クイズです。>

さてこの水色のモノ、一体何に使われているのでしょうか
<ヒント>スーパーコンピューターの部屋で時々使われています。

<余談なクイズの答えは・・・>

答えはこちら!!
吸盤だったんです。
しかも、床のタイルを外すためだけに使われています。スーパーコンピューターの配線はすべて床下に張り巡らされており、配線を変えるときにこの器具は欠かせないものなんだそうです。皆さんご存知でした??。

 

あとがき

 シミュレーション画像を見ることが出来る理化研の3Dルーム。テレビでは3Dで映らないので皆さんにお見せできないのが残念なんですが、、実際には専用メガネをかけて立体的に見ることが出来、さながら、アミューズメントパークのアトラクションのようでした。だって、銀河と銀河がぶつかる瞬間が目の前で起きているかのようなんですよ!!キラキラ輝く星の群れが衝突して流れていく様といったら・・・。 
 さらに、たんぱく質の分子がウニウニ動く様子。他には野球、ピッチャーの球種のシミュレーションも出来るんです。ボールの縫い目に対してどう握るかで球種は変わりますが、これを力学的に分析し、どのくらいの抵抗がかかるとキャッチャーミットのどのあたりに落ちるというシミュレーションが行われていました。バーチャルバッティングセンターですね。ちなみにモデルの投手はエクスポズの伊良部投手だそうです。
 戎崎さんの研究室は、最先端の研究をされながら、遊び心も満点。時々一般公開もされているとのことなので是非足を運んでみてはいかがでしょうか?写真で拝見したんですが、サンタクロースに扮した戎崎さんの講演の様子、かなり魅力的でしたよ(^^)。

 

NHK「サイエンスアイ」へのリンク


 
取材日記目次へ

  HOME