取材日記vol.05

NHK教育「サイエンス・アイ」 11月4日放送

取材日:7月20・21日

場所:名古屋大学大学院工学研究科

 

夢の同時通訳システムをつくる

 国際化時代にますます需要が高まる同時通訳。今回の研究は、その同時通訳をコンピューターで実現しようというもの。
 「え?前からそんなソフトあるじゃない?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。でも、この翻訳システムは従来のものとは大きく違うのです。名古屋大学大学院工学研究科の稲垣康善(いながき やすよし)さんを訪ねました。


新しい翻訳の方式

 従来の翻訳システムでは、

 「Thank you」
 「ありがとうございます」

 「I’m pleased to have opportunity to…」
 「皆さんに講演する機会を持つこと嬉しく思います。」

というように、まとまった文をしゃべり終えてから翻訳が始まっていました。
 これだと、原語を聞いてから内容がわかるまで間があいてしまい、話し手も翻訳が終わるのを待たなくてはならない。また、すぐに聞き手からのリアクションがないので話しにくい、コミュニケーションができない…、というデメリットがありました。

 いま開発されている新しいシステムでは、
 
「I’m  pleased」
と入力された時点で
 
「嬉しく思います。」
と日本語訳が出されます。
 それも、日本語では文の最後に置かれる
「思います」のような述語を先に出力してしまうのです。
 さらに、
 
「to have the opportunity」
まで入力されると
 
「機会」
という日本語訳を出力。
 そして、
 
「to speak with you today.」
と英語の文が終わると、改めて
 
「皆さんに講演する機会を、」
と言い直し、最初に訳した
 
「嬉しく思います。」
という言葉ももう一度繰り返します。

 これまで同時通訳では、日本語と英語の単語の並び方が違うために、間をあけずに翻訳することが難しいとされていました。
 しかし、実際の話し言葉では珍しくないこのような「言い直し」や「繰り返し」を積極的に取り入れることによって、それほど間があかない、同時性を重視した翻訳が可能になったのです。
 

 従来のものと新システムを聞き比べているところです。
 言葉遣いがぎこちないところもありますが、新システムのほうが話の内容は伝わりやすかった気がします。理由は、話し手の動作とのタイミングがずれないこと。そして何より、間があかないぶん手持ち無沙汰にならずにすむ!話し手と聞き手のあいだに生じる間って結構なストレスなんです。動くわけにはいかないし、どこを見ていいのか…。
 実験に参加してくださった外国人の方と見つめあってドキドキしちゃいました。

さらなる試み〜推測する同時通訳

 プロの同時通訳者は通訳を行う際、事前に話し手と打ち合わせをして、話し手の立場や話の目的、状況、バックグラウンドを把握して翻役に臨みます。
 そのため、例えば日本語から英語に訳す場合、通常は日本語が先に話し始められ、少し遅れて英語の訳が続くのですが、時折一瞬英語が早く始まるということもあります。つまり、話し手の内容を予測して先に翻訳をしているのです

 こうした「推測する」というプロの通訳者のテクニックを取り入れることができれば、さらに円滑なコミュニケーションの橋渡しができるはずです。

 いま、稲垣さんたちは、同時通訳の会社の協力を得て、プロの同時通訳を様々な場面で録音し、英語、日本語すべてを書き起こして記録し、言葉がどのようなタイミングで出されているのかを0.1秒刻みで調べています。

 稲垣さんは、言語とは「人と人とをつなぐ心の窓」と考えておられます。
 そして、こうおっしゃっていました。

 「長年言語を研究してきて、人間はすごい力を持っているなぁと思います。でも、機械を通しても滑らかに自分の気持ちが伝えられるような、そんな機械ができる、できるようになっていけば、と思っていますけどね。」 

 

  今回の稲垣さん、そして前回(vol.4)の酒井さん。言語を研究されているお二人のお二人ともが、「言語とは何だと思いますか」との問いに対し、「こころ」と答えられました。
 「コミュニケーションの道具」とか、「記号のようなもの」なんて答えが返ってくるのかなぁ、なんて漠然と予想していたのですが、そんな表面的なことではないんですね。
 また、お二人とも同じ答えというのにも驚きました。

 テレビを通じて言葉を話す私としては、心引き締まる思いです。言葉は心かと思うと、言葉一つ一つも軽々しく発してはいけないような気になりますよね。

 形は違っても言葉の極限に到達しようとされているお二人が思う言語は、すなわち「こころ」。
 うーん、深すぎる・・・。

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