取材日記vol.08

NHK教育「サイエンス・アイ」 12月9日放送

取材日:8月23・24日

場所:愛媛大学理学部

 

海や湖から環境変動を探る

 地球の環境変動は、古文書に残る以前からずっと続いています。地震、噴火、地形の変化、気候も寒くなったり暖かくなったりと、人類が出現してからも様々な変化がおきています。
 そんな地球環境の変遷が、海や湖からわかるというのです。地球の歴史の証拠を確かめるべく今回は瀬戸内海へ行ってきました。研究を進めている、愛媛大学理学部の井内美郎先生とは海上で集合です!


 地球の歴史のはヘドロでわかる

 瀬戸内海。船の周りをハマチが踊る中、わき目もふらず必死に海底に筒を突き刺す井内先生。何をしているのかというと、泥、それもヘドロを採集しているのです。

 まず、音波装置で海の深さやたまっている泥の厚さ、火山灰の層があるかや浚渫が行われているかどうかを調査した後、高さ1mの透明な筒を海底に突き刺し、洗濯物干し竿のようなポールを何本も継ぎ足しながら海底に押し当て、円筒の中に泥を取り込みます。今回は海底が水深10mのところの泥を取りました。

採泥器 海底から上がってきた泥を観察すると、表面に近いところは砂っぽく、よく見ると粒が粗い。それに対して底のほうは、色が濃く(専門的には「暗緑灰色」というそうです)臭いも強く、手触りはややネトッとしていて滑らか、まさにヘドロです。でも、全般的には泥と砂が混じってみられました。
 全般には砂と泥が混じっていること、それから、瀬戸内海は海底から50cmのところは50年程前の泥であるということなのでそれを考慮すると、このあたりは、ここ50〜60年は環境に大きな変化はなかったということがわかるそうです。

 なぜ海底の泥で地球の歴史がわかるの??

 地上の地層と違って、湖や海の底では現在までどんな環境の変化が起こったのかが連続的にわかります。
 その手段は多種多様、およそ30種類くらいあります。代表的なものでは、

◇花粉・・・周囲の当時の植生(ひとつのサンプルから200種の花粉を調べるそうです)。

◇貝が混じっている・・・その貝の生息域などから当時の環境を推測。

◇火山灰・・・火山活動があった年代を推定。

◇重さ・・・軽いと栄養に富んでいる

といったものがあります。

 井内先生の手法 

炭素の量

炭素が多い・・・植生豊か ⇔ 炭素が少ない・・・植物が少ない

 例えば、琵琶湖の湖底をみると、炭素が少ししか含まれていなかった1700年前後は寒い時期が続いていたが、鎌倉時代のはじめ頃、1200年前後は炭素が多く含まれ、現在よりも暖かかったことがわかった。
 古文書には「1700年前後は寒い時期が続き、享保の飢饉など、飢饉が相次いだ」と記載されており、一致する。
 つまり、
 どの時代に暖かく、どの時代に寒かったかという地球の気候変動が、年代ごとに含まれる炭素の量からわかる 

 琵琶湖の底からは30万年前の泥まで採取でき、古文書のない遥か昔の気候変動もたどることができるのです。

白い層

 琵琶湖の場合、ある特定のときにだけ白い層が見られる。
 これは地震の跡、つまり大きな地震のときに起こる「湖底地すべり」によるもので、およそ100回分の痕跡が残っているそうです。

 中央右の白っぽいところが湖底地すべりの証拠。砂っぽく、成分はタービダイトだそうです。
 先生の研究室には各地からとった標本が2万点ほど保管されているとのこと。
かわいくて捨てられないそうです。

 

 古文書によると、「1707年、宝永の地震がこの一帯を襲った」とあり、白い層が見られた年代と一致します。
 地震の跡は6000年前まで確
認されていて、琵琶湖ではおよそ60年に1回大きな地震が起こっていることになるそうです。
 

 研究の行方

 井内先生は琵琶湖や瀬戸内海の他に、奈良時代までの古文書には海水だったと記されていた茨城県霞ヶ浦がいつ頃から淡水になったのかを分析されています。
 今後はできるだけたくさんの湖や海の泥を分析して、それぞれの土地でどのような環境変動があったのか、そしてそれらが互いにどのように関連していたのかを解明したいとおっしゃっておられました。

 ちなみに、一番古い泥はバイカル湖で採泥したもので、1万年前のものだそうですよ。

  

 あとがき

 地球変遷学に必要なものはズバリ「体力」と「幅広い知識」!!

 採泥器の扱うのは実は大変なのです。海底に筒を押し付けるだけでも重労働。それを引き上げるのは更に大変な作業です。「筒いっぱいに入った泥+水」を引き上げるわけですから、力仕事以外の何でもありません。その中心で作業していたのはドカベンを思わせる4回生の男子学生。体格で決めてはいけないけれど、まさに適任でした。
 あと、平衡感覚も必要です。この作業は1日中船の上で行われます。乗り物酔いしやすい人には無理です。船酔いする人は私のように途中でリタイヤするはめになります(先生、スタッフの皆さん他関係者の方々、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした…。そしてこのHPをご覧のあなた、採泥器の写真がないのはこのためです。わかりにくくてごめんなさい)。
 ちなみに、ドカベンの彼は瀬戸内海松山沖の島育ち。高校へは船で通っていたというから、彼こそこの研究をするために生まれてきた人、天職だ!と思わざるをえませんでした。来年の今ごろは教師かと思うともったいない気がしたのでした。
 井内先生も船酔い経験者。最初は辛かったけれど研究を重ねていくうちに克服したそうです。そうそう、先生はもともと通産省にお勤めで、職務として嫌々泥を採っていたそうです。それが、今や泥がないと落ち着かない日々。食べてしまいたいと言うまでに・・・人間変わるものです。

 そして、幅広い知識。
 この分野は、ひとつのことを深く掘り下げるのではなく、色々なことをたくさん知っていてそれを結びつけていくと、あるとき道が開けるという学問。考古学、気象、植物、化学火山、地震、貝類、遺伝子etc。あらゆることに長けていなくてはいけないのです。

 「しょうもないことがいつ重要なことになるかわからない。これを調べるとこんなことがわかるという発見が楽しい」

 これが井内研究室です。

 

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