豆知識コーナー!
水の重量は1立方メートルで1トンにも達するんだ。
軽いものと思っている空気も、同じ体積なら約1.2kgもあるんだヨ!
 


『ウェルカムハウス』


 
そこかしこに設置された装置から緑色の電子の光が溢れている実験室。

壁際に設置された解析装置の前に腰掛けたリララは目の前のディスプレイが映し出す情報に見入っていた。
それはビッグG理事長から送られてきた、この星の裏側に出現したという『天使』のモノとおぼしいエネルギーの詳細な解析情報だった。

ソレを見つめるリララの碧(あお)い瞳は落ち着かなげで心なしか潤んでいるようだ。
 
「なにか…、なにか今の私に出来ること…。

対抗できうる『力』を私自身で制御することが出来れば…。」

リララはしばし考え込んで、不意に顔を上げると、イスのヘリを掴んで解析装置を蹴った。
その反動でイスはコロコロ〜とキャスターの回る音を立てつつ、リララを乗せて反対側の壁にある通信装置の前まで滑って行った。

そして彼女が身をひねって装置のディスプレイに触れるとシステムが起動し数秒でコントロールパネルが表示された。

リララがその画面に目にも止まらぬ速さで指を走らせると『呼出し中です。お待ち下さい。』という画面に切り替わる。
この暇に彼女は背もたれの上に両手を乗せてクッション面の上に正座した。

そして数回の呼出し音の後、ディスプレイに黒い受話器を耳に当てたビッグGの姿が映し出された。
 
『はい、こちらオリエンタルな味と香りの理事長室。

って、なんだ、小娘か。

お前からワシにコールとは珍しいことがあったんもんだな。
なにかあったか?』
「あのですね、私、特訓をしようと思うんですけど、教授職のお休みもらえますか?」
『なにっ、特訓だとぉっ!?
おお!
なんか知らんが特訓とはいい心掛けだ!!

思い出すなァ。
俺もガキの頃にはひよこのオスメスを見分ける特訓とか、朝のラッシュアワーの満員電車の窓をにらんで乗ってる人数を数える動体視力の特訓とか、そりゃもう色々やったもんだったぞ。
ああ、青春だなぁ…。

うむ!行って来い!!』
「はーい、がんばって来まーす☆」
 

 
「というわけで、特訓のために山篭りに行くことにしました〜☆」
「ま、単刀直入に言うとそんな訳だから、留守の間のことは頼んだぞ。
おギン。」
リララとトーキチローはそれぞれのエアロバイク守護天龍号にまたがり、部室前で突然の事に驚いているおギンに出掛ける旨を話していた。
「ぅええ〜!?
ちょっ、待ってや!
特訓ってなんなんね!?」
「それじゃぁ元気でね〜。(^o^)/~」
「おギン!
生きろー!!」
「うわ、質問無視かよ!
ちゅか兄者のソレ、ギャグなのかなんなんのかスッゲーわかりにきぃっちゅーねん!マジでぇーっ!!」
おギンがツッコミを入れている最中にも守護天龍号は発進し、あっという間に飛び去ってしまった。
「あ〜、行ってもぉた…。」

おギンは早朝の人気のない倉庫区画の壁新聞部の部室(実はデカい倉庫)の前に1人で置き去りにされてしまっていた。
 
「あぅ〜…。
今日は朝メシ食わしてもらお思うて来たんやけど…。

…しゃあないなぁ。」
彼女はポリポリと頭をかきながら、主が出掛けてしまい無人になった巨大な倉庫の前で一息つくと、「ほな、失礼するでー。」と言いながらコッソリとシャッターを開けるのだった。
 
「うっひょーっ!
このだだっぴろぉて薄暗い部室に1人で入るとコワいわァ〜。

ええと、確かコッチに桐タンスがあって…。」
おギンは記憶を辿りながら使われていない大型圧造機械などと一緒に無造作に並べられている古びた桐タンスの前まで行くと、その観音開きを開けた。
以前見た時にはこの中にインスタント食品がゴッテリと積み上げられていたはずだ。
 
「…ありゃ。
なんや、残ってんのはヤキソバ1つだけなんかいな。
まぁ、とにかく早よ作って食って学校行こっと。

え〜と、お湯沸かさな…。
お!
なんとポット設置したんかいな!!
お湯も入っとるがな!!

よぉし、サクサク作るでぇ〜。
え〜と…。」

おギンはソワソワしながらヤキソバの用意をしていて、突如、大変な事に気付き戦慄した。
「ぐほぁっ!
しもたぁー!!」
「これヤキソバなのにお湯を入れる前にソースをかけてもぉたぁっ!!」
あまりのショックに思わずハイパービースト化してしまうおギンであった。
 
「ど、どないしょ!?
む〜ん、考えるんやウチ!

そや、こういう時は『人間コンピューター』や!
ぴこぴこぴー。」
『人間コンピューター』とは!
コンピューターっぽく口でぴこぴこ言うだけである。

だが、こうすることでなぜか頭が良くなったような気がして本当に通常の3倍以上の頭のキレを発揮するおギンなのであった!!
 
「ぴぴっ。
シムレーション完了!

以下から選択してください。

1、このまま『やきそばスナック』ゆーてカジる!
2、この上からお湯をかけお湯を切り、微炭酸みたいな感じで『微ソースやきそば』ゆーて食う!!
3、この上からお湯をかけて湯切りをせず『ソース味スープのラーメン』として食う!!!」
「げぶぁああ!!
ドレもマズそぉやぁぁぁぁぁぁ!!!」

『人間コンピューター』は3倍以上の頭のキレを発揮する!
だがおギンの頭は3倍になってもあまり良くなかった!!

(例: −1×3=−3 (※かえって悪くなっている))
 
「う〜、たかがヤキソバひとつ作るのに失敗しただけで、なしてこないに切ないんやぁ。

あ〜…、も、学校行こっと。」

ちなみに、おギンは野良猫にごはんをあげたりする心優しい女子高生である!

今朝の猫のごはんは『微ソースやきそば』。
 

 
30分後。

おギンはアカデミー本部エリアから学園部エリアまでを往復する『リニア中央線』に乗り、今日一番目の授業が行われる館に最寄りの『学園部エリア総合文化センター前駅』で降りて駅前を歩いていた。

ココは、元々は大きな川が流れていたというほとんど地下とも思える低い位置を蛇行しつつ走る路線を中心とし、両側にせり上がっていくような斜面に小さめの建物がビッシリ立ち並んでいるという風変わりな区域だ。

白塗りの板材を用いた木造風建築が計画的に建て並べられ、その落ち着いたたたずまいゆえに飲食店や趣味の店なども数多く出店されているので若者達に人気の街として賑わっている。

その雑踏の中、おギンが学生達に混じってレンガが敷き詰められた遊歩道を歩いていると、周囲から浮いている黒いチャイナ服の女性が目に入った。
「ハー…。」
その朝のフーメイは丸太を模したコンクリ製の柵に腰掛けていた。
いつもなら無用なまでにシャッキリしている彼女だが、今日はなんだか落ち込んで力が入っていないといった感じだ。
 
「お〜う、フーメイはんやん!
元気か〜?」
おギンはあえて陽気な声を上げながらフーメイが座っている柵の隣に腰を下ろした。
 
「しっかしなんやぁ?
朝からこないなトコで溜息なんかついてもて。
悩み事とかあんなら相談してみ?」
「いえ、相談しても詮方なきことですし。」
「なんや、そんなんしてもおらんとわからんやろ?
ほれ、言うてみー?」
「……。

おギンさんには、『全身を機械化された状態』というのがどのようなものなのか想像できますか?」
「いんや、全然。」
「ハー…。」
「なんや溜息なんかついて。
悩み事があるんなら言うてみ?」
「いえ、もう結構ですよ。
おかげ様で元気になりました。」
「ん〜?
ホンマかぁ?
だいたいウチなんもしとらんし、なんやウソっぽいなぁ。」
「本当ですよ。
貴方には感謝しています。

今の私にはなによりも嬉しいですからね。
勇気付けようとしてくれる友人がいてくれるということは。」
「はは、ならええわ。」
「しっかしおもろいトコやな、このGSアカデミーゆーとこは。
ウチやフーメイはんみたいのんがココでこうしとっても誰も見向きもせぇへんもんな。

正直言って、ウチのコレ、結構目立っとると思うんやけどなぁ。

さてはアレか?
情報化社会の影響とやらで、みんな自分に関係ないコトには無関心なんか?」
おギンはそう言って自分の巨大な装甲に覆われた右腕で、雑踏に向け誰にとなくピースサインをして見せる。
「いえ、別に無関心な方ばかりという訳ではないですよ。
むしろアカデミーに集う皆さんは好奇心旺盛な方ばかりです。」
「う〜ん、そっかなあ?」
おギンは大きい手を使い手話で「そうですか?」として見せた。
「まぁ、このGSアカデミーに蓄積された理論と知識と技術のあまりの高次元さにアテられるのか、ある程度以上ココにいらっしゃると皆さん、滅多なことでは驚いたり珍しがったりはしなくなりますね。」
「あ〜、なるほどぉ。
フーメイはんやリララちゃんや幹部のおっちゃん達みたいんが平気でそのへん歩いとる世界やもんなぁ。」
「その言われようは少々心外ですね。
他の方々に比べたら私などはまだ常識の範囲内の存在ですよ。

あ、リララ教授と言えば、彼女は山篭りにでも行かれるのですか。」
「おお、そーなんよ〜。
聞いてや、お嬢チャンてばさっき兄者と2人で出かけてもぉたんや。
ウチだけオミソやで。

ん?
ちゅかなしてフーメイはんがそないなこと知っとるん?」
「どこか良い場所はないかとトーキチローさんに相談を受けましたから。」
「うわ〜、ウチにはなんも言わんとフーメイはんには事前に相談しとったんかぁ!」
「いえ、事前と言いましても今から1時間14分前のことです。
よもやすでに出掛けられたとは思いませんでした。
ずいぶん急な事でしたね。」
「せやな。
それになしてウチだけオミソなんだか…。

あ、ところでさフーメイはん、ウチには別に敬語使わんでもええよ。」
「は…?
それは…。

あ、すいません、ちょっと失礼します。」
フーメイは不意にあらぬ方を向くと右手の指先でゴーグルの付根のマイクロスイッチを操作した。
ゴーグル内の通信機に機密ラインから着信があったのだ。

しかし、はたから見ていてナニをしているのかわからないおギンは、フーメイは自分のこめかみに指を当てて何か考えているのだと思っていたりする。
 
「すみません、緊急の特務が入りましたので私はこれで失礼します。」
「お、今日もキたか!

『グラマー女スパイ・セクシー指令』が!!」
「……は?」
「ま、気ぃ付けてお仕事キバったれやぁ☆G(>▽<)」
「はぁ、ありがとうございます。
それでは。」
フーメイはスックと立ちあがると、脇に立て掛けてあったホウキとチリトリを両手に握りしめて本部エリアの方角に向け人混みの中に駆けて行った。

彼女は非常に生真面目でいてしかも戦闘能力や事務処理能力が常識外れに高いのだが、なぜか普段している事はどことなく抜けている印象がある。

おギンはそんなフーメイの後姿を見送りながら自分がニヤついていることに気がついて、慌ててゴマカすように大きくノビをし、巨大な右手の内側の装甲を見た。

するとカバーの一部がスライドして時計が現われた。
文字盤に漢字で時刻を示す十二支十干が円を描くように書かれている針式の時計だ。

おギンは素早く時刻を確認すると腕を振る反動でカバーを閉じ、頭の後で手を組んで立ち上がった。
「さってとぉ、まだ早いけど授業の教室に行ってっかなぁ〜。」
 

 
その頃、リララ教授とトーキチローは本部エリアより南西に数百km下った位置にある列島最高峰の裾野に広がる広大な樹海に到着していた。
 
「なるほど、ココならば良い感じな場所ですね。

さすがはフーメイさん。
相談して良かったです。」
「うー、そうねー。」
「周囲に問題はなさそうです。
今日はこの辺りにテントを張りましょう。」
「そうねー。

むー、よいこらしょー。」

トーキチローは周囲の危険性やロケーションなどを双眼鏡を使って細かくチェックしていたのだが、リララ教授の受け答えがどうも妙なので振り向いて見て、思考が停止した。
 
「……。

あの、リララ教授、なにをなさっているんですか。」
「なにって、持って来た荷物出してるに決まってるじゃない。

んー、よいしょー。」
リララは質量圧縮カプセルからポットやらテレビやらコンピューターやら冷蔵庫やら…、とにかく日用品の類を次々とひっぱり出していた。
「あの、教授…。
なにやら電化製品ばかりのようですが、ココのような山中に電気は来ていませんよ。」
「ぇえーーーっ!?」
「なぁんちゃってー☆

やーね、ちゃんと発電機も持って来てるわヨ!
停電の時に使うラボの予備電源を!!」
リララはそう言いながらカプセルから核融合炉をひっぱり出した。

トーキチローはその様子を見ながら無言でうなづいていたが、心の中では『なぜそうまでしてーっ!?』と絶叫していた。
 

 
数時間後。

授業が終了したおギンは、『学園部エリア総合文化センター前駅』の駅前繁華街を何気なくブラついていた。
 
「やー、しっかしあのコに生徒会長だって名乗られた時にはビビッたで、ほんま。
ちゅかあの生徒会役員、全員珍妙だっちゅーの!」
「ええ、そうね。」
「あ、そーいや、理事長のおっちゃんには会ったコトあっか?
あの御人もまた…」

彼女達が他愛ない話に花を咲かせていると、赤いスポーツカーが彼女達の斜め前方で停車しクラクションを軽く鳴らした。

おギンが気付いてそちらを見ると、黒いフィルムが貼られたパワーウィンドウが機械的に下がり、真っ赤なゴーグルをかけた見慣れた顔が現われた。
 
「こんにちは。
今、お帰りですか。」
「お、フーメイはん。
コッチはさっき授業終わったんで、友達とブラついてたとこなんよ。」
「お友達と御一緒だったのですか。
すみません、気付きませんで。
お邪魔をしてしまったようですね。」
フーメイがおギンの隣の見知らぬ女学生に会釈をすると、彼女もにこやかにソレに応じる。
「いいえ、お気になさらないで下さい。

それじゃ、おギンさん、私はこれで失礼するわね。」
「おぅ、ほなな〜。」
おギンは去って行く女学生に手を振りながらフーメイの近くに歩み寄った。
すると、フーメイもなぜか手を振りながら女学生の後姿をじっと見つめている。
「……。
見た事のない方ですね。」
「今週この星に来てウチんとこの学科に編入して来たんやて。
せやからウチも同じく転校生ということでお近付きに(笑)。

それに、なんやウチと同じニオイがすっからほっとけなくて…。」
「ニオイ、ですか…?」
「いや、ま、ウチも案外ナイーブなんよ。

ほんで、そう言うフーメイはんこそお仕事は終わったんか?」
「ええ、滞りなく。
今日はちょっとしたスパイ集団と、そのペットで狂暴な高重力生物の捕獲だけでしたから。」
「うわぁ、あっさりと『だけ』って言われてまう連中も不憫やなぁ…。」
「それはそうと今回は大事な用件があって参りました。

ようやくおギンさんの住む所が決まりました。
長らくお待たせしてしまいすみません。

お暇な時にでも入居作業を兼ねて御案内したいのですが、御都合の良い日時はありますか。」
「お、そりゃ楽しみやな。

…ん〜、せやな、今日はもうなんもないからぁ…。」
おギンがしゃべりながらウロウロし始めると、フーメイは運転席の背もたれを倒して後部座席のドアを開けた。
おギンは軽く礼を言いながらシートに納まった。
「よしゃ、ほな今からサクッと新居とやらへ行こか☆G(>▽<)

♪新居へ新居へ新居へ新居へ〜♪Go!Go!Go!Go!!♪o(>▽<o)(o>▽<)o♪」
「家財などはどうしますか?」
フーメイが聞くと、おギンはパイプなどが飛び出ている大きめのリュックの肩掛けベルトをクイッと持ち上げてニイッと笑った。
「テントとかも含めてコレで全部や。」
 

 
一方、山中ではリララが今回の山篭りの目的について解説していた。
「…つまり!
極限状態にさらされることで秘められた能力が覚醒するんじゃないかとか、そーゆー感じなことなわけよ!!」
「いやぁ、いくら山に分け入ったとは言え、あれだけ身辺が充実していては『極限状態』もナニも…。」
トーキチローは頭をかきながら、設営の終わったテントの周囲に目をやった。

発電装置、浄水装置、巨大な各種周波用のアンテナ類、簡易個室トイレ、簡易シャワー、その他近代的な設備がズラリと並んでいる。
 
「Non,non,non!
私が言ってるのはそういうコトではなくってよ!

つまり!
人里離れた山の中、か弱い乙女がいやにたくましい若い男と2人っきり!!
まさにピィィィンチ!!!」
「ああ、そういう意味で…

え!?
「むむ!
さっそく新能力の『スパイダー感覚』、もとい『リララ感覚』が目覚めてナニかを感知したわ!!

とぉっ!!」
「あ、あの、私ってそのように思われているのですか!?
ちょっと、教授ぅ!!」
トーキチローの言葉が聞こえているのかいないのか、リララは手首の超小型強力ウィンチからマイクロワイヤーを5mほど離れた木に発射し、すかさず巻取りスイッチを入れその反動で木の枝の上に飛び乗った。
そしてそれを次々と繰り返し、まるでターザンのように木々の間を移動していく。

トーキチローは得意の忍体術を駆使しその後を追った。
 

 
フーメイの運転する赤いスポーツカーは、整然と区画整理された広大な高級住宅街のようなエリアを走って行く。

全体的にムラなく配された擬似レンガによる建築物と道路の装飾、そして綺麗な植樹がシックな雰囲気を醸すエリアだ。

だが他のアカデミーエリアと同様、広々としたこの区域にも人影はあまりなく、8車線ある道路もガランとして時折作業車輌やガーディアンズの警備車輌が徐行で走っているくらいだ。

車内では、おギンは後部座席に座っているのだが、なかば立ち上がって助手席のヘッドレストに抱き付くようにして周囲の景色を眺めていた。
 
「うわ〜、ココが普通の星やったら高級住宅街って感じやなぁ。
ブルジョアとか華僑とか貴族とかがブイブイ言わせながらベンツとかジャガーを5台くらい車庫にしまってるって感じ?

しっかしこうして見るとアカデミーっていわゆる新建築がぎょぉさんあんやなぁ。
ウチもいろんな星を渡り歩いて来たけどこんだけハイテクが惜しみなく使われとるトコって見たことないで。
ハイテク建築の展覧会ってな感じやな。」
「すみません。
一見するとビルがたくさんありますけれど、実験建築で入居不能のモノや、試験更新で定期的に建て直していて住めないモノも多いんです。

ココなどは都市計画の実物大の実験場でして、建物はほとんどが実験設備でいて生活建築ではないんです。
本当にすみません。」
「や、いや、別に住む場所決まるんが遅うなったコトに文句言うとるわけやないんやで。
気にせんと。」
おギンは言いながらフーメイに視線を向けた。

数瞬後、律義にシートベルトを着用しハンドルを操るフーメイの端正な横顔に、おギンは思わず見とれていた。

闇のように黒い髪と黒いドレス、そして血のように赤いゴーグルに強烈なコントラストを映す血の気のない白い肌。
まるで蝋細工のように白い色の、その凛々しい横顔。
 
『そういやゴーグル外したところって見たことないけどどんなんなんやろぉ。
スタイルええし輪郭も整っとるし、やっぱベッピンさんなんかなぁ。』
おギンはそう思うとたまらなくなり、浮かされたように真っ赤なゴーグルに手を伸ばしていた。

すると、前を向いたままのフーメイの平手がおギンのその手を思い切りハタいた。
「あたっ!」
「なにをしますか。」
「ん〜、ええやぁん。
ちょっとでええから顔見せてぇな。」
おギンがなおもフーメイのゴーグルに手を伸ばそうとすると、今度はフーメイの左腕が勢い良くおギンの顔面スレスレに突き付けられた。
ソレは変形しノコギリのように鋭い刃が何個もギラギラと光っている。
「運転中の妨害行為はなさらないようお願いいたします。」
「…はい。
ごめんなさい。」

そんなことがありつつも車は走りつづけ、周囲はオフィス街のような雰囲気になってきた。
「この辺りは研究施設部エリアです。

しかもリニアトレインの駅まで徒歩で約30分。
乗合バスなどもないので、学園部エリアへのアクセスは不便ですけど…」
「平気、平気。
ウチの脚力ならどうってことあらへん。」
「……。」
「お、フーメイはん、今すこぉし笑ぉたやろ。
なんやウチのこのカモシカのような美脚がおもろかったか?」
「いえ、貴方を追いかけた時のあの走りっぷりで毎日通学されたら、そのうちUMA(未確認生物)を見たとか噂になるのではないかと思いまして…。」
「あはは、そんなんなったらおもろいな!
でもあん時ゃわざと派手に走っとったからなぁ。

『忍び駆け』を使えば誰にも気付かれずに行けるで。」
「ま、『忍び駆け』やると結構疲れるんやけどな。

あ〜、ウチの飛行機がありゃ便利なんやけどなぁ。」
「ああ、あの赤い複葉機ですか。
アレなら復元中です。」
「え、マジで!?」
「マジです。
残っていた部品を鑑識から引き取って本部エリアで作業しています。

ただ個人的にやっていることなのでオフの時にしか作業出来ないことと、かなり古い機構がそのまま使われていたので今入手できる部品で補えない部分が多く、新規部品を設計しているため動かせるようになるにはまだしばらくかかりそうです。

申し訳ありません。
後からトーキチローさんに聞きましたが、愛機だったそうですね。」
「や、かめへん、かめへん。
あん時ゃお互い様や。

しかしほんま嬉しいなぁ〜。
もしあのまま返してもろても、ウチ、メカ音痴なんで絶対直せへんもん。」
「メカ音痴なのにあれだけ厄介な機構を持つアンティークマシーンが愛機だというのも妙な話ですね。」
「や、アンティークだからこその強みがあるんやで!

コレが機動力や隠密性を重視するなら、ウチらの『里』が開発したパーソナルインパルスジェットとか色々ええモンがあるんやけどな。
ま、ウチの趣味でいけばあの旧式の飛行機や!

まず、電子制御でないから不安定やけどジャミングされへん!!
それに航続距離もかなり長いしな。

それから、現用機よりチマくて遅いんやけど、おかげで電磁波とかそのへんのモンが全然出ぇへんよって今時の軍事レーダーには滅多にかからへん!!」
「なるほど…、興味深いです。

しかし、戦闘機より小さいとは言えやはり飛行機ですよ。
あんな大きさのモノをどうやってアカデミー内に持ち込んだのですか?」
「『マイカーシャトル便』で正面から堂々と。

『歴史的学術資料・航空機』で申請したら入星審査は一発で通れたで。

アレ、武器とか追加装備とか全く付けてない、ただ飛ぶだけのモンやったしな。
あの辺につけこめば他にも色々持ち込めそうやったなぁ。」
「……。
今度、規約やマニュアルの再検討をしてみます…。」
「せやな。
規約、ざっと見た感じ他にも穴あったから今度教えたるわ。」
「お願いします。」
 

 
その頃、リララは大きな木々の生い茂る斜面の地面をサクサクと掘っていた。
そしてナニかを掘り当て、ソレをトーキチローに投げ渡した。
「よーし!
『トリュフ』ゲットー!!」
「おお!
この形、この色、この匂い!
間違いありません!
キノコの王様、『トリュフ』です!!」
「とかやってる間に、コッチでは『松茸』ゲットー!!」
「おお!!

と言いますか、いったい何の能力なんですかソレ!?」
「ん〜?
多分、レアマテリアル(稀少素材)の感知能力なんじゃないかなぁ?」
「とにかく!
あとは『冬虫夏草』をゲットすれば世界三大珍味(キノコ編)をコンプリね!!」
「ちがいます!
世界三大珍味ってのは『トリュフ』、『キャビア』、『フォアグラ』でしょう!?
それに『冬虫夏草』は珍味じゃありません!

そもそも珍味ってのはレアマテリアルなんですか!?」
「珍しいって字が付いてんだからレアに決まってるじゃないの!

それはともかく、この辺りのヤツ採れるだけ採ってって食べたり売ったりするわよ!!」
「はい!
採取はお任せを!!」
 

 
フーメイは車を徐行させメモを見ながら周囲のビル街を見回しつつ、あるビルの前で停車した。
「このビル…、かもしれません。」
「なんや頼りないなぁ。
ちょっと住所見してみぃ。」
おギンはフーメイの持っているメモを覗き込んだ。
ソコには『アカデミー本部エリア外周東3地区南西』、と書かれていた。
「なにこのアバウトなの…。
住所なん?」
「ええ。
この辺りはちょっと前まで工場区域でしたので、必要なかったので細かい番地などは存在していないんです。
現在のところ、この辺り20km四方くらいはどこでもこの住所です。

まぁ、いずれにせよ住所は合っていますし、建物の写真もありますから…。」
フーメイは言いながら1枚の写真を取り出し、おギンにも見えるように目の前の建物にかざして見比べて見せた。
「ほら、この建物っぽいですよ。

写っているのは建設工事中のモノなのでかなり外観が違いますけれど。」
「ぜんぜんわからんわーーーっ!!」
 

 
「Wow!
こっちではなんと『徳川埋蔵金』をゲットよ!!」
「って、そんなモノが埋まっているはずないです!」
「いや、でもほら、なんか黄金で出来た小判だよ?
多分埋蔵金だネ!( ゚ 。^)b☆」
「いえ、そうじゃなくてですね、徳川幕府はブルーアーク星にあったんですよ。
銀河系のほぼ真反対に位置するこのアカデミー本星に『徳川埋蔵金』が埋まっている訳がないじゃないですか。」
「ナニ言ってんのよ!
ムー大陸だってアトランティス文明だって宇宙に飛び立ったという説があるのよ!?

徳川幕府もそんな感じで外宇宙に旅立っていたとしても何の不思議もないわ!!」
「不思議です!
スッゴい不思議!!

だいたい徳川幕府はムーとかと違ってごく普通に歴史上で滅んでいます!」
「夢がないわね!
科学の本質はロマンよ!!

それはともかく、この辺りのヤツ掘れるだけ掘って持ち帰るわよ!!」
「はい!
お任せを!!」
 

 
青い空に向かってピンと伸びていたフーメイのおだんご髪から出ている6本の房が、弛緩するように垂れていっていつもの状態に戻った。
「今、情報衛星にアクセスし確認しました。
どうやらアチラのビルだったようです。」

フーメイはそう言って5分ほど車を走らせた。
「……。」

そんなこんなで目的のビルに到着した。
ソレは神殿をフューチャーアレンジした外見を持つ最新のオフィスビル様式のモノだった。
「へぇ〜、デッカい建物やなぁ。」
「ええ。
敷地面積910平方メートル、5階層の内部には34の部屋があり、各階トイレ・エスカレーター完備です。

では中に入ってみましょう。

おギンさん、このドアの脇にある黒い所を見てください。」
「え?

おお!」
おギンが言われた通りにすると、ひとりでに開錠する音が響き、自動ドアが作動した。
「こちら、施錠解錠などのエントリーは網膜、指紋、声紋などによるマルチインテリジェントパーソナルセキュリティーになっています。

今試していただいたのは網膜照合型のモノですね。

ココのエリアマスターにはすでにおギンさんの情報を登録してありますので、今から御自由にお使い下さい。」
「エラいおおきに。
ほんで、何階の何号室を使こてええんや?」
「…は?」
「や、せやから、使こてええっちう部屋はどこなんやって。」
「は?

…ああ、いえ、このビルです。」
「せやから…。」
「ですから、このビル1軒。
敷地建築物の全てを御自由にお使い下さい。」
「ぁ〜…!?」
 
約10秒後、このエリア全域に響き渡るような大声で「なんやてー!?」というツッコミが轟いた。

 
「っ……。
さすがと、言いますか…。
もうちょっとで音波兵器としても実用可能なレベルですね…。」
フーメイは両耳を押さえていつもより低めの声で感想を述べる。
「や、あの、もっと普通のトコはないん?
安下宿とか寮とか。」
「すみません、実はアパートやマンション形式の建物には空きがないんです。

そしてココはつい先日完成した耐用試験用建築なのですが、なにぶん交通の便も悪くオフィスビル型ですので普通の学生に斡旋するわけにもいかなくて…。」
「ああ、別にウチが優遇されとるワケちゃうのネ…。」
 

 
「『見れば黒きむら雲わきあがりて轟雷一閃、その時!
 ソレが我々の前に勇壮とすら言える巨体を現わした!

 恐るべきかな!
 ソレこそは神なる魚!!

 鳥のようにとがった口!
 ワニのように鋭く無数の牙!
 指こそないものの四肢を持ち、体表は虹色のウロコに覆われている!!

 悪魔の瞳を持つヤツは、無防備な我々に突如として襲いかかり…!』」
「あのー、教授。
先程からナニを書いてるんですか。」
トーキチローの言葉に、鉛筆を握って原稿用紙に食い付かんがばかりに筆を走らせているリララが顔を上げた。
「ナニって、『手記』に決まってるじゃない!
帰ったら壁新聞に連載しちゃうんだから!!」
「『手記』にウソはいけませんよ…。」
「ウソじゃなくてダイナミズムよ!
ノンフィクションにもスパイスとしての誇張は必要だわ!!

だいいちキーボード使わずに慣れない書きでしてんだから、その時点で『手記』でしょ!?」
「はぁ…。」
つぶやくトーキチローの背後には、身長6mの忍者ロボ・ヤミカゼが来ていた。

ヤミカゼは、丸太を削った軸棒に全長5mはある怪獣のような魚を串刺しにし、たき火の上で絶えず回して丸焼きにしているところだ。
「そろそろ焼けますよー。」
「はーい☆

でもおいしいのかなー?」
 

 
夕刻。
GSアカデミー本部エリア『セントラルビル』最上階。
中央に巨大なテーブルがひとつだけ設置されている全方位ガラス張りの広大な部屋、『執務室』。

ほぼ真横から金色の夕陽に照らされる室内に、ヤスリで手の爪のささくれを取っているビッグGとその脇に立ちその日の報告をするフーメイの姿があった。
 
「…ということでおギンさんの件ですが、彼女はかつての職業柄、広い所はダメなんだそうです。
部屋で寝る時には背後を取られないように壁と壁の隅に寄り掛かっていないと安心できないそうで。」
「ふ〜ん、難儀なヤツだなぁ。」
「という訳でして、あの建物も利用してもらえるかどうかわかりません。」
「ま、そんなもんだろ。

ウチにいるのは、他のヤツらもやたらと研究室やラボに寝泊まりするのが好きだしな。」
「しかし困りましたね。
『入居済みになっている居住施設』の利用率は3割を切っています…。

とは言え、居住していなくともアカデミーにいる人員には全て住居を保証しておく義務がありますし…。

はぁ、もし経理部長がこのデータを御覧になったら、なんと言いますでしょうか…。」
「うっ、それは確かに問題だな…。」
経理部長という言葉を聞いた途端、ビッグGはヤスリを取り落としていた。

そしてビッグGがヤスリを拾って起き上がると、フーメイは巨大な机のコンソールを操作し机中央部にデータスクリーンを表示させていた。
「お、鑑識からの情報が来たか。」
「ええ。
本日逮捕したスパイ集団に関する証拠品の整理結果です。
特に目立ったモノもありませんが…。」
「ほぉ、今日のは東洋系の連中だったのか?」
「いいえ。
経済マフィア絡みでラストフロンティア系のスパイでした。


なにか、不審な点でも?」
「いや、珍しい武器が混じってたからな。
ほら、コレだ。」
ビッグGは画面を操作して1本の短い刃物を指し示した。
「その『投擲(とうてき)ナイフ』のことですか?
確かに変わった形状をしていますが…」
「ナイフじゃない。
コレは『苦無(くない)』っていう暗器、暗殺用の武器だ。」
「『クナイ』、ですか?」
「そうだ。

短いから携帯に便利だし、形状に工夫があって投げナイフとしても有用だ。
そのまま手の裏に隠し持てることから『手裏剣』とも呼ばれる暗殺用に特化した刃物なんだ。

また根元の輪っかに縄を通してザイルやラリアットとしても使えるし、磁気を帯びさせ方位磁針として使えるようなモノもある。

一本で様々な用途を満たせるから、敵地に潜入する時なんかに重宝する特殊なモノなんだぞ。」
「そうなのですか。
知りませんでした。」
「ま、今どき時代劇でもなきゃこんなの使ってるヤツいないだろうからな。
無理もない。」
「時代劇、ですか?」
「ああ。
黒ずくめのステロタイプな『忍者』が、なんか短い刃物を逆手に構えたり投げたりしてるだろ?
アレだ。」
「『忍者』…。

まさかビッグG、トーキチローさんとおギンさんのことをお疑いなので…。」
「そうじゃない、心配するな。

だいいちアイツらは武器は持たずに体ひとつで戦う体術系の忍者だろ?

一口に忍者って言っても色々流派があるらしいからな。
それに、俺から言い出しといてなんだが、今どき『苦無』なんか実際に使うヤツもおらんだろうしな。

試しに聞くがその『苦無』、どうやって押収したんだ?」
「…乱闘の最中に、気付いたら私の背中に刺さっていました。」
「そら見ろ。
格闘無敵と言われたお前が、敵からの攻撃でくらっていたとしら気付かんハズがない。

安いスパイとかああいう連中は変に武器に凝ったりするヤツがいるからな。
こう、使えもしないモーゼルや南部式を大事に飾ってたりとか。

どだいそんな感じのコレクションが、乱闘してて散らばったんだろ。」
「たしかに、5人程相手にしていた時に1回背中から棚に叩きつけられて、その時に色々と散乱していました。」

その話題はそこまでだった。
フーメイは残りいくつかの報告を済ませた。
 
「…以上です。

さて、ビッグG、本日これからはどうされますか?」
「あ〜…、今日の公用は済ませたし、特に用はないなぁ。
ひとまず理事長室に行ってようかな。」
「そうですか。
では私はこれで失礼します。」
「ん?
ついて来んのか、珍しい。」
「ちょっと私用がありまして。
それに理事長室でしたら私のガードは不要でしょう。」
「まぁな。
アソコのセキュリティは万全だ。
もしアソコまでのセキュリティを突破して襲ってくるモノがあったとしたらお前がいても役には立たんだろうな。」
「ええ。
ということで役立たずの私は退散いたします。
御用がございましたらばいつものレンジでコールしてください。
では、失礼します。」

フーメイは端末と書類をまとめるとスタスタと部屋を出て行った。

その姿を見送ったビッグGは「やれやれ」と笑みを浮かべた。
「同じ機械化体でいて剣術の師と慕っていた大玉斎のヤツが行方不明になっちまったからな、落ち込んでいるかと思ったんだが、俺が心配することでもなかったか。

しかし、アイツが自分の用事か。
今まで仕事しかなかったアイツがなぁ。

いいことだ。」
ビッグGは椅子のアームレストをスライドさせ、その下から現われたキーボードに素早く暗証コードを入力する。

すると、その椅子の設置されている床の部分が丸い形にくり抜かれたように下降していき、数秒後には、同じ形の別の椅子が設置された床が出てきて、ソコは元からそうであったかのように無人になった。
 

 
樹海に夕闇が迫っていた。

山に帰る鳥達のさえずりももう聞こえない。
夜鳴きの虫達の声がだんだんと増えて、数が多すぎるのか、その声は騒然を通り越し一定の音域で整然と鳴り続けているかのように聞こえる。
しかしこの声ももう少し経てば静かになるだろう。

日の暮れた樹海の風は冷たい。
木々の天蓋におおわれ水分を蓄えた大地は、人工の地面と違い日没と共に熱を解き放ち、それそのものが眠りにつくかのように冷たくなっていく。

その冷たい風の中に立ち、リララは天を見つめていた。
「トーキチローくん…。
私がいったい『ナニモノ』なのかわかる?」
「それは…。
『教授』、でしょう?」
「そうじゃない…。
私は、あらゆる『論理』の『理(ことわり)』を司る『理力(りりき)天使』だった。
だから今でも私はヒトよりも論理能力に優れている。

それと対をなし、お姉様は『物理』の『理』を司る『理力天使』。
完全に目覚めれば、ありとあらゆる物理現象を意のままに操れる…。

私達2人が連携すれば、それこそこの宇宙に不可能などないはずだった…。

でも、もしまた私達の…、この身での私とお姉様との『戦い』となれば、私がお姉様に勝てる確率はほぼゼロ…。」
「教授…?」
「ごめん…。

昨日、理事長先生から送られてきたこの星の裏で観測された謎のエネルギーのデータがあったの。
あのパターン、お姉様のモノと見て間違いないわ…。

このままじゃ甦るよ…。
『私達』が…!

『その存在自体が全宇宙の終焉を意味する超兵器』、…『天使』としての、『私』が!!」
「大丈夫、私がいます!」
喋る声がだんだん悲鳴のようになってきたリララの肩を、トーキチローはガッシリと掴んだ。

ハッとして視線を上げたリララの目に、トーキチローの力強い瞳が写った。
「私だけじゃない。
おギンもいます。
フーメイさんも。
理事長先生達も。
あなたの生徒のみんなも…。

あなたは愛されている。
人として、リララ教授としての、あなたが。」
「信じてください。
私を…、私にしかできないコトを。
私はそのためにココにいます。」
「うん…、信じてるよ。

だから、おギンちゃんには悪いと思ったけど連れて来なかったんだもの。
もしもの時には、おギンちゃんにはどうにも出来ないし、それに、おギンちゃんがいたら巻き添えにしてしまうかも知れないから…。」
「はい。
妹へのお気遣い、ありがとうございます。」
「ううん。

それに、私は謝らなくちゃ。
みんな私のわがままなんだから…。」
リララはトーキチローの手をほどくと、野原を歩き出した。
空を見上げながら歩くリララの後をトーキチローも歩いた。
「風が爽やかだね。」
「ええ。」
「おギンちゃんが部員になってくれて色々楽しくなったけど、実はちょっとさびしかった。
それまではいやでも二人っきりのことが多かったのにね。

でもおかげで、よっくわかった…。」
「…?
何のお話ですか。」
「やぁね、バカ☆」
リララはクルリとトーキチローに向き直った。
「トーキチローくん、ひとつだけお願いがあるの。」
「なんでしょう。」
「私は6年前にヒトになった。
そして私は『私達』からヒトを守る道を選んだ。」
「ええ。
そしてGSアカデミーの、五大幹部の方々の研究に協力を…。」
「そう。
ヒトに、『私達』に対抗できるだけの力を持ってもらうためにね。

だけど、ダメだったかも知れない。

これから起きるであろうことの中で、もしも私が6年前の私に戻って、トーキチローくん達のことを忘れちゃって、それでもしもトーキチローくん達を傷付けようとするようなことになったなら…。

私がそうしてしまう前に、トーキチローくんの手で私を…。」
「……。
はい。」
「ごめんね。
こんなヒドいことを頼んじゃって。」
「いいえ。

それよりも忘れないで下さい。
どのようなことがあろうとあなたの後には私がいます。
あなたのその決意、この私が必ず見届けます。」
「うん。」
トーキチローのその言葉に、リララは明るい笑顔で答えた。

辺りはすっかり夜闇に閉ざされていた。
天には星もない夜。
2人のテントの明かりだけが輝いていた。
 

 
翌朝。
壁新聞部の部室前。
「あ〜、今日もええ天気やなぁ。」
こちら、なんとも爽やかな寝起きのおギンである。

彼女は昨日新居に案内された後、『留守の間を頼む』と言われていたことを思い出しココに戻って来たのだった。

ちなみにこの部室をイヤがっているおギンがどのようにしてこの爽やかな朝を迎えたのかと言うと、秘密は寝た場所にあった。
そう、ココで寝たのだ。
『壁新聞部の部室前』で。

結局、テントで過ごしているおギンであった。


そうして、彼女が部室前のコンクリ柱から生えてる水道で歯を磨いていると、軽いジェット音が近付いてきた。
見上げるとリララとトーキチローの乗った守護天龍号の姿があった。
 
「やっほー、おギンちゃん!
ただーいまー☆」
「うわっ、リララちゃん!
なんやもぉ帰って来たんかいな!?」
「なによぉ〜、私なんかいないほうがいいってゆーわけ?」
「や、いや、別にそういうつもりやのぉて…。」
「教授、普通『山篭り』って言ったら、篭ると言うほどですから何ヶ月と滞在するものなんですよ。」
「へぇ、そーなんだ。」
「そーでんがな。」
「ま、いいや。
ただーいまっと☆」
リララは守護天龍号から降りるとおギンに抱きついた。
「おう、教授、おかえりー。」
おギンはリララの行為にひそかにトキメキつつも平静を装いリララを抱き締めかえすのであった。
 
「う〜ん…。」
この状況はなにかが違う、と思っている常識人はトーキチローだけであった。
 

 
30分後。
おギンが授業に向かおうとファクトリーエリア内の殺風景な舗装道を歩いていると、見廻り中のフーメイが自動車で通りがかった。
「これはおギンさん、良いところに。
あなたの職が決まりましたよ。」
「お、フーメイはん。
おっはー☆」
「って、え?
なに?
今、職が決まったとか言うた?」
「ええ。
これでバイトとかしないで済みますね。」
「お、ほんま?」
「コレを差し上げます。」
フーメイは手のひらに乗せたバッジを差し出した。
15mmくらいの黒く小さいモノだが、アカデミーの略称の『GSA』のロゴと盾がデザインされている。
「お!
なにこれ、カッコええバッジやなぁ!」
おギンはそう言いながらバッジを受け取って、セーラー服のエリに早速付けてみた。
「どぉ?」
「はい、付けましたね。
それでは今からおギンさんは私の部下です。」
「え、ぶ、部下!?
な、なして?

いや、ちゅか、ウチ、学生…」
「そんなこと言って、バイトが七分に学生三分ではあまりまっとうな学生とは言えませんよ。

とにかく、本日ただいまをもちまして貴方を私の配下、特殊迎撃要員として任命いたします。
ちなみにそのバッジは身分証になっていますので常時身に付けていてください。」
「いや、あの、急にそないなこと言われても…。」
「ちなみに特殊迎撃要員の存在を知ってしまった以上、ルーヌヨア安全保障条約第3条、及び、機密保持法令第3条第27項に従い、この件に関する貴方の拒否権は存在しませんのでそのようにお心得ください。」
「うわ、なんやダマされた気が…。」
「では話の続きです。
勤務形態ですが、非常勤。
任務がある時だけ召致しますので、平時は文民らしい模範的な学生生活を送ってください。」
「お、それってつまり工作員ってことか!
するとウチもついにグラマー女スパイに!!
悩殺指令!?
どんと来ぉーいっ!!☆G(>▽<)」
「あの、先日からいったいなんなのですか?
そのグラマー女スパイというのは…。」
「フーメイはんみたいなスタイルのええスパイのこと。

コレが亜米利加のB級ムービーやったらアンタ、お色気を駆使して世界的ギャングの色ボケ親父やら政財界に巣食う悪い色ボケ親父やらをやっつけるんやでぇ!!」
「いえ、そもそも私の職業、スパイじゃありません…。」
「なにゅー!?
そやったんかーーー!!

いや、待ちや!
フーメイはんてなにやら肩書きいっぱいあったやん!?」
「スパイってどういう人のことだかわかってますか?

私の仕事は全部、このアカデミーの中でアカデミーを守るためのものばかりなんですけど。」
「……?」

ちなみに、レトロなムービーファンであるおギンは、『秘密の仕事を持っていて、服が黒くて、格闘が強くて、銃火器の扱いがウマくて、変形したりするカッコイイ車に乗っている人』というのがおおむね『スパイ』という職業なのだと思っている!

『007』以来のエンタテイメント的な先入観なのだろうけど、その理屈だと『ナイトライダー』のマイケルもスパイだ!!

ちなみにちなみに、彼女が初めて見たスパイ映画は『スパイ・キッズ』で、2本目は『0086 笑いの番号』。

負けるなおギン!
旅の恥はかき捨てろ!!


 
同時刻。
アカデミー本部エリアの外。

外宇宙に向けられそそり立つ直径200m級の巨大なパラボラ型通信塔が何十基と居並ぶ砂丘。

その中で一番高いアンテナの上に立つ者がいた。
茶色を基調に暗色で固められた東洋風の特異な装束をしているが、その豊満なシルエットは明らかに女性のモノだ。

彼女は携帯電話の形をした特殊な変調偽装周波を持つ通信機のスイッチを入れた。
そして数秒後、軽いノイズと共に相手先と通信がつながったようだ。
「主(あるじ)よ…。」
『お、マヤはんか。
悪い、今、グレンは出れへんねや。』
ノイズの多い通信機からは、彼女が期待したモノではない訛りのある少年の声が返ってきた。
 
『ほんで、首尾のほうはどないや?』
「…学園部への潜入、成功…。
ターゲットとはまだ、接触していない。

それと、任務遂行の障害になりそうな人物を、チェックしている…。」
『よっしゃ。
ほなら今後は内部からターゲットとその周辺の情報をできる限り集めてぇな。』
「了解。」
『ワイらも仕度が整い次第そちらに行くよって、もうしばらく頼むで。

それとな、危険性を考慮して通信はこれでしまいや。
あとはソッチで直に会ってからにしよ。
ほな、頼んだで。』
そう言うと、一方的に通信が切れた。
彼女は片手で通信機をたたみ、ジッパーを開けた胸元にしまい込んだ。

彼女はもう片手には1枚の写真を持っていた。
ソコには人なつこそうな笑顔を浮かべたおギンとリララの姿が写っている。
「しかし…、単純な女…。
会って数日、ただ表面的なヤリトリをしているにすぎない私を、『友達』と呼ぶなんて…。

単に利用されているだけ…。
それどころか、…消されようとしているというのに…。」
少女は写真に目をやり、左手首を軽く翻した。

それは彼女の癖であった。
暇さえあればその動きをして手首の鍛錬をしているのだ。

だが、はた目からは脱力しているように見えるその手の内側に、鋭利な『苦無』の切っ先が隠されていることを知る者はない。

少女は大きく宙(そら)を振り仰いだ。
なぜか悲しげに。
 
「全ての意味は、ただ、空(くう)…。
全ては闇の内より出(い)で、闇の内へと消ゆる定(さだ)め。

でも、安心して。
還って行くのは深い深い闇…。
母なる闇。

その闇の腕(かいな)の内……だからね。」
少女が写真を軽く宙に放ると、その写真は一瞬にして発火し炎に包まれた。

化学反応により発せられる青い光に照らされた少女の瞳は、水晶のように澄み、冷たい。

そしてその炎が風の中に消えた時には、少女の姿もまた消え失せていた。
 


 
 
ところでその頃、前回より登場した『制裁の翼・物理天使リララル』はと言うと…。
 
「よし、この棒を倒して、倒れた方の反対方向へ行こう。」

…ぱたっ。












…道に迷っていた。










 
Here comes unidentified force, now!
The force from shadow side of the world with terror, their initial is “N”.
Hold excitment over till next story.


Sijimiya Konoha & Yukaina Brothers. Presents

"Professor Rilalah @General Science Academy"