ついにリララの秘密が!?
インド人ならびっくりの人気連載!蜆屋このはのお話が読めるのは当サイトだけ!!(あたりまえ)
 


第2部 本編序章


 

今日は12月の24日。
いわゆるクリスマス・イブである。

これがラブコメだったりしたら『星降る聖夜(イヴ)の奇跡!ギリギリKiss5秒前』とかいう感じのラブ〜☆な事件が起きそうなモノであるが、壁新聞部は案外そういうこととは無縁だったり。

さて、ここ、壁新聞部の部室では夕方からクリスマスパーティーをするために飾り付けを行なっている真っ最中。
とは言え、やたらとだだっ広くて薄暗くて無骨で機械油くさい倉庫の中。
そんな中を全面的に飾るのはかなり無理があるので、普段部室として使っている一角だけの飾り付けである。
 
「じんぐっべー♪
じんぐっべー♪
じんぐぅおーざうぇー♪
へへっ♪へへっ♪(←間奏)」
「お!
ゴスペルやなリララちゃん!!

う〜ん、ゴスペル・アワー!!
ゴスゴス90分!!」
キラキラと光るメタリックカラーのモールに麦球を取り付けながら歌っているリララ教授に、ハシゴに上ってツリーの上の方の飾り付けをしているおギンがかなり意味不明な相槌(?)を打った。
「ゴスペルって…。
う〜ん、でもまぁゴスペルの一種、かな…? (--;)」
ハシゴを安定させるためにハシゴの一番下の段に座って、もののついでとして片手に開いた『戦場のメリークリスマス』という本を読んでいたトーキチローまでが、そのあまりの意味不明っぷりに思わず顔をあげていた。
「てゆーか『90分』ってなんなの?」
「や、昔『ゲバゲバ90分!』て番組があったの知らへん?」
「知らん。」
「知らない。」
「なんやとーーーっ!?
お前らなんか関西人ちゃうーっ!!」
「う、まぁ、実際、違うけど。」
「あのー、ところで何故に私がこのような場に呼ばれたのでしょうか。」
フーメイがツリーの下の方の枝にオーナメントを付けながら小さく挙手して根本的な疑問を口にする。
彼女はいつもの真っ黒い格好の頭の上に赤いサンタ帽を乗せてクリスマスっぽい感じを出してはいるが、『我ながら場違いですオーラ』を発しまくっている。
 
「ええか、『ゲバゲバ90分!』ゆーのはな、その昔かの巨匠、大橋巨泉やキャロライン洋子が出とった偉大なお笑い番組なんや!

“J”の関西エリアでは今でも古典の名作として『衛星チャンネル Oh!SAKA』で毎日再放送しとるほどなんやで!!」
「へぇ〜。
『空飛ぶモンティ・パイソン』みたいなモノなのかな?」
「そう!
そんな感じや!
さっすがお嬢チャン、例えがウマいわ〜!」
 
 豆知識! 実際には『ゲバゲバ90分!』のほうが、和製『モンティ・パイソン』を目指して作られたという話。
 
「ところで、『衛星チャンネル Oh!SAKA』と言うと、あの『生搾り吉本』とか『カックラキン大放送』とか『笑ってる場合ですよ』とかを延々と再放送してるんで有名な、変でマイナーで弱小で、なのに球団を持っているあのチャンネルか?」
「変とかマイナーとか弱小とか言うなー!
全国約5万人の『Oh!SAKAタイガース』のファンが黙っとれへんでーーーっ!!」
「す、少なっ…!」
「5万人しか、いないのか?」
「え…?

や、あの、5万人やで?
5千人やのぉて。

…って、多いやろ!?
多いやん!!
めっちゃおるやん!!
5人組が1万セットも出来るほどもおるんやで!?
1人10円ずつカンパしてもろぉたら50万円にもなるんやで!!」
「あの、それで、『ゴスペル』と『90分』とはなんの関係があるの?」
「や、別に。
語呂がええから言うてみただけぇ。」
「へー……。」
 
そのころ、フーメイは小さく挙手した手をピコピコと動かしてリララ教授の気を引こうとしていたが、まるで効果がなかった。
 
「あ、そうだ!
そろそろ打ち上げの準備しなくっちゃ☆」
「なんや打ち上げって?
花火かなんかか?」
「ううん。
今年も『ホワイトクリスマスプロジェクト』に一枚かんでんだ☆
加盟している有志がそれぞれ『降雪誘導装置』を起動してクリスマスに雪を降らせようっていうイベントなの☆

私は上空の気温を急激に下げて降雨や降雪を促す気象兵器、『ブリザードンX−03』っていう装置を打ち上げる予定なの。
他のみんなもガスを発生させたりコアを散布したり気圧を操作したり色々やるみたいよ。」
「なるほど、例年のこの時期の局地的な異常気象は教授達の仕業だったのですか。
本部エリアの除雪費用などは結構かかってしまい大変なのですが…。」
「あ?!
いや、あの、てへへぇ…(^^;ゞ。
(しまったぁ!幹部会直属のフーちゃんがいるってことすっかり忘れてたぁ!)

あ〜、ごめん!☆(>人<)
上層部には秘密にしといて!!(>人<)゛゛゛」
「わかりました。
黙っておきましょう。

それに、異常気象があったほうが非常時における都市計画や構造物の弱点などがわかり改善が進むと言って、『都市計画開発研究チーム』ではありがたがっていますしね。」
「はぁ〜、良かったぁ。
理事長や経理部長に知られたら大変だもんネ〜☆(^^;)」
「と言いますか、打ち上げるの『気象兵器』なんですか…。 (- -;)」
 

 
その頃、大玉斎事務長は。
「むぅ、暑いのぉ。
スデに陽射し強いのぉ。
たまらんのぉ。」
『調査』のためにアカデミー本星のちょうど真裏の熱帯林の中にいた。

季節はちょうど反対なので夏。
時間もちょうど反対で朝であった。

ぼやきながらダラダラと歩く大玉斎は、前方の森が部分的に開けた場所に来ると歩を止めた。
「しかし、ココが最後の調査ポイントか…。
今回のデータこそは有力じゃと思ったんじゃが、これで最後となるとまた空振りかもしれんな…。」
 
呟く大玉斎の眼前には、地面が大きく陥没し、剥き出しになった地層が雨水などによって侵食されて出来たと思しい洞穴がポッカリと口を開けていた。

彼は自分のサイボーグボディの各部機能を一通りチェックすると、一呼吸いれて、ほとんど断崖とも言えるようなその入口を一気に滑り降りて行った。
 

 
一方、アカデミー本館内にある薄暗い理事長室にはビッグG理事長がいた。
今は『イ・ス生命科学研究院』に出向中のアイン学園長と直通回線で話をしているところだ。
「で、なんなんだ、緊急の用ってのは。」
「ああ、先の『融合進化極次存在』事件の折、コチラでそっちの星の全データ網を使って収集したデータの中にな、どうもよくわからんモノがあるんだ。
ちょっと見てくれ。」
ビッグGの目の前にある、話している相手の顔を映し出すハズのディスプレイにはいつものように砂嵐のようなノイズばかりが表示されている。
ソレがアカデミー本部エリアの地図に切り替わった。

コレは先の事件の時に収集された多次元データであり、地図上の光点を指し示して『極次存在』や『R−B』という表示がなされている。
そしてその光点から別のデータウィンドウが次々と展開していき、その中のひとつに波形を描く経時グラフが進行していく。
そしてソレがピタリと止まった。
「ココだ。
コレはちょうど『R−B』が『極次存在』に攻撃したところだ。

この時『R−B』のエネルギー質量が一瞬にして2倍近く跳ね上がって、次の瞬間に元の平均値よりもちょっと下がるんだ。

そしてその後は『翼』が停止しあの異常なエネルギー反応がなくなるまで減ったままだった。」
「ふ〜む、『翼』のメカニズムには不明な部分が多いが、展開状態では常に余剰エネルギーを放出し続けているようだからな。
要するにあの時の攻撃はいわゆる一種の『溜め攻撃』で、その後のは攻撃を放った分だけエネルギーが放出され減ったってことなんじゃないのか?」
「俺も最初はそう思ったんだ。

でもな、別口で俺がやってる『渡り鳥の航路研究』で星中のエネルギービーコンのデータを洗い直していた時に変なデータがあったんで解析してみたんだ。
そっちのサブモニターをデータ画面にするから見てくれ。

画像はちょうど星の真裏なんだ。
赤丸を点滅させている座標に、このエネルギーとちょうど正反対の波形を示すパルスが一瞬だけ出現する。」

ビッグGの横にズラリと並んでいるディスプレイの1つにデータ画面が表示された。
データのほうは衛星を中継しているのでアイン学園長の言葉から5テンポ程遅れてパルスの波形が展開していく。

ソレはまさに先程見たパルスと正反対の波形を描き、ソレの表示されている標準時によればソレの出現と同時に先のデータの減少が起きているということを示している。

ソレを見たビッグGは思わず身を乗り出していた。
「これは、…どういうことだ!?」
「知らんよ。
ソレを聞きたいからお前に連絡したんだ。

どうだ、そっちではその後異常はないか?」
「ズバリ言って平穏そのものだ。

小娘はフーメイを連れ出して今頃パーティの準備とかしてるようだしな。

『極次存在』のほうもあの一件以来出現の報はない。

しかし、そうだな、ヤツらが出現する事になんらかの目的があるというのと同じく、出現しなくなった事にもそれなりの理由があるはずだが…。」
「最悪の場合、前回の出現によって『極次存在』達の目的は果たされてしまったという可能性すらあるということか。」
「目的か…。
ヤツらの目的はいまだに不明だが、そのもう1つの反応点と関係があるのかも知れん…。

…む?!
この場所…、最近なにかでココの座標を見た覚えがあるぞ。」
ビッグGはこめかみに指を当てしばし考え込んで、その不吉とも言える答を思い出した。
「!!

ココは!
大玉斎が調査に行くと言っていた場所だ!!」
 

 
「な…、なんじゃ、コレは…!!」
大玉斎が思わず上げた声が地下空洞の中にこだました。

網の目状に残った硬い地層が天蓋となり、その下に出来た大空洞に彼は辿り着いていた。

ソコには、うつ伏せになっている巨大な骨があった。


ソレはある異様な要素を除けばまるでヒトの骨だ。
頭蓋骨があり、脊椎があり、肩甲骨、腕、胸郭が見えている。

だが、ソレは大きさからして桁違いだった。
頭蓋骨だけで10mはある。

しかも、その頭側からは雄羊のような立派な角が生え、腕は6本あるようだ。
そしてその上から覆い被さるように広げられた、細く長いもう一対の腕らしきモノも見える。
だがソレは、コウモリや翼竜などの、手から進化した翼の骨と構造がソックリだ。

コレらの異様な要素を除けば、ソレはまるでヒトの骨としか見えない構造をしている。
おおよそ、進化の痕跡や生物としての合理性をまったく無視した、極めて悪趣味なキマイラとも見える。


大玉斎の電子頭脳は、右目のマルチ千里眼スコープから収集したソレの減退元素などの情報から、おおよそ1億年くらい前のモノだと結論した。

大銀河帝国を築き上げた『人類』が、いまだ発生すらしていなかった時代のモノということになる。
 
「こ、コレは、とんでもない発見じゃ!

この骨が実在した生物の骨だとするならば生命科学の権威である学園長も仰天するぞ!
それにもし天然モノでないとすれば、コレは『竜の一族』が遺した貴重な遺物に違いない!!
いずれにしても大きな収穫じゃ!!

コレを分析し『契約の地』の伝承を確かなモノとすれば、『グレートレガシー』の所在についての手掛かりとなるだろう!
とにかく、一刻も早く理事長に連絡せねば!!」

そして大玉斎が通信回線を開こうとした時、暗闇の中で何者かの気配があった。
ソレは大玉斎がいる場所から見て、巨大な骨を挟んだ向かい側の上の方からだった。

彼は瞬時に腰の刀に手をかける。
それと同時にマルチ千里眼スコープがその周囲の情報を収集し分析した。

すると、暗くて肉眼では見えないが、ソコには自然に出来たとは考えがたい構造の横穴が開き、中2階のように床の張出した層があった。

気配はその横穴の奥から近づいて来ていた。
そしてソレは彼に声をかけてきた。
「誰だ…。」
ソレは少女の声だった。
少しトーンが低かったがその声も、暗闇にぼんやりと浮かび上がった背格好も、リララ教授のものとおぼしかった。
 
「教授、…なのか?
何故こんな場所に…。


…いいや、違う!

お主は、まさか!?」
 

 
「……。」
「?

リララ教授、どうかしましたか?」
「あ、ううん、ごめん。
なんか今すっごくダルくなって…。」
「大丈夫ですか。
そういえば先日もそんな事をおっしゃってましたね。
最近はお疲れ気味ですか。」
「う〜ん、ここんとこ仕事が終わってからず〜っと『ブリザードンX−03』の調整してたからネ。
寝不足かも☆

とにかくさっさと打ち上げチャオっと!
あ、ポチッとな!!」
リララ教授が手にしたリモコンの赤いボタンを押すと、壁新聞部の部室(実は巨大な倉庫)の屋根の一部が自動的に開き、リララ教授お手製のロケットが白いロケット雲を引きつつ天高く飛び立って行った。
 

 
「…誰だ、君は。」

通路の奥から現れたその少女は、実際、顔も背格好もリララ教授にそっくりだった。

彼女は黄色い花を思わせる華麗でメカニカルなドレスに身を包み、身の丈よりも長大な十字架のような得物(えもの)を右手に携えている。
そして、なぜなのか、大玉斎のことは見えているかのようだが、歩きながらもその両目は閉じたままだ。


しかしその姿を見て大玉斎の不安に似た推測は確信へと変わっていた。
 
「お主は!
6年前の…、あの時の『天使』!!

すでに復活しておったのか…!!」

大玉斎が少女の正体に気付き、刀を抜こうとした瞬間、身の毛もよだつような怪音があたりに響いた。


反射的に見上げると、網目状の天井の隙間を縫って人が落ちてくるかのように見えた。
しかしソレは人ではなかった。

ソレは身長2m弱くらいで人間のような手足があるが、身体は3つの部分に分かれていてまるで蜂だ。
そして可聴域を微妙に外れているかのようにかすかに聞こえる高い音は、背中に煌くように見える、恐らく透明な羽根のはばたく音なのであろう。
ソレが深海魚のような奇妙な形の口を開くと例の怪音が響く。
威嚇しているのか雄叫びを上げているのかは理解できないが、極めて不快な音だというのは確かだ。

そしてソレが8匹、上から飛びかかって来ていた。
 
「アレは…!
『風』のエレメント!
Bクラスの極次存在、『ビヤーキー』!!

何故このワシがこんなに接近されるまで気付かなかった!?」

大玉斎のマルチ千里眼スコープが怪物達のデータを採取すべく作動し、同時にコトの報告のためアカデミー本部への通信回線を開こうとする。

しかし、怪物達は姿は見えるのに、熱量やエネルギー量はほとんど感知できない。
しかもかなり強力な出力と衛星通信網における最優先ラインを確保している通信システムがノイズの唸りを上げている。
 
「な!?
…そ、そうか!
『風のエレメント』とは『風』のみならずあらゆる『空間の波』、つまり音や電波や磁場すらをも司る!

ある程度のクラスがあればレーダーにかかる『存在を示す波』や、全ての電波を抑制することすら可能なのか!!」

大玉斎は反射的に身構えた。
しかしその極次存在達はまるで彼など見えていないかのように素通りし、少女めがけて殺到した。
 
「懲りないな。」

少女は、その怪物達にスラリと伸ばした左手の指先を向け、軽く上げるとスッと振り下ろした。
 
「ハレルヤ…。」
舞うように優雅な少女の動きとは裏腹に、その指先の前方にいた怪物達は凄まじい衝撃を受け、空中でバラバラに砕け散った。
 
「今の技…!
先の事件で、『翼』を広げたリララ教授が見せた、『融合進化極次存在』を倒した技!!

そうじゃ、あの技はお主の…、『リララル』の技じゃった!!」

飛び散った怪物達の破片は不気味な音を立てて巨大な骨の上や地面に降った。


すると通路の奥から別種の、しかし先程のモノ達に酷似した大柄な黒い怪物が現れた。
見たところ知能も高そうであり、Aクラスであろうか。

ソレは角と口しかない顔の隙間から煙のようなモノを吐き出しつつ不気味な破擦音を立てる。

少女はそれに答えるように口を開いた。
 
「…これ以上、お前達に従う気はない。」

その言葉に反応し黒い怪物が金切り声を上げた。
すると、通路の奥や周囲の暗がりから、先程のと同じ蜂のような怪物が無数に現れ、次々と少女に襲いかかって行った。

しかし少女は踊るような軽やかなステップで怪物達をさばき、いなし、どういう原理なのか片手の一振りだけで敵を粉々に吹き飛ばす攻撃を叩き込んでいく。

いかに相手がBクラスとは言え、あのような戦い方は大玉斎にすら出来ない。
 
「そうか!
お主が!
お主の『因子』が!
『リララ教授』から抜け出したというわけなのか!!

つまり『極次存在』達の目的はお主を…!
もう1人の『天使』を復活させることだったのだな!!」



数十秒後。

もはやピクリとも動かない極次存在達の残骸が転がる中心地点に少女は立っていた。
恐るべき人外の闘いの直後だということをまるで感じさせない、凛として優雅な姿で。

彼女の足元には、首に十字架の根元を突き立てられた大柄な黒い怪物も倒れている。


少女はスゥと大玉斎に振り向いた。

そのあくまで柔らかな物腰は、しかし、大玉斎を憔悴させ切るに充分なものであった。

大玉斎は彼女のことを知っていた。
いや、その少女のことは忘れようとしても忘れられるはずがなかった。
 

 
「どうだ?」
「ダメだ!
どのレンジからの呼掛けにも応答がない!」
「俺達5大幹部がいつも身につけている通信機への『強制受信』とかいうのはどうだ!?」
「ソレにも応答がないから『ダメだ』って言ってるんだ!

もとよりウチで開発した無駄に強力、かつ星中を何重にもカバーするエリア通信システムを幹部権限で総動員しているんだぞ。

衛星軌道より下、マントル層より上にいればつかまらない訳がない!

あとは電波を妨害する強力なナニかが発生しているとしか考えられん!!」
「まさか、もう1人の『天使』の『降臨』か!?」
「わからん。
だが、もしそうだとしても確める術はない。

6年前、彼女達が我々の前に初めて『降臨』した時、我々は彼女達に対してあまりに無知すぎた。

もしも、もう1人の『天使』が出現していたとしても、どのようにして現われるものなのか、予測すらできんのだ!!」
「『極次存在』達はリララ教授を襲い、『天使』としての能力を発現させた。
そしてその波長は2ヶ所で観測された。

6年前に出現した『天使』は2人…。

となれば、ヤツらの最終的な目的はやはり6年前の惨劇の再現なのか!?」
「もしそうならば、なんとしても阻止せねばならん…!」
「しかし、それ程までに恐ろしい存在なのか、彼女達は。」
「…そうか、我ら幹部会の中でも、お前だけはあの時の、6年前の『決戦』には参加していないんだったな。」
「ああ。
俺はその頃、炭素凍結にされて保管されていたからな。
皇帝陛下の勅命により解凍処理と復元が終わった時には戦いは終わっていた。

アカデミーに来ることになってからも彼女達との戦いに関するコトとかは最高機密だとかで伝えられていない。

まぁ、ソレを知ったところで俺の仕事に変化がある訳でもないしな。」
「お前、そんなコトも知らないままで五大幹部の1人として6年間も研究をしていたのか…。
コッチに来た後だったらいくらでも教えてやったのに。」
「だったら来た時に教えといてくれよ。」
「五大幹部の1人として赴任して来たんだから当然知ってると思っとったわ!!

いや、まぁ、いい機会だ。
話しておこう。
6年前の『決戦』のこと、『第三次銀河聖戦』と呼ばれる戦いのことを。」


6年前に終結した最後の銀河大戦、『第三次銀河聖戦』。
その戦いはそもそも、銀河に覇を唱えんとする帝国軍と、ソレに抵抗する勢力陣が結成した連合軍との、銀河を二分にした激しい戦いであった。

その戦乱は実に26年間に渡り、戦況は帝国軍が圧倒的に優勢であった。


しかし、6年前のある日、戦線に異常が発生した。

背中に光り輝く『翼』を広げた少女達がなんの前触れもなく前線に出現し、わずか2人で何千、何万という機甲兵団を一瞬のうちに壊滅させたのだ。

しかも『翼』を持ったその少女達はオーバーテクノロジーによる巨大な戦艦を帝国宇宙軍主力艦隊の中心宙域に出現させ、すべての人類に対し宣戦布告を行なった。
しかもその宣戦は、支配や利権を目的とするものではなかった。

そしてデモンストレーションと称して1つの惑星を粉々に砕いて見せたのだ。


これこそが『ドクトル・ルキフェリウス』が放った『終局兵器』…、黄と青の、2人の『天使』の『降臨』だった。


ほどなく銀河のあらゆる勢力の首脳陣は、その超越的な存在の出現のためにパニックに陥った。
彼女達の宣戦布告は、勢力、権力に関わらず、全ての者に対しての殲滅戦の宣言に他ならなかったからだ。

しかし、混乱の拡大を恐れた当時の銀河帝国皇帝の機転により、その事実はほとんどの人々には知らされることはなかった。
民衆がこの事を知ればパニックが波及し騒乱や暴動に発展しかねない。
パニックは無秩序へと進展し、段階を追って略奪と殺戮へと波及するものだ。
もしソレが全銀河レベルで起きればどうなるか…。
おそらく『天使』達がわざわざ宣戦をしたのもソレが狙いだったのであろう。


そして、人類は国境を越え、人種を越えて、持てる力を結集した。
銀河帝国は連合側に停戦を申し入れ、連合軍首脳部も即座に受領。
間を置かず、銀河中からあらゆる境界を越え選ばれた天才的頭脳達による秘密機関が設立されたのだ。

これが彼女達のオーバーテクノロジー、すなわち『エデンズテクノロジー』を解析し対抗するための超科学研究機関、後に『GSアカデミー』の礎となる『銀河統合超科学研究所』の誕生であった。
 
「そうか、そういや一時話題になったな。
なぜ『第三次銀河聖戦』は『聖戦』と呼ばれるのか、って。
『第一次』と『第二次』は『銀河大戦』なのに。

『人が死ぬ戦い』に『聖戦』はないと言っていた連合軍の首脳陣までもが、あの戦いを『第三次銀河聖戦』と呼称することを黙認した時にマスコミが煽り立てたものだったな。」
「ああ。
しかしそれはあの戦いが最終的には人と人との利己的な利害の戦いではなく、ヒトの種の存亡を賭けた『決戦』だったからだ。

だがあの戦いの意味を知る者は一握りしかいないからな、知らない者には理解できないのが当然だろう。


あの名はあの戦いの真実を知る者達が、あの戦いの恐ろしさを忘れないために…。
そしてあの尊さを忘れないために…。

『全人類殲滅』を宣言した『天使』達の圧倒的な力の前に、ヒトはようやく己等の無力さを知った。
そしてヒトは初めて人種や信仰や領土なんかのあらゆるシガラミを捨てて持てる力を結集した。
その尊さが、『聖戦』の名に込められているんだ。」
「しかし、よりによって『全人類殲滅』か…。
なぜ彼女達はそんな目的を持つに至ったんだろうか。」
「さあな。
小娘も理由は知らないらしい。

無理もない。
ルキフェリウスの血族は皆が超天才だが、アイツは当時まだ10歳にもなっていなかったんだ。
おそらくアイツの『姉』か『ドクトル・ルキフェリウス』の出した結論だったんだろう。

そして彼女達『天使』と、我ら『ヒト』との『決戦』が始まった。
それは凄絶な戦いだった…。」
 

 
今、大玉斎の機械化された身体は6年前の『決戦』の鮮烈な記憶のため恐怖に震えていた。
あの時に見た、あの『翼』の少女が目の前に立っているのだ。

大玉斎の刀は一振りで宇宙戦艦をも両断にする。

しかし、その力でも彼女に勝てる気がしない。
それほどの相手なのだ。
 
「…!!」
大玉斎は身構え直した。

黄色いドレスの少女は目を閉じたまま大玉斎のほうを向くと、乗っている張出しの上から鳥が飛び立つようにフワリと宙に舞ったのだ。

そして次の瞬間、少女は万有引力の法則に従ってドンガラガッシャァンッと豪快に地面に転げ落ちた。
 
「…!?
?、?、?」
少女は打ち付けた頭をさすりながら起き上がると、なにが起きたのかわからないというようにキョトキョトとしている。
 
「…復活はしたものの未だ完全ではないということか。
だが容赦はせぬ!

あの日以来、ワシは修行に修行を重ねた!
あの時のようにはいかぬ!!
6年前の惨劇は二度と繰り返させん!!」
大玉斎は気合を入れなおすと、腰に差した2本の刀をスラリと抜き放った。
『霊刀・緋雨大蛇(れいとう・ひさめおろち)』と『冥刀・織雨蛟(めいとう・しぐれみずち)』である。
「目覚めよ!
我が刀に宿りし昇龍、降龍よ!!」

彼の声に応え、刀から噴出した青い“気”が雪の結晶をまとった龍の姿となり天に駆け上がった。

そしてその龍が口を大きく開くと、ソコから別の赤い“気”が噴出し、炎をまとった龍の姿となって少女めがけて一直線に下って行く。

やがてその龍の姿をした“気”がほどけると、中から水平方向に回転する大玉斎がミサイルのような勢いで飛び出してきた。
 
「炸裂!
『秘奥義・世音武羅宗徒(ゼノンブラスト)』!!」

少女めがけて飛ぶ大玉斎の刀が青と赤の軌跡を引きつつ少女に襲い掛かる。

そして、大玉斎を振り仰いだまま身動きひとつしない少女の直上で刀が交叉し、その太刀筋は確実に少女を捉えた。
さらには2本の刀に込められた陰と陽を成す“気”のエネルギーが互いに干渉し爆発のエネルギーとなって炸裂する。


だが、その必殺の一撃は、少女が突き出した十字架によって受け止められていた。


しかし刀身から伝わるその感触を得た大玉斎は、瞬時に刀身に“気”を込め重心を乗せ替えていた。

『断ち切り』という技だ。
刀による攻撃を鎧や兜で止められた時に、そのまま防具ごと相手を両断にしてしまう荒技である。

しかも戦車や戦艦をも斬る大玉斎の技だ。
たとえ重戦車であろうとも豆腐のように分断されてしまうはずであった。

しかし、少女が突き出した十字架は、大玉斎の太刀と寸分の遜色もなく拮抗している。

次の瞬間、少女が口を開いた。
「誰だ、君は?

それに…。

……誰だろう、私は?」
「…!?
なにっ?!」

大玉斎は刀を返し、払った。

刀身に込められていた“気”が放出され大玉斎と少女の間の大地をえぐり、砕かれた地面が衝撃波と共に舞い上がる。
大玉斎と少女は双方とも弾かれたように跳びすさり、距離を取った。


大玉斎は完全に気を乱されていた。
彼はこの6年間、この少女を倒す方法を探すために費やしたようなモノだった。
『ノアズ・アーク』や、竜の一族が遺した『グレートレガシー』の探索もその一角だ。

だが、その相手の今のこの抜けようはどうか。

今ならば力は拮抗している。
つまり、あとひとつでも決め手があれば充分に倒せる相手だということだ。

だが、大玉斎が戦おうとしていた相手はこうではなかった。
もっと圧倒的で、万に一つ程度の勝てる見込みがあればいいというような相手だったはずだ。

『もののふ』として、強大な敵に挑むために鍛錬を続けてきた彼は、失望にも似た念に捕われた。
もし倒すことが出来るのならば、それが最も優先されるべき相手だというのに、である。

その落胆が彼の“気”に立て直せないほどの大きな乱れを作らせてしまっていた。


その、時間にすればわずかの間に、少女は自らの身体で十字架を作るように両腕を広げ天を仰いだ。

ふいに少女の口からかすかなうめきが漏れた。
見れば少女の周囲の空間が澱むように黒くなっていく。

そして次の瞬間、少女の背中から『闇』が放射されるように広がった。
しかし、少女はまるでその『闇』の質量に圧されるかのようによろめいている。
 
「つ、『翼』を、出そうとしているのか!?
しかし!制御できていない!!

…そうか!
前に見た時と何かが違うと思うておったが『翼』の『バインダー』が無いんじゃ!!

なれば、『翼』を出せない今ならばコレで倒せる!!」

大玉斎は2本の霊刀を構え直すと、宙になにかを描くように舞った。
するとその軌跡は北斗七星の形になり、ソレは巨大な白い龍と化し実体化した。
 
受けてみよ!
我が究極の最終剣技を!!


『北辰天覇・凌駕爆砕(ほくしんてんぱ・りょうがばくさい)』!!」

大玉斎は、名称からではどういう剣技なのか想像すらつかない技名を叫びつつ、白い光に包まれ飛び出していた。
だが、“気”の乱れは正しきれず、必要以上の荒々しさを噴き散らしている。
それは同時にその技の本来の威力が発揮されないことを、“気”の散逸による太刀の弱体化と守りの脆弱化をも意味していた。


少女はよろめきながらも、大玉斎のその凄まじい気の奔流に本能的な恐怖を感じ、顔を上げた。

ソコには、極限の“気”をまとい、最大最強の一撃を少女に浴びせるべく突進してくる大玉斎の姿があった。


その気迫が少女の防衛本能を刺激してしまった。

少女の周囲の空気は一瞬にして闇よりも黒く染まり、そして、少女の目が開いた。 

 
「おおおぁーーーっ!!」
 

 
「『天使』としての彼女の秘密は『コア』にある。

神経シナプスを模した構造を持つ格子状のエネルギーフィールド、別名『空間グリッド』。
『電子の軌跡』によって構成される実体のない回路だ。
そのエネルギー質量を極度に高め、フィールドとして内側に畳み込むように縮小していくと極小の電気的なネットワークのシステムを作り出せる。
そして特定の位置に配したエネルギー触媒を使用しネットワーク内部でサーキット状の働きを作り出せばエネルギーフィールドそのものを本体とする電子頭能のようなモノが出来上がる、という理屈だ。」
「しかし、そのシステムはたしか実現は無理だったのだろう?

閉じたフィールドであるため外部からエネルギー供給できないソレは、自体を保持するために電源としての『永久機関』を内部に置く必要がある。
でなければやがてエネルギーを使い切り、そして停止と同時に消滅するから。」
「いや、完全には消滅しない。
もともとが電子の軌跡で出来た実体のないモノだ。

また彼女達のコアの場合には、例え電子レベルまで分解されても『因子』、ソレは我らが『神の設計図』と呼んでいるモノが詰め込まれた遺伝子のようなモノなのだが、その一部分でも残っていれば欠損部分を再構築できる機能がある。
まるでプラナリアかなにかのようにな。

アレはまさに『エデンズ・テクノロジー』の結晶だ。

そして、そう、たしかにその電源となる『永久機関』などというモノは作り出せなかった。

しかしその電源として使えるモノはスデに作り上げられているんだ。
『次元連結』によって理屈上は半永久的にエネルギーを供給し続けられる『半永久機関』がな。」
「『次元連結』…?!

そうか!
『翼』か!!

だから彼女の『翼』は我らの目には光の、エネルギーの塊に見えたのか!!」
「そしてその『回路』と『翼』によって構成されるエネルギーオーガンの極度に進化したモノ。
ソレが『コア』だ。

実体のない『回路』と超エネルギーの威力により発現される様々な能力は、まるで魔法にしか見えない『充分以上に発達した科学技術』の姿だ。

その『コア』がヒトの肉体と重なるように存在しているモノが、『人造天使』の正体だと思われる。

そして重要なのはな、その『コア』は対因子のような性質を持つ光子に似たエネルギー体だということだ。」
「なに、…そうか、対因子は片方が抜け落ちてももう片方が全体を補充し安定しようと働く。

…ということは、あの反応はリララ教授が『半減』したということか!?
ならば、まさか、抜け出た『減った半分』の側も全体を補充して…、とすると、もう1人の『天使』を再構築…!?

ではやはり!
『R−A』がいずこかに『降臨』しているのかっ!?」
「だが、…それは有り得ない筈だ…。
たとえ『極次存在』と言えど『R−A』の復元ということは不可能の筈なんだ。
なぜなら『R−A』因子を持つ『天使』は『決戦』の中で小娘が…、リララが倒したのだから。

6年前…。
あの恐ろしい戦いの中で小娘は、自らオーバーロードさせた『翼』の力をもってして『R−A』因子を持つ『人造天使』、『リララル』を消滅させた…。」
「消滅…。」
「我らの物理概念を超越した彼女達の戦いだ。
ワシにもナニが起きたのかはよくわからなかったが、『R−B』因子を持つアイツは自分という存在を『R−A』と正反対のエネルギー位相に置き換え、自らの消滅と引き替えの、存在自体の対消滅をはかったと言っていた。

『世界』に有る『存在』という『突起』に対し、ソレと同じ形の『穴』となって取り込み、『世界』から消し去るのだと…。」
「なんと!
彼女らの、『エデンズ・テクノロジー』の技術はそんな事までをも可能とするのか…!!

む…?
待て、俺は生命科学に特化しているんでソッチの分野の詳しいこととなるといまいち判らんのだが、対消滅というのは単純に言えばプラス1からマイナス1して0にするということか!?

では、なぜリララ教授は今も存在しているんだ?!」
「おそらくは小娘の方のエネルギー質量が大きかったのだろう。
あるいは『R−A』がより多く消耗していたか…。

だからプラス10からマイナス11、あるいはプラス9からマイナス10な感じになったとして、今の小娘という存在は残った1から全体を補完して…。

……?
残った1!?
『R−A』と正反対のエネルギー位相!?

しまった!
なんで今まで気がつかなかったんだ!?」
「だよな!?
その理屈で言えば、残るのはマイナスの1、反転した『R−A』因子だぞ!!」
「消滅させたはずが、『R−A』因子をマイナス位相と化し残す結果になっていたというのか!?

では、彼女の『翼』がこないだの事件までの6年間、開かないでいたのは反転した『R−A』因子により『R−B』因子が押さえ込まれ…、いや、そもそも『R−B』因子ではなくなっていたのか…!!

そうか、そうと考えれば今まで不可解だった事柄の説明がつく!
『極次存在』達の目的が小娘の中にあったもう1人の『天使』の因子、『R−A』因子の活性化、そしてその復元だったと仮定すれば!

大玉斎の言った通りだったのか!
ヤツらがなぜ小娘に関わる特殊な状況にのみ出現していたのか!!

『リララ教授である彼女』のほうが、『R−A』因子を押さえ込んでいたんだ!!」
「なんてことだ。
俺達のしてきた対策と研究は大前提の段階で間違っていたということか…。

それで、アカデミーの調査網の方ではなにか変化はないのか!?」
「今のところ、今回のコトに呼応するような急な変化は確認されていないが…。

…いや、待て!!

今、中央管制ルームから緊急連絡が来た!
さっきお前が示した座標の近くに、『翼』に酷似した反応が約2秒出現したそうだ!」
「では、やはり『降臨』かっ!?」
「おそらくは…。
しかし…、やはり、小娘の予測したシナリオ通りにしかならんということか…!」
ビッグGは握り締めた拳をコンソールに叩き付けていた。
「6年前のあの戦いが終わった時、アイツは言っていた。
小娘の『姉』は5年から10年のうちに復活すると。

そしてその復活が完全なモノとなった時、『人類根絶計画』が再始動し今度こそヒトの種(しゅ)は滅ぼされると…!!」
 

 
「来年のクリスマスも、こうしてみんなで過ごせるといいね〜☆」
「大丈夫ですよ。
いい子にしていれば、きっとサンタさんがお願いごとを聞いてくれます。」
「ほんと?
じゃ、私、いい子にしてようっと!」
リララ教授はそう言いながらトーキチローの焼き上げたスポンジケーキにヘラでホイップクリームを塗っていく。
「…いまいち均等に塗れていませんね。
こっちとそっちでクリームの厚さが3倍ぐらい違いますよ。」
「にゃ〜、こういうやらかくて実体のなさげなモノって苦手なのー!
コレが合金とかセラミックを切ったり貼ったりならこんな体たらくには…。」
「まぁ私も機械工学のほうが専門ですからね、こういうセンスと勘で作るケーキとかよりも、ガッチリ寸法の決まっている機械加工のほうが楽というのはわかります。」
「くぅ〜、いつも料理のうまいトーキチローくんにそんなコト言われたら、私なんか料理なんて出来ないわよ!」
「逆ギレしないでください。
ケーキを仕上げたいって言ったの教授じゃないですか。」
「ふ〜んだ!」

リララはすっかりすねてしまい、トーキチローはあれこれと手を尽くしてなだめはじめた。

飾り付けの終わったおギンとフーメイはツリーの奥の作業台に座ってその様子を眺めていた。
おギンは立膝に肘をつき、フーメイは揃えた膝に両手を置いている。
「なんや、変な子やな、リララちゃんて。
ムッチャ頭がええかと思えば、ミョ〜に子供っぽいし。」
「そう、ですね…。」
「ん?
なんやフーメイはん、歯切れ悪いで?」
「いえ…。

でも…。
そう、来年またこうして過ごせるとは限らないのですね。」
「あー、もぉ!
フーメイはんもネクラなんやから!

ええか?
思い詰めてクヨクヨしとっても、明るく前向きにワキワキしとっても1日1日は同じように過ぎてくんやで。
せやったらワキワキしとったほうがええやろぉ!?」
「…あの、ワキワキってなんですか?」
「まあニュアンスっちゅーか、オノマトペイアっちゅーか、なんちゅーか本中華ワンフウメーン!っちゅーてな。
ゲバゲバの大橋巨泉もその後政治家になったりなんかして、まぁすぐにやめたけどな、世の中どう転ぶかわからへんけども、なるようにはなるんやなっちうことや!

まあ一言で言うと楽しくやろうってことや!!
わぁったか?!」
「あー…、とりあえず質問に答えてはいただけていないということはわかるのですが。」
「もー!!
ロボなんかいなアンタ!!」
「え、いえ…、多分、違うと…。」
「せやったらシャキッとせぇな!

それに多分もナニもないで。
フーメイはんも立派な人間やろが!」
「……。

ユニオンJというのは、いいクニなのでしょうね。」
「はぁ?
なんやそりゃ??」
「貴方もトーキチローさんも、ビッグGも大玉斎事務長も、とてもいい方達ですから。」
「んー、ま、そやな。
クニの社会や風土は人の気質に影響を与えるとか聞いたし…。
結構ええトコなんやないかと思うで。」
「ええ。

…。」
 
フーメイはふいに「失礼します。」と言うと、赤いゴーグルの鉉の付根に隠されているマイクロスイッチを操作した。
このゴーグルは高度な情報通信装置の機能もあり、たった今、目の前の視界に『緊急着信』の表示が点滅したのだ。

ソレはビッグG理事長からの緊急指令だった。
今すぐ本部空港へ行き特殊調査部隊と共に音速輸送機に乗ってこの星の裏側へ向かえとのことだ。
 
「すみません、急な仕事が入りました。
今日のところはこれで失礼いたします。」
「そうなんか。
パーティーは残念やけど、お仕事、頑張ってぇな。」
「ありがとうございます。

リララ教授、トーキチローさん。
せっかくお招きいただいたのに申し訳ありませんが、緊急の特務が入ってしまいましたので私はこれにて失礼いたします。」
「え?
そーなの!?
まだシャンパンも開けてないのにぃ。

すぐ戻って来る?」
「いえ、割と遠くまで行かねばならないので、すぐにはちょっと…。」
「えー…。」
「すみません。

でも、そうですね…。
来年は必ずお付き合いいたしますよ。」
「ほんと?
じゃ、楽しみにしてるネ!」
「お〜ぅ、フーメイはんもいっちょまえに吹くやん〜!(≧▽≦)ノ」

フーメイはそのまま3人に見送られ、倉庫の外に止めておいた赤いスポーツカーに乗り込んだ。

そして彼女がキャビネットのボタンを操作すると、誘導偏光粒子でコーティングされている車体の表面が白と黒の緊急車両カラーに変わり、ドアとボンネットに金色の盾をかたどった『GSアカデミー特殊警察隊』のエンブレムが現れる。
さらにルーフの中央がひっくり返って赤と青の回転灯が出現した。
 
「うわ!ビックリした!!
なにコレ!?」
「相変わらず見事なギミックですね。
覆面パトカーもここまでくれば芸術品です。」
「え、コレってフーメイはんがいつも乗っとる赤い車やろ?!
覆面パトだったんか!!

うわ〜、こんなんが他の星の警察なんかに配備されたら全然わからへんな!!」
「そうですね。
でもコレはウチの科学装備研究班が採算を度外視して試作したものでして、誘導偏光粒子のメンテと維持に大変な手間とコストがかかるので、売り込んだもののどこも採用してくれなかったそうです。
アカデミーにあるのもコレ一台っきりですし。

しかも特装車両なので市販車と形が違いますから、この車の形を覚えられてしまったら覆面パトカーだと簡単に見破られてしまいます。」
「う〜ん、スゴいけど、意味ないんやな。」
「なにを言う。
採算や効率を超越したところに到達した技術にこそまずは感嘆すべきだ。

昔からF−1やスーパーカーはそういう位置にあって多くの人々を魅了してきた。
量産や一般化などはフィードバックの中ですればいい。
F−1に比した市販のスポーツカーのようにな。

まずはとにかく特殊化の極限まで前進し、それから実用性や汎用性のために下がる。
先進技術というのはおおむねそういうところから…。」
「あ!」
トーキチローの講釈をリララの声がさえぎった。

目の前にチラと見えたモノを視線で追うが見失ってしまい、他のモノを探して空を見上げる。
他の3人もつられて見上げていた。

暗い空から白い結晶がヒラヒラと舞い降りはじめていた。
 
「わー!
降った降ったぁ!!」
「メリークリスマス、やな。
お嬢チャン。」
「うん!
メリー・クリスマース♪」
「教授、中に入りましょう。
プレゼントも用意してありますから。」
「お、ウチには?」
「なんでお前にまでやらにゃならん。
それよりもテーブルを替えるの手伝え。」
「ぅえ〜〜?」
「それでは皆さん、良いお年を。」
「あ、はい。
フーメイさんもお気をつけて。」

フーメイの車が静かなモーター音を立てながらスゴい加速で走り去る。
トーキチローとおギンは一足先に部室の中へと入って行った。


リララは1人で白い息を吐きながら、雪の舞う天を振り仰いでいた。
 
『そう…。
また、みんなでこうして過ごせるといいのにね…。

……。

『お姉様』…。』
 

 
「……!」
暗い地下空洞の中で、金色の髪の少女はふと我に返っていた。

まるで眠りに落ちていたかのように、それまでの意識が飛んでいる状態になっていたのだ。

少女は自分が何をしていたのかがわからないということにたまらず不安になり、慌てて記憶を反芻していた。


ずっとこの調子だ。
正確にはわからないが、数日前か、あるいは数ヶ月前か、この遺跡の中で目覚めてからたびたびこのような状態になっている。

原因はわからない。
それどころか自分がなぜここにいるのか、自分が誰なのかもわからない。

ただ意識が始まった時、あの『ビヤーキー』達と、そのボスであるらしき『ナイトゴーント』という者がそばにいた。
彼らとは言葉は通じなかったが、意思のやりとりは出来た。
彼らが自分を『目覚めさせた』と言い、そして『調べたい』と欲したからソレに従っていた。

別に逆らう理由はなかった。

しかし、時間が経つにつれわずかな記憶の断片が頭に浮かぶようになっていった。


なにか金属製の機械の巨大な塊や、暗くて際限なく広い空間、そして光が交錯し破裂しあう様子。
または背中に『翼』を持つ男性と少女の姿。


だが、どれもこれもスリガラスの向こう側を覗き込むように漠然としていて意味が判らなかった。

そのうちに声が聞こえるようになった。
自分と、他の誰かの、いつか発し聞いた声だ。


『私達は……を倒します。倒さねばならないのです…』
『…つまり、殲滅戦です』
『…障害となるモノは、全て排除なさい!…』


直感した。
コレは自分の使命を表している言葉だと。
しかしナニを殲滅せねばならないのかはわからない。

だが指標は立った。
自分に使命があるのなら、これ以上ここで『ビヤーキー』達に従っている訳にはいかない。

それにわからないからと言って無為に過ごしていては始まらないのだ。
ならば『目的』を探し出す。
その障害となるモノがあるのならば全てを排除する。


戦いは身体が勝手に動いた。
相手を砕こうと思えば、砕くための動きが出来る。
そんな感じだ。
ただ何故そんなことが出来るのかはわからない、というのが不安だが、便利ではある。


そうして、邪魔をする『ビヤーキー』達を倒し施設を出たところで東洋風のサイボーグと出会った。
目覚めてから初めて会った自分と同じ人間の形をした存在だった。
言葉も通じた。

…サイボーグ?

そういえば、先程までそのサイボーグの老人がなにやらよく判らないことを言いながら襲いかかってきていたようだったが、今はもういなくなったようだ。


少女はそれ以上のことは思い出せなかった。
辺りを見回しても今はシンと静まり返っている。

しかし、肩に妙な重みがかかっていることに気付いて確かめてみると、服の肩のふくらんでいる部分に折れた刃の切っ先が突き刺さっていた。

どうやらあのサイボーグが持っていた東洋式の剣の破片のようだ。
叩き切ることを旨とする西洋式の剣と違い、分子レベルで鍛えられ研ぎ澄まされた東洋式の刃は触れただけで何でも切断してしまう、という知識が不鮮明な頭の中に湧き出た。

少女はその刃を指先でつまんで引き抜くと、危ないモノだから出来るだけ遠くへと放り投げた。
ソレは澄んだ音を発しつつ、カン、カン、と低い方へと落ちていった。
 
「…あのサイボーグ、私のことを以前から知っているようだった。

聞き損ねてしまったが、次にまた会えたならば、私が一体ナニモノなのかを聞きたい…。」

少女は、そのまま認知することはなかった。

そのサイボーグと、6年前にも同じように対決したことがあったということを。

そしてその彼は、少し前に自分が消し飛ばしてしまったということも。

 
少女はしばらく考え込んだ後、かすかな記憶の断片に思い当たり、手の平で自分のなだらかな背中を撫でた。
「『翼』が…、あった…?

…そう。
この、私の背中に、空も飛べる『翼』があったはず…。」

金髪の少女はすっと立ち上がると、下を向いた。
 
「探しに行こう…。」

少女の感覚は自分の探そうとしているモノの存在を、かすかにだが察知していた。
そしてソレが存在しているのは、今立っている地面の下のもっとずっと向こう、この星の裏側であるということも。


少女は目的に向かって歩き出し、ふと足を止めた。

この不気味な遺跡に横たわる巨大な骨の背中に目が止まったのだ。
その上におおいかぶさるように広げられたコウモリのような翼の骨格に。


少女は少し思案し、背中から闇を噴出させ、その形を変えようとしてみた。
さっきのサイボーグが背中から闇が噴き出たのを「『翼』を出そうとしている」と言っていたのがいやに心にひっかかっていた。
ぼんやりと思い出せる、自分の仲間とおぼしき者の姿にも『翼』があった。

そしてやってみると、ソレは案外手足を動かすように造作もないことだった。

数秒後、少女の背中に黒いコウモリのような翼が出来あがっていた。
もっともソレは形だけのモノで、『翼』本来の能力を発揮するモノではない。


そうして再び歩き出した少女は、まるで翼を広げた悪魔のような影を引いていた。
巨大な十字架を携えた、黒い翼の少女。


彼女が目指すのは、彼女の不鮮明な脳裏に浮かぶただひとつの確かなイメージ。


…自分と同じく金の髪を持ち、『翼』を広げた青い服の少女。
 



















第2部
激闘編開幕




制裁の翼
理力天使リララル












……降臨!









 


Sijimiya Konoha & Yukaina Brothers. Presents

"Professor Rilalah @General Science Academy"