『第3,5話 〜秋〜 「焼き芋事件顛末」』
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朝晩はめっきり冷え込むようになってきたが、日中陽があたればぽかぽかと気持ちのいい昼下がりが過ごせる季節。
そう、ここ大銀河帝立統合科学アカデミー学園部にも秋が来ていた。

そんな陽射しが温かい午後、茶色い紙袋を抱えた金髪の少女が紅葉の木々に囲まれた煉瓦道を歩いて行く。
誰が呼んだか『稀代の超天才科学少女』、リララ教授だ。
彼女がキョロキョロしながら白い大きな建物の前を横切った時、黒い色の人影がその視界の端に入った。
「あ、やっほー!フ〜ちゃぁ〜ん☆」
少女は手をぶんぶん振りながらうれしそうな声を上げる。
その視線の先にいる黒いチャイナ服の女性は、落ち葉を掃き集めていた竹ぼうきの手を休めて声の方にクルリと振り向いた。
その無機質な赤いゴーグルにニコニコしながら走り寄って来る少女の姿が映る。
「こんにちは、リララ教授。」
「うん☆」
GSアカデミー理事長の秘書兼ボディガードのフーメイの目の前に、リララがパタパタと駆け寄った。
こうされるとフーメイの方が頭1つ分くらい背が高いためリララはかなり上を向く格好になるが、彼女はそのまま満面の笑みを投げかけてきた。

『なぜにココの偉い方々は私よりも背の低い方ばかりなのでしょう…。』

フーメイはニコリともせずにそんな事を考えていた。
彼女は愛想はともかく礼儀は正しいほうなので、自分よりも偉い人を見下ろす形になるのはどうにも落着かなかった。
しかし彼女が秘書をしているビッグG理事長からして目線が彼女の胸くらいの高さなのだ。

ちなみに彼女の身長は1m78cm。
背が高くはあるが、特別高いわけでもない。
相手は年寄りだから普通より背が低くなっているということなのだろうか。

そしてリララ教授とキた日にはアカデミー5大幹部の次くらいに重要人物なのにさらに目線が下にある。
これで接近されて見上げられるとかなり話しづらいのだ。
だからと言ってしゃがんで話をしては子供の相手でもしているようで失礼そうだし…。
実際、子供のうちに入るのかも知れないけれど。


そういえば今日は、そんな彼女でも安心して話せる人物の姿が見えない。
フーメイよりさらに頭1つ分くらい高く、リララ教授と並ぶとその頭のてっぺんが腹のあたりに来てモノスゴく話をしづらそうな彼が。
いつもたいていリララ教授と一緒にいるはずなのだが…。
「…今日はトーキチローさんは御一緒ではないのですか?」
「う〜ん、なんだか最近落着きがなくってさぁ。」
「トーキチローさんがですか。
それは珍しい事もあるものですね。」
「なんでも妹さんを探してるらしいヨ。
ところでフーちゃんはどうしてたの?」
「…私は、落ち葉掃除をしていました。」
「あ、いや、ソレは見た瞬間にわかったんだけど…。
こう、また理事長に逃げられたのかな〜とか…(^^ゞ」
「とりあえず現在のところ仕事がないので、こちらのお役に立てればと思いまして。
ちなみにビッグGは、『イ・ス生命科学研究院』に出向しておられるアイン学園長に御用があるそうでして、中にいます。」
フーメイはそう言って紅葉の木々の間にそびえたつ勇壮な建築物を指差した。
神殿をモチーフにしたその建物は正面に巨大な円柱がズラリと建ち並び、外装の表面全てに白いタイルが丁寧に貼り込まれている。

『ソフィー図書館本星第1分館』。
コレはアカデミーの星系内に108ある図書館のひとつで、ソフィー12図書館群の第1分館である。
もっとも図書館とは言っても中身は膨大なデータライブラリーとその管理・閲覧用の機器が整備されており、『本』の姿をしている『書物』はごくわずかしかない。

また、アカデミーの性質上、学術資料などの機密的転送のために何重にもプロテクトのかかった最新最速の大規模通信設備が備えられているのも特長である。
その情報ラインは5つの惑星、12の衛星、26の科学研究機関ステーション、そして大銀河帝星へと伸び、『ウィズダム・ホットライン』と呼ばれる機密通信網を形成している。

おそらくビッグG理事長は、その回線を使用するためにこのような場所に赴いて来たのであろう。
 
「へ〜、学園長さんにねぇ。
こないだの蛸のこと(第3話参照)かな?」
「そのようです。
ところでリララ教授はどうしてこのようなところに。」
「あ!そうそう!ちょうど良かったんだァ☆
その掃き集めた落ち葉って燃すんでしょ?
さっき大玉斎事務長にお芋いっぱいもらっちゃってさー。
それでトーキチローくんにコレってどうやって食べるのって聞いたら、焚火で焼くと香ばしさとか味とかがいい感じになるって言ってたから☆」
「それは良かったですね。
それでは今から燃しますのでそちらのお芋をお貸し下さい。」
ヨロシクね☆とリララは抱えていた紙袋をフーメイに手渡した。
しかしフーメイは袋の中から芋を取り出すと、その芋を見て、さらに袋の中を覗きこんで、しばし考え込んでしまった。
「…あの、これは?」
「お芋の種類なら、たしかジャガイモとサトイモとトロロイモだって言ってたよ。」
「…はぁ。」
『サツマイモが入っているものだと思いました。私もヤキが回ったものです…。』
なぜか反省してしまうフーメイだった。


 
「ほほ、おいし〜☆」
「お口に合いましたようでなによりです。」
焚き火の前でアルミホイルに包まれたほかほかの芋を食べながら、リララ教授は満足そうにうなづいている。
「ジャガイモはバッテン型の切り込みを入れて、サトイモとトロロイモはそのままアルミホイルに包んで焼きました。
前者は塩分の含まれるバターを、後者は食塩を付けていただきます。
後者はいずれも粘り気が特徴の芋ですが、焼くとホクホクとした食感に変わります。

ところでサトイモとトロロイモは何個か焼かないで残しておいたので、後で煮物やスリモノにして召し上がってください。」
「フーちゃんってなんだか前世紀にハヤった『グルメ漫画』ってのの主人公みたいだネー☆ (^o^)」
「ありがとうございます。」
リララの口振りからして、おそらく誉められているのだろうと礼を言うフーメイだが、実際ありがたい事なのかどうかはよくわかっていない。
「ところでリララ教授、今日のその服装は何なのですか。」
フーメイはさっき会った時からしばしばリララのスカートの辺りを見ていた。
どうやらずっと気になっていたようだ。

今日の彼女の服装は、いつものSFチックなエプロンドレスの上に、普段は付いていない大きなリボン状のモノがスカートに沿って翼のように広げられている。
しかし、それだけなら「可愛らしいですね」と素直な感想を言えば喜ばれそうなのだが、ソレ以外にもナニか、スカートの中から小型タンクとおぼしきモノや意味不明なノーズが飛び出ていたりするのだ。

基本的にリララはいつでも色々な機械を体のアチコチにつけているのだが、たいてい大きさや色が服と合わせてあるので大して気にはならない。
だが今の格好は、ミニスカートの上にその3倍はありそうなリボンを付け、さらにスカートの中からメカメカしいタンクやノーズが覗いているのでバランスが悪い。

リララ本人もちょっと気にしていたのか、体をひねってスカート周りを見ながら答える。
「う〜ん、これねぇ…?
ちょっと新理論を活用してパーソナルなフィールドジェネレイターを試作してみたんだけど、やっぱおかしい?」
「ええ、見た目が。
それもかなり。」
フーメイは比較的モノゴトをズバリと言うほうである。
リララは落ち込んで地面に『の』の字を連続筆記し始めた。

ところで説明しておこう!
リララ教授は半年前の全銀河先進科学学会・準優秀理論賞に輝いた第参科学新理論『物体の存在に関する位置エネルギーの半無限増大法則』を活用して、フィルム状の『エネルギーサルベイジャーセイル』の開発に成功していた。
ひらたく言うと、例えば自家発電が出来る腕時計みたいな感じで『ソレを広げた状態で動かしているとエラい勢いで発電し続けるセイル(帆)』というモノである。

本日のリララ教授はその『セイル』を衣服の一部に仕立て、そこで発電されたエネルギーを個人で使える小型バリヤーとして応用しようと、それでもかなり小型化したエネルギーサーバータンクとフィールドジェネレイターとアースをスカートの中に下げて試験中だったのである。
 
「……。
ところでリララ教授。」
「いじいじ…」
「……。
いじけていらっしゃるところを大変申し訳ないのですが、ひとまず聞いて下さい。
『セイル』が燃えています。」
「え!?
きぁああああーーーー!!」
見るとスカートの延長線上で煙が上がっている。
いじけてしゃがんだ時に、大きく横に広がった『セイル』の端が焚き火の中に入ってしまっていたのだ。
「って、あーっ!
しまったぁ!!」
ビックリしたリララは咄嗟にスカートから『セイル』をひっぺがして投げ捨てた。
だが今度はソレがまるごと焚き火の中に入ってしまったのであった。
「まずーい!
『エネルギーサルベイジャーセイル』のエネルギー吸引パイプが外れそうになっちゃってるーーー!」
「…は?」
フーメイは気を利かせて即座に拾い上げようとしたが、リララ教授のリアクションが少々妙なので思わず伸ばしかけた手を止めた。
実験中の試作品が燃えそうになってるからあわてている、にしては口走ってる内容がいやに限定的だ。

見てみるとたしかに、リララ教授のスカートの中の『タンク』から、火の中に落ちたリボン状の『セイル』にパイプが繋がっていて、そして『セイル』とのコネクター部分が外れそうになっている。

『だから、どうしたというのでしょう…。』
なんだかいやな予感がしているフーメイにリララ教授が真顔をグイと近付けてきた。
「フーちゃん落着いて聞いてね!
あの『セイル』の発電機としての基本構造部分は空間のエネルギー格差を利用したリジェネレイターなの!
なんでもいからエネルギーをその『帆』に受けると理論上その約1.2倍までのエネルギーを増幅して出力してソレをまた増幅して出力してっちゅーどっぷりたっぷりモンノスゴい大発明なのよ!
どーよ!ビビリまくったデしょ!!」
「教授こそ落着いてください。
と言いますか、落着いていいんですか。」
「そーよ!落着いてる場合じゃないのよ!よく聞いて!!
1単位のリアクトに有する時間は実験器内で平均10の24乗分の1秒って装置なの!
そんでもしパイプが外れたらエネルギーが逆流しちゃうんだけど、そうすると『元のエネルギー量*1.2の(n+1)乗』倍分のエネルギーが行き場のない状態でガンガンに乗算されまくりでリアクトされちゃうのよ!!
出力はフィールドジェネレイターの消費電力に合わせといたから基本吐出電力の1単位は900キロボルト!!」
「はぁ。
それだと、もしパイプが外れてから1秒あれば『ドレッド・ジャジメント級戦略衛星弾』の破壊力と同等のエネルギー量の暴発が起きる、ということになりますね。」
「ピンポン!大正解!!ハワイに御招待ーーっ!!!
もっとも制御を離れた『セイル』は一瞬で蒸発しちゃうとは思うんだけどとにかく早く止めなきゃ!!」
と、言ってる間に止めればいいものを長々と説明をし終えたその瞬間、『セイル』からパイプが外れた。


 
その爆発は気象衛星からの映像でも確認された。
爆心地から直径100mはクレーターの底となり、半径15kmにまで及ぶ被害を記録する大惨事となった。
不幸中の幸いだったのは、周囲には、臨時休館であった『ソフィー図書館本星第1分館』と『ファクトリーエリア』の無人工場群しかなかったため、人的被害が0だったことである。

 〜翌日の『GSアカデミー日報』より抜粋〜


 
ところでその大惨事の時、その爆心地から少し離れた地点で、紫色のセーラー服に身を包んだ少女が爆煙にあてられてむせかえっていた。
「けほっ、こほっ、く〜〜〜っ!
ヤるやないか!さっすが『超天才科学少女』や!!
ウチの監視に気付いてこないなゴッツい爆発で威嚇してきよるとはなっ!!
ここはひとまず出直しやで!」
その少女は感心した様子でひとしきり呟くと一陣の風のようにその場から消え失せた。
その直後、クレーター脇の林から赤い複葉機が飛び去って行った。

ちなみに説明しておこう。
彼女は根本的な勘違いをしています。


  
翌日。
赤や黄色にいろどられた山々の合間にある大型倉庫、別名『壁新聞部の部室』(ただし不法占拠)では、吹き抜けて行く木枯らしの冷たさをモノともせずトーキチローが熱くなっていた。
「教授!お聞きになりましたか!?
昨日『ソフィー図書館本星第1分館』で爆撃騒ぎがあったそうですよ!
噂ではありますが、なんでも、鋼鉄帝国から来た赤い爆撃機がハイパーナパーム弾を投下したとかしないとかで『分館』は全壊だということです!!」
「へ、へえぇー、ソレはブッソウなヨノナカでオクヤミ申し上げますっ☆」
昨日の件で理事長(なぜか無事)にこってりと絞られてヘロヘロになっていたリララ教授(これまたなぜか無事)は、部室にやって来た途端、興奮気味のトーキチローに後ろめたいトコロを突かれてシドロモドロになっていた。
だがトーキチローは熱くなっているためか、その不自然さには気が付かない様子だ。
「『ガーディアンズ』のユニットも全て活動不能にされた上、『コマンドマスター』はちょうどそのとき臨時のメンテ中だったそうでして、犯人は依然不明のままです。
うーん、かの貴重な文書資料が収蔵されている図書館を爆撃とは!
許せませんね!!」
「ウ、ウン!ソウダネ!
てろりずむユルセナイゼ!いえーぃっ!!」
ちなみに『アカデミー総合自動機密警備システム』、通称『ガーディアンズ』の中枢を担う超コンピューターである『コマンドマスター』に干渉し、犯人を不明とさせたのはビッグG理事長である。
実はリララ教授はこれまでにもこの手の不祥事を数多く起こしており批判も数多いのだ。
 
「ふっ、かくなるうえは我ら『壁新聞部』の名に賭けて真犯人を摘発してみせましょうぞ!」
「モッ、モボッ!(まっまずい!)」
「しかもそうなれば『壁新聞部』の名が売れて入部希望者が殺到すること間違いなし!!」
「エノケンッ!!(ちゅか真犯人アゲられたらむしろヤバいんだってば!!)」
「という訳で教授!『壁新聞部』出動ですぞ!!」
「ザンギリッ!?(行かせるわけにはいかないっちゃよダーリン!かくなるうえはっ!!)」
颯爽と出口へと向かうトーキチローの背後に突如強烈な殺気が沸き起こった。
だが熱くなっている彼はこの事にも気が付かなかった!
「えーいっ☆
全部忘れちゃえっ☆
(>∇・)p-☆こつんっ」



今回の被害:
○『ソフィー図書館本星第1分館』 : 全壊
○『ファクトリーエリア』 : 約4000平方メートルの施設が焼失・81の生産ラインが稼動不能・その他被害甚大
○壁新聞部所属イタミ・トーキチロー : なぜか全治1ヶ月(一部記憶の欠落あり)





  
木枯らしがビルとビルの間を吹き抜けていく。
次第に肌寒い時間が多くなり、午後4時を回ると早くも街が夕闇に染まる季節になってきた。
秋もそろそろ終りを告げるのだろう。

GSアカデミーには、いつも黒いチャイナ服に身を包み、真紅のゴーグルでその表情を隠した女性がいる。
昨日の大爆発の爆心地にいながらも機密的な理由で無事だった彼女は、またも暇があったので今日は事務本館前の通りを掃除していた。

そんな彼女がなにげなく顔を上げると、空に一筋の光の軌跡が走った。
宇宙空間の塵が大気圏に突入し燃え尽きる時に発する一条の輝き。

『流れ星、ですか…。たしか願い事をすれば叶うというフォークロアを聞いたことがあります。』
「…願わくば、この平和な日々がいつまでも続きますように。」
彼女は無表情のままそうつぶやくと、空に向かって2回かしわ手を打ち、合掌して一礼した。
どうやら、ナニかを勘違いしているようだった。
 


今度こそ第4話に

つづく


Sijimiya Konoha & Yukaina Brothers. Presents

"Professor Rilalah @General Science Academy"