第3話 〜夏〜 聞け!泡立神(ワダツミ)の声 「夏だ水着だビーチでドッカン!」
第3話イメージイラスト(2000夏トップ絵です。)を表示


蝉時雨。
焼けるよーな強い陽射しの中で頭をシビれさせるほどに無数の蝉達の鳴声が響いている。


ところで、リララ教授達『壁新聞部』の部室は、まさに場末と形容するに相応しい立地を占有する。
銀河最高の最先端技術の粋を尽くされた建造物が林立する本部エリアから離れること約100km。
夢と理想に燃える若人達が集う学園部エリアから約50km。
様々な実験開発や、この星での人々の生活を支えるファクトリーエリアから約20km。
人々が行きかう公共交通機関の終点を超え、工場や処理施設が建ち並ぶ人気のない道路をガンガンと南下していき、そしてついにその舗装道路に敷き詰められたアスファルトが無くなり、自然の大地へと繋がる場所。

道路が始まる文明への入口と言うべきか、文明の果つる終着地点と言うべきか。
その境界の目の前にある大型倉庫が『壁新聞部』の部室である。
まぁ部室とは言っても、無人の倉庫があったからまんまと不法占拠した、というモノなのだが。

敷地面積40000平米はあろうかというその平屋建ての倉庫は、鉄骨とスレート板によって建てられており、入口には幅2mはあるシャッターが設けられている。
もちろん電動などではなく手で上げ下ろしをする。
そして建物の背後には常緑の山々を抱え、数百、数千単位の蝉達が連日メイッパイ腹膜を鳴らしているという、自然がいっぱいなロケーションなのだ。

それはもぉイヤと言う程に。


そんな中、リララ教授は倉庫、じゃなくて、部室の中の机に突っ伏したまま完全に脱力状態となっていた。
「暑い〜…_(x x_;)」
「むかっしむっかしぃのハ〜ワイ〜のハッナシぃ〜♪
夏です教授!」
一年中いつでも長袖長ズボンのトーキチローが真顔でウクレレを弾きながらやって来た。
おまけにズボンの上から派手な腰ミノを着用している。
「うん、まったく暑いね〜…。」
しかしこの程度のことではまったく動じないリララ教授であった。
「……。
なぁーんかこの部室にいるといつでも教授はダラケている気がしますが。」
「だってここアッツいJAN!(←横浜弁)」
「ってナゼにソコでハマ弁になりますか。
まぁ、なにしろココは不法占拠ですしね、場末の倉庫に空調は期待できませんよ。
こういう時は気分転換にパーッと海にでも行きませんか?」
「海って言えばさぁ、こう…、
貝殻に耳を当てると『海の音が聞こえる』とか言うJAN(←横浜弁)。」
「ええ。」
リララ教授はしゃべりながら白いエプロンのポケットから『ホネガイ』の貝殻を取り出した。

コレは大洋の水深20〜50mの砂底に分布する殻高15cmくらいの白い巻貝の一種で、サザエみたいなモノの口の辺りを下にグニョーと伸ばしたような形をしていて、さらにアチコチから魚の骨のような細長い突起が上に伸びているという貝である。
なんでかはよく判らないが、夏の風情プラス異国情緒をかもそうとすると必ず登場してくるポピュラーな貝殻だ。
 
「でもこう、実際やってみるとサ…」
言いながらリララ教授はサラサラのブロンドを掻き上げ小さく形の良い右耳を露にすると、ソコにその貝殻を押し当てた。
その狭い空間からは、まるで風が洞穴を通り抜けていくかのような唸音が伝わってくる。
そして一言。
「ただのノイズJAN!(←横浜弁)
コレっ!!」
「そうですね。
類推しますに、耳を当てることで半密閉とされた貝殻の中の空間内に体温による空気の対流が起こり、かようなノイズが発生するものではないかと…。」
「じゃあ『海の音』ってゆーアレは嘘なのねっ!!」
「いえいえ、嘘と言いきるのは早計やも知れません。
あ、そうだ。
少々お待ち下さい。」
トーキチローは部屋の奥の日の当たらない暗がりまで行き、電源の入っていない『アイスクリームの店頭用冷凍庫』のフタを開けると、中身をガラガラガッシャァッとひっくり返して一つの古びたダンボール箱を取り出して来た。
中には縁の付いた1m四方くらいの木板と布袋に詰まった小豆が入っている。
「…ナニそれ?」
「教授、これからここに出したモノを使って『音』を立てるので聞いていて下さい。」
トーキチローは木枠の内側に数百個の小豆を注ぎ入れ丁寧に胸の高さまで持ち上げると、それをゆっくりと傾けた。
すると大豆は重力に従って低いほうへと転がって行くが、大豆は均等な球体ではないのでソレゾレがバラバラにハネたりスベったりして硬質なノイズ音を立てる。
まるで熱した天ぷら鍋のような音だ。

トーキチローは一旦板を水平に戻すと細かく揺さぶって小豆を板の上に均等にナラす。
そしてまた大きく身体をヒネりつつ緩やかに小豆を転がし始めた。
今度は不規則に緩急をつけ円を描くように回していく。
ソレはスグに大自然のカオスを体現するような、ある涼しげな音を連想させる音になった。
「あ、さざ波の音…。」
「ええ。
コレはかつてメディアの『効果音』として『さざ波の音』をつくっていた装置なのです。
つまり『本物ではない音』をあたかも『別のナニモノかの音』のように聞かせる技術、それが『効果音』なのです。」
「ん〜…。
ん、それじゃあ、あの貝殻のノイズも原始的な『効果音』かも知れないって言うこと?」
「いえいえ、そのお話とは無関係です。
耳に当てた本人にしか聞こえない『効果音』なんて片腹痛いですね。」
HA!とアメコミばりのツッコミをいれるトーキチローにリララ教授のジャイアントスイングが炸裂した。
大サービスで3回転半☆
「あいたたた…。
いやぁ、ちょっと思い出したんで『効果音』の話をしてみただけですのに…。」
「思いっきりマギラワしいじゃないのよっ!
マジメに考えちゃったぢゃない!!」
「まあそれはそれということで。
貝殻に耳を当てると『海の音が聞こえる』と言う件なんですが、それは多分、『経験』と『記憶』の領域の問題ではないかと思うんですが。」
「記憶?」
「リララ教授は海で貝殻に耳を当てたことはありますか。」
「ううん。」
「ソレですよ!」
「はぇ?
ナニが〜?」
「私などは、夏にセミの声を聞くと、『里』で過ごした暑かった夏休みの森の木々の匂いを思い出したりしてしまいます。
教授にもそのような体験はありませんか。」
「ああ、そういえば。
オフセット印刷の匂いを嗅ぐと、真夏のハルミ倉庫の照りつける炎天と、焼けたアスファルトがぺたぺたと靴底にくっつく感触を思い出すわ。」
「どういう思い出なんだかなぁという部分はひとまずおいときまして、まあ、つまりそういうコトです。

ある経験の中でなにかひとつ印象深い事柄があったとしましょう。
ソレは音とか匂いとか断片的なモノでパズルの1ピースに過ぎません。
しかしソレが提示された時、ソレを起爆剤としてその『記憶』の全体が想起される。
そういう事があるというわけです。」
「…と…、言うと…」
「ええ、教授がおっしゃる『海の音が聞こえない』という件、
それはそもそも教授に『海のおもひで』がないというコトが原因なのです!!」
「ががーんっ!
わ、私が原因…。」
「そうです!教授がすべて悪いのです!!」
「ずがががががーーーーんんっっ!!」
「…よし、トーキチローくん。
海へ行くわよ!
ひと夏の恋のロマンシングバケーションで湯ったり夢気分を満喫するのよっ!!」
「海で『湯ったり夢気分』は無理です。多分。」
…という次第で壁新聞部は海へ行くことになった。


それにしても、わりと頭の良さげな2人なのにどーやら知らなかったらしい。
旧帝星の詩人、コクトーの詩の一篇。

『私の耳は貝の殻 海の響きをなつかしむ』

まぁ、情緒的で浪漫ティックなことには関心なさそうな2人ではあるけれど。



「そんなわけで海〜っ!!」
というわけでリララ教授達は海に来ていた。
リララ教授が発明した一人乗り用ジェット式エアロバイク『守護天龍号』と『守護天龍号・改』にそれぞれが乗ってやって来たのは『竜骨海岸』だ。
ココはその名の通り、青い海、白い砂浜、そして巨大な竜の化石が鎮座する海岸である。

この星にはかつて巨大な爬虫類系の生物が繁栄していたらしく、アチコチの地層でその化石が発掘されている。
しかもかなり高度の文明を持っていたようで、彼らが遺したと思われる建造物らしきものや文字のようなものまでが発見されているのだ。
そして、ココにもそんな竜の巨大な化石があるという訳である。

まぁこのコトはおいとくとして、トーキチローはいつの間にやらダイビングスーツ姿になっていた。
「ふっ、それでは教授、私は蛸を獲りに行って来ます。」
「え?タコぉ!?」
「ええ、今あの形を模したロボットを造っているんですが、なんかイマイチ蛸らしくならないんですよ。
それでせっかくの海ですから捕獲して研究しようと思います。
では行ってまいります。」
トーキチローは言うが早いか、質量圧縮カプセルから解凍した手漕ぎボートに乗りこんで音速のライトスピードで沖に漕ぎ出していってしまった。
「は、速っ…。」
ツッコミをいれるイトマもなく、ジェットブースターのごとく水シブキをあげるボートは水平線へと消えた。
なんということか、リララ教授は海に来たばかりだというのに1人になってしまっていた。


「…ばか。」
トーキチローの消えた水平線に向かってつぶやいてみるがトーキチローが帰ってくるわけもない。
今から『守護天龍号・改』で追いかけてもいいのだが、それではトーキチローにイニシアチブを握られるようでなんかクヤシいからこの案はひとまず却下。

とりあえずリララ教授は周りを見回してみることにした。
巨大な入江のような構造になっているこの海岸は、海水浴には絶好の場所だと思われるのだが見渡す限りそのような人影はないようだ。

まぁ、アカデミーの人間は時間があれば研究開発にいそしむような科学オタクがほとんどなので、こういう健康的な場所に人気がないのも別に不思議なことではない。

そんなことを考えつつ両手で陽射しを遮りながら視線を巡らしていると、広い海岸の彼方にナニか太陽光を反射するモノがあることに気付いた。
左耳につけた装置のバイザー型ディスプレイを出してソレを拡大映像にして見てみると、どうやらプレハブ式の建物のようだ。

リララは特にすることもないし、『守護天龍号・改』にまたがってソコに向かうことにした。



一方、こちら海岸の果て。
角材で組んだ骨組みに戸板や塩ビの波板を番線でククリツケて作られた大きな平屋の中。

ちゃんとした屋根があるので中は日影になっているのだが、海に向かう一面とその左側面の計2面には柱が3本ある以外は全面的に開いた状態で、陽射しとその反射が入ってくるから照明をつけていなくても充分に明るい。
そして砂の上に木板を並べただけの床には丸いテーブルが5卓とその5倍の数の椅子が並べられ、天井付近に設置された扇風機がかすかに熱気を吹払ってくれている。

そんな中、2人の女性がカウンター奥の調理台の傍に腰掛けていた。
うち1人はピンクのタンクトップにカットジーンズ姿の少女なのだが(※今回フェイスウィンドゥのイラストと本編内容との間に食い違いがございますm(_ _)m)、
右下腕に不釣合いなほど巨大なパワードアームらしきモノを装着していて、その手でウチワをバッサバッサとしながら、四方八方にピョンピョンとハネている茶色のくせっ毛をばさばさと風になびかせつつ、溶けそうなほどにダラけている。
「かーっ!むっちゃ暑ぅ〜!!
マジたまらんわぁ…。
ん〜、お客はんは来ぃへんし、ヒマやし…。
なぁ、フーメイはん。
そないに黙りこくってへんと楽しく雑談でもして気ぃまぎらわせへん?」
彼女は奥でジャガイモの皮をひたすらムきつづけている黒いチャイナドレスの女性に声をかけた。

フーメイというその女性は、見ているほうが暑くなるような黒い長袖のチャイナドレスに身を包み、まるで表情をかくそうとしているかのごとき大きい真っ赤なゴーグルを着用。
胸には赤いバラの刺繍が施こされていて、大胆に腰の横まで伸びたスリットからはスラリとした脚が覗いている。
下ろせばかなり長いのであろうその髪は頭の左側に卵型に括られ、大陸のワイヤー付手裏剣『シェンピャオ』を模した飾りが6本の細い房の先端でゆらゆらと揺れているのが印象的だ。

背丈もけっこうあるし正直かなりカッコイイのだが、果物ナイフ片手にもくもくとジャガイモをムキつづる姿もそれなりに似合うというのは考えモノかも知れない。

彼女は関西弁の少女の声に応えて手を止めると、この状況下なのに汗一つかいていないその無表情な顔をクルリと向けた。
「雑談、…ですか。」
「せや。
ちなみに雑談ゆうのはな、こう、なんぞオモロいことがあったとかゆー話をするんやでぇ。」
抑揚のほとんどないフーメイの言葉に対し、少女は外人さんに日本語を教えるようにして屈託のない笑顔で説明をくわえる。
「オモロいこと…、ですか。
それでは。
となりの囲いに塀が出来たってネ。
へー、かっこ…」
「待ちぃ!
そないなサムいダジャレ大会をやろうとはウチは言うとれへんデー!!(;>ω<)/」
「…サムくなるというのは温度が下がるということで、暑さをまぎらわすという初期目的には充分かなっているのではないでしょうか?」
「あー、わかった。
ウチが悪かったて。
もぉええ、もぉええ…。(^^;ゞ」
「はい。」
フーメイは一礼して先程までと同じ姿勢に戻ると、今度は洗われた人参の皮をムキはじめた。
「…ん〜、手伝ってくれてはるのはまずもって有難いし文句があるわけでもないんやけどナ、フーメイはんみたいに立派そうな人がそのイデタチでそないな事しちょるってのはなによりオモロいかも知れへんなぁ〜(~_~;)。」
「…そう、ですか?」
「うん。」
2人がこんな調子であまり噛み合わないヤリトリをしていると、海に向いた入口のほうからジェット音が近付いてきて停止する音がした。
見ると、建物の前で水色のドレスに白いエプロンを着けたブロンドの少女が、カスタムらしいエアロバイクから降りたところだった。
「お?お客はんのようヤ。
ソッチは任せるさかい、コッチは任せてぇなー。」
「はい。」



さて、リララ教授は海岸の反対側に到着していた。

雄大に広がるこの白い砂浜と青い海の間に、まるでバラックのような、建築物としては極めてオソマツな平屋が建っている。
表から見た限り、日影になっている内部には何組かの丸テーブルとイスのセットが並べてあるようだが、外のマブシさと中の薄暗さの差が大きくて奥がどうなっているのかはよく見えない。

でもまあ特に危険な感じはしないし、陽射しが暑いし、トーキチローが帰ってくるまでこの中で涼んでいればイイかな、とか考えつつリララ教授は中へと踏み込んだ。


ほの暗い内部に一歩足を踏み入れると、足元に意外に固い感触が伝わった。
足下を確認すると、上に薄く砂が積もっていて気付かなかったのだが、平板が丁寧に敷きつめてある。
床として砂地の上に直接並べてあるのだろうか。

しかし板の下の砂が捌けてしまっているのか、足を置くと板が少し沈んでギヨッとヘンな音がする場所がある。
リララ教授にはソレがなんとなくオモシロくて、ついギヨッギヨッと鳴らしまくってしまった。
と、その時。
「らっしゃいナぁーっ!!」
「っきゃぁあーーーっ!?Σ(@□@;)゛゛」
横から突然威勢のいい声をかけられ、リララ教授は地上50cmくらいまでハネアガってしまった。
気分的には5mはイッた感じだったが現実は厳しい。
「わあ、なんや!
オドロかせてもうたかぁ?!
すまん、お嬢チャン、勘忍なぁ。(^^ゞ」
リララ教授がどきどきする胸を押さえて振り向くと、横に長身の少女が立っていた。
まぁ、少女と形容するには差支えないだろうがリララ教授より年上なのは間違いなさそうだ。

おそらく真面目な顔をすればかなり凛々しいのであろう端正な顔立ちに人懐こそうな笑顔が輝いている。
しかしなにより目を引くのは、右下腕に装着されたパワードアームらしきモノだ。
独自の外装が施されているようだが、大きさから見て100kgクラス、出力で1200kgオーバーのモノであろう。

ちなみにパワードユニットとは前世紀に宇宙開発の副産物として生み出されたバイオフィードバックを利用する倍力装置の総称であり、パワードアームはその中で、肩から手の部分、もしくはその一部として使用するモノのことだ。
ソレは通常、重労働に従事する者や戦闘用サイボーグなど過酷な条件に耐えねばならない者が全身強化のパワードオーガンシステムの一部として使用する。
なぜなら生身の人間の体にパワードのアームだけを装備するというのは、三輪車の上に土木車輌のクレーンアーム部分だけを継ぎ足すようなもので、重量・出力・耐久力などあらゆる点においてムチャなことだからだ。

しかし今目の前にいる少女はニコニコしながらその巨大な腕をひょいと上げて頭をぽりぽりとかいている。
だがどう見てもパワードなのは下腕だけで、露出している肘から肩は普通に肌のようだ。

『で、でも、いきなりここで腕に関してツッコミをイれるのはまったくもって失礼なのに違いないワ!』

瞬時にそう結論したリララ教授だが、どうしても腕に目がイってしまって他にナニか考えるなんてとうていできっこなかった。
しかし早くナニか答えなければ、コレはますますもって失礼だ。

その時、相手の聞き慣れないイントネーションから閃いたフレーズが、思わず口をついて出ていた。
「もっ、儲かりまっか〜!?o(^▽^;)」
相手が関西弁だからって、なんとも失礼な挨拶をしてしまうリララ教授だった。
「ぼちぼちでんな〜。(^^ゞ
や〜、しかしウチがバイトでココに来てから初めてのお客はんやで。
こないなとこに来よるなんてお嬢チャンも変わっとんなぁ。(⌒▽⌒)ゞ」
「え、あ、『お客』って、
お店なんですかココ?」
どーやら奇跡的にファーストインプレッションは悪くはなさそうなのでホッとしながら、リララ教授は人の気配のないバラックのような内部をグルリと見回してみた。

言われてみるとたしかに、壁にメニューの書かれたカマボコの板のようなモノが沢山貼ってあるし、ビールのポスターやかき氷の暖簾なども下がっている。
「な、ココは『海の家』なんやで。
腹が減ったらカレーにところ天にかき氷!
泳いだ後にはシャワーとかもあるでぇ!!

しっかしなんや、また暑そぉなカッコしとんなぁ?
お嬢チャンは泳ぎとかに来たんとはちゃうのん?」
「えへへ、ちょっとオイテケボリにされちゃって…。」
「なんや、オトコと来とったんかぁ?
しっかしこないな可愛い子にオイテケボリ食わすとはトンデモないやっちゃなソイツ!

よっしゃ、そぉゆぅ時は食うに限るで!
ウチがおごったる!!」
「ありがと、お姉さん。」
「ほなナニ食う?
『カレーフラッペ』とか『メロン焼きソバ』とか色々あるでぇ!」
「とりあえず今言ったのはやめて下さい。」
「んじゃ『納豆フロートソーダ』なんかどーやーっ!?(≧▽≦)ノ★彡」
「いらねっての。」
「おーい、どうした、おギン?」
店の奥から老人のものらしいシャガレ声が聞こえてきた。
するとこのおギンと呼ばれた関西弁の少女がソレに応えて声を一段大きくして奥に話しかける。
「お客はんが来とるだけやー。
気にせんとー。」
「ほぅ、お客とは珍しいな。
どれどれ…。」
「店長はんがそないなこと言うなよなぁ。」
おギンは苦笑しながら小声でツッコミをいれる。
すると店の奥にちょっとだけ見えている畳敷きの部屋からイカメシい外見の老人がひょっこりと顔を出した。

しかしコレがまたイカメシいと言っても並のイカメシさではない。
オリエンタルテイスト漂う軍服のようなモノに身を包んだその老人はおそらく東洋人であろうか。
まるで能面の一種を思わせる逆ハの字の眉毛と、口の両端から伸びた髭は鎖骨の辺りまで細く伸びている。

だがもっとも印象的なのは右目のはずのところについている、というか、埋め込まれているのか、生えているのか、ソコには大きな5cmくらいのレンズが光っていて、カメラのフォーカスパネルのような装置が中で細かく動いているのが見えているのだ。
またそのミイラのような肌からは、アチコチから直接機械が飛び出しており、ナニかが「ピッ、ピッ、」と小さく電子音を鳴らしつづけているのが聞こえてくる。

それにしても、こんな人物が『店長』として出てくる『海の家』ってのも困りモノである。
しかしリララ教授はこの老人に見覚えがあった。
「あー…!」
「おお、教授か。
いらっしゃい。」
「大玉斎(だいぎょくさい)事務長!
ここ数ヶ月ファクトリー区域でも見かけないと思ってたら…。」
「なんや、あんさんら知り合いかいな。」
説明しよう!
この老人はアカデミー5大幹部の1人、士・大玉斎(し・だいぎょくさい)という。
役職は一応事務長なのだがあまり仕事はしていないようでアカデミーの本部エリアには滅多にいない。
それどころかこの星のホウボウにフラフラと出現してはノラリクラリと過ごしているというウワサの人物だ。

なんか体のアチコチから金属製のパーツが飛び出ていたり、しゃべる時に口を開かなかったりとかなりコワい感じなのは、全身を宇宙カラクリ化(サイボーグ化)しているからである。
幹部会の中でも郡を抜いての最高齢で、アカデミーが把握している限り、現存する銀河最古のサイボーグであり、1000才前後はいっているらしい。

そんな訳でリララが意外な人物の登場に驚いていると、奥の畳敷きの部屋からさらに人影が現われた。
この暑いのに、魔王を思わせる黒マントに身を包んだ白髪の老人である。
「おいおい、いったいナニを騒いでおるんだ。

む!小娘ではないか!!
こんなところに海水浴か?」
「あれ、理事長までー!
最近お見かけしないと思ったらこんな所で『海の家』を経営されていたんですか?」
「はっはっはっ!
いやいや、ココは大玉斎の店だよ。
ワシはこないだ南極に行ってペンギン達と握手したあと流氷に乗ってな、『ちょいと途中下車の旅』を気取っているところなのだ。
ココには昨日着いて一泊して、今は大玉斎と縁側でビールをあおっていたのだが、小娘もどうだ、一杯ヤって行かんか。」
「私、未成年でーす。(^^)(←営業スマイル)
へぇ、でもココって大玉斎事務長のお宅なんですか?」
「いや、別に家というわけではないんじゃが…。」
「『海の家』って…、『家』じゃないんですか?」
「……。
マヂで言ってる?」
「?」
「なぁなぁ、お嬢チャン。
こないな暑っ苦しいカッコのおっちゃん達といたってますます暑いだけやで。
ウチと一緒に泳ぎに行かへん?」
大玉斎が店側に出て来てからこっち、デッカい右腕でウチワをバッサバッサとしていたおギンだったが、2人の老人の暑苦しさにタマラずリララに声を掛けた。
「あ、うん。
そだね。」
「おう、じゃあワシも行こうかな。」
「って…。
じっちゃん、『年寄りの冷奴』ってことわざ知ってっか?」
「なにをぅっ!?
ワシとてまだまだ現役マッタダナカだぞ!!
なあ大玉斎!
こうなったらワシらのイケてるメッチャナウい泳ぎっぷりを、この小生意気な娘っ子共に見せつけてくれようぞ!!」
「スマンがワシはパス。」
「なっ!
なぜだっ!?」
「ボディが錆びる。」
「だあぁっ!!
だったらこんなとこで『海の家』なんかやってんなーーーっ!!」
「てゆーか海水で錆びるサイボーグってトンデモないなー…。」
「そうですね。
生理食塩水で錆びる可能性すらあります。」
カウンターの向こう側で人知れず人参をむき続けていたフーメイが、ふいに気を利かせてリララ教授に相槌をうった。
「うわっ!フーちゃんまでいるし!!
いったいいつ現われたのっ!?」
「……。」
説明せねばなるまい!
フーメイはこのアカデミーの理事長であるビッグGの側近、人呼んで『謎のチャイナ美女』(?)である。
だからアカデミーの教授を務めているリララとも当然顔見知りなわけだ。

ところで側近とは言っても第1話ではいなかったのだけれど、あの時はビッグGの目的が目的だったため「トイレに行く」とダマされてオイテボリにされてしまっていたのである。
そんな理事長のお付きだとは、苦労が絶えなさそうだ。
「なんやお嬢チャン、フーメイはんとも知り合いなんかいな。
ところでこう言っちゃ可哀想かも知れへんけどな、フーメイはんなら最初っからずっとアソコにおったで。」
「フォローありがとうございます。
しかし慣れておりますので。」
「…そうなん?(~_~;)ゞ」
それにつけてもおギンとしては「ソレを言うなら『年寄りの冷や水』やー!」というツッコミをかなり前にいれてほしかったのだが、完全にナガされてしまったようでちょっとサビシかった。



その頃トーキチローは1人で沖合1200km地点にいた。
ココまで来るとむしろ、普段いるのとは違う大陸のほうが近いほどだ。
素潜りで海面と海中を往復しまくっていた彼は今ボートに上がって一息ついていたところである。

だがふと視線を巡らせるとカゴから抜け出したらしい蛸が一匹、ボートのへりをネリネリと移動している。
トーキチローは左手に握ったステンレス製の熊手のような道具でソレをからめとると、ポイッとカゴの中へと放り込んだ。
 
「ふう、どうやら100匹ほど捕獲できましたネ。
これだけあれば10匹くらいはわさび醤油で踊り食いにしてもいいでしょうか。

でもリララ教授は西洋系の方ですからお刺身はダメかも知れませんね。
ここは京風たこ焼きや明石のたまご焼きにして御馳走するのも手でしょう。

ああリララ教授!2人でステキな『海のおもひで』を作りましょう!!
待っていてください!
今トーキチローが戻りますっ!!」
 
なにやらゼッコーチョーバリバリ全開でタコを捕獲し終えたトーキチローは、自分のヒミツ計画を述懐しつつエラいハッスルっぷりでボートを海岸に向けて漕ぎ始めていた。

しかしこの時、彼は気付いていなかった。
カゴから抜け出したと思われた一匹の蛸が、実は空からこのボートに降り立ったモノであったということに。
そして今、ソレを追うようにして深海より巨大な物体が浮上して来ているということにも。



「お、メッチャ可愛いやぁん☆
さっすがウチが見立てただけのことはあるな!」
「やだ、そんな、食べちゃいたいくらい可愛らしいだなんて照れちゃう☆」
「いやナニもソコまで言っとれへんけどもナ。」
フェイスウィンドゥの絵が変わっていないのでお判りいただけないとは思いますが(爆)、
リララ教授はおギンに見立ててもらって水着に着替えていた。
色白の肌とブロンドに合うようにと、薄い水色の爽やかなツーピースだ。
一方おギンの方は健康的なオレンジ色の水着姿になっている。

ちなみに『海の家』の在庫の中からおギンが勝手に引っ張り出してきたというのは大玉斎にはヒ・ミ・ツ☆

彼女達は「着替え終わったら『海の家』の外で」と待ち合わせをしていたのだが、なぜか暑苦しい格好の2人の老人も外に出て来ていた。
「むう、さすがに若いというのはイイな。
肌がそんなに…。」
「うわ、おっちゃんヤラし〜〜〜。(¬▽¬)〜♪」
「むをっ?!
ナッ、ナニがぢゃっ!?(◎M<;)゛゛゛」
「いやいや、そこな少女よ。
今コヤツが言ったのはな、肌がそんなに有ってイイなと、
機械の割合が少なくてイイなと言っているのだ…。(ーー;)」
「…はぁ、そうなんデスか…。」
「しかしまぁ、たしかにイイな。」
ビッグGがムヤミにニヤリとしながらリララ教授を眺め回す。
たった今勘違いな発言をしてしまったおギンは、彼らとは親しいらしい金髪の少女に耳打ちをする。
「ん〜なぁ、お嬢チャン。
アッチの黒マントのおっちゃんもサイボーグかナニかなんか?」
「ううん。
理事長の発言は単なるセクハラだヨ。(>∇・)b」
「…はぁ、そうなんデスか…。」
どうにも銀河最高の頭脳集団というやつにはツイていけないおギンであった。
 
「よっしゃ!ほな気を取り直して、泳ぎに行こかー!!」
「うん!」
「そうですね。」
リララに連れ出されたフーメイが、台本を棒読みにでもしているかのような口調で黒いチャイナドレスのままついて来た。
それを見て思わずズッコケたおギンは頭から砂浜にツッコんで埋まってしまった。
「な!なんやフーメイはん!
そないなカッコで泳ぐつもりかいなっ!!」
「ええ。
だいたい泳ぐ時はこの格好です。」
すかさず当り前のように落着いた返事がかえってきた。

『だ〜!金髪の子はマズマズええとして、いったいなんなんやコイツら〜〜〜!!』
思わず頭を抱えるおギンである。
 
「でもそーだね。
フーちゃんも水着になったら?」
「こら小娘!
フーメイをそのふ菓子のような名前で呼ぶのはヤメロと言っているだろうが!!」
「別にフーちゃんはイヤがってないからイイじゃないですか。
ね〜、フーちゃ〜ん☆」
「ええ、私は構いません。
ところで水着、…と言うのはソレのことですね。
残念ながらソレは着れそうにないですが。」
ナイアガラの滝のように涙するビッグG理事長のことはひとまず無視して、フーメイはリララが着ている水着を指し示した。
「別にコレじゃなくてもイイの☆
フーちゃんだったらきっとワンピースとか似合うよ。
あれってプロポーション良くないとダメなんだー。(^-^)」
「ちょっと待っててネ☆」と言い残して、リララはフーメイの手を引き『海の家』へと戻って行った。

数分後。
リララに手を引かれて再び出てきた時、フーメイは黒いワンピース水着に身を包んでいた。
東洋人としては非常に均整の取れたスタイルに胸元の赤いバラ模様が花を添える。
「うわー、フーメイはん、めっちゃスタイルええわぁ。(゚o゚)
しっかしなんや、その武骨なゴーグルは付けたまんまなんかいなぁ。( ̄▽ ̄;ヾ」
当然のごとくゴーグルをかけたままのフーメイにツッコミをいれながらも、健康的な姿態にそぐわない巨大な右手でポリポリと頭をかくおギンであった。



いっぽうその頃、トーキチローはと言うと。
「うわーーー!
なっ、なんなんですかーーーっ!?」
全長20mはあろうかという巨大な軟体動物に追われて、猛然とボートを漕ぎまくっていた。
「うーん!
この状況から鑑みますに、私が先程捕獲した蛸の中のいずれか、あるいは複数もしくは全部があの大蛸の子供とかいうのがパターンでしょうか!?
しかし蛸にそんな知能や母性があるはずがありませんがっ!
だとしたら何故っ!?

しかしとにかく相手は蛸です!
陸にさえ上がればコチラが有利なはずです!!」
 
というような理由で猛スピードで陸を目指していた。



さて、こちらは『海の家』前の海岸。

思いっきり怪しい外見の老人2人は、ビーチパラソルを立てて拾ってきた流木に腰を下ろしていた。
リララ教授達は『海の家』から遠く離れた海岸の反対側まで行ってワイワイと遊んでいる。
その様子を遠目に眺めながらビッグGは軽く笑みをこぼした。
「まったく、あいつらはノンキなものだな。」
「いいことじゃないか。
旧大戦中にワシやお前達が夢見ていた世界が、若い連中が安心して過ごせる世界が実現しているということじゃよ。」
「まぁ、そうかもな。
…まったく、あの頃は貴様らの軍団には苦戦させられたものだ。
ところでどうだ、『調査』のほうは?」
「ココでの『調査』はもうじき終る。
『竜の一族』の謎を解くにはまだまだデータ不足じゃがな。
報告は今回もフーメイの方に直接送るぞい。」
「ああ、頼むぞ。

…うむ?
なんだアリャ!?」
無意識に声のトーンを落として話していたビッグGがふいに大きな声を出した。
見ると、沖の方に白い煙のようなものが見える。

どうやらナニかが豪快な水飛沫を上げつつこちらに接近して来ているようだ。

大玉斎はガバッと立ち上がって視界の高さを調整すると、右目部分に装備している『マルチ千里眼スコープ』を起動させた。
「アレは、手漕ぎボートのようじゃな。
漕いどる奴の背中が見える。
しかし物凄い速度じゃ。200ノット以上出てるぞい!
どう見ても手で漕いでおるがホントに手漕ぎかいっ!?
むっ!?」
水飛沫の中でナニかが水中から一瞬飛び出し、ボートが跳ね上がったのが見えた。
「『魚群探知機』作動!
海中にもナニかおるぞい。
大きい…なんじゃ?
このシルエットの形は…たっ、蛸っ!?
大き過ぎる!頭だけで10mはあるぞ!
ソレがボートを追っとるんじゃっ!」
「えらい速さだな、おい。
アレでは接岸っていうか座礁するのでは…、
っていうか避けろーっ!!」
見る間に砂浜に接近したボートは、なんとその勢いのまま海水を巻き上げつつ大きく宙に舞った。
すかさず伏せた老人達の頭上を飛び越えたそのボートは砂浜に落下、その衝撃でバラバラに砕け散ってしまった。

普通ならああいうボートは除々に浅瀬に乗り上げて身動き取れなくなるはずのところなのだが、並々ならぬスピードがあったために浅瀬の勾配がカタパルトのような働きをし、ボートを空中に跳ね上がらせたのだ。
「むう、危ないところじゃった!
すでにこんなに接近しておったとは!!」
「はやく気付いて良かったわい!」
ちなみにビッグGは片目に眼帯をつけているため距離感がつかめず、大玉斎は望遠モードを起動させると拡大映像しか見えなくなるため距離感がなくなってしまうという、タイヘン危ない人達なのだ!
「ふ、どうやら上陸失敗のようです。
さすがに後方は見えないので危険ですね。」
バラバラのボートの残骸が散乱する中で、ぶつぶつ呟きながら網を担いだ人影が立ち上がった。
ボートの破片や舞い上がった砂をかぶってしまってはいるが、得意の体術で受け身を取ったためどうやら無傷で済んだようだ。
「む!お主、トーキチローではないか!
こんな所でいったいぜんたいナニをやっておるんじゃ。」
「おや、これは奇遇ですね。
御無沙汰しております、事務長先生。
まぁ、とりあえずつもる話はあとにして逃げるとしましょう。」
トーキチローは大玉斎とは同郷であり親しくしているのだ。
しかし彼はあいさつもソコソコでふいにキビスを返すと軽やかに走り始めた。

取り残された2人が『?』を頭の上に出しながら顔を見合わせると同時に、海の方でナニか大きなものが動く気配がした。
振り向くと、巨大な蛸がウネウネと体を蠢かせつつ砂浜に這い上がって来ているところだった。
「むぉーっ!?
なんだあの大タコっ!
陸に上がってくるぞ!!」
「こらトーキチローーっ!
いたいけな老人達を置いて逃げるなぁーーーっっ!!」
「いやです。逃げます。」
蛸がいっぱい詰まった網を背負ったトーキチローは跳ねるように逃げて行く。
思わず2人もその後に続いて走り出していた。

そして巨大な蛸のほうはと言うと、トーキチローの読み通り水中から上がった途端動きが鈍くなり、軽快に走り去ろうとする3人になすすべもなく、ウネウネとしていた。

しかし、ふいにブルブルとその巨体を震わせはじめると2本の足を後方にはねあげた。
するとソレらはゴムのようにグニョ〜と伸び広がり、コウモリの翼のような形に変化。
バサァッと音を立てて羽ばたくと、蛸のようなその巨大な生物は宙へと舞い上がった。



「むおっ、なんだぁっ!?
なにぃっ!!」
3人が並んで砂浜を駆けていると突然あたりが暗くなった。
何事かと天を仰ぎ見ると、彼らの頭上には黒い翼を広げた件の大蛸が飛来していたのだ。

ソレはおもむろにタコ足の1本を振り上げると、驚愕する一同目掛けて勢いよく足を振り下ろしてきた。
 
「ビッグG!キケンです!!」
ふいにビッグG達の前に黒い影が滑り込んできた。
あまり健康そうではない肌に黒い水着のコントラストが悩ましいフーメイだ。

彼女は正体不明のボートと巨大UMAが理事長達に向かって接近しているのを遠目で確認し、急いで海岸の反対側から駆けつけて来ていたのだ。

その直後、ブバチャッという、えも言われぬ衝撃音が辺りに響いた。
彼女はなんと、そのか細い両腕で大蛸の足をガッシリとキャッチしたのだ。


説明しよう!
フーメイは事務処理に秀でているのみならず、理事長のボディガードも兼任している。
彼女は5000年の昔より大陸に伝えられてきた実戦拳法『メイソーゲイ』の使い手でもあるのだ。

回転系の、優雅とすら言える体捌きを特徴とするこの拳法は、相手の動きや攻撃の力をその回転の中で分散・吸収させてしまう技術を含んでいる。
さらにはその勢いを逆に利用し相手を倒すことも可能という拳法であり、古事にはこの術を使う年老いた小男が1度に3匹のヒグマを倒したという記述が残されているほどである。

そう、この術は古来より小柄な人間や女性にこそ向いており、また敵の力が強いほどにその効果は絶大であるのだ。


が!
しかし今回ばかりは相手がパワフルすぎたようだ。
なにせ全長20m級の蛸相手に身長1m78cmの女性である。
これはすでに相手の力を受け流すとかいう次元の問題ではなかった。

フーメイは逆にタコ足につかまるかたちになり、そのまま天めがけて弾き飛ばされてしまった。
「あーれーーー…」
「むををっ!?フーメイ!!
おのれ!たかがデカいだけのタコの分際で!
許さんっ!!

食らえぇぃっ!
『リジチョー・ビィーーームッ!!』
ビッグGがゲッタービームばりの雄叫びを上げると、左目に着けた黒い眼帯から眩ゆい科学的破壊光線がほとばしり出た。

なんと言っても距離はそう離れていないし、的もバカデカい。
ビームは見事に蛸の頭のど真ん中を捉えた。

だがしかし、なんという事か、ビームが当たる瞬間にその当たるであろう部位がグニョンッと穿けて、大蛸はまるでイカリングのような姿になった。
そしてその空間をビームが通り過ぎた後、ダッポンッと音を立てて、また羽根付きの大蛸の姿に戻っていた。
なにぃっ!?
アルマイト合金程度ならば一瞬で蒸発させる『リジチョー・ビーム』を、あんな風に避けるだとっ!?

みんな気を付けろ!
ヤツめ、ただのタコじゃないぞっ!!」
「って、そんな事見ればわかります!
…いや、
て、ゆーか、
ようやく気付いたんですかっ!?」
「いや!
単に今まで気付かんかっただけだ!!」
「一緒ぢゃ!一緒っ!!」
光の速さで大玉斎の裏手ツッコミが炸裂する。
と、突然大玉斎の頭の辺りで「ぴぴぴぴぴっ」と電子レンジの調理終了アラームのような音がした。
「む!
ワシの頭に搭載した電子頭脳による分析が終了したようじゃっ!」
「と、搭載って…。」
トーキチローがちょっと絶句していると、大玉斎の頭の脇からガッコンガッコンと音を立てて、レシートくらいの幅の紙が除々に押し出されてきた。

よく見るとその紙には機械で開けられたらしい小さな穴が幾何学的に並んでいる。
どうやらコンピューターの黎明期に存在していたと伝えられる『パンチカード』というモノのようだ。
あの穴の並び方によって計算されたデータ内容が示されているらしい。
トーキチローは本格的に絶句した。
「うむ!やはり間違いない!
貴奴は『水』のエレメントの根源たる『極次存在(きょくじそんざい)』の1体ぢゃっ!!」
「なにぃっ!?
ではアレが『深淵なる者』、『クスルー』なのかっ!?」
「それって、魔道書『ネクロノミカン・エクスモルトス(死者の書)』にその名を記された『水の神』のことじゃないですかっ!
まさかそんなモノが実在するとでも!?」

 
「いいや!
アレそのものはその手の『神』などというあやふやな『概念存在』ではない!
『プルトニウム』と同じく邪悪なる『神』の名を冠された超越的存在!
我々の超科学・『第参科学』をもってしても解析しきれない、人類の英知の極限を凌駕するモノ達の名!
それが!それこそが『極次存在』!!

現象としては『実体のない高エネルギー波のゆらぎ』としてしか捉えられないのに、巨大にして複雑な形質を持ち、そのふるまいは意志を有し行動しているとしか考えようのない謎の超高次存在なのだ!

奴らは、人が歩き移動するようにやすやすと星間さえをも移動する!!
かつて『アンドロメダ幽霊船団』や『三重連太陽の悪魔』などと呼ばれアストロノーツ達を恐怖せしめた数々の怪異も、奴らと同等の『極次存在』達がその正体だったのだ!!」
「そ、そんなのが、なんだってこんな場所に!?」
「教えてやろう、それはココがいにしえよりの『契約の地』だからじゃ。
それこそがココが封鎖海域である本当の理由なのじゃよっ!!」
「え?
ここ、封鎖なんてされてなかったですよ。」
「なにっ?!
どおゆうことぢゃ理事長!
こんな危険な海域の封鎖を解いたのかっ!?」
「何を言っとる!
『せっかく『海の家』を作ったのにちっとも客が来ないので封鎖解除してくれ。』
とかお前が言うから、先週解除指令を出しといてやったではないか!!」
「あ?
そんなこともあったっけ…?」
「でなけりゃ、バイトとか小娘とかが入って来れるわけがないだろ!」
「おおっ!なるほど!!」
大玉斎がぽんっと手を打つ。
蛸が振りまわしている足を避けつつ走りつづける3人の間に白い空気が流れた。
 
「…むぅ、すまんな。
せっかく盛りあがっておったのに。(◎M<;)ゞ」
「いえいえ、構いませんとも。」
「ああ、構わん構わん。
いいからとっとと逃げるベェ。」
「…なぁ、なんか思いっきり白けておらんか?」
「いえいえ。」
「あーあー。」
実は思いっきり白けていた。



ところでいっぽうその頃、
海岸の大ダコが暴れている反対側、リララ教授達のいる辺りでは。
「いや、まさかいきなり弾き飛ばされるとは思いませんでした。
ビックリしました。」
「ちゅーか!
なんで自分まるっきり無事なんよーーーっ!?(≧□≦)゛゛゛」
「そうですね、
なんと言っても日頃の行ないが良いからではないでしょうか。」
あの後、タコ足にふっ飛ばされたフーメイは海に落ちていた。
それを見たおギンが助けに飛び込んだのだが、フーメイは勝手に上がって来てしまっていた。
しかも無傷で。
「あ、ねぇねぇ、見て見て、キレイな貝殻みつけたヨー☆」
「はぁー…。
まぁ、とにかくフーメイはん無事でナニヨリやったわ。

お、お嬢チャン、ええもん見っけたな。
ソレは桜の花びらみたいな色と形しとるから『サクラガイ』ゆうんやで。

あ、せや、せっかくの夏の海やさかい、みんなで記念撮影でもせぇへん?」
なんだか修羅場まっただ中な男性陣とはウラハラにのほほん気分な彼女達である。



さてさて、こちらは修羅場まっただ中な男性陣。
空飛ぶ大蛸はついに口(?)からビームまで吐き散らしはじめていた。

ところでトーキチロー達は3人並んでエッホエッホとさっきから海岸の一部をグルグルと回り続けている。
なぜかと言うと、砂浜から陸の方に入ると杉林があるため地上を走るしかない彼らは空飛ぶ蛸にやすやすと追い付かれてしまうからで、だからと言って海岸をまっすぐ行くと女性陣を巻き込んでしまいそうだし、『海の家』に隠れてもビームで一撃っぽいし、それに海に入ったら蛸にはかなわないだろうし…。

そんな訳でグルグルとしていた。
「おいおい!
なんでだか状況は一向に良くならんぞ!
どうするよ!?」
「落ち着けいっ!
いかな『水の神』とは言え貴奴は所詮タコ!」
「なんか言ってることムチャクチャですよ!!」
「なるほど!
アヤツのような極めて高次元の存在には、我々ごとき者達の理屈や常識などは通用しないと言いたいのかっ!!」
「なんだか、すーげーダマされてるよーな気がします!!!」
「うむ、ダマしてる!!」
「言いきるなっ!!
てゆーかバラすなっ!!」
「バ、バラすってっ!?」
「こらーーーっ!
巧妙に誤解を深めさせるよーな二重ボケを口走るんじゃないっ!!」
「はっはっはっ!
ただのノリツッコミだ!
気にするな!!

で?蛸だからどうしようと言うのだ?」
「うむ!
タコツボを用意すればその中に入ってしまうんじゃないかと思うんじゃが!!」
「どこにあんなデケぇ蛸が入るツボがあるってんだっ!?」
「んじゃ、食塩をぶっかけてヌメリを取るというのは…。」
「下ごしらえをしてどうするっ!!」
「これはどうにもラチがあきませんネ。
仕方ありません、ここはいよいよ私の切り札をお見せする時が来たようです!
御覧にいれましょう!
今誕生する先進の超メカニックを!

カムヒアー!『ヤミカゼ』ーッ!!」
『NI−N−JAH!!』
トーキチローが左手首につけている腕時計に向かい叫ぶと、その声に応えるようにしてドコからともなく低い合成音声が響き渡り、トーキチローの背後の空間が大きく歪んだ。
次の瞬間、ソコには身長6mほどの黒いロボットが出現していた。
「なにっ『光学擬態』!?
しかも『無音駆動』かっ!
あの大きさでっ!!」
「そうです!
コレこそが!このイタミ・トーキチローが5年の歳月を費やし建造した『鋼鉄ニンジャ』!
名づけて『シップウジンライ・ヤミカゼ』!!」

『鋼鉄ニンジャ=シップウジンライ・ヤミカゼ』!
それはさまざまな特殊能力を持つニンジャ型オートボットである。
全高5m98cmのタングステンカーバイト製ボディには、『ネオバリオンリアクター』と『リニアジャイロバランサー』を搭載。
全領域に対応し隠密活動までもを可能とするスーパーニンジャマシーンなのだ!!
 
「ところでちょっと待て。
アレ、今出てくる時、なんか言ったか?」
「ええ。
『NI−N−JAH(ニンジャー)』と。」
「って、お主!
『忍(しのび)』を馬鹿にしとるなっ!!」
「いえいえ、アレはカタカナもしくはローマ字で表記する『ニンジャ』であるのですからして、日本語の『忍』とは別次元のモノなんですよ。」
「ああ、それもそうか。」
「ホントかよっ!?」
「それでは行きますよ『ヤミカゼ』!
お前の素晴らしい性能をお見せして差し上げなさい!!
とぉっ!」
トーキチローは掛け声と共に大きくジャンプすると、『ヤミカゼ』の背中に飛び乗った。
「さあ『ヤミカゼ』!
ただちにあの大蛸の攻撃範囲内より素晴らしい速度にて全速離脱です!!」
『NI−N−NI−N!』
『ヤミカゼ』は背面下部に開口しているスラスターと足裏のローラーダッシュ機構を使い、2足型ロボとは信じられない素晴らしい速度にて一目散に撤退を開始した。
「だあぁっ!
そんだけカッコツケといて逃げるだけかいっ!!」
「『ヤミカゼ』は諜報活動専門の隠密なんです。
特に武装は施しておりませんので。」
「まぁそれはそれでしょーがないとしてだ!
いたいけな老人達を置いて逃げるなっつぅのーーーっっ!!!」
「すみません。何も聞こえません。」
「貴様ーーーっ!
こういう時はもっと笑えるボケでゴマカさんかーーーっ!!」
ちなみに『ヤミカゼ』の素晴らしい移動速度は時速約80kmオーバーである。
ソレに並走しながらツッコミをいれられる2人もやはりタダモノではない。

ちなみにちなみに、トーキチロー達の移動速度のアップに対抗して空飛ぶ蛸もスピードアップしていた。
つまるところ砂浜をグルグル回るスピードが上がっただけで一向に何も解決していなかった。



「ほら、記念撮影やで。」
「あの、ちょっと…。(゚ー゚;)」
大きな右腕がリララ教授の腰をグイととらえておギンのほうへと引き寄せていく。
極めてノーマルな嗜好のリララは思わず振りほどこうとしたが、この右腕は見た目通りのもの凄いパワーを発揮していてとうてい抗しきれるものではなかった。
「あのー、ところで私はビッグGの加勢に行きたいのですが、失礼してよろしいですか?」
2人の後で棒立ちしているフーメイは、飛んでる蛸が暴れているほうを向いてすぐにもあっちへ行きたいという感じで話しかけてくる。
その視線の先ではビッグG達が蛸に追い回されているところだ。
「待ちぃな、もうちょいで撮り終わるさかい。
ほら、お嬢チャン、もっとコッチ寄らんとフレームに入らんて。」
ぐいぐい。
「ああん、そ、そんなぁ…。_(>o<;)」
 
『う〜ん、かわいいや〜ん。』
そっちのケはないはずなのだが、少女の愛らしい反応に思わずグッときてしまうおギンであった。
調子に乗ってさらにぐいぐい。

一方、海岸の反対側では蛸の放つビームがドカーンドカーンと爆発を巻き起こしている。
「あのー…。」
「やぁ〜〜ん…。」
リララはこれ以上肌を許すまいと左腕を突き出しておギンの接近を防御しようとしたが、その腕がおギンの豊かな胸に挟まれてしまい思わず変な声を上げた。
自分のその声がさらに恥ずかしかったのか、リララはあっという間に耳まで真っ赤にしてうつむいてしまった。

一方、海岸の反対側では蛸の攻撃が効いているのか「うわー」とか「ぎゃー」とか、野太い叫びが上がっている。
「あのー。」
「ほらほら〜♪」
「…。(_ _)」
ドカーンドカーン。
「うわー」「ぎゃー」
「ああっ!もぉ、うるさぁーーーいっ!
『ヘンゼル』!『グレーテル』!
ウェイクアップ!!」
ぶちっと、いきなりキレたリララ教授が声を張り上げた。

その叫びに反応して、水着の腰の両脇に付いていた紫色の2枚の円盤が回転しつつ空中にふわりと浮きあがる。
これらは普段は教授が靴下の横に付けているモノで、右が『ヘンゼル』、左が『グレーテル』である。

この2枚の円盤はそれぞれ時計方向に高速回転しながら教授が振り上げた右手の上方で向かい合わせになると、その間の空間でバリバリと稲妻のようなモノが光り始めた。
「うわっ!
な、なんやのぉ!?Σ(゜ロ゜;)」
いきなり耳元で大声上げられたうえ、凶器を出されたおギンはすっかりビビッてしまった。
「アタック!
『超電磁スピナー』!!」
「うっひゃぁ!
堪忍してぇなーっ!!〈(≧□≦)〉゛゛゛」
 
リララがビシッと突き立てた人差指を、隣で頭を抱えてしゃがみ込んだお姉さん、にではなく、遠くで暴れている巨大蛸に向けると、円盤達はその動きに反応して巨大蛸を目指し一直線に突進して行った。

その間にも放電は強くなっていき、すでにその周囲から光を放ち青白い軌跡を残している。
高エネルギーの輻射による周囲の空気の臨界、すなわちプラズマ化である。


巨大蛸は早くも異様な気配の接近を察知したらしく、グルリと体をひねると、円盤の突き進んでくる直線上の部位をグワッと開いてまたもイカリング状態になった。
白熱した円盤達はその輪っかの真ん中をむなしく通過していき、イカリングはまたもダッポンッと音を立てて羽根付きの大蛸の姿に戻った。

と、その時、蛸の頭の中心がバチバチという音と共に煙を噴き上げ巨大蛸は足をばたつかせてもがき出した。
輪の中心となる空中に残された円盤の白い軌跡、超電磁反応により電離を起こしたプラズマを、リングから蛸に戻る時に内部に取込んでしまったのだ。


その様子を確認したリララ教授は左耳に付けているカッコよくない機械のボタンを『ペポポプパポッ』という音を立てさせつつ連打する。
すると、一直線に飛んでいた円盤が空中で分離し、それぞれ複雑な軌道を描きつつ大蛸に襲いかかった。

大蛸はそれでもイカリング状態になって避けようとするが、リララ教授により計算された軌道はそのリング状になった形での細長い本体を確実に捉えていた。
「『超電磁ブレイク』!
…インパクト!!」
リララ教授が叫びながら右の拳を突き上げると同時に、イカリングの右端と左端に円盤がめり込んだ。
その瞬間、巨大なイカリングから強烈な閃光が発し、まるで大地を裂くような、眼前に落雷したかのような轟音が轟き渡った。



もの凄い破壊音と閃光にビビリまくったおギンが、ようやくおそるおそる目を開けると、リララ教授の頭上に2枚の円盤が戻って来たところだった。
ソレらは自身を冷却するようにひとしきり回転して、ゆっくりと腰の所に降りてぺたっと水着に貼り付いた。

そのかたわらではフーメイがパチパチと拍手をしている。
「ぶらぼー。」
フーメイの視線の先、さっきまで大蛸が暴れていた海岸の反対側には、黒焦げになった蛸の姿焼きが横たわっている。
「は〜、スッキリ、スッキリ♪

あれ?
お姉さん、どしたの?」
「い、いや、すごいわぁ…。(◎△◎;)」
『こ、この子を怒らせたら確実に殺(ヤ)られてまうで!マジで!!』

何事もなかったように純真そうな笑顔を浮かべる少女を前にして、戦慄を禁じえないおギンであった。
だがリララは単純に誉められたと思って照れている。

『でも、でもやっぱりかわええのぉ〜(≧▽≦)。ギュッとしたいかも…。命賭けてもええやろかぁ。』

おギンは本気で考え込んでしまっていた。
道ならぬ禁断の迷宮へと一歩踏み込んでしまったおギン、16才の夏の出来事であった。



「ぐはぁ!
ビリッとキた、ビリッと!
いったいナニが起きたんじゃ!?」
「今のはリララ教授の『超電磁スピナー』のようです。
ご本人は一種のプラズマスマッシャーだと言っていましたけど、間近で炸裂させられると本当に危ないですねェ。」
『NI−N−NI−N』
「プラズマスマッシュに加えて、強烈な荷電攻撃による電気爆発のオマケ付きだ。
まったく小娘め、ああいう兵器を大気圏内で使うなと何度言えば判るんだ。」
衝撃波で砂浜にひっくり返った3人+1体は、そのまま黒焦げの大蛸と、プラズマ兵器の余波である上空に出たオーロラを見やっていた。
それにしてもえらい破壊力だったようで近くにあったはずの杉林などは根こそぎ吹き飛んでいる。
「あー、しかし、くたびれた!」
「でもなんか、メチャクチャあっけなかったですネ…。」
「教授の秘密道具がトンデモないんじゃよ。
それにしても…

あのクスルーが最後の一匹だとは思えない…。狽吹i◎M<)グッ」
海に沈んでいく夕陽に向かい、ポーズをキメる大玉斎だった。
「あ゛ーっ!
ソレわしが言おうと思っとったのにーっ!!」
「馬鹿者!
言った者勝ちぢゃっ!!」
「貴様!それでも共産主義者かっ!
赤い旗が泣いてるゾ!!」
「帝国主義者がいらんコトぬかすなっ!!」
「それにしても思わぬところでいいモノが撮れました。
あとで壁新聞に載せましょう。
見出しは『南海の大決斗!クスルー対理事長』でいいでしょうか。」
トーキチローは蛸の詰まった網を傍らに置いて、バンダナの横に仕込んであったミニカメラの画像をチェックしている。
走りながら撮ったわりには怪獣映画のようなカッコいい画像が多い。
「おいおい、なぜワシの名の方が後につく!?
前に出せ、前に!」
「ちゅーか理事長などはただ走りまわっとっただけじゃないか!
それに『クスルー』というのは字面的にカッコヨくないぞい。
『タコラ』にしとけ!」
「『タコラ』って言ったら『く〜れくれ♪』ではないかっ!!
そんなんパクるな!!」
「なんぢゃとぉ!?
怪獣に『〜ラ』がつくのは当然ぢゃろおが!!
エビは『エビラ』だし、カメは『ガメラ』ぢゃろ!!
ならばタコは『タコラ』ぢゃっ!!」
「カメには『カメーバ』がおる!
て言うかせめて濁点つけて『ダコラ』にしとけぃっ!!」
「そーゆー問題かぁーっ!!」
「やはり『南海の大決斗!理事長対事務長』にします。」
隣で言い争っている『無駄に大迫力な2人』にファインダーを向けるトーキチローであった。



今日もまた、戦い(?)終って日が暮れて、キャンプファイヤーに火を灯した『海の家』の前には巨大な物体が横たわっていた。
「う〜ん、しかし、どー見てもこりゃ蛸だよな。
そういやフーメイ、今夜みんなで食うカレーの準備は終ったのか?」
「すみません、まだです。
あと海鮮を加えて煮込むというプロセスが残っています。」
「海鮮か、ちょうどイイな。
コレ入れてみるか。」
「なんですとー!!」
「ヤメんかぁっ!
フーメイ!そんなモンを入れるでないぞっ!!」
「まぁ、そう言うな。
世の中にはツインテールの味見をするようなヤツだっておるんじゃゾ。」
「ウルトラ怪獣大百科の『〜みたいな味がする』なんて記述を信じとるのか貴様はっ!!」
「ビッグG、なかなかサバきにくいです。
コレ。」
「って言いながらスデに入れてるしーーーっ!!Σ<(lllロlll;)>」
「誰かあの2人を閉じ込めろぉぉっ!!」



いっぽうその頃、おギンは『海の家』の裏手に駐機してある自分の赤い複葉機の調整をしていた。
もっとも、飛行機の調子が悪いと聞いてついて来たリララ教授が横でアドバイスをして、おギンはその通りにやってるだけという感じになってしまったが。

作業の終ったおギンは、ムラのない回転音を上げるエンジンを見上げていた。
パルスジェットと超伝導エンジンが一般化している今では、ロータリーエンジンでプロペラを回して飛ぶようなこんな飛行機は博物館か骨董屋にでも行かないとなかなかお目にかかれないものだ。
「いやー、しかしほんま助かったわ、お嬢チャン。
何度あそこのクランクシャフトを交換してもスグにワヤになるさかい、そろそろ全体的に寿命なんかと思とったんよ。
こんなにええ音立てよるの聞いたんは久しぶりやで、ほんま。」
「えへへ☆
前に『蒸気将軍』さんにこーゆー形のエンジンだとピストンの緩衝ラバーが傷むって教えてもらったことがあったからネ。
それが原因でクランクのほうにもムチャな力がかかるって。
ラバーの方は見えないところに入ってるうえ、小さい傷が付いた程度で効果が半減しちゃってる事が多いから気をつけたほうがイイよ☆」
「へ〜、そうゆうもんなんかぁ。
ウチ実は機械って苦手でな(^^;ゞ
勉強になるわぁ。
ほな、転がしてしてみっから下がってぇなぁ。」
おギンは翼に足をかけて機体によじ登ると、狭いコクピットにもぞもぞと入っていった。
そしてエンジンの回転をゆっくりと上げて、その推進力で『海の家』の海岸側に複葉機を移動させていく。

地上を移動する時のサスペンションの効果などほとんどないタイヤから、地面の凹凸が振動になって機体に直接伝わってくる。
おギンは舌をかんだりムチウチになったりしないようにと首から上にグッと力をいれてその揺れに対抗しつつ操縦桿を操作する。

すると、キャンプファイヤーの前でなにやら騒いでいたらしい大玉斎が、のろのろと表に出てきたおギンの複葉機に気付いてエンジン音に負けないような大声で話し掛けてきた。
どうぢゃ調子はー!?」
「ああ!あの子に手伝ってもろてバッチシやー!!
ほなウチそろそろ帰るでぇ!」
「おぅ!なんだもう帰るのかー!?
晩飯くらい食って行けばいいのに!!」
そう言われてみて、今日の晩御飯を作ってくれているはずのフーメイに視線を向けてみると、海岸に横たわった巨大な生物を文化包丁で切り刻んでカレー鍋に放り込んでいるところだ。
い、いやぁ!
なんちゅうか、遠慮さしてもらうわぁ!!(⌒▽⌒;)」
「そうかぁ?!
まぁ今日までおつかれさーん!

近いうちに振込んでおくからなー!

っておいコラ理事長!早くフーメイをやめさせんかっ!!
大玉斎事務長はおギンに軽く手を振ると、大蛸の影にいるらしいビッグG理事長達に向き直ってまたぞろ叫び始めていた。

『しっかし、ほんまにオモロい人達やったなぁ。』
おギンはココにバイトで来てからの数日間を思い出して、楽しげな笑みを浮かべた。

そうして複葉機の後からトコトコとついて来ている少女を振り返った。
プロペラの巻き起こす風に吹き上げられる長いブロンドとスカートを手で押さえている仕草がまた愛らしい。
おギンはなぜか胸がときめく気がした。
「なぁ、今日はホンマありがとな、お嬢チャン。
ほな、ウチはそろそろ…。

あ、そう言やウチまだお嬢チャンに名前教えてへんかったな。
もう遅いかもしれへんけど、ウチは『ギン』。
『おギン』て呼んだってぇな。」
「あ、じゃあ、『おギンちゃん』 だネ☆(^-^ ) 」
「あはは!
『ちゃん』なんかつけられたのって初めてやわぁ!
お嬢チャンは?」
「私は『リララ』。
『リララ・エンリル・フォン・ルキフェリウス』。」
リララが珍しく自分のフルネームを口にした瞬間、おギンの顔色が変わった。

目の前の聡明そうな金髪の子の、その奇異なファミリーネームが、『ドクトル・ルキフェリウス』という歴史に封印された名を思い起こさせたからだ。

おギンは瞬時に全身から血の気が引き頭の中がしびれるのを感じながら少しの間凍りついてしまった。

だがリララのほうは自分の名におギンを戦慄させる要素があるとはまるで思っていないので、黙ってしまったおギンの顔を見て小首をかしげていた。
しかし今まで太陽のように陽気だったおギンのその変化に、恐くなったのかおずおずと声をかけていた。
「あの、ね、どしたの?」
「あ、い、いや、悪い。
なんでもあらへん。( ▽lll)
そっか、リララちゃんか。
可愛い名前やん。

しっかし残念やな、せっかく仲良うなれたのに、ウチ今日でココのバイト終りなんよ。
また縁があったらどっかで会おなー!」
「うん。
お姉さん、またネ〜(^-^)/~~~」

おギンの乗った赤い複葉機は海岸の平らな所まで移動し正面に充分な直線距離を確保すると、エンジンの回転を一気に上げて加速する。
空気の抵抗を大きく広げた翼の下に叩き込み揚力としてその機体を地面から引き離して行く。

金髪の少女に手を振られたその真っ赤な飛行機は、軽快なエンジン音を響かせながら暗い夜空に飛び立って行った。
 
 
「おい小娘ぇっ!
フーメイ特製の海鮮カレーが出来あがったぞー!」
「あ、は〜い☆」
リララ教授はそのまましばらく暗い海岸で星空を見上げていたが、理事長の渋い声に呼ばれてにぎやかな『海の家』に戻って行った。

ところがカレーのいい匂いが漂ってくるキャンプファイヤーの側まで行くと、トーキチローがナゼか青い顔をして駆け寄ってきた。
「きょっ!教授!
このあまりに『特製』すぎるカレーは御遠慮させていただくとして、私が今からお作りするタコヤキなんか御一緒にいかがですか!?」
「え?
でもフーちゃんのカレー…」
「むぅぅっ!トーキチローよ!
ワシもソチラに御一緒させてもらっていいかなっ!?」
「なんだなんだ貴様ら!
かつて人類が経験したことのない味を堪能するまたとないチャンスだと言うのに!!

よしフーメイ!
かくなるうえは泣き落とせ!!」
「え…。

…了解。
みなさん〜、私が一生懸命つくったんですから食べてください〜。
でないとフーメイ泣いちゃいますぅ〜〜。」
フーメイはまるっきり抑揚のない口調で言いながらくねくねと身をよじっている。
「…不憫だ。(T△T)」
大玉斎とトーキチローは思わず涙した。
もちろん『泣き落とし』にではなく、『泣き落としをさせられているフーメイの姿』に、である。
「すみません、いたみいります。」


結局このあと、リララ達はトーキチローの作った『蛸のフルコース』を食べて翌朝帰路についた。

しかし夜明け前に宇宙服を着た人達が押しかけて来たりしてちょっぴり大変だったりした。
トーキチローの網の中に入っていた『ちょっと変わってる小さい蛸』が、5大幹部の1人であるアイン学園長の出向している『イ・ス生命科学研究院』に送られることになったからだ。
アイン学園長は『極次存在』研究の権威として有名なのだ。



ところで数日後、「理事長はこっちで寝込んでいる」と事務長からアカデミー本部あてに連絡が入ったという。
なんでも、理由は『特製カレー』で、しかも全快するまでに1週間ほどかかったらしい。

今回の教訓>『触らぬ神に祟りなし』。



「えへへ、なぁるほーどねー☆」
残暑厳しい倉庫区画の中、壁新聞部の部室でリララは貝殻に耳を当てながら1人うなずいていた。

トーキチローの解説により『貝殻のノイズ=海のおもひでの1ピース』という式がすっかり頭の中で成立した彼女には、その原始的なノイズでしかないはずの音が楽しかった海での思い出を想起させて、なんとも言えず楽しい気分にさせるのだった。

そんなリララがふと開け放しのシャッターの外に目をやると学園部エリアの方からやって来る1人の青年の姿が見えた。
厳しい陽射しの下、片手で開いた『文庫本』を目で追いながら歩いているその人影はトーキチローだ。

リララは机の上に置いてあった透明なハードケースを急いでエプロンのポケットの中にしまいこんだ。
中身は教員用のテキストリーダーやデータディスクが納まっているのだが、他に入れるモノがなかったので昨日の夕方プリントしてもらったおギンとフーメイとの写真も収めてある。

でも水着姿だから恥ずかしいし、それになんかお姉さんに抱き寄せられてるし、トーキチローには見せないでおこうと思った。


そうこうしていると本を読みながらトーキチローが部室に入って来た。
彼はそこにリララ教授の姿を確認すると少なからず驚いたようだ。
「おや、こんにちわ教授。
今日は職員会があるのではなかったのですか。」
「やほー、トーキチローくん☆
職員会はね、出なきゃ出ないで後から内容が連絡されるから構わないよ。
それより今から昨日のネタで新聞作るんでしょ?
手っ伝うよーん♪」
「最近では珍しくゴキゲンですね。」
あいかわらずブッキラボーな物言いをするトーキチローだ。
しかしその声がかすかに優しい響きを含んでいる。
リララも無邪気な笑みを彼に投げかけた。

リララの知っている限り、彼は1度も『笑った笑顔』を見せたことがない。
でも時々とても優しい声を出すことがあった。
それが彼としては最高に嬉しい時の表現だと知っているのは、恐らくこのアカデミーの中ではリララ教授だけであろう。
だがそれがリララ自身の振舞いによっているという事には、彼女は気付いてはいないようだ。
 
「あの、ところでリララ教授。
大事なお話があるのですが…。」
「ん?
なぁに?」
トーキチローは突然声のトーンを落とすと深刻な顔をリララに向けた。
「実は先刻、我等が『里』の電脳中枢に侵入したのですが、どうやら私の妹がコチラに来るらしいのです。
もしかするとすでに到着しているかもしれません。
私の時と同じく、教授には御迷惑をおかけするのではないかと思うのですが…。」
「う〜ん、まぁ、しょうがないよ☆
でもトーキチローくんて妹さんがいたんだ?」
「おや、今までお話ししていませんでしたっけ?
世界に5人しかいない『切捨御免状(マーダーライセンス)』を保持する特A級の超法規公務役執行員、…まぁ、平たく言うと『暗殺者』なんです。」
「へぇ、お兄さんのトーキチローくんは『忍者』だし、スゴい兄妹だねぇ。」
「ええ、よく言われます。」
「って、そんな涼しい顔で全肯定しないでヨ。
そういやユニオンJの人って名前の頭についてる方がファミリーネームだってこないだ誰かが言ってたけど、ホント?」
「ええ、そうです。
リララ教授達とは逆なんですよ。
ですから私の名だとイタミ・トーキチローのイタミの方が苗字なんです。」
「ふぅん。
でも変わった苗字だね、“pain”だなんて。」
「いえ…、そういう意味じゃないんですよソレ。
ジャパニメのニセ外人の名前じゃないんですから。」
「ああ、そういやいるよね、ランページとかフェイトとか、人の名前じゃない名前がついてるジャパニメのニセ外人(笑)。
とりあえず英語を使ってみましたっていうだけな感じの(≧▽≦)ノ★彡」
「そうですね。
逆に洋物とかだと、例えば『ナイトライダー』で日系の悪役が出てきた時、その根城に『人』って漢字がいっぱい書いてあったんですけど、アレなんか意味不明ですね。
ユニオンJの人間としては。

ちなみに私の苗字を漢字で表記すると、『新宿伊勢丹』から『新宿』と『勢』を抜いたものになります。」
「う〜ん、トーキチローくんの言ってることってゼンッゼンわかんないヤー☆」
そりゃそうだ。

まぁナニはともあれ今日もマイペースに新聞作りに精を出す壁新聞部であった。



同時刻。
学園部の中心地点にそびえ立つ1号館ビル、通称『タワー』。
地上240m。
80階建ての、その最上階。

まるで塗り込められたかのような黒い闇の中に、ふいに音を立ててひとかたまりの炎が巻き起こる。
激昂したように激しく揺らめく灯火は小さな掌の上でたなびき、その主の顔を青白く照らし出す。

少女。

その小柄な両肩の上に浮く巨大な球状のバインダーからは白いマントを垂らし、床につくほどまでに伸ばされた銀色の髪は大きくウェーブがかけられている。

彼女は掌の上に炎をかざしたまま、その場で足の位置を変え真後ろに向き直ると、闇に向け無機質な微笑みを投げかけた。
すると、暗い闇の中で黒い影が蠢き、凛と通る声が響き渡る。
「『陽炎(かげろう)のおギン』、推参。」
影が恭しく名乗りをあげる。
まだ少々の幼さを感じさせるが、強靭な意志を示すかのように透き通る女性の声だ。

すると銀髪の少女の背後に強烈な閃光とともに3つの影が出現した。
妙に細く長い腕に鋭い刃物のような気を漂わす影。
大柄で防寒着のようなものをまとい、ギチギチと小さな音をたて続けている影。
そしてひときわ大きく、左右に広がる頭部が戯曲に登場する悪魔を思わせる黒い影。

彼らは一斉にその訪問者に視線を向ける。
そして彼らの意思を代表するように銀髪の少女が口を開いた。
「待っていたぞ。
ココに呼び出したのは他でもない。
お前のこの星での自由を保証するアカデミーIDと生徒証、それとその他、学生生活に必要なモノ一式が揃った。

持って行くがいい、イタミ・ギン。」



それは、ヒグラシの声が夏の終りを告げているとある暑い日。
アカデミー学園部における夏期休暇、最後の日の事であった。



つづく





次回予告!

「こんばんは、トーキチローです。
今日、母星から取り寄せたシズオカ緑茶を淹れたら茶柱が立ちました。
何か良いことでもあるといいですね。

しかしまぁアレです、
確かに茶柱がいっぱい立つんですがコレでは飲めません。
急須にはやっぱり茶こしを付けましょう。

次回、超天才科学少女リララ教授の優雅な生活
『第4話 〜秋〜 「アカデミー学園部の一番長い日」』

では。」


Sijimiya Konoha & Yukaina Brothers. Presents

"Professor Rilalah @General Science Academy"