『第6話 〜冬〜 「アカデミーの一番長い日(後編)」』

   つづき!
 
 
「いや、マジ、手遅れっぽいやぁん!!」
おギンの上げた大声は轟音に掻き消されていた。

彼女達の頭上に、黒煙と劫火をまとう2つの大火球が飛来していたからだ。
 

 
「フーちゃん、おギンちゃん…」
朦朧とした意識の中、2人の声を聞いたリララは、2人を助けようと夢の中で力を振り絞った。

すると、リララがいつも靴下の膝の横に着けている紫色の円盤が外れ、空中で高速回転を始めた。
ソレがやがて回転していることさえもわからなくなるぐらいの超高速に達した時、その円盤の縁から内部に複雑にたたみ込まれていたパーツが展開し、白い光が溢れ出す。
ソレに呼応してリララ教授の白い肌に、無数の文字とも記号ともつかない模様が次々と浮かび上がっていく。
 

 
『GSアカデミーメインコントロールルーム』に甲高い警告音が鳴り響いた。

情報端末に向かっているオペレーター達から次々と事態の報告がなされていく。
「非常事態!
『ノアズ・アーク』内、『セントラルドミニオン』の『スティグマ(聖痕)システム』、起動しています!!」
「ファクトリーエリア内、東端に位置する廃ビルの反応点との共鳴と確認!」
「異常パルス増大!
タイプ、…『R−B』です!!」
「反転複製して増幅、『セントラルドミニオン』に逆流させろ!」
「大変です、理事長!
『ヘンゼル』と『グレーテル』、モニタリング不能に陥りました!!」
「『翼』までもが起動したのか…。
小娘…!」
『理事長、なんだこの反応は!?
ファクトリーエリアの『極次存在』が停止した近くで時空震が起きている!
規模そのものは小さいがモノスゴい深度の反応だ!!』
 
ビッグGが歯噛みをしているとアイン学園長が通信でわめきたててきた。

『イ・ス生命科学研究院』は生命科学の拠点研究所として、本星上の生態観測の情報を集めるために3桁にのぼる人工衛星の全てを管制下に置くことすら可能な大規模情報設備をも備えている。
ソレにより、月にあっても本星でナニが起きているのかを詳細に知ることができるのだ。
 
「始まった…。
『ドクトル・ルキフェリウス』の『遺産』が目覚めようとしている…!

いや、だがまだ早い!
早過ぎる!!
今の我々では目覚めたアヤツには勝てない!!」
『む!?
コレは『クトゥーガー』以外の高エネルギー反応か!?

種別、…赤?!
お前の言うソレも『極次存在』なのか!?』
「いいや、そんなナマヤサシい代物ではない!!
だが『降臨』はさせない!

『人類が犯した最大の罪』よ!
お前のその『翼』、今ココで解き放たせる訳にはいかんのだ!!」
 

 
「おギンさん!
行ってはなりません!!」
「アホ言いなぁ!
屋上にお嬢チャンがおるんやろぉ!?
避難させなぁっ!!」
おギンはフーメイの制止を聞かずにエラい速さで廃ビル内の階段を駆け上っていく。

そして屋上への扉が見えて来ると、姿勢を低くしながらさらに加速し、鋼鉄製の扉に体当たりした。
扉は、同じく鋼鉄製の熔接蝶番と南京錠ごとコンクリート製の枠から軋みを上げて吹き飛び、おギンはその扉を下に敷くようにして屋上へと転がり出た。

しかしソコでおギンは予想もしていなかった光景を見た。
轟音を上げつづける2つの大火球の下で、光る一対の翼を背から生やしたリララが宙に浮いていた。

おギンが口をあんぐりと開けていると、後からフーメイが走り出てきた。
「あぁ、…見てしまいましたか。」
「お嬢チャン!?
…羽根、生えとるで??」
 

 
『GSアカデミーメインコントロールルーム』は騒然とした空気に包まれていた。
ソレはアカデミーが設立されて以来、確認されたコトのない事態だからである。
「『R−B』の『翼』、『フェイズ1』レベル99突破!
『フェイズ2』に移行します!!」
「映像きました!
メインに回します!」
衛星からの拡大映像がコントロールルームのメインディスプレイに映し出された。

廃ビルの屋上、2つの大火球の隙間からその下にいるのであろう、光るモノが見えている。
「間違いない!
6年前のあの時と同じ、光の『翼』だ!

ソレは『人類の犯した最大の罪』、『世界を焼き尽くす第三の炎』!

そしてその罪業(ざいごう)の炎をまとうは、科学の生み出せし比類なき破壊の神!
『科学神』=『人造天使』!!」
 
ビッグGが脂汗を垂らしている間も、映像が出ない直通回線の向こうからはアイン学園長が騒ぎ立てている。
『おい!
規模が小さいのにモノスゴい高エネルギー反応だ!

しかしこの次元集積質量!!
重力崩壊に飲み込まれようとする星か、反転したブラックホールか!?

なんなんだコレはっ!?』
「これが、これこそが!
我らGSアカデミーが真に解明しようとしている『存在』の力なのだ…!」
『なんと!
では、『アレ』はこれほどのモノだと言うのかっ!!
なんと恐ろしい…。

いいや、美しい!
これはとんでもないマスターピースだよ!!』
「そうかな…。
本人は、とんだ失敗作だと言っていたが…。」
『??
『本人』?!』
「ああ、『本人』がだ。

…よし、準備できたぞ。
本部で制御している全ての観測装置、観測衛星の管制権をソチラにまわす。
コチラで把握できている情報も全てだ。
この現象の可能な限りのデータを記録しておけ。」
『言われずとも!
こんなスゴいモノのデータ、一瞬たりとも取り逃してなるか!!』
「頼むぞ。」
直通回線の向こう側がふいに静かになった。
アイン学園長はきっとウハウハ言いながらデータを収集しているのだろう。

ビッグGはオペレーター達の報告に耳を傾けつつ、光の映像に目を向ける。
「あの反応…。
やはり、『極次存在』と同一線上の存在なのか。
だとしたら、お前はなんというモノを完成させていたのか…。
『神』にでもなったつもりだったのか…!

しかし、本当はナニを求めていた?
お前の娘達にナニをさせたかった!?

ノアよ…。
ノア・ルキフェリウスよ…!」
問い掛けるように呟くその視線の先には、フレームに入れられた1枚の写真がコンパネに立て掛けられてあった。
そこには科学者と思しき姿をした2人の青年が写っている。

ソレはその数十年の後、それぞれ『ビッグG』と『ドクトル・ルキフェリウス』と呼ばれる事になる天才達の、若き日の写真であった。
 

 
宙に浮いたリララの翼に変化が生じていた。
かすかに開いた羽根の隙間から無数の白い光の粒を辺りに舞わせはじめたのだ。

次々と現われるソレらは、ある程度ふわふわと舞うとスウッと消えてしまう。
 
「なんやコリャ?
…キレイなモンやなぁ。」
「近付いてはいけません!」
どがぁっ!!( -_-)=○()゚O゚)/「げぼぁあっ!!」

光の粒に近寄ろうとしたおギンにフーメイの暗殺拳が唸った。
「なっ、なにすんねんもぉー!!」
「アレは『ライトマター』です。」
「『らいとまたぁ』!?
『ねこまた』とか『さるまた』とかの仲間かなんかか!?」
「…違いますけど、なんなんですか、ソレは?」
「ムチャクチャ長生きした動物が尻尾のぎょうさん生えた妖怪になったもんや。」
「なるほど、猫や猿の妖怪ですか。」

※注・ねこまたはいいとして、さるまたは間違っています。
 

 
「我らの『第参科学』が予見していた『超物質』、『ライトマター』…!

この宇宙が暗黒の空間であるのは、『ダークマター』という名のいわば『暗黒である物質』が宇宙空間に充満しているからだ。
そしてソレが存在しているという事実は同時に、宇宙発生の瞬間に『この宇宙』と同質量の反物質が発生したことをも意味すると初期『旧科学』では指摘されてきた。
その反物質に該当するモノこそが『ライトマター』だ!!

しかしその物質は『この宇宙』には存在していない。
このことは『旧科学』においても『対称性のやぶれ』として論証が試みられてきた。
しかし『やぶれ』こそが存在しなかった。
ソレは発生の瞬間に観測不能になるに過ぎなかったのだ!

なぜならソレは、宇宙発生の瞬間の超高温・超重力により枝分かれしたのであろう『存在しない宇宙』を構成している『存在しえない物質』、すなわち『この宇宙』には存在しない『超物質』であるからだ!!」
 

 
「また『ライトマター』は『この宇宙』の物質に触れると、まるでプラス数値にマイナス数値を加算するように消えて無くなってしまいます。

同質量の『この宇宙』の物質、ソレが空気であれ鉄であれ人であれ、ありとあらゆるモノを道連れに、光と化して消えてしまうのです。」
「なっ、なんやてぇ!?
ムチャクチャ物騒やんか!!」
言われてみて光の粒の行方をジィーッと見てみると、空中で消えずに屋上に舞い降りるモノもある。
すると、鉄の手摺やコンクリの床でもソレに触れられた部分がポコポコと欠けて無くなっていく。
「ぅ、うぅわっ!
マジヤバッ!!
んじゃあ空中で消えるのは空気と一緒に消えとるんか!?

ちゅか、なんでそんなモンが目の前に沸いて出て来てるんよー?!」
「御覧の通りです。
リララ教授の『翼』が『ライトマター』を噴出しているのです。」
「!!
さっき、『同質量のこの宇宙の物質と共に消える』って言うたか!
じゃあ、あの『翼』がもっとちゃんと開いたとしたらっ!?」
「『世界を焼き尽くす第三の炎』。
『その存在自体が全宇宙の終焉を意味する超兵器』。
話に聞いたことぐらいはあるのではないですか?」
「『ドクトル・ルキフェリウス』の『終局兵器』!!

なら、あの映像に映し出されとった光と『翼』は…!!」
 

 
「『極次存在』、依然動きありません。」
「『R−B』の『翼』、『フェイズ2』レベル20前後で推移中。」
「『フェイズ2』、『次元連結段階』で一時的には押さえ込めるか…。
パルス反転の効果があるようだな。
しかし所詮は一時しのぎ…。

『ノアズ・アーク』の管制権をコッチのシステムに回せ!
ワシがやる!!」
ビッグGが暗号コードを入力しコンパネの赤いボタンを押し込むと、コンパネ自体が垂直に跳ね上がり床に収納されていった。
そして左右後方の壁から別のパネルがスライドしながら出現し、ビッグGの目の前に回りこんで組み合わされ、その無数の表示装置に明りが灯っていく。

ソレは人類の文明からは発生しえない形状の文字と入力デバイスがズラリと並んだ管制システムだ。

謎の人類外技術大系、『エデンズテクノロジー』。
ソレは今から約20年前、銀河中心核に位置する無人の惑星で発見された技術大系である。

しかもソレは人類誕生よりもはるか太古の時代の遺跡から発見されたにもかかわらず、人類の科学を遥かに超越したオーバーテクノロジーであったのだ。
しかし現在でもそのテクノロジーは充分な解明はなされていない。

そして6年前、『ドクトル・ルキフェリウス』は驚くべきモノを残していた。
『ノアズ・アーク』。
ソレは全てが『エデンズテクノロジー』によって構築された巨大なブラックボックスであった。

そして現在その技術に最も精通し、操ることが出来るのは、『GSアカデミー』最高責任者であるビッグGその人なのである。
 

 
「フーメイ!
コレは、どうしたことじゃ!?」
大玉斎が廃ビルの屋上にやって来ていた。
彼はある状況を確認し、そののち『極次存在』を倒すためにその反応をトレースして来た結果、ココに戻って来てしまったのだ。
「あ、店長はんやん。
ひさしぶり〜。」
「事務長…。
御覧の通りです。
『極次存在』が飛来していて、しかもリララ教授の『翼』が開きました。」
「なに!?
ではヤツらの目的はリララ教授の方なのか?!

いかん!
『極次存在』を早く倒さねば、『ラァバ』が来るぞ!!」
「『ラァバ』?」
「昨夏にトーキチローの網の中に入っていた『ちょっと変わった小さい蛸』の名じゃ!!」
「な〜、なんのこったかサッパリやけど、そう豪快に無視しきらんでぇな。」

そう言われてもひとまず無視して、大玉斎は腰に差した2本の刀をスラリと抜き放った。
『霊刀・緋雨大蛇(れいとう・ひさめおろち)』と『冥刀・織雨蛟(めいとう・しぐれみずち)』である。

彼はそのまま刀を両側に広げるように構えると、大きくジャンプした。
その一跳びで軽く10mはいっているだろう。
「『飛燕岩斬剣(ひえんがんざんけん)』!!」
彼は『極次存在』に向け、宇宙戦艦をも両断にする必殺剣を振るった。
必殺剣とは、極限まで高めた刀気を撃ち出すモノであり、対象がドレほど大きくとも一刀両断にしてしまうという恐るべき技なのである。

しかしその必殺剣は『極次存在』の眼前で弾かれ霧消した。
「なんとっ!?」
「危険です!!」
着地した大玉斎の背中に、駆け寄ったフーメイのタックルがキマった。
大玉斎は「ぎゃーっ」と叫びながら10m以上吹き飛ばされ、落下防止用のフェンスを突き破り、放物線を描きながら地面に向けて落ちていった。

次の瞬間、フーメイが声にならない叫びを上げた。
そして彼女のいた場所から斜め下に向けて建物の一部がゴッソリと消え失せた。

ソレは上空からの攻撃であった。
しかしリララからでも大火球からでもない。
その近くをふわふわと浮遊しているモノの攻撃だ。

ソレは、余りにも小さい蛸のような『極次存在』だった。
 
「じっちゃん!フーメイはん!!」
 

 
「理事長!
『F−2ユニット』、消失しました!!」
「なにっ!?
フーメイ!!」
思わず声を上げたビッグGの横のディスプレイの一つに、『Command Master.』と表示されたプログラムがひとりでに立ち上がっていく。
通常はフーメイ以外とはリンクしていない『コマンドマスター』の通信プログラムだ。
ソレは『コマンドマスター』側が望まない限り起動しない仕組みになっている。

Command
Master.
『ビッグG、こちら『コマンドマスター』です。』
「おい、『お前自身』の神経系や精神は大丈夫か?!
『コマンドマスター』!!」

Command
Master.

『…スキャン終了。
特に異常は認められません。』
ビッグGは大きく安堵の溜息をついた。

Command
Master.
『それにしても、あの現場には事務長お1人では無理です。』
「しかしそうは言ってもワシが今ココから離れては『ノアズ・アーク』が暴走しかねん。
アインは月におるし、他の2人はこの星にはいない…。
我ら『5大幹部』しかヤツらに対抗できない以上、手の打ちようがないぞ!」

Command
Master.
『その表現は正確ではありません。
『極次存在』に対抗しうる者は他にもいます。
リララ教授と、私と…。

私の『オリジナルボディ』を出します。』
「な…!
『お前自身』か!?

本気か?!
『コマンドマスター』!!」
 

 
警備本部ビル直下、地下50階層に存在する巨大機密区域、『中央処理室』。
ソコは『コマンドマスター』の『本体そのもの』とでも言うべき場所である。

ソコに通じる12層構造になっている厳重な隔壁が自動的に開いていく。

その内部、白い人工の光に溢れた広大な部屋の中は天井までが10m以上もあり壁は四方ともにどこにあるのかすらわからないほどに広い。
そしてそんな中に縦横無尽に無数の空間投影型のディスプレイスクリーンが展開し、様々なデータや情報が次々と現われては流れて行く。
とうてい巨大コンピューターの中枢部とは思えない場所である。

その空間の中央に位置するチェアに腰掛けていた女性は、体中に直接接続していた無数の光ケーブルを外して立ち上がった。

流麗な、自然には生まれ出でるものではないと感じさせる白く美しい身体がディスプレイスクリーン達の発する光の中に浮き上がる。
しかし次の瞬間には、その表面は黒いドレスに変化し、流れような髪はそのものの意思で舞い、纏まり上がっていく。

彼女は赤いゴーグルを手にしてチェアから降りると、2歩歩き立ち止まった。
するとソコの床が音もなく丸く浮き上がり、隔壁の開いた階上へと吸い込まれていった。
 

 
その頃、廃ビルの屋上では、大玉斎がおギンに手伝われて這い上がって来ているところだった。
「だ、だ、大丈夫か、おギン!」
「そりゃコッチのセリフ〜。」
息を切らせて這い上がった大玉斎の通信装置がノイズを上げる。
ビッグGからの強制通信をキャッチしたのだ。
『こら、事務長!
遊んでないでその『極次存在』をとっとと倒せ!』
「無茶を言うな!
今まで相手にしたことのあるタイプとは格が違うぞ!
あんな奴、ワシら幹部クラスが2人いたとしてもやっとな感じだ!!」
『そうでもない。
アイツが行った。
早くしろよ!』
「…?」
それだけ言うと通信が切れた。
大玉斎がビッグGの言葉の意味を理解できずに首をひねっていると、彼らのすぐソバに黒い影がヒラリと現われた。
 
「事務長!
サポートいたします!」
「む、フーメイ!?

いや、…そうか!
お主のサポートなら充分イケる!!
頼むぞ!」
「お任せを。」
「おおー!
フーメイはん、さっき消し飛んだように見えたんやけど、さっすが不死やな!!」
「それほどでもないです。

おギンさん、私より後に下がってください。
事務長、準備を。」
「いつでも来い!」
大玉斎は言いながらフーメイをかばうように前方に回り込んで、両方の刀を上段に振りかぶった。
「『論理格子(ロジカルグリッド)』を再構成し『EX−Tキット』から『ディアボロシウム・リアクター』を形成します。
起動まで約3秒。

…『論子力場(ロジカトロンフィールド)』、展開します。」
フーメイはただ立ったままナニか状況の説明をしているようだが、両肩がうっすらと光り始めた以外にはなんの変化も起きていない。
「対象の論子解析に成功。
存在空間に介入、同調、次元推移、置換、成功。
対象、『論子力場(ロジカトロンフィールド)』内の論理支配下に還元(シフトダウン)されます。

2、1…、有効化。」
その瞬間、フーメイの声に合わせて『極次存在』達のいる空間が変化した。

空気が7色に光り、『極次存在』達の形状があらゆる方向に伸び広がり複雑怪奇なモノへとなっていく。
「事務長、今です!
フィールド内では『この宇宙』の量子力学の論理支配下にある攻撃も同調の影響で相対的に昇華(シフトアップ)され有効になります!」
「うっしゃあ!

吠えろ!灼熱の太陽王!!
『爆炎φ鳴竜(バクエンファイナル)』!!」
大玉斎が待ってましたとばかりに必殺剣を放った。
ソレは『極次存在』達のいる空間に到達すると突然に眩い炎の竜巻のようになり『極次存在』達を襲う。

そして、『極次存在』達は大爆発を起こした。
「な、なにが起こっとるんや!?」
「『論子力場(ロジカトロンフィールド)』の効果です。」
「『ロジカトロンフィールド』!?」
「そうです。
次元観察装置、『ロジカトロンフィールドジェネレイター』により展開された位相空間の影響により引き起こされる現象です。」
「か、観察ぅ!?
あんな物騒なことを起こすんがか!?」
「我々は3次元存在です。
3次元とは立体空間。
長さがあり、奥行きがあり、高さがあります。
そしてその中にはもちろん長さと奥行きがあるので、立体空間には平面が存在し得ます。

そう、平面、すなわち、2次元である概念です。
そして平面上には長さがあるので線、1次元概念が存在し得ます。

ところが逆は有り得ません。
線の中には奥行きがないので平面は存在し得ず、平面の中には高さがないので立体は存在しません。

だから、もし、我々が2次元の存在だったとしたら、概念としての立体を考え出すことは出来ても、立体を観察することは不可能だということです。」
「ちょっ!?
なんの話や、いきなり?」
「私が紙に描かれた絵だったとしましょう。
私は平面です。
平面の中に住んでいるので見えるモノ全て平面です。
平面の中に線は引けるのでソレは観察できます。
線を結べば面積の概念もわかるようになります。
でも体積というものはわかりません。
立体というものがないからです。
さて、どうすればいいでしょう。」
「なんや、立体がわからんっちゅーなら、そのフーメイはんの描いてある紙で折り鶴でも折ったるわ。
これならイケるやろ?」
「ソレは無理です。
もし私が描かれている部分を折り曲げられても、ソレは高さ方向への、つまりは3次元的な変化です。

その場合、平面そのものが変形はしますがソレは紙に厚みのある3次元においての変化であるわけです。
だから描かれている絵の中身、2次元としての要素は変化しないでしょう?
高さがない次元、つまり、絵に描かれている中身ではその変化は認識しようもないわけです。」
「あ、そっか。
折り曲げても絵そのものは変わらへん。
絵の中に立体を持ち込めるわけやないってことかぁ。
んじゃあ、そのフーメイはんの隣に遠近法を使って立体的な絵を…」
「ソレでも無理です。
立体的な絵を描くなどしても、結局、絵にした時点でソレは平面になるわけですから。

この上位と下位の次元間におけるギャップは全ての次元のシフトに関して当てはめられるとされています。
今私達のいるこの3次元と、より上位である4次元に関しても同様に。
4次元は我々には理解することすら出来ないのです。」
「じゃあ無理なんやん!」
「そう、無理なんです。」
「無理」とは言ってみたがおそらく否定されるのだろうと思っていたおギンは、知恵熱を出しながら脱力した。
「しかし、例えば3DCGとかありますよね?
結局、表示されているのは平面なんですが、あらゆる点と線と、そして奥行きを計算で再現し、平面への投影であるのに立体的な回り込みや動きを可能とする。
この時、擬似的にではありますが平面上で立体の概念を再現することができるのです。
その概念の特徴を極めて忠実に。」
「ん、じゃあナニか、その装置は、例えば立体なら擬似的な平面に置き換えられる装置っちゅーことか!?
いや、逆か!?」
「理屈的にはソレで正解です。
そしてアレは、今この空間にいる高次存在、すなわち高次元の存在である『極次存在』を擬似的な3次元に置換させ、その本体を我々の目に見える形にしたモノなのです。

もっとも厳密には我々のいる3次元の空間と、観察対象となる高次元のある空間を、擬似的な同一次元へとコンバートする装置だと言うのが正確なところです。」
「せやったら早よそう言ってや!」
「いえ、わかりやすく説明したまでですので。」
「気のせいかむしろわかりにくかった気がするでぇ。」
「そんなことはないはずです。」
「あー!もー!
お主らゴチャゴチャうるさいわーーーっ!!
大玉斎はもうもうと立ち込める爆発の煙を見詰めながらツッコミをいれる。
その時、煙の中から、巨大なモノが姿を現した。
「ま、まさか!?
事務長と私の複合攻撃を耐え抜いたなんて!」
 
ソレはさきほどまでのとは別の、さらなる異形のモノと化していた。

全幅40m程のさざめきたつようにウネる体は無数の青い焔をたなびかせ刻々と姿を変え、金切り声が渦巻くような唸りを上げている。
 

 
「なんだ、新手か!?」
「違います!
これは…!?」
「『極次存在』の3つの反応点のうち1つは事務長達の攻撃により消失!
しかし残る2つの反応点、1つになりました!
融合した模様です!!」
「エネルギー係数、さらに上昇!」
「コレなのか!
学園長の言っていたSクラスの『極次存在』、『ラァバ』の能力!

他の『極次存在』の体に融合することでその構造を作り変え、元の体の構成因子と、新たな核となる『ラァバ』の膨大な構成因子の相互作用により、全く別の新たな『極次存在』へと進化する!

いわば!『融合進化能力』!!」
「もう一つの反応点、エネルギー係数上昇!
時空震、深化!」
「!?
小娘か…!」
 

 
新たな姿となった『極次存在』が轟音を発した。
するとその表面の全方向にパカパカッと口が開いた。
奥にギザギザの歯が見えている小さい口が無数にである。

ソレらは一斉に、まるで歌うように美しい声を上げた。
するとただでさえ巨大な『極次存在』の体がさらに膨れ上がっていく。
 
「まずい!
皆の者、退けぇい!!」
大玉斎の号令で3人は一斉に廃ビルから飛び降りていた。

直後、彼らの頭上を目を焼かんがばかりの光の奔流がほとばしった。

彼らが地面に着地すると、彼らの眼前に広がる森と遠くの山々の向こうの空が白くなり、そしてオレンジ色になった。
そして数テンポ遅れて、そちらの方角から天が砕けるような轟音が轟いて来た。
 

  
『アカデミー本館ビル』内の『GSアカデミーメインコントロールルーム』は強烈な衝撃と振動に襲われていた。
「状況はっ!?」
「学園部エリア北部から本部エリア南西部にかけて、『極次存在』による不明な攻撃が着弾!」
「地表、およそ150km四方に渡り爆発被害!
『防御潜行』により建築物等への被害、軽微の模様!
されど爆心点においては地表部第3隔壁まで貫通せり!」
「1枚あれば『ワットマン級中性子爆弾』相手でもノーダメージなウチ特製の隔壁がか!?
なんて破壊力だ!!」
 

  
『極次存在』は再び歌を歌いながら、グルリと回転した。
その直線上にはリララの姿がある。

その時、『翼』を開いてから初めてリララが目を開いた。
しかしその端正な顔には一切の表情がない。

リララは右の手のひらを歌っている『極次存在』に向けた。
そしてその手を縦にしてスッと振り下ろした。
実に優雅な、普段のイタズラ好きな子供のリララからは想像も出来ない動きだった。


次の瞬間、『極次存在』の歌が止まっていた。

よく見ると、その体に縦に筋が入って、ソコから左右にズレている。
まっぷたつに切断されてしまっていたのだ。
 
「あ、あの『極次存在』をただの一撃で…!」
フーメイと大玉斎とおギンは、建物の下からソレゾレの能力でもって上での出来事を見て、思わず唸っていた。


まっぷたつになって落下し始めた『極次存在』の断面からは、大量の鮮血がほとばしった。
まるでプールでもひっくりかえしたような量だ。

赤い断面を見せる巨大な残骸は、断末魔のような轟音を上げながら地面へと落下していく。
その赤い雨がリララの白い翼と肌に降り注いだ時、その口元が笑みの形に歪んだ。


だがその瞬間、宙に浮かぶリララの体に、リララの背丈以上もある刀が突き付けられていた。
「不用心ですね。」
 
「この声は!?」
 
「NI−N−JAH!!」
ドコからともなく低い合成音声が響き渡ると、リララの背後の空間が大きく歪んだ。
次の瞬間、ソコには巨大な忍者刀を構えた身長6mほどの黒いロボットが出現していた。

その肩の上には腕組みをしたトーキチローが立っている。
「お待たせいたしました、リララ教授。

しかしなんでお待たせしたのかと言いましても、別にいっぺん気付かずに通り過ぎてしまったなんてことはありません。
ええ、もう、決して。」
 
「…トーキチローさんて、実は結構面白い方ですか?」
「ん〜、まぁ、ウチの兄者やからなぁ。」
フーメイに小声で囁かれたおギンがポリポリと頭を掻く。
 
「NI−N−JAH!!」
リララが手を突き出して振り向くと同時に、ヤミカゼは足裏のダッシュローラー機構の働きで素早く後方に距離を取る。
するとソコには全く同じ外見で肩にトーキチローを乗せたヤミカゼが何体も現われていた。
「『ライティングカムフラージュシステム』の偏光機能を応用した科学忍法!
『光科学分身の術』です!

音、影、熱、気配、全てを科学の力で本物と同じに投影しています!

果たしてドレが本物の私であるのか、見破れますか!?」

そのトーキチローの言葉にプライドを刺激されたのか、リララは翼を広げてヤミカゼの群れの中へと飛び込んで行く。

ヤミカゼもリララと同じ方向、トーキチローから見れば背の方向へダッシュローラーの勢いで加速し始めた。

だがヤミカゼの方が速度が遅いようで、何体かのヤミカゼがリララに追い抜かれて行くが、リララはソレらのヤミカゼには興味がないようだ。

そして、先頭から2番目のヤミカゼに追い付こうとした時、ヤミカゼは屋上の縁から宙に舞っていた。
リララもその後を追って宙に飛び出す。

すると斜め下からの日光の反射を受け、リララの追っていた以外のヤミカゼは全て消えた。
 
「今です!
『ゲッコウ』!!」
「GEKKOHHHHH!!」
その時、リララの差し掛かった直下の地面から、星型をした光の檻が出現していた。
彼女はその瞬間に動作が止まり、身動きが出来なくなってしまったようだ。

トーキチローを肩に乗せたヤミカゼは一瞬の後、あの高さから飛び降りたのにもかかわらず音もなく地面に着地していた。


ちなみに、このちょっと前から壁をよじ登って屋上へ戻ろうとしていたフーメイと大玉斎とおギンは、トーキチロー達が降りて来たのでつい反射的に飛び降りて建物の影へと隠れ込んでいた。


ヤミカゼの肩に乗っているトーキチローは上空のリララを振り仰いだ。
「迂闊でしたね、リララ教授!
私が姿をお見せたのは『ゲッコウ』に気付かせないように注意を引くのが目的だったのです!

さぁ、今こそ出でよ!
『大鋼鉄ニンジャ=ゴウリキムソウ・ゲッコウ』!!」

彼がそう言うと、その背後の空間が波打つように歪み、次の瞬間ソコには高さ8mはあろうかという巨大な黒いロボットが出現していた。
しかも横に伏せるような体勢でいてその高さなので『ヤミカゼ』よりもはるかに巨大だ。

ソレは全体がフラットブラックで塗られ、1本ずつが『ヤミカゼ』並みに太い4本の脚が大地を掴み、そして横向きになった卵型ボディの正面部分には縦に無数に区分けされたメインセンサー群がズラリと並び薄く光っている。
そしてその上部には大型のサーチライトが2基、強烈な光を放ち、その中間あたりの部位で三日月型の紋章が輝いている。
「GEKOH!
GEKKOHHHHH!!」
雄叫びを上げるその姿を見たフーメイは、思わず端的な印象を呟いていた。
「カエル…。」
「カ、カエルじゃありません!
『ゲッコウ』ですっ!!」
トーキチローは建物の影から顔だけ覗かせているフーメイにすかさず訂正した。


説明しよう!
『大鋼鉄ニンジャ=ゴウリキムソウ・ゲッコウ』!

ソレはある一つの特殊能力のために完成されたニンジャ型オートボットである。
全高8m48cmのタングステンカーバイト製ボディには現在最高レベルの熱光学擬態を施され、既存のどのような技術でもその存在を感知することは不可能というスーパーニンジャマシーンなのだ!!
 
「GEKOH!
GEKKOHHHHH!!」
「いきますよ!
ヤミカゼ!ゲッコウ!!」
雄叫びを上げる『ゲッコウ』の巨大な頭部の上に、『ヤミカゼ』が飛び乗った。

そして両手の指を次々と組替え印(いん)を切ると、ソレに合わせて『臨兵闘者開陳列在前』の九字(くじ)が空中に出現し、光の軌跡となって組み合わさっていき、巨大な桝目を作り上げた。

ソレはリララの足元の檻と同調し、光のフィールドを形成していく。
 
「ま、まさか、この反応!
アレも『論子力場(ロジカトロンフィールド)』なのですかっ!?」
「しかも我々が制御できるモノよりもはるかに大規模大出力のモノじゃ!!」
「そうです!
6年前、私がリララ教授と戦った時に彼女から託された『彼女に対する切札』!

真の『ロジカトロンフィールドジェネレイター』、『プラグマタイザー』です!!」
「『プラグマタイザー』!
あの『エデンズテクノジー』によって構築された『ロストテックマシン』ですか!?

我々はソレそのものの制御が出来ず、機能を大幅に制限したレプリカである『ロジカトロンフィールドジェネレイター』を操るのが限界だと言うのに…!

いえ、しかし『プラグマタイザー』は『ノアズ・アーク』と共にあるのではないのですか!?」
「いや!
リララ教授自身も『ノアズ・アーク』から現われたハズじゃ!

『ノアズ・アーク』に秘められた『エデンズテクノロジー』、彼女が知っていたとしてもなんら不思議ではない!
そして彼女の頭脳をもってすれば、ソレを制御する技術を編み出すコトも可能なハズじゃっ!!」
「そうです!

しかしそのブラックボックスである展開システムを搭載した『ゲッコウ』は、稼働のための大エネルギー供給と装置の安定稼働のため巨大化を余儀なくされ大型4足マシンとなり、それでも稼働性能は完全には安定せず、しかもフィールド制御のための演算能力が足りずに今日まで起動できなかったのです!!」
「しかし、その機能では…。
彼女自身は別の次元の存在ではない!
『プラグマタイザー』でどうやって止めるつもりじゃっ!?
第一、あの『翼』相手では出力が足りるのかどうかもわからんぞ!!」
「それにもし出力が足りたとしても、対象を論理支配下に置くためには論子解析しなくてはなりません!
今の我々の科学では、『翼を広げた彼女』を論子解析するコトは不可能です!!」
「ええ。
その解析は我々の技術ではとうてい不可能です。
しかし解析できなくとも、『解』さえ得られていれば論理支配は可能なのです!
『要因』と『結果』が既知であればソコから『過程』の式を導き出せるように!!

そして『解』は、ココにあるのです!」
トーキチローは1本のデータメモリースティックを取り出すと、左腕に着けた腕時計型の端末のスロットに差込む。
「データインストール!
『ディメンジョン・プラグマタイズ』、スタンバイ!!」
「『ディメンジョン・プラグマタイズ』!?
『次元・論理支配モード』か?!

そうか!
あの『翼』は『次元連結』をすることにより『ライトマター』を噴出している!
ということは!!」
「あの『翼』は『ライトマター』の存在する『別の次元』へと『連結』することで、次元間のエネルギー格差から『翼』を保持するためのエネルギーを得ているということなのですか!?」
「その通りです!
すなわち、『翼』そのものと『翼』の展開している次元が、擬似的とは言え同一空間へとコンバートされれば次元格差はなくなりエネルギー供給は絶たれるはずなのです。

コレが『彼女に対する切札』だと言うのはそういうことなのです!

いきますよ『ゲッコウ』!!
モード・トゥ・レーディ!
スリー・ツー・ワン…。
『ディメンジョン・プラグマタイズ』、ドミネーション!!」
「GEKKOHHHHHHHHH!!」
『ゲッコウ』が雄叫びを上げると、その背に搭載されたフィールド展開装置の巨大な冷却ファンもまた強烈な駆動音の唸りを上げる。
それ程までに出力が上がっているということだ。
そして遂にはその冷却ファンが白い煙と火花を噴き始めた。

しかしそれと同時に、リララを取り込んだ光のフィールドが膨れ上がり、弾けた。

すると、リララの背中で光の粒子を噴出させていた翼が閉じ、紫色の円盤となって地面に落下していく。
同時にリララも力を失い、気絶したように倒れ込んでいった。


しかし、地面に落ちる直前にその小さな身体はガッシリと抱き止められた。
「…!
とっとっとー!
間に合ったー!!

はぁ〜ぁ、しっかし、兄者達いったいナニ言うてるのかサッパリわからへんわ〜。」
「でもな、お嬢チャンを抱き止めるぐらいならウチにも出来るで。
な?」
おギンは腕の中で意識を失っている超天才科学少女の金色の髪を優しく撫でてやっていた。
 
「……。
ズルいぞ、おギン。
その様子を見ながら思わず拳を握りしめるトーキチローであった。
 
「トーキチローさん…。」
その様子を見ながら思わず切ないフーメイであった。
 
「ふぅ、しかし、よく持ちこたえてくれたな、『ゲッコウ』。」
トーキチローは地面に飛び降りると、『ゲッコウ』の巨大な脚をいたわるように撫でてやった。
「トーキチローさん…、メカに対してまでそんなに愛情を…。」
その様子を見てトキメいてしまうフーメイであった。

そんなメカフェチチックなトーキチローのもとに大玉斎が刀をしまいながら歩み寄って行った。
「ふぅ、一時はどうなるかと思ったがなんとか収拾がついたな。

しかしワシにまで黙って『ゲッコウ』などというモノを作り上げたうえ駆り出して来おるとは、まったく油断ならぬヤツめ。
そんなんじゃから信頼薄くてクーデターとか起こされるんじゃぞ。」
「それは、手厳しいですね。」
「…?」
「すみませんフーメイさん。
あなたにお話していない事がもうひとつありました。」
「?」
「私の本当の名は『秘伝イタミ流総本家 イタミ・ミツヒデ』と申します。

さっそくお仕事にしてしまい申し訳ありませんが、今回の件とリララ教授のことについて、GSアカデミーの理事長先生にお取次ぎ願います。」
「あ、…はい。」
 

 
2時間後。
GSアカデミー本部エリア『セントラルビル』最上階。

黒いスーツを着込み特殊な黒いゴーグルをかけた大柄の男が2人、長く広い廊下の中央に立っている。
彼らは戦闘用サイボーグであるSPだ。

しばらくすると、彼らが守るようにして立っていた大きな扉が開き、中からトーキチローが出てきた。
彼らはそのままトーキチローをガードして行こうとするがトーキチローに丁重に断られ、部屋の中からの声に従って、彼がエレベーターに向かう姿を見送った。

ちょうどその時、廊下の反対側から小型の電子端末を脇に抱えたフーメイがやって来た。
色々と事後処理の指示と手続きを終えて来たところだ。

彼女も去って行くトーキチローの姿を見送ると、SP達と挨拶を交わし、この階に1つしかない部屋の扉をノックし中に入って行く。

ソコは全方位がガラス張りにされた広大な部屋で、中央に設置された巨大なテーブルの前にビッグGが腰掛けている。
「フーメイか。
事後処理ごくろうさん。

ボディはどうした?」
「本体はしまって普通の予備のモノに替えました。

…お話のほうは終わられたのですか?」
「ああ。

しかしアヤツが『イタミ・ミツヒデ』だったとはな。
まんまとしてやられたな。」
「旧帝星ブルーアーク星主県ユニオンJ、その政治を実質的に支配するシャドウキャビネット(影の内閣)、『イタミ総本家』。
その第111代目当主としての正統継承権を持つ方だと、私のデータにはあります。」
「その名を名乗られてはな、どんな嫌疑があろうとも我々にはどうこうすることはできん。

このGSアカデミー内は自治権域だが、政治的配慮は不可欠だからな。
帝国の配下、一機関にすぎぬ、このGSアカデミーには。

事務長のヤツめはこの事を知っていたというコトだ。

『イタミ総本家』ではその手の権力構造に付き物のお家騒動の最中なんだそうだが、事務長はトーキチローの父方に借りがあるらしいな。
それで色々と手助けをしていたようだ。

しっかし、トーキチローは偽名だが、苗字なんかそのまんまじゃないか。
履歴は全て別人になっていたとは言え、いい度胸をしとるわ!」
「それで、彼はどこまで知っていましたか。」
「あの小娘の正体に関してはほとんど全て知っていたぞ。
『壁新聞部』を始める以前に一戦交えてて、その時に小娘自身の口から聞いたそうだ。」
「最高機密であるリララ教授の正体を…。
では、トーキチローさんのコトはどのように処されるおつもりですか。」
「まぁ、その時からずっとあの小娘を守ってくれていたんだ。
それに、小娘が自分から望んでソバにいたんだぞ。
ワシらにはなってやれないナニかに、トーキチローはなっているんだろう。

好きにさせとくさ。」
その言葉を聞くと、フーメイの無表情な顔がどことなく明るくなった。
「では彼はこれからもココにいられるのですね。

あ、でも報告書はどのようにいたしましょうか。」
「知らないってことにしておけばいい。
ワシらがアイツの正体を、アイツが小娘の正体を。

スポンサー宛てのヤツには『今回はスゴい極次存在が出てエラい被害だった』とだけ書いとけ。」
「はい。
ではそのような感じで処理を。

…しかし、スポンサーである帝室宛ての報告書を、そのようにしてしまってよろしいのですか。」
「『評議会』がリララ教授を煙たく思っているってことは確実になったからな。
公式文書で提出したモノはヤツらなら全てに目を通せるから都合が悪い。

なぁに、大銀河皇帝陛下にはワシが直接話に行っとくさ。

それから、ワシはちょっと今から『電脳会議』に顔を出すからあとを任すぞ。」
「はい。
ココにおりますのでごゆっくりどうぞ。」
 

 
『電脳会議』とは、デバイスの使える環境さえ整っていればどんなに離れた場所にいる人達でも複数同時に参加できる通信システムの総称である。

そしてココは何重ものプロテクトに守られた秘密のサーバー。
その、黒い色に設定されているサイバースペースに、ナンバーの表示された黒いモノリス達が次々と浮き上がってくる。
ソレらは『参加者』達の登録ナンバーである。
01 「さて、今回のコト、説明してもらおう。」
03 「すまなかったな。

じゃが、お主のやり方は手緩い。
教授本人も言っておったぞ、『もう残された時間は少ない』とな。」
01 「そのコトに関しては反論はない。

しかし見ただろう。
あの小娘自身にも、あの力は制御しきれない。
今彼女を失ってはそれこそ我々に打つ手はなくなるのだ。」
03 「リスクが大きいという点は了解した。
今後このようなコトはないと約束しよう。」
05 「おや、貴方にしてはシオラしいですね。」
03 「ソレに足るだけの収穫があったということじゃ。

まずは『極次存在』出現の法則がわかった。
『リララ−B』から発される『マイナス波長』をきっかけとして『極次存在』が出現すると見て間違いあるまい。
今まで本星に『極次存在』が出現した時に彼女がドコでどうしていたかというコトを調べた資料もある。
併せて見てくれ。」
01 「…『マイナス波長』?
そうか、『ストレス』か。
たしかに今までそういう視点での検証はなかったな。」
04 「うむ…。
たしかに否定する要素はない。
その着眼点、さすがは『霊気学』のスペシャリストであるな。」
02 「『極次存在』の発する波長属性と近いことに因果関係がありそうだな。
このデータ、俺のほうでも検討してみよう。

しかし、そもそもヤツらは何者なんだ?」
04 「コレは推測であるが、ヤツらはおそらくひとつの極限に位置する『進化した知性』である。」
05 「なるほど。
原始的な水棲生物が陸に上がり進化した段階で、陸上では不要なエラやヒレの無い体へと変化したように、ヤツらは知性を高め極めた結果、肉体を持たなくなったということですか。」
04 「そうである。
本能を持ち、物理的な損壊や寿命、死の可能性をも内包する『肉体』は、『知性』を主眼とすればむしろ邪魔なモノであるからな。」
02 「ふふっ。
その言葉、帝国議会でライトウィングに座っている連中には聞かせられんな。」
04 「一側面からの前提である。
我々は科学者なのであるぞ?」
02 「舌先だな。
腹の中ではどう思っていても、だろ?」
01 「そういう話はヒケてからにしろ。
アイツらにはアイツらの、我らには我らの信条がある。
それでいいだろう。

さあ、続けてくれ。」
03 「もうひとつの収穫じゃが、アカデミー本星の衛星軌道上にあるワシの分身が有力なデータを採取しておる。

『極次存在』の出現と同時に、龍族の遺跡の数ヶ所で異変があったのじゃ。
おそらく、この内のいずこかに『ノアズ・アーク』の本体と、龍の一族が遺したという『グレート・レガシー』が眠っておろう。

ワシは今後その数ヶ所を中心として調査に向かおうと思っておる。」
01 「なるほど、被害に見合わせても充分以上の進展だな。

いいだろう。
今回の収穫から得られる確実な成果を期待するぞ。」
 

 
その頃。
『防御潜行』を解除され浮上した『タワー』の最上階。
漆黒の闇の中に3つの影が浮かび上がった。
「先頃リララ教授が『セントラルビル』にいたという情報があった。

そして先程の『リララ教授注意報』に続けて『警戒警報』、『防御潜行』。
浮上してみればあの被害…。

どうやら、アーティ7(あーてぃせぶん)がリララ教授に敗れたと見るべきだろう。」
「ホォ、サスガハりらら教授ダナ。

シカシ、惜シイ奴ヲナクシタモノダ。」
「アーティ7、悪い奴ではなかった…。

良い奴でもなかったが。」
「ごらーー!
勝手に人のコトを悼むなーーーっ!!」
「おお!アーティ7!
なんと無事だったのか!」
「あれだけの大惨事の中を…。
さすがは我らが長だ。」
「え?う?おぉっ!?

ま、まあな。
ふふふ…。」
ようやくエレベーターに電気がきたんでとりあえず戻って来た、ということはなんとなく言い出せない雰囲気であった。
「よし、ではさっそくリララ教授めの所に!!」
「あー、いや、もー体力ない…。
今日は疲れたから延期だ、延期。」
「むぅ。
長がそう言うのであれば、その意のままに。」
「フッ、奴等メ、命拾イシタナ…。」
「だが今しばし時が延びたにすぎぬ。
ふはははははは。」
彼らが一言ずつ呟くと、彼らを照らしていた明りが次々と落ち、そしてその空間は闇に沈んだ。

こうして『壁新聞部』最大の危機は、なんだかよくわからないうちに去ったのだった。
 

 
翌日。
壁新聞部の部室。

ソコでは相変わらずリララ教授とトーキチローが、来る気配のない入部希望者がまかり間違って来ないものかと待ち構えていた。
 
「…やっぱぁ、ダァレも来ないね〜…。」
「まぁ、壁新聞部は今まで通算5年、連続9期に及んで新入部員ゼロの記録を更新中ですからして、新入部員が来たりしたらそれこそ天文学的発展にて天地がひっくり返りかねませんね。」
「でもでも!
『総合電子新聞部』には今期はもう30人も入部したって聞いたよ!?
オンラインやワイヤードでの『電子新聞』なんてのは、ウチの『壁新聞』のヒ孫みたいなもんJAN!」
「いや、でもソレって『戦略核ミサイル』と『火縄銃』ぐらいの差はありますからして…。

あ、ところで、コレをお渡ししておかないと。」
トーキチローは急に声をひそめて1本のデータメモリースティックを取り出した。
ソレを見てリララ教授の顔が曇る。
「この『設計図』は、どうやら『ノアズ・アーク』からサルベージされたデータであるようです。
欲しがって、おられましたよね?」
「うん、ありがと。

…データネームはなんだった?」
「……。
『神の設計図:リララ−B』と…。」
「『神の設計図』…。
ソレは『神の作りたもうた設計図』ではなく、『神を作り出すための設計図』…。

そして『B』…か…。

じゃあやっぱり、私は…。」
「でも、『リララ教授』は『リララ教授』ですよ。
私の知っている『リララ教授』は貴方だけです。」
「…そう、だね。
ありがと。」
2人がそのまま黙って座っていると、いやに陽気な紫色のセーラー服がやって来た。
「おぃ〜っす♪
今日も元気かぁー!?」
「あ、おギンちゃん!
おぃ〜っす☆」
「あぁ…。
ずっとダマしとってゴメンな、お嬢チャン。」
「いいよ、気にしないで。」
「で、なんなんだ、おギン。
何をしに来た。」
「ぅわーお、つれなさ炸裂やなぁ。
そない態度やとウチ帰るで。」
「ウチな、壁新聞部に入ることに決めたんや。」
「は、入るって…、アカデミーに居座る気か!?」
「うん♪
ちゅか、ウチも『里』には帰れへんやろ。
せやったら兄者のそばにおるんがいっちゃん安全やし。」
「わー、やったー☆
新入部員だー!」
「しかし籍とかどうなっているんだ!?」
「なにやら御不満の御様子ですが、マズかったですか。」
「フーメイさん!?」
「おぅ、フーメイはんに頼んでこれからもおられるようにしてもろたんや。」
「そうじゃなくて、お前、ココに在籍できるほど頭良くないだろう!?」
「ナニ言うてんねん!
ウチがココに編入して来たんは、ちゃんと試験受けたからや言うたやん!」
「思いっきり初耳だぞ!!
編入だったのか!!」
「まぁ落ち付いて下さい。
おギンさんのおっしゃってるコトは事実です。
昨夏に編入という形で正式にアカデミーIDが発行されています。

また試験等の資料も調査させてもらいましたが、正規の手続きと見て間違いないでしょう。
トーキチローさんのおっしゃるとおり、学力はそこそこですし。」
うっ…。
「でもまぁ、技術力と体力と根性は素晴らしいので在籍に関しましては問題はありません。」
「ええ!?根性は関係ないでしょう?!」
「まぁ、端的には『アカデミーの監視下にいてもらう』という意味です。
私の秘密も知られてしまっていますしね。」
「……。」
「兄者、ナニか考えているフリしとるようやけど、なんでそこで赤くなるんや…。」
「い、いや、赤くなってなんかいない!」
「ウソ言いなぁ。
一緒に育ったウチには判るでぇ。」
「はぁ、今ので赤くなった状態だったんですか。
本当にポーカーフェイスですね。」
「いや、さすがの兄者もあんさんには到底かなわんと思う…。」
「そんなに誉められると照れてしまいます。」
「って、ソレで照れとるんかーっ!?
「思いっきり無表情ですね…。」
「まぁ、ソレはさておきまして、おギンさんのココにいたいという判断は賢明でした。
最高機密である『翼』のことを知ってしまった方に残された他の選択肢は、『洗脳装置で記憶消去』か『スパイ行為により凶悪犯用独房行き』、もしくは『人工冬眠装置による強制凍結』ですから。」
「げげっ!?
そやったの?!」

「…あったぁ!
はーい、おギンちゃ〜ん、これ入部届ぇ☆
これに必要事項を記入してネ♪」
「おぅ!
なになに、え〜と、『名前』、は『イタミ・ギン』や。
ん?
それから『プロフィール』やて?
えー…、『暗殺者』、と。」
「待て!
そんな事を書くな!!」
「え〜?
せやったらナニ書くんやココ??」
「あはは、さすが兄妹だね☆
トーキチローくんはソコに『忍者』って書いてたよネ☆」
「教授〜〜〜!」


壁新聞部、今期入部希望者・・・1名。

ちなみにこの後、期間中にリララ教授に触れる事が出来たということで今回の『特別枠』単位獲得者となったおギンの名は広く学園中に知れ渡ってしまうこととなる。
 
「あ、そういやあのあと介抱してくれた時にフーちゃんにも触られちゃったよね☆
単位いる?」
「いりません。」
「ふぇぇ。
私の単位なんかいらないって言うのネ。
しくしく。(;.;)」
「いえ、あの、そうではなくてですね。
私、学生ではないので、もらおうにも…。」
やはりリララ教授は苦手なフーメイだった。
 
 


次回予告!
 
「げげげのげげぇ!
ヤツが帰ってくるだとぉっ!?
今のアカデミーのありさまなんかを見られた日にゃそりゃもうタマラんぞマジで!
大玉斎のヤツめは調査に行くとか言って逃げやがるし、ああ、どうしたものかぁ……!?
よし!ワシも逃げるぞ!!
って、をぉわーっ!?」
「すみません。
『理事長は逃がすな』と連絡がありましたので。」
「うぎゃあ〜!
はなせぇえええ!!」
「すみません。
あの方に逆らうとボーナスの査定に響きますので。」
「よ、よしっ!
ボーナスならワシのほうから2倍出そう!」
「さ、抜け道はこちらです。
お早く。」
「現金だなお前…。」
「仕事ですから。
次回、『第7話 経理部長、帰還せり』
おいしいよ。」
「な、…なにがおいしいの!?」
 
次回につづく!
 

Sijimiya Konoha & Yukaina Brothers. Presents

"Professor Rilalah @General Science Academy"