『サマースペシャル とくになんてことない夏の日 之巻』

夏、まっさかり。

地面に落ちる影がクッキリと黒い。
そして白く浮き上がる日向は照りつける太陽の熱量でカゲロウを立ちのぼらせている。
GSアカデミー学園部はただいま夏のまっただ中である。

GSアカデミー。
それは全銀河の叡智を集結させる複合型統合科学研究機関である。
そしてそこには次世代の人材育成を目的とした学園部が併設されている。

その学園部の中央区画は、中学部から大学部までの学舎が建ち並ぶエリアである。

隣接する『アカデミー本部エリア』は建築技術の実績作りや多種多様な実験のために異様とすら言える特異な建物ばかりが並んでいるので有名なのだが、『学園部エリア』の方は伝統的様式の建築物が多く、その落着いたたずまいにはノスタルジーを感ずる者すらいる。

そんなエリアの中央を少しはずれたところに特に特徴もない6階建ての白い建物がある。
大学部の7号棟である。

その最上階の非常用扉を開けて、黒い鉄製の階段の踊り場に金髪の少女が現われた。
彼女は大きく伸びをすると、一瞬後には「だらぁ〜ん」と脱力してフラフラと身を揺らしはじめた。
「あ〜…。
この、18℃くらいの冷房がキンキンにきいた部屋から、一気に36℃くらいの外に出ると、なぁんか熱い空気が全身をくるむよーにまとわりついてきてぇ、気が遠くなりそうだねぇ〜…
リララが扉1枚を隔てた内外の気温差にアテられ思考停止寸前になっていると、扉の奥から長身の青年が出て来た。
彼は強烈な陽射しに目を細めつつ、軋んだ音を立てる鉄扉を閉じる。 
「…おまけに陽射しが強くて視界が白っぽいものですから、視神経から三半規管にキて更にクラクラしますね。」
「あー、もー、こーゆー時はマイナス5℃のクール宅急便トラックの荷台に入って、コタツに当たりながら鍋焼きウドンでも食べたいね。」
「…教授、大丈夫ですか?」
「だいじょぶ、じょぶ、じょぶ。
じょぶ、すとれーと。
くらえぇ、幻の左あっぱー。」

へろへろ〜( ̄▽ ̄)=○

あまり大丈夫ではなさそうだ。


現在、ちょうど3時である。
彼らは4限目の講義を終えて出て来たところだ。


しかしなぜこんなところから出て来たのかと言うと、屋内は他の教室から出てくる生徒達でいっぱいで、しかもココが最上階なので、降りていこうとすると他の階からの生徒達も順次加算されていき、出口で詰まって全然出られないとういことになってしまうからだった。

そんな訳で彼らは夏の陽に焼かれている黒塗りの非常階段から降りるのを常としていた。

彼らがカンカンと靴音を立てて降りはじめると、プァアアアアンン…という軽快な警笛が辺りに響いた。
遠くから何重にも重なった踏切の警告音が小さく聞こえている。
視線を建物の斜め下に向けると、白い車体に青いラインがペイントされている『リニア中央線』が走っているのが見えた。

この辺りはビルが林立し、電線やライフラインのパイプなどがポールづたいの空宙に縦横無尽に交錯し、線路と歩道と車道と高速道が水平の直角方向や垂直方向に何重にも交差する超過密エリアなのだ。
そのためリニアトレインは安全確保のために、エリア侵入時には警笛を鳴らすようになっているのである。


ちなみに『壁新聞部の部室』に行くには、ココから5分ほどの場所にある駅からあの路線のリニアトレインに乗り、40分ほどで着く終点で降り、ソコからさらに数km南下せねばならない。

ソレに比べて普通の『文化団体連合』に加入している部活は、『学園部エリア』内に数ヶ所存在する『文連部室棟』に部室を持っている。
ソレはいずれも学園部の主要施設が集まる『リニア環状線』の描く円内、最大30分以内の場所に位置しているのだ。

このような点からも、やはり普通の学生がわざわざ『壁新聞部』に入ろうと思うはずがないのであった。
 
「それにしてもやっと終りましたね、夏季講習。
おつかれさまでした。
今回の『ブラックホール基礎理論U〜重力場集束シミュレーション』もなかなか面白かったです。」
「そぅお?
良かった。
トーキチローくんもおつかれ〜。

でも、これで明日からは1週間ぶっ通しでお休みだからネ
うふふ、なぁにしよっかなぁ。」
「そうですねぇ…。
私は『完全問題』の高速処理に関する基礎研究の資料をあたり直してみようかと思ってい…。」
「あ!そうだ!
私、お買い物に行くんだった!
ね、ね、トーキチローくんも一緒に行かない?」
「お買い物、ですか?
私は女の子…、いや、失礼。
女性の買い物に付き合えるようなタチではないですけれど…。」
「あ、違う違う
そーゆーんじゃなくて。
標準時の明後日に『惑星アラーケ・ジャンボサイト』で開催される『研究・産業施設用機器グランドフェスティバル』の招待状もらったの。
年に一度の見本市だから、どのメーカーもたいてい問屋卸値のさらに3割引きくらいで売ってくれるヨ
「ということはだいたい7かけの7かけ…。
市価の半額くらいですか!
行きます。」
「わーい!
あ、でもまだ出港申請とか出してないから早く宙港事務局に行かなきゃ。」
「出港って、リララ教授の個人用宇宙船で行くんですか?」
「うん。
私の『シュテルンシャリオ号』で安売りオーバードライヴ
「…普通のシャトル便で行きませんか?」
「えー?
私の船なら消防車とか買っちゃっても積めちゃうんだよ??

あのね、前回のグランドフェスタの時なんかね、耐震耐薬保管庫の安いのがあって買っちゃったんだけどシャトル便で行ってたから別途運送料とられちゃって、かえって高価くなっちゃってさぁ。
だから今回は自家用機で行くのー。」
「と言いますか、『シュテルンシャリオ号』って亜光速戦闘艇じゃないですか。
しかもエデンズテクノロジーで出来た特級機密兵器なのでしょう?
そんなので平和なイベント惑星に乗りつけるのはどうかと。」
「あ〜!
また勝手に機密データ見たでしょ!?
ドックのはじっこにさりげなく置いてあるアレが機密兵器だってこと自体が機密なのに。

あ〜あ、このことビッグG理事長に言っちゃおうかなぁ〜、言わないどこっかな〜。
うふっふ〜♪。(>∀<)。」
「いや、すみません。( -_-;)
ええ、やっぱりここはひとつ教授の船で行きましょう、ええ。
安売りオーバードライヴ。
ええ。
実は私って亜光速戦闘艇萌えなんですよ。
萌え萌え〜。
ええ。
楽しみですとも。
ええ。」
「……。
子供だと思ってバカにしてるでしょ。」
「いえいえ!
よりによってそんなことは決して!!」
「あ、アレ、おギンちゃんじゃない?」
話しているうちに1階まで到着したリララは、ビルの隙間から海の方向へと続く産業道路の方向を指差した。

見ると紫色のセーラー服に麦わら帽をかぶったおギンが、デカい右手で鈴をカラランカラランと鳴らしながら歩いている。
 

 
「アイスいかがっすかー。
冷たいっすよー。」
 
遥か上方の道路を走る車輌達の防音壁越しのエグゾーストが遠く聞こえてくる。
見上げると、巨大な複線道路が立体的に交差する『裏側』が、見とおせる限り果てなく続いている。

何本もの柱の上に乗っている白くて長いケーキ型のようなモノ。
道の『裏側』はそんな感じだ。
とは言えソレはすごく巨大でいて、型の中身はスポンジではなく鋼鉄で組まれた空間材であり、その上のデコレートはアスファルトだ。

頭の上、数十メートルの上空にその底面を見せている高架道路。
100メートルを1単位として、重さは数万トンに達すると言う。

ここはそんな高架道路が何本も寄り集まり、幾重にも交錯する場所である。

その高架道路群を支えている白塗りの巨大な橋脚のふもとは、実はほとんど舗装もされていない。
いや、部分的には細い舗装道がわずかにあるが、こちらのほうは人も車も通っていない。
建物で言えば、いわば床下のような場所だからだ。
置き去られているのか、待機しているのか、何機もの工事用の重機がそこかしこに停まっていたりもする。
道路の上からではなかなか想像できない景色だろう。

高架道という天蓋を支えながら複雑に交差するソレゾレ太さも高さも違う橋脚。
ソレらがまるで林のように並びそびえたつ姿は壮観ですらある。
その中をうねりながら伸びる細い道を、おギンは首からクーラーボックスを下げて歩いていた。


カラランカラランと鈴を鳴らす。
特にお客さんの気配はない。

おギンは空を見上げて見た。
周囲に建物などがないため視界が広い。
しかし、かなり上にある道路の底と、その下を避けて遠くに並び立つビル群が見えるだけで、肝心の空は1〜2割程度しか見えない。
そのため日光の当たっている場所は少ない。
だが周囲の建築物からの光の反射があるため、光の屈折や反射の特性ですこし黄色がかって見えるものの辺りは十分に明るかった。

見える範囲で動いているモノは、風になびく草と空を飛んでいる鳥くらいだ。

高度な技術で造られたメトロポリスといった風情の場所なのに、人の気配がほとんどないのがこのアカデミーの半分以上の地域に共通する独特な雰囲気だ。
悪く言えば、先進科学の廃墟と言った感じである。

なぜ人気がないのかと言うと、一見都会的な風景のこの街は普通の街ではないからだ。
実験用の建物で中には人が入る場所がないモノや、建築としての試験を兼ねて入居者もないのに次々と建てていっているモノなど特異なモノも数多くある。
そのため首都近郊的な見た目に対して人口密度が低く、人気が感じられないのだ。

おギンはそんな中をアイスを売って歩いている。

しかしもっと人がいる区画もあるのでそういう所で売ればいいような気もするが、そういう場所では店舗や自販機なども充実しているために、この手の商売はかえって不利なのだ。
それに比べてこの辺りはほとんど店もないから競合する相手がいなくて都合がいい。

こうやって鈴を鳴らして歩いていると、時々建物の中や橋脚の点検口、停まっている車両の中などから人がひょいと現われて買ってくれるのだ。
「アイスいかがっすかー。
冷たいっすよー。
ん?」
おギンは駆け寄ってくる者の気配を感じ、クルリと振り向いた。
見ると舗装されていない場所を砂埃を舞いあがらせながらパタパタと走って来る少女がいた。
おギンはその人物が誰だかわかるとソチラに向けて走り寄って行った。
 
「…はぁはぁ。
やっほー、おギンちゃん!」
「よ、リララちゃんやん!
どないしたん、走って。」
「んー、この近くのビルで講義してたの。
それで出てきたらおギンちゃんの姿が見えたから追っかけてきたんだ
「おお、そやったんか。
嬉しいねぇ。」
「どうだ、おギン。
売れているか。」
「お、兄者もおったんか!
砂埃で見えへんかったわ。

せやな、やっぱ清涼系のアイスはよう売れたで。
でもな、あとのが…。

あ、せや、リララちゃん。
アイス食うてかん?」
「あ〜、今日はカードだけで、小銭は持ってないの…。」
「ええって!
リララちゃんやったらサービスや!
銭いらへんから食うてってや!」
「あ、なんかデジャブ…。」
「ほな、ナニ食う?
今オススメなんは『30倍キーマカレーアイス』やけど。」
「う〜ん、ソレはいらないやー。」
「ほな、『四川風タンドリーチキンパフェ』とか『ぴり辛ビーフストロガノフフラッペ』なんかどーやーっ!?
(≧▽≦)ノ★彡」
「いらねーってぇの
「相変わらずエスニックメニューを凍らせるのが好きなのか。
どうせオススメって言うのも、売れなくて余ってるからどうにかしたいだけなんだろ。」
「うっ!
バレてますがな!!」
「小声で言うな。」
「それにしてもおギンちゃんのセーラー服っていろいろ重ねてあるけど暑くなぁい?
その胸回りって、内側は『チェーンメイル』でしょ?
スカートのプリーツには薄い装甲が縫い込んであるみたいだし。
腕なんか見るからにムレそうだけど…。」
ツッコミをいれられているおギンの服装を見ていたリララが意外と鋭い観察力で疑問を口にする。
(※おギンの設定画→
「んー?
別にぃ。
基本的には夏服やしなぁ。
『鎖カタビラ』ってのはけっこう通気いいモンやし。

それにこの腕のカバーのほうはバンソーコーの会社から技術提供された『ムレないカブレない最新技術』で快適なもんなんやで。

だいたいウチは昼間50℃で夜はマイナス20℃になるような国でもセーラー服で活動できるんやで。」
「いや、ソレはソレで目立ってマズいだろう。」
「あはは、まぁな。
んでな、ついた通り名が『少女コマンドーOGIN』とか『セーラー服反逆同盟』とか…。」
「う〜ん…。」
「なんで1人で同盟なのよ…。」
「それよか兄者だろ、見てるだけで暑そうなんは。」
おギンが言うと、リララも改めてトーキチローの服装を上から下まで眺めてうなづいた。
スキーブーツのような頑丈そうなブーツに長ズボン、その上に丈が足首近くまである長袖の白衣のようなモノを着込んでいる。
(※設定画→

しかし当のトーキチローはそれこそ涼しい顔で答える。
「鍛え方が違うんだ。」
「ナニをどう鍛えてんのヨ…。」
「ちゅか見てるコッチが暑苦しゅうなるんやからハタ迷惑やろが!
せやろ、お嬢チャン。」
「それにしてもおギン、バイトばかりしていてウチの部室には全然来ないようだが…。」
『話をそらしたわネ…。』
「や〜、ウチ、学費とか生活費とかも稼がなあかんのよ。

あれ?
そういや兄者は学費なんかはどないしてるん?」
「俺は一応特待生だからな、アカデミーから出してもらっている。」
「え〜!?
でもソレって潜入する時に工作したからやろぉ?!」
「まぁその通りなんだが、ここに来てからの研究や開発でもちゃんと実績を上げているからな。
ココは出した実績に比例して研究開発の資金としてもらえる金額も上がっていくんだ。
それに各方面で特許も取ってあるから色々と収入もある。

まぁ合計すれば大体1ヶ月平均で120万くらいもらってるかな。」
「月120万っちゅーと、1日当たり4万の収入!?
ひぇ〜〜〜!!

ウチはアイスの売上と、拾ったアルミ缶を回収箱に放り込んで2缶1円で、ひの、ふの…。
……。
う、ウチの今日の収入、350円や…。
「でもリララ教授なんかもっとスゴいですよね。」
「うん。
アカデミーの特別顧問と教授職で収入があるでしょ。
一応教員もやってるし、放送講座も教える側で出てるし。

それから『全銀河先進科学学会』で賞をとりまくってるから奨励金もあるしネ、論文をまとめた本も結構売れてるし、特許もこないだ1,000件突破したし
「う〜ん、ちゃんと計算したことってないんだけど…。
アレがT触媒3箱分くらいで、アレが炉心2個分で、アレが情報サービス1ヶ月分で、それからぁ……。

ん〜、多分、1ヶ月平均でぇ…、2億5千万くらいかなぁ?」
「……。」
「どうした?」
「なんや全てがどうでもようなってきたわ…。」
「まぁ、リララ教授はされている研究も違うからかかる資金も桁違いなんだぞ。
だから特に貯金や贅沢をしている訳でもない。

例えば、ある装置に取付けてある排気用のホースなんか『真空排気管』と言って高密度シリコン製の内径12mm外径25mmのオレンジ色のホースなんだ。
ま、なんにしてもホースなんだぞ。

ソレが1m当たりで50000円もするんだ。」
「ごっ、ごま〜んっ!?
ウチの今の調子だと3ヶ月頑張っても1mすら買えへんわ!」
「そしてそんなホースが20本もずるずると100m近く生えてる装置とかがざらにあるんだぞ。
しかもソレが、教授が言う『ちょっとした失敗』で建物ごと爆発したりするんだから、1回の被害額は果たして数億程度で済んでいるモノなのか…。」
「周辺業界の経済の活性化に貢献しております
えっへん!<(⌒▽⌒)>」
「……。」
「……。」
「でもおギンちゃん、1日の収入が350円じゃあ食べるだけでも精一杯でしょ?
お金ならあげよっか?」
「や、ありがたいけどソレはあかん。
自分の食扶持(くいぶち)くらいは自分で稼がなな。」
「うわー、えらぁい!」
「うむ!
良く言ったぞ、おギン!
その心意気、まさしく誇り高きイタミの士(もののふ)の姿だ!!」
「あはは、そこまで言われると照れてまうわ。」
「では教授、ほどよく小腹がすいたので我々はアフターヌーンティーでも飲みに行きましょう。」
「うん
昨日話したお店ね、オープンカフェなんだけどベーグルやパスタなんかもイケるのよ
「それは楽しみですね。
では参りましょうか。」
「う…。」
「あ、おギンちゃんも一緒に行く?
あっちの駅の向こう側なんだけど、アソコならカード使えるからおごったげるヨ
「う〜、いや、施しを受ける訳には…。」
「残念だなー。
アソコの『アフターヌーンティーセット』のスコーンについてくるクローテッドクリームなんかとろけるよーにおいしいんだよー
「う〜…。」
「あ、でもおギンちゃんだったらアレなんかいいかも。

あのね、アメリカンスタイルのハンバーガーやサンドイッチなんかもあるんだよ。
500gのパティと3種から選べるバンズがあってね、レタスがモシャモシャと敷いてあってフレンチフライが山盛りでワントレーなの。
ソレにワンドリンクとバイキングスタイルのサラダが付いててネ。

私、一回頼んでみたんだけど食べきれないほどでさぁ…。」
「う゛〜…。」
「教授、それくらいに。
おギンは食欲とか本能に訴える部分を強く刺激すると、『超獣変化(ちょうじゅうへんげ)』を起こしてしまいますので。」
「え!?
そ、そーなの!?」
「う゛ぅ〜、ぐるるる…。」
きゃ、きゃあーーーっ!!
「落ち着けおギン。
後で自分で稼ぐとして今日のところは出世払いでいいぞ。
一緒に行くか?」
「行きますともーーーっ!!」
「す、すごい気合入ってるわね…。(・∇・;)」
 
この時リララは知らなかったのだが、実はおギンは昨日から何も食べていなかった。
 
「しかしおギンもやるものだな。
俺なんか洋食のメニューを固有名詞で説明されてもナニを言われているのかサッパリだが、お前には判るようだな。」
「いんや、サッパリわからへん。
なんやウマそうっちゅうんが判るくらいで。」
「…そうか。」
『どうして実物が判らないモノの名前を聞いてウマそうとか思えるんだろう…。』
 

 
30分後。
「やー、ウマかったな兄者。
しっかしなんや、オシャレなお店っちゅうんは緊張してもうてあかんな。」
「その割には見事な食いっぷりだったな。」
「うんうん。
2人前の大皿パスタを1人で頼んで、ソレを2本のフォークでグルグルに巻き取って一気に頬張っちゃう人なんて初めて見たよ。
あんなことルパン3世にしか出来ないって思ってた。」
「いや〜、恥ずかしいトコ見せてもうたなぁ。
慣れないトコなんで緊張してたもんやからつい失敗を…。」
「…そうか。
お前のカロリー消費なら4人前が妥当だな。
緊張していたとはそのことか。」
「う〜ん、初めてのメニューやったし量の見当がつかへんかったんや。
でも、入った時に周りの人の皿を良く見てれば判った筈やのに…。」
「まだ修練が足りぬ証拠だ。
もっと励めよ。」
「おう!」
「あ、の…。
なんか論点がスライド式にズレてってなぁい?」
「ところでおギン、住む部屋はもらったのか?」
「んー、フーメイはんが手配してくれとるみたいなんやけど、まだなんやて。
せやから今はそのへんで適当に寝起きしとるんやけどな。

まぁウチら元々一箇所にとどまる生活はしとらんかったから部屋なんかのうてええんやけど、今ぁアイス屋やっとるから冷凍庫と水道の確保が手間で…。」
「それだったら『壁新聞部』の部室に来ない?
おギンちゃんもウチの部員なんだしさ。
電気、水道も通ってるヨ。」
「お、ええのん?
そりゃ助かるわ。」

ふいにピピピピッと電子音がした。
トーキチローが左手首の腕時計に目を落とす。
「教授、そろそろお時間です。」
「あ、そだね、ちょうどいい時間
んじゃぁ私は教授会に顔出して、それから部室に行くから。
トーキチローくんとおギンちゃん先に行ってて。」
「はい。
では我々はお先に。」
 

 
午後4時半。

辺鄙な場所にある『壁新聞部の部室』。
緑豊かな、と言えばいい感じだが、人里離れた未開発地域、と言えばヤな感じ。
そんな場所である。

そこにある実は巨大な倉庫である『部室』の手前につむじ風が舞うと、その場所に2つの影が突如として現われていた。
おギンとトーキチローである。
「あ〜あ、飛行機ないと不便やなぁ。」
「まぁ、フーメイさんに墜とされたのなら仕方ない。
話は聞いたがあの方とあれだけ戦って五体無事だっただけでも儲け物だ。

それに俺達の足ならこの場所に来るのもそう手間な訳ではないだろう。」
「まぁなぁ。」
2人は話しながら正面のシャッターをガラガラと開け、倉庫の中へと入って行く。
「しっかし、ちゃんと見たことってなかったけども、なんや、ココってだだっぴろいなー。」
おギンはそう言いつついやに高い天井を見上げた。

今いるあたりは普通の建物の3階ぶんくらいの高さに天井がある。
数メートル間隔で山折り谷折りが繰り返すように交互に90度ずつの切返しが入る天井はそのままスレート板が屋根でもあるのだろう。
部分的に透明な板が配され明かり取りの役をしているので屋内は電気を付けないでも充分に明るい。

その屋内は、左右を見渡せば両側の壁まで50mずつはありそうだ。
そして奥は、内部の仕切りがあったり天井の高さが変わる所があったりしてよく見とおせないがその10倍は軽くありそうである。
その内部には取り残された古いコンベアーやらよくわからない巨大な機械などが大量に放置されていてホコリをかぶっている。

そして入口から入った手前の部分に、教室などでよく見かける机と椅子が何組かと書類棚とロッカーが据えてある。
他には大型ゴミか資源回収の置き場から拾って来たと思しい古い型のパソコンや家具やガラクタのようなモノがいっぱい転がっている。
おそらくこの辺が『壁新聞部の部室』として使っている部分なのだろう。

それにしても、とてもではないが誰かに教えてもらわねば文系の部活の部室とは思えない。
もっとも知っていても信じられない感じの部室である。
 
「おギン、あまり奥には行かないほうがいいぞ。
せいぜい俺が機械整備に使っている辺りまでにしておいたほうがいい。」
「え?
なんでやの?」
「……。
出るぞ。
「え?
な、ナニがやぁ!?」
「おっと、もうこんな時間なのか。

すまん、おギン。
俺はゼミに提出する新機構のレポートがあるからもう一度『学園部エリア』まで行って来る。

今日は夕立があるかも知れないと天気予報で言っていたから気を付けろよ。」
 

 
「なんや、ヒマやな…。
リララのお嬢チャンは今日は来んの遅うなるみたいやし、兄者もしばらく戻って来ぃへんやろし…。

あ、せや、兄者がカップ麺がある言うてたな。」
おギンは使われていない大型圧造機械などと一緒に無造作に並べられている古びた桐タンスの観音開きを開けた。
中にはインスタント食品がゴッテリと積み上げられている。

おギンはその中で派手な原色使いの樹脂製カップのモノに目が止まった。
手に取ってみると、パッケにはハチマキをしたタコがノレンをくぐっているイラストが配されており『元祖ナニワのタコヤキラーメン・こってりソース味』と書かれている。
 
「あ、コレ食うてみたいな。
えーと、コレは、…お湯を沸かして注ぐタイプか。
なになに、『カヤクとスープを麺の上にあけ、お湯を注いで3分。召し上がる直前にソースをかけて下さい』か…。

ふぅ〜ん、先進技術の星、アカデミーでもこんなんタイプのがあるんやなぁ。
最近は開けたら水を入れるだけで勝手にお湯んなって出来あがんのとかあんのにな。」

おギンは独り言を言いながら事前に聞いてあった書類棚の下の扉を開けた。
そこには真鍮色のしゅう酸アルマイトをコーティングされた8リットル用の大きなヤカンが入っていた。
 
「う〜ん、しっかし、いつもあないにカッコイイ格好しとるお嬢チャンと兄者って、普段こんなん使っとるんか…。」
おギンはヤカンの中を覗いて見た。
外側は黒く焦げているが、内側はピカピカの真鍮色だった。
おそらく普段からトーキチローが手入れをしているのだろう。
古い物だがしっかりとしている。

おギンはお湯を沸かすために水を入れようと、ヤカンを手にしたままシャッターの外へと出た。

倉庫の正面の右脇の、森の手前の草むらの中に古びたコンクリ製の台から生えた水道があった。
トーキチローに教えてもらった通りだ。

おギンは蛇口の下にヤカンを据えて水栓をひねった。
すると蛇口から新しい透明な水が ちょろちょろ と出てきた。
「うわっ!
かったるい出方!!
こんなんじゃいつヤカンいっぱいになるんやろ!?

あ、別にいっぱいにする必要ってないんやん。
カップの分だけ入ったら…、って、あ〜!でも全然溜まんない!!」

そんな訳でカップ一杯分の水を入れるのに、だいたい3分かかった。

おギンはその後、部室の中に戻りガスコンロに火をつけてヤカンを乗せ、お湯が沸くまでの間部室の中を見ようと歩き回っていた。
 
「…あれ?
なんや?」
おギンは一瞬、自分の嗅覚がおかしくなったのかと疑っていた。

緑深い山の湿気を帯びた空気に混じる、鼻を突く臭い。
刃の熱い感触を思い出させるソレは、傷口からしたたる赤いモノを連想させていた。


その時、外でナニか物音がした。

おギンは気配を殺しつつ辺りの様子を探りに外に出た。
しかし元々人気のないさびれた場所だ。
耳をつんざくほどに蝉の声がしている中、野良猫と野鳥が数匹いただけで特に怪しいモノはなかった。

おギンは周囲を見渡すために屋根の上に上がったりもした。
ソコから見ると緑の山々の向こうに所々密集する高層ビル群の影が見えるのが印象的だった。


そんなことをしているうちに日が暮れてきた。
傾いた太陽はあたりを赤く照らし出している。


そしておギンが部室である倉庫に戻ってみると、入口の大シャッターの周囲に立っている8基の投光器に灯りがついていた。
 
「あれ?
リララちゃんが戻っとるんかな?」

しかし屋内は電気がついておらず暗かった。
辺りに人の気配はまるでない。
おギンがいぶかしみつつ視線を巡らすと、ガスの明かりが見えてハッとした。

無人の屋内でヤカンがブシュブシュと沸き立っていた。
「わーっ!
あかーん!!」
おギンはコンロの火を落とそうとヤカンに駆け寄った。

その時、ハッとした。

あの妙な臭いが強烈に鼻を突いたからだった。
おギンはえも言われぬ不安感に襲われていた。

おギンはコンロのバルブを閉め火を止めると、ヤカンの蓋を開けた。
屋内は暗いが、開け放しのシャッターから外の投光器の明かりが入ってくるのでモノは見える。
「!!」
おギンは思わずヤカンを取り落としていた。

床に転がったヤカンからこぼれ出た液体は、うす明るい中で赤い色をはっきりと見せている。
「な、なして、…こんなモノになっとるん?!」
辺りにナニかが起きているのかも知れないと思ったおギンは、不安になりながらも視線を周囲に飛ばした。

すると、倉庫の奥の方、トーキチローが行くなと言っていた方でうっすらと光るモノが見えた。
最初は非常灯かナニかかと思ったのだが違う。
場所がいやに高い。
人の頭の3倍くらいの高さだろうか。

それにソレは奥に向かって動いていた。
昼間見た時はココの内部は平屋だった。
たまたま人が入ってきて2階にいるとか、ナニかのイタズラだったりとかではないようだ。
そもそもおギンは異常なまでに鋭敏な感覚を持っているが、人や動物、それに機械などが動いている気配はない。
 
「は、はは…。
そーいや、兄者が、なんや、『出る』ゆーてたけど、まさか…。

いや、ちゅか、なして兄者もリララちゃんも戻って来んのや!?」
その時、上方で異様な気配がした。

屋根の上からであろうか。
ゴトゴトゴトという音とともに、かなりの長さの距離、おそらく数十メートルかソレ以上の距離にわたってナニかが這うようにうごめく気配があったのだ。

しかし、屋根にはさっき登ったが、その上にも特に怪しいモノはなかったはずだ。
 
「……!!」
突如、白い光が辺りを瞬間的に照らし出した。

少しの間を置いて雷鳴が轟いた。

おギンは身動きできなくなっていた。
先程の雷の光は、この建物の天井のアチコチに設置されている明り取りから建物の内部を照らし出していた。
倉庫の奥、ココから100mぐらい奥だろうか。
空中にナニかいた。

ソレは多分、古めかしい浴衣を着た、裸足の少女に見えた。
多分、空中10mくらいにいた。
立っているように見えた。
しかし、一瞬照らし出されただけだったが、周囲に支えになるようなモノは見えなかった。

おギンは考えて、全身に寒気が走った。

立っているように見える姿勢で、周りに床も壁もなく、宙に浮いてるように見えるとなると…。
ロープかナニかで首を…。


次の瞬間、またしても雷光が走り、倉庫の中を照らし出した。
先程の場所には、ナニもなかった。

おギンがゾッとした瞬間、硬質な無数の衝突音が辺り中から響いた。
おギンは思わず首をすくめた。

しかしソレはまるで叩き付けるような勢いで雨が降り始めたのだとすぐにわかった。
スレート板1枚だけが屋根や壁となっている建物では、ただの雨の音も暴力的な破壊音となって聞こえるものなのだ。
 
「こっ、…こっわぁーーーっ!!
オバケ屋敷かいなココぉ!?
せやろ!?
オバケ屋敷なんやろ、ココ〜〜〜っ!?」
 

 
午後7時半。
夏でもこんな時間になるとすっかり暗くなる。

しかし夕方になると『壁新聞部の部室』では屋外にある10mくらいのポールに設置された8基の投光器に灯がともる。
おそらく倉庫として使われていた頃の野外作業用のモノだったのであろう。
ちなみにスイッチは光センサー式になっていて、暗くなると自動的に灯りがともるようになっているモノだ。
1000ルクスを越える光量の照射があり、部室の前はスポーツのナイトゲームくらいは軽く出来そうなほどに明るくなる。


しかし周囲には他にナニもないため、ソコ以外は真っ黒な闇の中に沈んでしまう。

遠く見渡せば100kmくらい離れている『本部エリア』の超高層ビル群が不夜城のごとく電子の灯で輝いているのが小さく見える。
その手前にあるもっと低いビルの集まりが『学園部エリア』だ。


その方角から『壁新聞部の部室』に向かって2つの光点が空を飛んで来る。
時折バックファイアが赤く飛び散るソレらはリララ教授が造ったエアロバイクだ。

もっとも、設計したリララ教授はジェット式エアロバイクだと言い張っているが、実はロケットバーニアを芯にして重力球と制御装置を付けてあるだけのモノである。
むしろ個人用ロケットと言った方が的確かも知れない。


ちなみに普段リララ教授は、学園部に行く用のある時は朝部室を出る時にコレに乗って出る。
そして学園部につくと駅前の自転車置き場にムリヤリつっこんでおくのだ。
その後はリニアトレインやバスで移動し、夕方部室に戻る時に乗って帰って来るのである。


その2機のエアロバイクが8基の投光器に照らされている『壁新聞部の部室』前の平地に着陸する。
リララとトーキチローだ。
2人とも雨に降られたようで頭からビッショリになっている。
「あはは、濡れちゃったネ
ゴロゴロピカッてくるし、夏の通り雨って楽しいなー。」
「さあ、早く部室に入って服を替えましょう。
風邪でもひいたら大変です。」
「そだね。
でも出港申請にこんなに手間取るなんて思わなかったヨ。
おギンちゃんには出港申請に行くってこと言い忘れちゃったし、待ちくたびれちゃってるんじゃないかなー。

こんな時間になるんならトーキチローくんには先に帰っておいてもらえばよかったね。」
「いえいえ。
たまたま事務本館前でお会いしたとは言え、こんなに遅くなってしまうようならばこそ、お付添い出来て良かったです。
こんなに真っ暗ではいろいろと危ないですから。」
2人が話しながら屋内に入ると、電気も付いてなく真っ暗だった。
「あれ?
おギンちゃん、待ちくたびれてどっか行っちゃったのかな??」
「……。
教授、おギンに屋内の電灯をつける電気系統のスイッチボックスの場所とか教えましたか?」
「あ…、ううん。
トーキチローくんは?」
「私は教えていません。」
「ダメJAN!!」
「まぁ、とにかく電気をつけて、まだ中にいるかも知れないので探してみましょう。」
トーキチローは言いながら壁際に設置されているスイッチボックスの蓋を手探りで開け、中のトグルスイッチをパチンパチンと起こしていって屋内の電気をつけた。
「…なにしてるんだ、おギン。」
明るくしてみると、ちょうどトーキチローの真ん前におギンがしゃがみこんでいた。
「無念無想、無念無想、無念無想…。」
「全ての念を払い気配を絶つ『石化の術』、見事だ。

で、それはいいとして、なんでこんな所でそんな事しているんだ。」
「…ん?
お、兄者とリララちゃん!
良かった、待ってたんやでー。」
「ごめーん、用事があったんだぁ。」
「あ、いや、ええって。」
「しかしナニかあったのか?」
「うん、なんや色々あってな。
こう、お湯沸かしたら血ぃみたいなったりな…。」
「なに?」
トーキチローはおギンの言葉を聞くと、話の続きも聞かずに外へと出て行った。
おギンとリララもそのあとについて出る。

それからトーキチローは水道まで行くと、蛇口をひねって出てきた水を手にすくい、臭いをかいだ。
「…確かに。
気付かなかったな。」
「なにが?」
「フィルターが限界越えてます。」
「え?
もうぉ?
最近は10日もたないね。」
「な、なんやの?」
「浄水機の事だ。
この蛇口から出る水、いやに出が細かっただろう。
根元に浄水フィルターが仕込んであるからなんだ。」
「ここの倉庫ってアカデミーがこの星に設置される前からあるみたいでネ。
水道管とかも古くて中で錆びてるみたいなの。

普段から水道を使って水を通しているから、出てくる水が錆の色になるほど悪くなることはないんだけどね。
でも一見透明な水に見えても、水道管を通る時に管の鉄分が溶け出しちゃってるから、熱すると一気に酸化してお湯は真っ赤な錆色になっちゃうのよ。

だからフィルタを付けてあるんだけど、すぐに限界になって詰まって浄水しきれてない水が出てきちゃうんだぁ。

だけど水道管を取替えようにも、どうにも古いモノだし、長さが数十キロメートルあってしかも埋設型だからなんともできないんだよねー。」

リララは言いながら屋内に戻ると、拾って来た物とおぼしい古そうな戸棚の引出しを次々と開けていく。

中には様々な大きさのボールベアリングや電装圧着端子などがムキだしのバラでゴロゴロ入っているようだ。
他にもナニかのアーマチュアやヒールドコイルらしい物など、雑多な部品群が無造作に入っている。
 
「…あ、『HW−C4番の圧着端子』があと7個しかないよ。
それと『2番・赤のワンタッチコネクタ』があと2個。
『C3D−H−MS』のスイッチとゴムカバーは1個もないみたい。
あとは、ある、かな…?」
「ああ、そう言えばその棚の資材は最近チェックしてませんでした。
すみません。
明日工具屋さんに行って頼んでおきます。」
トーキチローは懐から手帳を取り出すとペンを走らせる。
「うわ、なんや、兄者。
今言われたようわからんモノの名前、いっぺん聞いただけで覚えたんか?!」
おギンはヒョイと手帳を覗き込んだ。
トーキチローは達筆な字で部品番号を次々と書いていき、さらには言われてもいないメーカー名や部品の外観までも書き添えていく。
「……こわっ!
 
そのうちリララは、色々な小さな箱が隙間なく詰め込まれた引出しを引っ張り出すと、中から青い小箱を取り出した。
パッケージには浄水機のモノクロ写真がプリントされている。
「あったぁ!
じゃ、トーキチローくん、『パイレン』!」
「はい、ここに。
では行きますか。」
トーキチローは水道管などを締めたり緩めたりする工具、『パイプ・レンチ』を地面から2本拾い上げるとシャッターへと向かう。
リララもそのあとについて歩いて行く。
「お、どこ行くん?」
「フィルターの交換。
結構な力仕事なんだ。」
「せやったらウチも手伝うわ。
単純な筋力なら多分ウチのほうが強いで。」
「それならお願いしよっか。」
「おう!
任しときぃ!」


 
数分後、リララは屋内にひっこんで、外ではトーキチローとおギンがパイプを外してフィルター交換と掃除をしていた。
「そいでな兄者、屋根の上でなんやゴッツい長いモンが動いとる音がしたりとかな。」
「それは雨樋だな。
屋根の周囲に塩化ビニール製の樋がかけてあるんだ。

昼間は太陽光の熱にさらされ熱膨張で伸びる。
そして夕方気温が下がってくると元に戻るんで縮む。

多分その時の樋と樋受けがスレる音を聞いたんだろう。」
「えー、でもエラい距離でゴトゴトいってたで。
そんなに伸びたり縮んだりするんかいな!?」
「そうだな、例えば雨樋が1mあったら1mm伸び縮みするとしよう。
1mm伸びたり縮んだりしたところで音が出るような差ではないな。
だが、ソレが200mの屋根をフォローしきれるように取り付けてあったとしたらどうだ。」
「200倍…20cmも伸び縮みするんか。
それが屋根の樋受け全体を擦ることに…。
なるほど、そんなら納得や。」
「まぁ実際20cm動くのかどうかは測ったことないからわからんが。」
「あとな、倉庫の奥の方、50mくらい向こうかな?
そのへんでなんや光るモンがス〜って動いとったりな。
しかもナニかがおる気配がまるでせぇへん。」
「ソレはヤミカゼだな。」
「ヤミカゼ?
っちうと、兄者が作ったって言う、6mぐらいのあの忍者ロボ?」
「そう、『鋼鉄ニンジャ=シップウジンライ・ヤミカゼ』だ。

アイツは無音駆動だからほとんど気配なしで動ける。
暗くなってから帰って来る時には、俺にも気配がわからなくて不気味だから額のランプを点灯するようにさせてあるんだ。

しかし無音駆動機構の調整だけで1年近く費やしたんだが、おギンにもわからなかったのならば文句ない仕上がりだな。」
「やぁ、なんやぁ、外の電灯の事といい、判ってみればドレもコレもどうってことあらへんやん。
怖がってたウチがアホみたいや。」
「そうだな。」
「みんなー、ピザ焼けたヨー
ちょっと遅いけど晩御飯にしよ!」
「おーぅ!」
部室内のリララに呼ばれた2人は、作業の終った工具とゴミをまとめて屋内に入っていった。
 
「…しかし、見えないか。
運がいいな。」
「え?
なにが??」
「気にするな。
それと、ナニか変なコトがあってもリララ教授にはアレコレ言うなよ。
教授は幽霊とか怪奇現象とかが大の苦手なんだ。」
「え?!」
おギンはトーキチローの言葉に怪訝そうにしながら、ピザとコーラの並べられた机の前のパイプイスに座った。
そしてリララに視線を向けるとビクッとした。
「があっ!?
お、おおお、お嬢チャンっ?!
そそそそのっ、かっかっかっ…!!」
ビックリして言葉に詰まったおギンの後頭部にトーキチローのチョップがキマった。
「あいた〜!!
ナニすんねん兄者!!」
「言うなと言っただろう。」
「…ぅえ〜っ!?
じゃ、じゃあ、あの、アレ…。」
「イタズラ好きなだけで別に害はない。
気にしなければいいだけだ。

しかし見えない人間もいるようだから、お前にも見えないのかと思ったんだが…。」
「?」

おギンがおそるおそるリララ教授に目をやると、やっぱり、浴衣を着た半透明の少女がリララ教授の肩に抱き付いている。

しかしリララはまるで気にしている様子がない。
おそらく見えていないのだろう。

浴衣の少女はおギンの視線に気付いて振り向くと無邪気な笑顔を見せた。
「〜〜〜!!
〜〜〜!!
〜〜〜!!

こわっ!!
「はい、準備完了!!
そんじゃ、みんなで…。」
「いただきまーす。」

その後、おギンはピザを食べながらリララとトーキチローの様子をチラチラと見ていた。
ごく普通に雑談をしながら食べている。

しかし、リララの肩には…。
 
「…こわすぎっ!!


 
おギンは次の日からさっそくテント暮らしに戻ったという。

こうして、『壁新聞部』に新しくおギンが加わった夏休みも、まだまだ平和だった。

つづく!


Sijimiya Konoha & Yukaina Brothers. Presents

"Professor Rilalah @General Science Academy"