バレンタインスペシャル

 
「う〜ん☆
さぁっっぱり、わかんない!」
時は2月13日の昼下がり。
所は20万平方メートルの人工島に開発された臨海地区の新名所であるショッピングモール。

オープン以来いつでもペアやカップルやアベックや恋人達やラブラブなお二人さんや、まぁそんな感じの団体さんで賑わうこの小洒落た店々の建ち並ぶ大通りで、リララ教授はなにやらあっさりと音を上げていた。
「よーし、こうなったら!
『リララレーダー』作動!!
半径500m圏くらいに、誰か知ってる人はぁ、
い・な・い・か・なぁ…?」
ぴぴー☆
「ややっ!
トーキチローくんと大玉斎事務長を捕捉!!
ターゲットロックオン!
ホーミングクラッカー、ファイアー!!」
リララ教授はエプロンのポケットから長さ1mくらいのバズーカ砲のようなモノを質量保存の法則を無視して取り出すと、オモムロに引金を引き、ソコから発射された円錐型の物体の後を追いかけ走り出した。
 

 
同時刻。
臨海地区内のショッピングモールから100mほど離れた場所。

ココのショッピングモールは新名所として連日人が押し寄せているが、これだけ広く、また暮らしに根付いてなく歴史もない場所には、ちょっと奥に入っただけで人がほとんど近寄らない場所というのがある。
正しくは、人が近寄る用がない場所と表現するべきか。
設計上はよく考えられた通路や階段やスペースであったとしても、実際に人が入って使い始めるとなぜか全くの無用だったり不便だったりして誰も近寄らないという箇所が必ずあるものなのだ。

まぁ実際、そういう場所には人目を忍びたいアベック達が集まってかえって混んだりもするものだが、日が高いうちはそれもないというのが常だ。

そんな場所のひとつである建物と建物の隙間であるココは幅3mぐらい、長さ10m弱の小路である。
白で統一されたビルに挟まれた行き止まりには白く塗られた木製の手摺りが設けられ、その向こうには青くきらめく大海が見渡す限り広がっている。
ベンチや街灯も設置されているので、この雄大な眺望を楽しみつつ休憩してもらうために、余剰スペースを最大限に活用して作られたものなのだろう。
実際、海風も心地よく、ここに座っているだけで時を忘れられそうなロケーションである。

ただ一点、建物のスミのトイレの先の曲がり角の奥にあるという点のみが災いしているのであろう。
この場所の存在に気付いている者はほとんどいなかった。

そんなただでさえ人気のない場所に、さらに光学擬態で姿を隠した人物が2人いた。
彼らはいつもココで他の誰にも漏らせない情報のやりとりをしているのだ。
( -_- ) 「…のほうのルートからは数種の薬品のリークがあることが掴めました。
遺伝子操作後の定着に使う酵素などです。
おそらく例のアンプルの調合を行なうものと思います。」
(◎M−) 「ではそろそろ動くということか。
ワシのほうは予定通りに事を運ぼう。」
Σ(-_- ) 「お願いします。
ハッ、ナニか来ます!
って…。」
異様な気配にその2人が空を見上げると、なにやら円錐型の物体がクルクルひよひよと飛んで来た。
派手な色使いで星やリボンが描かれている物体だ。
しかもリララ教授がいつも左肩に付けているワッペンと同じ『R』の文字をデザイン化したマークが付いている。

2人はそのノンキな見た目に思わず脱力していた。
と、突然その底辺が派手な音と共に破裂して中からカラフルなリボンやキラキラした紙吹雪が飛び出した。
「どわぁあああ!!
なんぢゃなんぢゃ?なんなんぢゃあっ!?」
大玉斎事務長は光学擬態を解いて様子を見ようとした瞬間に破裂されて驚いていると、パタパタという音を立ててリララ教授が通路を走ってやって来た。
「やっほー大玉斎事務長〜☆
トーキチローくぅん☆
こんにっちわー!!」
「…。
教授…。」
「ん?
どしました??
頭抱えてしゃがみこんだりしちゃって?」
頭の上にを出しつつリララが首を傾げていると、トーキチローも光学擬態を解いて姿を現した。
「いやぁ、ちょっと裏の裏をかいたこんな場所で密談をしていたら教授にズビズバッと見付かってしまってマッタクもぉ、という感じなのではないでしょうか。」
「えぇーっ!?
蜜男シテいた ですってーーっ!?」
「こらー!
妙な字をあてるんぢゃない!
ワシらがしていたのは秘の相で『密談』ぢゃ!!」
「あ、な〜んだソレならそうと早く言ってくれればいいのに!
いやに甘美でいて背徳的な響きだなぁとは思ったんですよ☆」
「思ったら口に出す前に考えてみてください。」
「ところでこんな場所でどうされたんですか。
お買い物ならばいつも『電脳中心街』の方にいらしているのに。」
「いやまぁ、お買い物をしに来たんだけどネ(^^ゞ。
でも実はこんなトコって来たの初めてだからお店とかさっぱりわかんなくってサ。
んで、しょーがないから誰かに聞こうと思って、近くにクラスの子でもいないかなーと『リララレーダー』を使ったらトーキチローくん達を見付けたのよぉ☆」
「見付けたのよぉ☆って…。
コッチは一応軍事用のアンチセンサーカムフラージュを2重にかけたうえ、幹部権限でDNA識別型のID信号も一時停止させていたんじゃが…。」
「リララ教授が耳に着けたメカのサーチ能力は戦略情報空母に匹敵すると聞きますが、さすがダテではありませんねぇ。」
「しかしこんなカジュアルでファンシーでアウトレットな店かスタイリッシュな食い物屋しかない所にナニを買いに来たんじゃ?」
「んー、なんか知らないけど理事長が『明日になったらチョコレートをくれくれ、おくれ〜♪』っておもしろい踊りやアシカのモノマネなんかを見せつけてくれるから、仕方なくごほうびのチョコを買いに来たんですヨ。」
「あ〜…。
アイツもいい年してなにやってんだか…。」
「もへ?
なにがです??」
「ワシやアイツの故郷、ユニオンJでは、明日2月14日は女の子が好きな男の子にチョコをあげる日なんじゃ。」
「えー!
そーなんですかー!?
ってことはなんだかいいようにダマされてるじゃないですか私ーっ!!」
「まったく理事長も基本的には超天才なんだから、もっと有用に頭を使えばいいものを…。」
「ぃやぁ、て言いますか、明日ってそーゆー日なんですかぁ…。
私ってば『ちょー天才』のつもりでいたのにそんなことも知らなかったとわかってショックです。」
「まぁ教授は旧帝星生まれではないですし科学畑育ちですから御存知なくても不思議ではないですよ。
しかもチョコなんてユニオンJだけの風習ですし。

そうですね、最初から御説明いたしましょう。
主な説だと2月14日というのは西暦269年、ローマ帝国下でキリスト教の司祭、聖バレンティヌスが処刑された日だとされています。」
「そういや西暦1929年には『ゴッド・ファーザー』と呼ばれたギャング、アル・カポネが『バレンタイン・デーの大虐殺』をした日じゃなぁ。」
「ぅわぁ〜、なんとも鮮血したたるスプラッタな記念日なんですネ〜。
そういやチョコって『牛の血を固めたモノ』がどうとか聞いたことあるし…。」
「事務長先生、変な話を差し挟まないで下さい。
教授が変な誤解をしてしまったじゃないですか。」
「むぅ、すまんすまん。
じゃあアレだ。
2月14日といえば『海老名みどり』の誕生日じゃ。」
「誰ですかソレ?
やっぱりスプラッタなんですか?」
「いや、スプラッタ関係ない。
みどりさんてのは『峰さん』の奥さんじゃよ。
『エバラ黄金の味』で有名な。

む、奥さんと言えば西暦1917年に『主婦之友』が創刊されたのもこの日じゃぞ。
後に『電撃シリーズ』を擁しオタクのバイブルとも言うべき本を次々と発行することとなる出版社を生み出す恐るべき雑誌の第一歩じゃ。」
「ぉわぁ〜!
なんておそろしい日なのかしら…!!」
「事務長先生、やっぱり私が説明しますから。」
「なにっ!?
これからがいいとこなのに…。」
「いえもう結構ですので。」
 
それでは説明しよう!(タイムボカンかモンコレナイトな感じで)

バレンタインデーとは正しく言うとセントバレンタインデーである。
セントというのはキリスト教の聖人のことで、バレンタインというのは人名。
そう、この日は聖バレンタインさんの記念日なのだ。
しかしこのバレンタインというのは英語読みなので、正しくは、聖バレンティヌス(Saint Valentine/ San Valentin)さんである。
ちなみにスペインのマドリッドにある聖アントン教会には今でもバレンタインさんの遺骨が納められているそうである。

しかし聖バレンティヌスさんというのは2人いたらしく、どちらがこの記念日の元祖であるのかは紛糾しているらしいのだが、なんにしても2月14日にローマ帝国で殉教したそうで、この日がバレンタインデーなのは間違いないのだとか。

さて、ことのはじまりはローマ帝国。
ローマでは皇帝クラウディウス二世の強兵策として兵士達の結婚は禁じられていた。
『自由結婚禁止令』である。

しかし若い恋人達が権力に引き裂かれていく姿に心痛めたバレンティヌスさんはひそかに結婚式を行なうようになった。
だがそれが軍に知られ逮捕されてしまい処刑されたのが2月14日だったそうである。

この時に取調官の盲目の娘と恋に落ち愛の奇跡で彼女の目を治したというエピソードや、処刑を待つ獄中から恋人に愛の手紙を送ったという伝説などもあるという。


これらのことから14世紀の中世ヨーロッパで聖バレンタインは愛の守護神とされ、この日に恋人達が手紙やカードや贈り物を交換しあうようになったのだ。


そしてユニオンJでは昭和11年にチョコレートメーカー・モロゾフがJでは初めてのバレンタインデー宣伝を打ち、昭和33年にはメリーチョコレートカムパニーがバレンタンデーには恋人にチョコレートを贈ろうと新宿伊勢丹デパートでキャンペーンセールを展開した。
ちなみに有名な余談だが、この年には5個、170円分しか売れなかったという。
そしてその後、森永も戦列に加わりバレンタインデー戦略を展開、昭和50年代になると、物心つく前から『バレンタイン=チョコレートを贈る』という公式が意味もわからず頭に入っている世代が台頭、その月のチョコレートの売上だけで600億円以上もの経済効果をもたらすようになっていった。


ところでJではチョコレートに沸くバレンタインデーだが、他のユニオンや地域では恋人だけではなく友人や夫婦がパーティーを開いたり、愛のカードや手紙、赤いバラなどのやりとりをするそうである。
またJで言われる「女の子が告白する日」というのもJだけで、他地域では男性のほうから恋人にプレゼントを贈るのも普通だそうである。
またギリシアやフランスでは特に盛り上がらないとも聞く。


また3月14日をホワイトデーと称しチョコをもらった男の子が女の子にキャンディーなどのお返しをするというのもユニオンJだけのイベントである(花などを贈るフラワーデーやポピーデーというのはある)。
これは1978年に全国飴菓子業協同組合が「ホワイトデー(3月14日)はキャンデーの日」と決定し、1980年から始まったものなのだ。
マシュマロやクッキーがどうこうというのも、チョコレート同様、各企業独自のプレゼンに他ならないのである。
 
「な〜るほど!
てことはバレンタインデーってのは
資本主義原理に侵された『尊い愛の記念日』の残骸
とゆーことなのネ!!」
「その通りです!」
「お前達、若いのに妙にスレきっているなぁ。」
「あ、いや…。
まぁ…。」
イタミ・トーキチロー、21才。
実は今まで一度もチョコをもらったことがないゆえに逆に妙に詳しくなってしまったというのは秘密であった。
 

 
さて、翌日。
時は2月14日の夕方。
所は大自然の懐にいだかれた大型倉庫、別名『壁新聞部の部室』(ただし不法占拠)。

トーキチローがちょっと一休みしようと立ち寄ってみると、倉庫の奥の大型圧造機などが放置されている一角で機械の加工装置などが稼動していた。
何事かと覗いてみるといつもの水色のエプロンドレスが見えたので、機械の立てる音が小さくなるタイミングを見計らって声を掛ける。
「こんにちわ、リララ教授。
いらしてたんですか。」
リララ教授はと言うと、中腰でスコープを覗き込みながら、右手でエラい勢いでキーボードにデータ入力をしつつ、左手では10本くらいある機械のレバーをガチャガチャと操作している。
「ja.(ヤー。)
わるいけど今ちょっと手が離せないから、よしなに。」
「はい。」
ここ『壁新聞部の部室』(とは言っても不法占拠)はムチャクチャだだっ広い上に、色々と資材や道具が大量に放置されていて、けっこう試作や実験をするのに便利な場所でもあるのだ。
「あ、トーキチローくん、黄色い机の上。」
「はい。
…これ、ですか?」
トーキチローは黄色と黒のシマシマ模様(危険物警告表示色とも言う)に塗られている鋼鉄製の巨大な旋盤の所へ歩み寄った。
しかしどう見てもコレは机には見えないのだが、いつもこの上で壁新聞の作業をしたり荷物を置いたりしているので、便宜上、机と呼んでいる。

そこに乗せられている見覚えのない紙袋を手に取るとトーキチローはリララ教授が作業している場所にとってかえした。
リララ教授がああいう口振りの時はたいていナニか道具や材料を取ってくれという意味なので、ソレを教授に渡そうと差し出す。
「あ、私に、じゃなくて、キミにだよ☆」
作業を続けているリララ教授はちょっとトーキチローの方を見てニッコリとした。
「は?」
「トーキチローくんの故郷だと、好きな男の子にチョコあげる日なんでしょ?」
リララ教授は言いながらまたスコープを覗き込む。
そう言われてみるとトーキチローが手にしたモノは真新しく可愛いらしい紙袋だ。
「…ありがとうございます。」
いつも通りポーカーフェイスで答えているが、紙袋が潰れないようにとカバンの中の程よい場所にいそいそと、かつ、注意深く慎重にしまいこんでいたりするトーキチローであった。
「私の手作りだと爆発しかねないけどネー(笑)、昨日あのモールで買ったモノだから安心して☆」
「と、言いますと?」
「理事長先生には手作りのをあげたんだ☆」
「いまごろ具体的かつ盛大に爆発してると思うよ♪」
「…それは、お可哀想に。」
トーキチローは今頃の有様を想像して同情の念を禁じえなかった。
ちなみにもちろん、爆発しているであろう理事長にではなく、爆発の事後処理に奔走するハメになっているであろうフーメイにである。
「ところで教授は甘いモノはナニがお好きでしたっけ?」
「ん〜、漉餡(こしあん)と求肥(ぎゅうひ)!」
「なんだかムチャクチャ渋いですね。
では来月には『赤福(あかふく)』みたいなものを作って御馳走しますよ。」
「わーい☆
なんなんだかよくわからないけど、トーキチローくんてお菓子作るのもウマいから楽しみ〜♪」
「余り期待はなさらないで下さい。
下手をすると…。」
「?」
「いや、下手をすると、やっぱり下手な出来になって美味しくないですよね。」
「あはは、そりゃそーだネ☆」
「ええ、まったく。」
 
『下手をすると…、その頃には私はもういないかもしれません。』

しかし、トーキチローは、この言葉を口には出来なかった。

もし、同じ『里』で育ち、同じ基礎をもつ技を身に付けた者と激突することになれば、どう考えてもタダですむはずがない。
だがそれが事実であるにしても、今、笑いかけてくれているリララ教授に言うべき事ではなかった。

激しい戦いの予感の中で、でもやっぱりチョコは嬉しいトーキチローだったし。
 

 
その頃、学園部にある共用実験室に紫色のセーラー服に身を包んだ少女の姿があった。
彼女はたった今ある薬品の調合を完了した。
少女は慎重にその薬品を2本のアンプルに移し替える。
「へへっ、出来たで、ウチの『HBC』を完璧にする制御剤が!
このアンプルさえあれば例え兄者や、あのフーメイはんが相手になったとしても負ける事はあらへん!
ちぃと手間どってもうたけど、仕事のカタぁきっちり付けさしてもらうでぇ!」
 
少女はそのアンプルを懐に納めると、外に駐機しておいた赤い複葉機に颯爽と乗り込んだ。

ついに決戦の時は来た。

少女は意気揚々と機器類をチェックしていく。
しかし次の瞬間、彼女は恐るべき事態に直面することとなる。
「あ、ガス欠…。」
しかも辺りにガソリンが買えるような場所はなかった…。

それに今回の薬品を調達するために、『海の家』などでしたバイトの資金も使い果たしてしまっていた。

決戦の日はまだもうちょい遠い。
 

 
ところで、トーキチローがリララ教授にもらったチョコは、ピンク色したお地蔵さんの入れ物に入った『お線香チョコ』という抹茶味のポッキーだった。
ユニオンJ出身のトーキチローに対してリララ教授なりに気を利かせたつもりのようだが、トーキチロー的にはちょっとナニだった。

そして彼が自室に戻ると、もうひとつ差出人が書かれていないチョコレートが届いていた。
中身は『超リアルで食べられる!ゴジラチョコ!!』という、怪獣を立体で再現した大迫力の抹茶チョコだった。

生まれて初めてバレンタインデーにチョコを、それも2つももらってしまったのはとても嬉しいのだが、中身がなんでまたこんな…。

ちょっぴり複雑な男心であった。



もぉ今度こそ絶対確実本当に!(笑)
第4話につづく!!


Sijimiya Konoha & Yukaina Brothers. Presents

"Professor Rilalah @General Science Academy"