勝手堂書店
特殊構造をもつ機関車とライブスチーム
                 三ツ矢 明  著
             機芸出版社  3333円
ライブスチームとは鉄道模型用語で、モーターなどを使わず実物通りお湯を沸かして蒸気で走る機関車のことで、かなり本格的な工作をともなうものです。
この本は急曲線通過性能を得る為に、特殊な構造を持った蒸気機関車をライブスチームで作った製作記です。
ライブスチーム製作には大量の設計図が必要ですが、この本にはそれが少なく、図面としてあるのは、特殊な機構の図面が中心です。 従ってこの本を参考に機関車を作れるのは基本的な図面を自分で引ける人であり、ライブスチーム初心者の為の本ではありません。
にもかかわらず、ライブスチームなど、無縁の私が見ても楽しい本です。

まず実物機関車の探求をする人にお勧めです。 
機関車の急曲線通過のために考えられた機構としてアメリカで発達したギヤードロコについては知っていましたが、欧州で考えられた、リンク機構による動力伝達は私を含めて相当の数の人がこの本で知ったのではないでしょうか。 久しぶりに世界は広いもんだと思いました。
例えばハガンス式ではメインロッドの長さを可変としますし、クローゼ式では何とサイドロッドの長さを曲線通過のため可変としてます。
実物の技術者の頭の中は「蒸気」と「牽引力」という目に見えないものだけなので、アマチュアのように、設計にあたって、まず典型的な蒸気機関車の姿を描いてから考えるという過程が無いのかも知れません。 

模型として鑑賞する人にもお勧めします。 高度な機械工作で完成した機関車の機構核心部の写真も美しく読者の目の保養となります。 機械工作の趣味としての本領は自分で設計し、製作する事でしょうが、それが出来なくても、美しい図面と巧妙な工夫の説明そして写真を見るだけでも十分楽しめます。冒険できない人が冒険小説を読む程度の楽しさは保証されます。
著者の三ツ矢氏を本で知ったのは1961年頃の16.5mmゲージレイアウト(運転線路)設計コンテストの上位入賞でした。それ以前32mmゲージの市電の発表もありました。 私はそれらに余り関心をはらわなかったので、40年近くたって突然機関車の秀作を発表したのに驚きました。
 初めに書いたようにこの本では機関車の基本的な図面は省略されています。もし省略しなければ、一層良い本になっただろうと惜しまれますが、それは本の巨大化を伴い商業的に無理だったのだと推察されます。
商業的には有利な英米での出版という道もあったかも知れませんが、残念なことに三ツ矢氏は先頃他界されました。
なお、本書P70で詳細不明といわれた「ヘルムホルツ式」の実体は下図ではないか、と思うのですが。
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ついでに。 本書P21で、山崎喜陽氏が、言及している、「タスマニアのハガンス式機関車」とは下に図と写真を出しました。
 この機関車は前部(煙室側)が3動軸固定式、後部が急カーブ対策として、2動軸首振りです。
前端にある 1セットのシリンダから首振り動輪を含めて、5軸に特殊なロッドやリンクのみを使って動力を伝えています。  ゲージ(軌間)は610mm。
上写真はやはりヘルムホルツ式機関車の例です。
設計はドイツ、クラウス社のRudolf von Helmholtz氏
2気筒複式、動輪径800mm、軸距離4100mm
仕向地はボスニアヘルツェゴビナ