冬の冷たい雨が身体から熱を奪うには十分すぎた。

 かじかむような寒さに長時間晒された身体は既に冷え切り、水気を含んだローブが酷く
重く感じられる。にも拘らず、彼女――キャスターは無言のまま闇夜の帳が降りた森の中
を歩き続けていた。

 現界しているだけでも魔力は一方的に放出されている。体力も徐々にではあるが、失っ
ていくのがはっきりとわかる。

 虚ろな眼、虚ろな足取りのまま、彼女は当てがあるわけでもなく、ただ黙々と森の中を
彷徨っていた。

 と――

「――あ」

 僅かな呟きが口から漏れると同時、ぬかるんだ地面に足を滑らせたキャスターは腐葉土
の上に無様に転倒していた。

 果たしてこれで何度目だろうか……思わずそう自問しながら、彼女は地面に手を着き、
ゆっくりと身体を起こし立ち上がる。

 ぬかるみに脚を取られて転倒したのは一度や二度ではない。中には窪みに躓き、身体を
生い茂る樹々にぶつけすらした。

 もっとも、それら全ては今の自分にとって些細なものでしかない。

 顔やローブに付着した泥を払い落としもせずに、再びキャスターはのろのろと歩き出す。

 泥水に汚れたことなど今更気にしてはいない。既にその身は泥以上のものに汚れきって
いるのだから。

 降りしきる雨は一向に止む気配をみせなかった。それどころか、雨脚は先よりも一層強
く激しいものへと変わっていた。

「…………」

 無言のまま顎を上げ、彼女は天を仰いでいた。

 雨曝しの頭上には、空なのか生い茂る樹々の枝なのか判断できぬ黒一色。

 ぽつぽつと頬を打つ雨を気にもせず――キャスターはじっと雨夜の空を眺めながら歩を
進めた。




――Fate/stay night if story―― 紫の鳥 written by ケイズ (C)2004
 ことの起こりは簡単なものだった。自身を呼び出した愚かなマスターを殺めただけだ。  サーヴァントの自分がいなければなにもできない無力な小者。  それなのに野心だけは人一倍に強く、おかしな所に拘り、自分を蔑んでいた救い様のな い馬鹿な男。  従う価値すら微塵もなかった、あさはかなマスター。  物言わぬ躯と化した相手。その死体の返り血に塗れたキャスターは、蔑んだ眼で見下ろ していた。  ただひとつ、素直だったところは褒められたものだ。此方の唆しに、なんの疑いも持た ずに従い、サーヴァントの己を束縛する三度の令呪をくだらぬものに使わせることができ たのだから。  己の宝具『破壊すべき全ての符――ルールブレイカー――』で殺せたことも、想いのほ か酷く爽快だった。  手っ取り早く魔術で男の身を消し去っても良かったのだが、それでは簡単すぎてつまら ないし、味気なくて面白くない。  ならば面白味のあるものはなにかと考え……思い立ったのがルールブレイカーだった。  魔力によって繋がれたものを全て壊し、作られる前の状態に戻す究極の対魔術宝具で魔 術師を殺す……これ以上皮肉めいたものはないだろう。  サーヴァントに護ってもらわねばなにもできない魔術師に――  感謝こそされ、罵倒される謂れなどないのだと自分の行為を正当化させながら――  僅かな日数とはいえ、使役された恨みを晴らすように、彼女はマスターだった男の遺体 を己が気が済むまで弄り続けていた。  斬り裂き、突き刺しながら、何故もっと早く行動に移さなかったのかと自問さえした。  口汚く罵倒するその声が気に入らなかった――  汚いものを見るようなその眼つきが気に入らなかった――  いやらしく触れてくるその手が気に入らなかった――  ことある度に蹴られたその脚が気に入らなかった――  最初に喉を一閃した時点で、男は叫び苦しむ暇さえ覚えずに絶命していた。だが、眼を 見開いて事切れていようとも彼女は気にも留めていない。例え相手が今の一撃で死んでい ようが死んでいまいが、自分の気が晴れる行為を止めるつもりはないのだから。  顔を、眼を、腹を、喉を、腕を、脚を、胸を貫く音だけが、空しく部屋に響いていた。  容赦など一切ない。愉悦を感じ、笑い声を上げながらキャスターは何度も何度もその男 の身体にルールブレイカーを振り下ろし続けていた。  そして、どれほどの時間が経ったのか……  仄かな灯りが点る室内には血肉を蹂躙する音は疾うに止み、代わりに呼吸を乱した荒い 息遣いだけが耳障りに響いていた。  息絶え死体となった男は酷く滑稽だった。指の幾本かは手から離れ散ばり、至る所を穿 たれ潰され、どす黒い血を流しきった姿はある意味不出来な人形のようにも見える。  一時の行為にキャスターは精神、気分ともに高揚し、笑みを浮かべて満足感に浸っては いたが、徐々にその表情は崩れていった。  マスターたる魔術師よりも、キャスターは遥かに魔術に優れていた。  魔術師において魔術というものがどれほどのものを意味しているのかは明白と言えよう。  サーヴァント中最弱のランクであるにも関わらず、魔術の扱いにおいては主人を超越し ていたとなればどうなるか?  結果、絶望と嫉妬の二重に駆られた男は実にくだらない判断を下していた。ほんの僅か な魔力量しかキャスターに供給しなかった。   本来、サーヴァントは随時万全な状態で活動し、敵サーヴァントと戦い、またはマスタ ーを護る存在だ。それが一握りにも満たない魔力維持の供給では、戦えるものも戦えず、 護るものも護れはしない。それが魔力に頼る戦いを余儀なくされるキャスターならば尚更 だった。他のサーヴァントたちと違い、彼女は魔力が要であり、肉弾戦で渡り合える術な どは持ち合わせていないのだから。  とは言え、マスターたる魔術師にはそんなものは関係がなかった。とにかく男は自分よ りも終始魔力量を下回るように維持させることに固執していた。  キャスターにとってみれば、マスターの行為はまさに自殺行為としか言えないものだっ た。なにをくだらないことで意地を張っているのか、こんな状態で敵サーヴァントと戦え ばどのようなことになるかなどと再三に渡り忠告をしたにも拘らず、男は全く話を聴き入 れようとはしなかった。  いずれそれが仇となると説いたものが、皮肉にも、今なろうとは。  召喚されてから与えられていた僅かな魔力量と、その魔力の供給源となるマスターを絶 たれた使い魔たる己が身は消え失せるしかない。  こうなることは解かっていた。自由を手にするため――後悔はないが、急速に消え失せ ていく魔力にどうすることもできず、キャスターは人々の寝静まった夜の街を当てもなく 彷徨っていた……はずだった。  それが、今は周囲は何処までも続く樹々の生い茂る森の中。  どうやってこの森に脚を踏み入れたのかさえ彼女は覚えていなかった。自暴自棄になっ ていたことと、ただ単に脚が向かった先が此処だと言えば辻褄が合うのかもしれないが。  それが、今の彼女に至る経緯だった。          突然キャスターの身体がよろめき、その場にひっくり返っていた。同時にばしゃりと水 飛沫が上がる。  小さな水溜りを作った地面に尻餅をついた格好のまま、彼女は何が起ったのか解からず に呆けている。  水溜りに倒れる自身の姿と周囲に視線を向ける。序で、僅かに痛む肩に気がつき、そこ でようやく合点がいった。自分は樹の幹にぶつかって倒れたようだ。 「…………」  彼女の心境を嘲笑うかのように、冷たい雨は容赦なく降り続く。  不意に口元が自然に歪み、笑いが漏れた。 「あは……あははははは……」  それは悔しさからか、または情けなさからか、はたまた自身の滑稽な姿に対する嘲りか。 「あはははは、あは、あはははははははははは」  雨に打たれながら、キャスターは乾いた笑いを漏らし続けていた。  と――  その哄笑は瞬時に止むこととなる。 「なぁんだ。キャスターじゃないの」 「!?」  刹那の闖入者の声音に――キャスターは身体をびくりと竦ませ振り返っていた。  雪のように白い少女。うっそうと生い茂る森の中に映える姿は、恐ろしいほどに場違い すぎる。  キャスターは少女を見ていなかった。いや、その少女を見はしただろう。だが、それよ りも、彼女の眼が釘付けとなった先は―― 「ヘ――ヘラ、ヘラクレス――」 「へぇ、わたしのバーサーカーを一目で看破できるなんて。褒めてあげるわキャスター」 「う……うそ……なんで……」  紡いだ言葉は震え――虚ろだった眼は少女の背後に山のように聳える巨人を捉えたまま。  『バーサーカー』……無論のこと、キャスター自身がその言葉を知らぬはずがない。  七騎によるサーヴァントが一騎。そして、サーヴァント中……もっとも『最凶』のサー ヴァント。  聖杯戦争において、自身が最も脅威として恐れたサーヴァントは二騎。セイバーとバー サーカー。いずれは相対するであろうとしたその二騎のうちの一騎を前にし、キャスター は動くことができなかった。  なによりも、キャスターはそのサーヴァントの顔を知っている。自身の真名メディアと 浅からぬ因縁を持つギリシャ神話最大の英雄――狂化して風貌が変わっているとはいえ、 ヘラクレスを見忘れぬわけがない。 (よりにもよって……ヘラクレスがバーサーカーだなんて)  更に最悪なことを付け加えるならば、バーサーカーの身から放たれる強烈過ぎる威圧感。  吐き気がするほど此方の身体に伝わる重圧は、決して出会ってはならない領域の証。  世に語り継がれるヘラクレスの神話では、彼はセイバーのクラスやアーチャーのクラス にも該当する。だが、それがよもやバーサーカーのクラスとは。  聖杯戦争システムにより、バーサーカーのランクに呼び出された者は理性を失う代わり に全能力がワンランク上昇されるとはいえ―― (レベルが違いすぎる……)  同じ空間に居るだけなのに身体が震える。自分の想像を絶する相手の魔力は半端どころ ではない。例え今の自分の身体が万全であったとしても、この桁外れのサーヴァントには 勝てないだろう。  ヘラクレスの力がどれほどのものかと詮索し改める気はない。ただでさえ手におえない 相手がバーサーカーとなり、より一層力を増したのだから。それこそ反則過ぎると笑い飛 ばしたくなるぐらいにだ。  片手に異形の剣を握った鉛色の巨人を前に、キャスターの呼吸は詰まったものになって ていた。くすくすと笑う少女の声など耳には届かない。  サーヴァントの気配を察知できずにいた。それほどまでに自分は周囲になんの注意も払 っていなかったことになる。  此処まで接近を許したことは間抜け意外に他ならない。キャスターは己の迂闊さを今更 ながらに呪っていた。  しかし、遭遇したことは別として、キャスターは少女の口にした言葉を聞き逃してはい なかった。  少女はなんと言った? 此方のクラスの名前を口にしなかったか―― 「何故それを……」  知っているのか――  唖然とするキャスターの反応が面白かったのだろう。少女は楽しそうに口元に指を当て ていた。 「なに? なんで知ってるかって言いたそうな顔ね。そんなの簡単よ。サーヴァントのこ とは知っているし、聖杯戦争のことも知っている。こうまで言わなくちゃわからない?」  そこでキャスターは理解した。  なんのことはない。至極簡単なことだった。何故そんなことに自分は気がついていなか ったのか。  サーヴァントを連れているという時点で知り得たものだった。  ああ、つまりは―― 「そう。察しの通り。わたしもマスターよ。挨拶が遅れたわね。わたしはイリヤスフィー ル・フォン・アインツベルン。バーサーカーのマスターよ」  スカートの端を摘み、ちょこんとお辞儀する少女の姿は、なんと可憐なものだろう。だ が、イリヤスフィールの振る舞いなどはキャスターは見ていなければ興味もない。少女よ りも、背後に控える巨人の方が自分にとって遥かな脅威の対象となるからだ。 「アインツベルンの森に侵ってきた反応があるから来てみれば……ハズレだったみたいね。 その格好から見て、どう考えても、如何にもキャスターなんだもん。でも、褒めてはあげ るわ。キャスター如きがわたしのバーサーカーと闘うためにこの森に侵ってきたなんて… …もっとも、奇襲するにはもうちょっと用心したほうが良かったわよ。気配も魔力も完全 に遮断していなかったのは迂闊だったわね。そうでもなければ、こんな風に見つからなか ったのに」  眼を細めるイリヤスフィールに対し、キャスターは心の中で叫んでいた。  違う。闘う気などはない。自分はただ当てもなく森の中を彷徨っていただけだ。此処が 敵マスターの領域などとは知らなかった。  だが――  そんなことを口にしたとしても、この少女は聴いてはくれないだろう。  それもそのはずだ。  そもそも聖杯戦争は殺し合うだけのもの。そこに敵対するマスターとサーヴァントがい るならば、倒すだけが道理。  逃げろ逃げろ逃げろ――  脳裏で本能が早鐘のようにそう告げている。だが、キャスターの脚はピクリとも動きは しなかった。  逃げる?  何処へ?  どうやって?  此方が少しでも動きさえすれば、その一瞬で自分が死ぬことは解かっている。一歩でも 踏み込めば、巨人の持つ『剣』が自分の身体を分断している方が遥かに早い。  背を向けて逃げ出そうものならば、あの凶器を投げつけられて絶命させられるのがオチ だろう。  想像しただけでそれは酷く滑稽な姿だった。  故に、バーサーカーの射るような重圧から彼女は動くことなどできはしなかった。  蛇に睨まれた蛙のように――  恐怖のあまりの身体の震えは口蓋にも走り、カチカチと不規則に奥歯を鳴らす。  そんなキャスターとは対照に、少女の視線は周囲へと向けられている。  暫し無言のまま見渡しながら……納得がいったのか、少女の視線は再びキャスターへと 戻されていた。 「ふぅん……あなたひとり? マスターはいないようだけれど……それとも、裏でも掻こ うとしているのかしら? それに、その血を見ると既に一戦やらかした後みたいね。もう 誰か他のマスターを殺してきたの? 意外と気が早いのね、キャスターって。てっきり自 分の砦に引き籠もってビクビクしている腰抜けサーヴァントだと思ってたけれど……キャ スターの固有スキルは陣地形成らしいじゃない」  静かな声音でくすくすと笑いながら少女は続ける。 「甘くみられたものね。他のサーヴァントならばいざ知らず、わたしのバーサーカーにキ ャスター如きで向かってくるなんて。余程あなたのマスターは自信家なのね。ほんと、舐 められたものだわ」  と――  イリヤスフィールの口上と恐怖心により耐え切れなくなったのか、キャスターは声を荒 げ叫んでいた。 「ち、違う! 聴きなさい、バーサーカーのマスターよ――わ、わたしは争う気はありま せんっ!」 「?」  その言葉に少女は不思議そうに首を傾げていた。  サーヴァント同士が出会し、対峙しているこの状況に於いて、相手は『争う気はない』 などと口にするのだから。イリヤスフィールにしてみればその意図は掴めない。彼女の仕 草は当然と言えよう。  固唾をごくりと飲み下し、キャスターは掠れた声で続けていた。 「わ、わたしが此処に訪れたのには他意はないのよ。此処に来たのも、ただの偶然でしか ないの――で、出て行けというのなら、すぐに出て行くわ。だから――」 「まどろっこしいわね……つまりはなに? 見逃せってこと?」  遠回しな言い方は不要だと謂わんばかりに、少女は射抜くような視線を向けてくる。そ れに対し、キャスターは震える身体でこくんと頷いていた。 「他人の領域に踏み込んでおきながら、随分な台詞じゃない」 「そ、そのことについては、本当に申し訳ないと思っているわ。だ、だけれど……未だ七 人のマスターは揃っていないのだし……聖杯戦争のルール上、まだ正式な開始もされてい ないでしょう……此処は、お互い様子見ということで手を打っていただけないかしら?  そ、それに……む、無駄に魔力を消費するのも得策とはいえないでしょう?」  言葉の最後は自分に当てたものだったが……なんにせよ、キャスターは眼の前の少女が この提案を受け入れてくれることを願っていた。  だが、それはキャスターにとっての都合の良すぎる勝手な願望でしかない。 「案外くだらないことを気にするのね……あなた」 「え?」  呆れたような声音を漏らす相手に、キャスターは思わずそう訊き返していた。  銀の髪を掻き上げ――つまらないものを視るようにイリヤスフィールは言葉を続けた。 「殺し合うんだもの。それこそルールなんて関係ないじゃない」 「なっ――」 「一騎でも最初に潰せるのなら僥倖だわ。それがキャスターならば尚更ね。下手に力を蓄 えられて、後々厄介な相手に化けられてもつまらないし。そっちが戦わないつもりでも、 こっちは戦うつもりなんだもの。それで十分じゃない。それに……」  心底愉しそうな笑みを浮かべ、少女は告げる。 「とっくに誰かを殺してきたあなたが、今更なにを口にしているの?」 「…………」  そこでキャスターは紡ぐ言葉を失っていた。  無理だ。  例えどのような言葉を選ぼうとも、眼前に立つバーサーカーのマスターは聴く耳など持 ちはすまい。  雨か汗かも判断できぬ冷たい滴がキャスターの頬を伝う。  震えて見返してくることしかできぬ敵サーヴァントに対し、少女は無言のまま、静かに 一歩踏み込んでいた。  ぬかるんだ地面を踏みしめたその音は、キャスターの耳朶に激しく触れる。  一歩。また一歩と近づく少女。その背後に立つ巨人は動かない。見据えたように不動の 姿勢を保ったままだ。  しかし――  呆けている暇などない。  相手が殺す気で向かって来るのならば、自分もまた迎え撃つためにも殺す気に切り替え ねばならない。  キャスターの身体が後退し――その違和感に、ふと彼女自身気がついた。  震える身体。震える脚で――彼女は地面を踏みしめていた。自分でも気づかぬうちに、 いつの間にか立ち上がっていたらしい。  そんな些細なことにすら気が回らなくなっているとは、自分は本当に思考回路がおかし くなっているのだろう。とは言え、倒れたままの姿よりは遥かにマシだ。  考えろ――  今の自分にできることなど限られている。  確かにバーサーカーは脅威だ。倒すことなどは不可能だろう。  そう。倒すことは、だ。  ローブの中で具現化させたルールブレイカーの柄を握り締め、キャスターは思考する。  相手が如何なる強靭な魔力の繋がりに支配されていようとも、自身の宝具の力に例外は ない。巧く行けば『最凶』のサーヴァントを手駒にすることも難しくはない。  そのためには、相手の持つ岩の剣――あの凶器をなんとしても掻い潜り、近づかねばな らない。  バーサーカーに近づかれたら終わりだが、逆に自分が近づければ勝ちとなる。なんとも 矛盾する話はではあるが、キャスターは機会を窺いながら、いつでも魔術を発動できるよ うに身構える。  そんな相手の姿を眼にし、イリヤスフィールは僅かばかり肩を竦めてみせていた。 「へぇ……やる気なんだ。尻尾を巻いて逃げ出すのかと思ったけれど……まぁいいわ。す ぐに殺しちゃうのもつまらないし……手加減しなさい、バーサーカー」  少女の言葉を合図に、巨人の身体が僅かに沈んだ。と、次の瞬間にバーサーカーは咆哮 を上げて疾駆する。 「――速いっ!?」  そのスピードは予想を遥かに上回っていた。  あの体躯故に敏捷性は大したものではないだろうと読んでいたキャスターだが、とうの バーサーカーはその身体をものともせずに向かって来る。  瞬時に間合いを詰め、迫りくる鉛色の巨大な弾丸に――キャスターは慌てて魔術を展開 させていた。  二条の光を撃ち放つとともに、自身は後方へと身を投げ跳び退いていた。  が――  飛来する光を気にも留めず、バーサーカーは手にした剣で難なく斬り払い突進してくる。 「っ――」  勢いを全く殺しもせず、襲い掛かってくる相手にキャスターは息を漏らす。  剣を握る腕とは逆の空手の豪腕が疾る。  咄嗟に身体を捻りかわそうとするが――頭で反応していても、身体はついてこなかった。 「くっ――」  バーサーカーの豪腕が、華奢なキャスターの身体に吸い込まれ――ものの見事に、脇腹 には凄まじい衝撃が駆け抜けることとなる。  悲鳴を漏らす間もなく――簡単に吹き飛ばされた彼女の身体は、その勢いのまま地面へ と叩きつけられていた。  頭を地面に激しく打ちつけ、二転三転してようやく停まる。呻き声を上げながら、キャ スターは動く右手でなんとか腹部に触れていた。内臓を抉り取られたかのような錯覚を覚 えたが、そこにはちゃんと脇腹があった。  本来ならば、今の一撃でさえ即死となりえたものだろう。だが、自分はこうして生きて いる。  タネ明かしをするならば、殴られる寸前に自身の神言たる魔術により身体を強化してい たに他ならない。  とは言え、幾ら強化を施したとしても衝撃を完全に殺すことはできなかった。いや、正 確には強化していても衝撃は殺せなかったと言うべきだろう。それほどまでに、バーサー カーの腕力は桁違いだということを物語っていた。  潰れも破れもしていない箇所からは――だが、眩暈がするぐらいに、はっきりと激痛が 伝わってくる。恐らく肋骨の何本かは折れているのだろう。 「もうっ! この馬鹿っ! 手加減しろって言ったでしょ!」  叱責する少女の声を耳にするが、キャスターは上の空でしか聴いていない。  冗談ではない。  マスターの少女は解ってはいないが、今の一撃も、恐らくバーサーカーは理性を失って いるとはいえ、主の命に従って手加減していたつもりなのだろう。にも拘らずこの衝撃な のだから、キャスターは言葉を失うしかない。  手加減されていようがいまいが、あの豪腕から繰り出されるエネルギーは並大抵のもの ではない。その破壊力を防ぎれる手など、キャスターは持ち合わせてはいなかった。  余りにも考えが甘すぎた。  近づけばなんとかなるだろうという短絡的な考えがそもそもの間違いだ。格闘戦の心得 がない自分が、どうやって相手の懐に潜り込めるものか……  相手の大振りの隙を狙う? 馬鹿な。それこそ自分にはその隙を付け入れるほどの器量 はない。それに、鬼神の如く戦うバーサーカーがそんな隙をみせるはずがない。  これでは、ルールブレイカーを突き刺す前に自分の身体が粉微塵に成るほうが早い。 「がはっ……ごほっ……」  身体構造は人間より遥かに頑丈だとはいえ、自身はサーヴァント中最弱とされる『キャ スター』だ。幾らバーサーカーの加減された拳でも、まともに喰らえばただでは済まない。  頭部を打ちつけたために意識が朦朧とする。だが、自分は呑気に寝ているわけにはいか なかった。  激痛により頭の中は真っ白になりながらも、それでもなんとか立ち上がり――再び横殴 りの衝撃に見舞われた彼女の身体は、軽々と宙へと飛ばされていた。  踏み止まることもできずに、キャスターは手近に生い茂る樹々の幹に激突する。身体を したたかに打ちつけ、衝撃により呼吸が詰まる。  先よりも更に手加減されたものだとは言え、やはりキャスターの身体を襲う暴力に変わ りはない。  樹の根元に崩れ落ちた身体を必死に動かし彼女。凄まじい勢いで強打したというのに背 骨は折れてはいなかった。  熱が生まれ、鈍痛が身体を駆け巡る。激しく咳き込み、口元からは血が流れた。 「あぐっ……ううぅっ……」  まだ生きている。  そう実感させられながらも、彼女は力なく起き上がっていた。少し動いただけで内臓か ら悲鳴が上がる。臓器を貫いた衝撃は生易しいものではない。  所々から伝わる痛覚に身体が軋む――  ――痛い痛い痛い痛い痛い。  本気で殴られもすれば、彼女の華奢な身体など原形を留めぬほどに簡単にひしゃげ、臓 物すら周囲に撒き散らしているだろう。  もっとも、キャスターにとっては加減されていようがいまいが、受けるダメージへの苦 痛は変わらない。何度も言うが、元々キャスターには格闘戦の心構えなどない。接近戦に よる完全な防御など彼女にできるわけがなかった。  折れた肋骨と内臓のダメージにより視界が霞む。その視界の隅に、彼女は笑みを浮かべ ているイリヤスフィールの姿を捉えていた。  少女はキャスターがどのように逃げ惑うかを愉しんでいるのだろう。  思わずそちらへ視線を向けかけるが……キャスターはすぐに頭を振っていた。相手は話 し合いになど応じてくれるわけがない。  イリヤスフィールにしてみれば、少しばかり手を伸ばせば捕らえることができる獲物が 眼の前にいるのだ。そんな絶好の機会を、むざむざ見逃すはずもない。  立場が違えば、キャスターとて間違いなく相手を逃がしはしないだろう。  だが、今の自分は逃げねばならない。  なんのために、自分を呼び出したマスターを殺めたのか。なんのために、そうまでして 自由を望んだのか。  残り僅かな時間を生きるためにも、自分は此処から逃げねばならない。  それらを踏まえた上で――頼りない脚取りながらも、彼女は完全に立ち上がっていた。 「――――」  一小節の詠唱とともに、竜の歯から創られた使い魔、竜牙兵を眼前に生み出すと――彼 女は迷うことなく敵へと向けて突撃させる。  一握りの魔力しか残っていない自分が作り出した竜牙兵など、バーサーカーにとっては 脚止めにもなりはしない。手にする岩の剣の一振りにより簡単に砕け、叩きつけられた豪 腕により容易く粉砕されていく。 「っ――」  無駄だと解かってはいながらも――更には自身も腕を伸ばし詠唱する。  魔力を消費する事は、より一層己の存在に影響を及ぼすことになる。だが、存命不定と ともなれば背に腹は変えられない。  惜しんで殺されるよりは、抵抗して逃げ出さねば生き延びることなどできはしない。  収縮するは光の奔流――  蹴散らされる竜牙兵たちの隙間を縫って放たれるは三条の光。  しかし――  直撃したにも拘らず、やはりバーサーカーの身体には掠り傷ひとつ残らなかった。  イリヤスフィールの笑い声が森に響く。 「あはははは……その程度の魔術如きが、わたしのバーサーカーに効くわけないじゃない」  もっとも、低下したキャスターの魔力とは別に、バーサーカーの身には抗魔力が施され ている。生半可な攻撃では傷を与えることもできないのだが――当然、そのことをキャス ターが知るはずもない。 「ぐっ……」  歯噛みしながらも、キャスターは身を翻しその場から跳び退いていた。  入れ違いに三度竜牙兵を召喚し、迫る鉛色の巨人に嗾ける――が、やはり結果は先と同 じだ。一瞬にして粉砕されることとなる。  どん、と樹の幹に背を預け、キャスターは激しく肩を上下させ荒い息を漏らす。弱まっ ている今の自分の魔力では、バーサーカーを倒すことはもとより、脚止めすることすら叶 わない。  ならば――  標的をサーヴァントからマスターに変更せざるを得ない。ソフトターゲットとして、そ の判断は当然といえよう。  四度目の召喚による竜牙兵をバーサーカーへと向かわせると、傷つく身体に鞭打ち、自 身はイリヤスフィールへ向けて駆け出していた。  手駒を破壊される音が背後で上がるが――キャスターは少女を仕留めるべく、シングル アクションにて魔術を展開させていく。  一方的な戦闘を傍観していたイリヤスフィールは、そこではじめて自分を狙いに定めた キャスターに対し……フンとつまらなそうに視線を向けているだけ。  その表情が――キャスターは酷く気に入らなかった。  いくら魔力が低下しているとはいえ、己はサーヴァントだ。魔術師如きを殺すことなど 造作もない。  神言たる己の魔術は長詠唱を必要としない。相手が防ぐために魔術を詠唱しようとも遅 すぎる。 「消えなさいっ――お嬢さんっ――」  笑みを浮かべ、キャスターの掌から放たれた光弾は、迷うこと無く少女に襲い掛かって いた。  だが――  イリヤスフィールの身体を貫く寸前に、それはなんの前触れもなく一瞬にして霧散した。 「……え?」  なにが起きたのか解からずに、キャスターは間の抜けた声を漏らし呟いていた。  放たれた魔術がイリヤスフィールへと向かっていた。それは解かる。だが、その後が解 からなかった。  サーヴァントたる自身の魔術が、魔術師如きに掻き消されるなんて――  キャスターの心境を嘲笑うかのように、イリヤスフィールの声が聴こえてくる。 「無駄よ。万全な身体のあなたならともかく。今の低下しているその程度の力で、わたし を殺そうとするなんて」 「な、なにを言っているの……?」  それこそ解からない。  自分が――魔術に優れたキャスターのサーヴァントの自分がこんな子供に負けるだなど。 そんな馬鹿な話が在るわけがない。いや、在っていいはずがない。  それらを含んで、悲鳴に近い叫びが、キャスターの喉から発せられた。 「わ、わたしの魔術が効かないなんて……そんな、そんな馬鹿なことがあるわけないじゃ ないっ!」  だが、相手の考えとは裏腹に、イリヤスフィールは哀れみを含んだ侮蔑の視線を向けて いた。 「まさか、残存する自分の魔力が、如何ほどのものかもわからないなんて言うんじゃない わよね? そんな消耗しきった魔力で、わたしを倒せると思ってるの? 幾ら自身がサー ヴァントでも、あなたは魔力が枯渇すればなにもできない馬鹿なサーヴァントの『キャス ター』じゃない。ハナから負けてるってことに気づいていないの?」  と――  闇の中、イリヤスフィールの身体に浮かび上がるのは令呪だ。額や頬、衣服越しの胸、 腕、脚と全身の至るところに刻まれた紋様は、闇の中だというのに妖しい光を放っている。  その波動を受けて、キャスターは今更ながらにこの少女の魔力の桁を知った。 「――っ」  本来ならば、魔術戦においてキャスターに叶う魔術師は存在しない。  魔術を発動させるための長詠唱を必要とはしないし、威力としても一小節のものが五小 節以上に該当する。キャスターの呪文自体が神言である以上、それこそ反則じみていると いえよう。  とは言え、それは魔術を発動できる状態にあればの話だ。  自動車を走らせるためには燃料となるガソリンが必要なように、魔術を行使するには当 然のことながら魔力が必要とされる。  ならば、魔力がなくなればどうなるか?  魔術師ならば、中にはそんな状況にも対応できるように格闘術を心得ている者もいるか もしれない。だが、格闘戦をできないサーヴァントならばどうだろう?  魔力が切れて、魔術が使えないサーヴァント。格闘術も相応の武器もなにも持たぬサー ヴァント。それは――ただ身体能力が少し優れた人間と対して変わらないのではないか。  格闘術も持たず、魔力も尽きかけ、ほぼ無力と化したサーヴァントが、魔力に長けた魔 術師と戦えば、勝つのは一体どちらかなどというのは考えるまでもないことだ。  イリヤスフィールの魔術回路は常人を遥かに超えている。  極度の魔力食いで、マスターに多大な影響を与えるサーヴァントクラス、バーサーカー をなんの支障もなく簡単に使役しているのだから。彼女の能力は、歴代のマスターの中で も群を抜き、間違いなくトップクラスと言えるだろう。  それも相まって、今のイリヤスフィールはキャスターを簡単に凌駕している。 「あ……あぁ……う……あ……」  まさか、魔術師ひとりも殺せないとは思わなかったのだろう。体力魔力ともに疲労する キャスターの身体が後退する。  バーサーカーだけではなく、今の自分には、眼の前の小娘すら恐怖の対象となっている。  と――背後に気配を感じたキャスターが咄嗟に振り返った先には、まるで退路を断つ岩 山のように、物言わぬ鉛色の巨人が直立している。  竜牙兵は全て破壊され尽くしたのだろう。一欠片の残骸もなく消え失せていた。 「詰めよ。逃げられないわ」  令呪を全身に浮かび上がらせた姿のまま、イリヤスフィールは腰に手を当て、ゆっくり と歩み寄ってくる。  落ち着け――落ち着け――  必死に自分自身に言い聴かせはするが、身体の震えは一向に止みはしなかった。  手を伸ばせば届くという距離にまで歩み寄って来る少女……だがそれは、言い方を変 えれば無防備な姿のまま此方に近づいていることになる。 「…………」  キャスターは視線を逸らさずに相手の動きを窺う。  ローブの中で懸命に握り締めるルールブレイカーで少女の喉を一薙ぎでもすればそれ で終わりだ。白い喉から鮮血を吹き出し、バーサーカーのマスターは絶命に至る。自分 が恐怖に駆られることもなくなるのだ。  動け――動かせ――  脳裏で思い浮かべた展開通りに事を成そうと、己の神経に念じ腕を動かそうとするが ――意思とは裏腹に、彼女の腕はピクリとも動きはしなかった。  そんなキャスターを知ってか知らずか、イリヤスフィールの歩は停まる。  少女の氷のように冷たい紅い瞳に射抜かれたまま、キャスターは懸命に腕を動かそう とする。 「――っ」  なにをしている――相手は歩みを停め、此方を見上げているだけだ――  詠唱させる暇など与えるな――  脳裏で叫ぶ彼女だが、やはり腕は動かない。  意思を受けつけぬ腕は、自分の腕でありながらも血の通わぬ肉隗のように。そこにあ るのは、まるで別の生き物だと主張するかのように肉体にぶら下がっているだけの存在 感すら覚える。  と――  見上げていた少女の口がゆっくりと動いた。 「怖い? わたしが?」  紡がれた声音が合図だった。  威圧され、それまで腕も動かせなかったキャスターの脚が数歩ほど後退る。  イヤダ――  イヤダ――  コンナトコロデシニタクハナイ――  瞬間、堰を切ったかのように、彼女は身体を横へ投げると一気に駆け出していた。  突然のキャスターの行動に、イリヤスフィールは一瞬きょとんとしていたが、すぐに 逃走したのだと理解するなり嘆息を漏らしていた。 「本当に馬鹿なサーヴァント……わたしの『庭』から逃げられるはずがないじゃない」  遠ざかるキャスターの背を眺め――やがて、完全に森の中へ姿を消したのを見計らい、 つまらなそうに呟いていた。 「バーサーカー」  その一言だけで、バーサーカーには十分だった。  主の命に従い、巨人は咆哮を上げていた。          背後で聴こえた咆哮は、キャスターの耳朶にも届いていた。序で、耳に響いたものは、 荒々しく大地を踏みしめる音。  額や頬、首筋、背筋には、戦慄による冷たい汗が流れ落ちていく。  はあはあと激しく荒い息づかいを漏らしながら、キャスターはルールブレイカーを手 にしたまま走り続けていた。  乱れた息により口の中は渇いている。何度も唾を飲み込みはするが、渇きは更に増す だけだった。息苦しさに大きく開かれた口は空気を貪るが――どうすることもできなか った。  聴こえる規則的な脚音も、徐々にではあるが大きくなり……その間隔が狭まっている。 その意味がなにを示すのかなど、考えるまでもなかった。  イリヤスフィールが有するこの広いアインツベルンの森の中、キャスターに逃げ場は ない。  何処へ逃げようとも、何処に隠れようとも、敵の領域内では自分の姿は捕捉されたま まだ。  逃げ場など何処にも無く、この逃走が無意味だということも、脳裏では理解している。 理解してはいるのだが――だからと言って、それを素直に受け入れることはできない。  雨水と泥水、汗を吸い込んだローブが肌に張り付き走り辛いが、必死に走らずにはい られなかった。  と――  脚をもつらせ、キャスターはバランスを崩す。  慌てて体勢を立て直そうとするが――そのまま彼女は、ぬかるむ地面へと転んでいた。  泥水に片手を着き、息を切らせながらもキャスターは必死に身体を起こす。  恐怖に強張り膝が震える。それでも彼女はなんとか逃げ出そうと必死に立ち上がって いた――刹那。キャスターの視界は一転する。  なにかに後ろから頭を無造作に掴まれると、身体は再び泥水の溜まる地面へと叩きつ けられていた。  確認するまでもない。今、自分の頭を鷲掴んでいるのが誰かなどは―― 「ひっ――」  泥水を撒き散らしながら逃げるキャスターだが、バーサーカーの巨大な掌は彼女の頭 を鷲掴んだまま。  掠れるように漏れるキャスターの悲鳴を気にも留めず、鉛色の巨人は、彼女の身体を 今一度地面へと叩きつけていた。 「あが――」  衝撃はダイレクトに脳に伝わり、意識が激しく揺さぶられる。  恐怖心により、なんとか振り解いて逃れようとするが――巨人の手腕はびくともしな い。  暴れるキャスターだったが、その動きに更に拍車が掛かることが起った。掴まれる頭 部から僅かではあるが、みしりと頭蓋骨が軋む音が上がったからだ。  バーサーカーが指先にほんの少しでも力を込めさえすれば、自分の頭は熟れた果実の ように呆気なく潰される。脳漿を撒き散らす光景を想像したキャスターはただ震えるだ けだった。  しかし――  冷静に考えてみれば、この状態は彼女にとっては寧ろ好都合なものだ。形はどうあれ、 今、自分はバーサーカーの懐に潜り込んでいる。ルールブレイカーをバーサーカーの腕 にでも突き刺しさえすれば、当初の思惑通りにこの巨人を手駒にすることができるのだ から。  が――  極度の恐慌状態に陥ったキャスターに、そんな認識は欠片もなければ冷静でいられる はずもない。瞬時に殺されてもなんらおかしくない状況下において、そこまで判断は回 らなかった。  故に、と言えば合うのだろうか……恐怖心を煽られたキャスターが一際暴れた結果、 未だ取り落としもせずに握り締めていたルールブレイカーの切っ先がバーサーカーの腕 に触れようとしたのは。  無論のこと、彼女が狙って行なったものではない。むやみやたらに手脚をばたつかせ てこの戒めから逃れようとする無駄な努力の賜物だろうか。  バーサーカーの皮膚を切りつける――寸前にそれは起こった。   ごぎん、と鈍い音が周囲に響く。 「――え?」  キャスターの口から呆けたような声が漏れ、序で、彼女の視線は自然と動き……それ を視界に捉えていた。  彼女の視界に映るもの……それは、あらぬ方向に捻り折れ曲がっている――見紛うこ とのない、自分自身の右腕だった。さながら手首と肘の間にもうひとつの関節が生まれ たかのように、ぶらりぶらりと力なく揺れている。 「え……あ……え……? なん――なん……で……?」  キャスター自身も解かっていなかった。何故に自分の腕が、本来曲がる筈が無い方向 に向いているのかが。  遅れてじわりじわりと伝わる激痛に――腕が本当に折れているのだと言うことを思い 知らされ、彼女の口から悲鳴が上がった。 「なにをしようとしたの?」 「!?」  横合いからかけられた声音は、いつの間にか追いついていたイリヤスフィールのもの だった。  折れた腕の痛みに顔を歪ませたまま、キャスターの視線は少女へと向けられる。 「次におかしな真似をしたら……そうね。今度はもう片方の腕も同じようにへし折るわ よ? ああ、脚を折るってのも面白そうだし、指を一本一本捻り折っていくのも悪くな いわね。神経が繋がったままの眼を潰すってのもなかなか愉しそうだし……眼球を抉り 出すってのも、一度やってみたかったのよねぇ……」  キャスターの腕を捻じ折ったのは、イリヤスフィールの魔力によるものだ。なにか危 険的なものを感じたからというわけではない。あんなナイフ紛いのもので、最強たるバ ーサーカーが倒されるとは思わない。ただ単に目障りだったから腕を捻じ折った程度の ものなのだが、結果的にそれが良かったことなどイリヤスフィールが知るはずもない。  一方、キャスターにとっては事態は最悪なものへと進んで行こうとしている。片腕で さえこの激痛ともなれば、それがもう片方の腕や脚にも同じ事をされれば痛覚など半端 ではなくなる。それに眼球などとは笑い話にもなりはしない。やると口にした以上、こ の少女は例外なく実行するだろう。  無邪気な声音は、キャスターに殊更恐怖心を植えつけるには十分だった。  そのせいだろうか……疾うに握る力のなくなった手の平から滑り落ちていた己の宝具 に気がつかなかったのは。  目敏くイリヤスフィールの視線は、地面に落ちているそのルールブレイカーに向けら れていた。 「……なぁに? コレ」 「……?……」  傍らに屈み込もうとする相手を訝しむキャスターだったが、少女の視線の先を追い― ―そこでようやく自分はルールブレイカーを取り落としていることに気がついた。  慌てて――這いつくばる格好とはいえ、身体に鞭打ち、キャスターは口でルールブレ イカーを噛み取ろうとするが既に遅い。イリヤスフィールは難なく拾い上げていた。 「か――返しなさいっ!」  奪い返すようにキャスターは無事な腕を伸ばすが、イリヤスフールはひょいとかわし 立ち上がる。 「返してっ――返してっ!」  決して届きはしないその距離を前にしながらも、キャスターは震える腕をあらん限り 伸ばし叫び続ける。  柄を握り、稲妻のような形状をした歪な刀身に指を触れさせながら、イリヤスフィー ルは巨人に組み伏されたままのキャスターを見下ろし口を開く。 「ヘンな形。こんなのでわたしのバーサーカーを倒そうとしたの?」 「返しなさいと言っているでしょうっっ!」  這いつくばり、動かない身体で睨みながらキャスターは語尾を荒げる。 「ふうん」  一言漏らし、少女は視線をキャスターから刀身へと移す。  刀身は汚泥と雨水を纏っている。殺傷能力だけを問えば十分なものが言えるだろうが、 戦闘に向いた類の物ではない。だが、この短刀から感じる魔力をイリヤスフィールは見 逃していない。  しばし刀身を眺めていたが、視線は再びキャスターへと向けられる。 「そんなに慌てるところを見ると、なに? これがキャスターの宝具なの? どんな効 果があるのかは知らないけれど、大事そうに隠し持っていた切り札には違いないんでし ょう? キャスターの名の通り、魔力による攻撃よりもこんなものに切り替えたんだも の。まさか、相打ち覚悟で……なんてわけじゃないでしょうね?」  そう言って屈むと、イリヤスフィールはフードを剥ぎ取り、キャスターの顔を覗き込 んでいた。 「へぇ……キャスターとかいうんだから、どんな顔してるのかと思えば……すごく奇麗 な顔してるのね。あなた……」  フードの下から現れた予想外の美貌に感嘆しながら、相手の顎をルールブレイカーの 柄で持ち上げる。  と――  顎先を振り払い、キャスターはイリヤスフィールの手に噛み付いていた。 「ちょっと――っ、やだっ!?」  慌てて振り払おうとするイリヤスフィールだが、キャスターは逃がしはしない。  ぎりと食い込む歯牙は、少女の白い皮膚を裂き血を滲ませていく。  噛み切るかの如く、キャスターは更に顎に力を込めた――刹那。 「――バーサーカーっっ!!」  痛みに顔を顰めたイリヤスフィールの叫びに応え――巨人は握り締めた拳を無防備な キャスターの背に振り下ろしていた。  ずどん――という鈍音とともに、背骨から真っ二つに潰されたかのような激痛が駆け 抜け、キャスターの視界が一瞬闇に落ちる。その際に、噛み締めていた口は離れていた。 「っは……っっ……くはっ……はぁ……」  叫び声は上がらなかった。  眼を剥き、呼吸するのも辛いのか、キャスターの口からは酸素を求める掠れた息づか いが断続的に続くのみ。  びくんびくんと激しく身体を痙攣させているキャスターを、イリヤスフィールは憤怒 の形相で見下ろしていた。  血に塗れ、僅かに肉が覗いている指先の震えは腕に伝わり、小さな肩をも震わせ―― 「このっ――ふざけるんじゃないわよっ――くたばりぞこないのキャスターのクセにっ っ!!」  怒りにより繰り出した爪先は、咽るキャスターの喉元へと叩き込まれた。  呼吸器官を塞がれたため、彼女の口からは、がふっ、と激しく息が吐き出される。  動けず、満足な呼吸も出来ない相手に対し、イリヤスフィールは、更に二度三度、四 度と、キャスターの喉や腹を抉るように力任せに蹴り続けていた。          感情の赴くまま暴行を加えていたイリヤスフィールだったが、少しは溜飲が下がった のだろう。  動けないキャスターに一方的な仕打ちをし続けた少女は肩で息を吐いていた。  とは言え、怒りは完全に治まったわけではない。  身体を屈曲させて痙攣するキャスターの腹に今一度蹴りを叩き込み、イリヤスフィー ルは己のサーヴァントに命じていた。 「バーサーカー、身体を起こして」  主の命に従い、バーサーカーは乱暴な手つきでキャスターの身体を寝かせていた。  覆いかぶさるように圧しかかったイリヤスフィールは、キャスターの顔に手を添え額と 額を触れさせる。 「下手に抵抗はしないほうがいいわよ。今のあなたを廃人にすることなんてわけないんだ から。頭を吹き飛ばすことも厭わないわよ」 「っ……」  ぞわり、と僅かに強い魔力の波動が周囲を包む。  脅しではないと悟ったキャスターではあるが、今し方の暴行により抵抗らしい抵抗など はできなかった。擦れた呼吸を漏らすのみ。  眼を瞑り、意識を集中させた少女はキャスターの記憶を読み取っていく。  時間にしてみれば、ほんの僅か数秒程度だろう。だが、額を離したイリヤスフィールに とってはそれで十分だった。 「ふぅん……破壊すべき全ての符、かぁ……面白いわね。魔力よって繋がれたものを全て 壊す……『作られる前の状態に戻す究極の対魔術宝具』……なるほど。それならわたしの バーサーカーも例外じゃあないわけね。腕を潰しておいたのは正解だったわね。危ない危 ない。そんなふざけた物でも危機感は在るってわけね」 「…………」  息を呑むキャスターを少女は見下ろす。と、押さえつけているバーサーカーが僅かに腕 に力を込めた。痛みに顔を顰める相手を見て、イリヤスフィールは手で制す。 「まだ潰しちゃダメよ。キャスターから聴き出さないといけないものもあるから」  それは嘘だ。  頭の中を脳を覗き込んだ時点で、イリヤスフィールは全てを知り得ている。  キャスターの真名、正体、召喚したマスター、この森に足を運ぶまでの経緯など。彼女 が言ったように、この森に脚を踏み入れたのも本当に偶然だったのだろう。正直、情報を 読み取っていくうちに、胸中で拍子抜けしながらも納得していた。  全ての情報を汲み取った今、イリヤスフィールにとって、キャスターの口から聴き出す ものなど、なにひとつない。  ならば、何故一思いに始末しないのかといえば、キャスターの素性に同情したわけでも ない。いずれ消え失せるつまらない相手に対し、それ以上興味がなくなっただけだった。  よって、イリヤスフィールは、このままキャスターを放っておくことにしていた。  が―― 「ま、待って……話せることは全て話してあげるわ……だから」  キャスター自身も、己の記憶から全てを見透かされていることに気がついていない。た だただ殺されたくない一心で懇願の言葉を発している。  無様に殺されたくはない。同じ『死』を迎えるとしても、何処かで独りひっそりと消え たかった。そのためならばプライドなど必要なかった。  痛みに脂汗を流しながら、視線だけをイリヤスフィールに向けてキャスターは震える声 を漏らしている。 「…………」  だが、イリヤスフィールは無言のまま蔑んだ眼を向けている。なんのことはない。今キ ャスターが口にした言葉が気に入らなかった。  キャスター自身も気がついていないのだろう。自分は『話してあげるわ』と口にしたこ とに。そんな些細な点ではあるが……その些細な点が、少女は酷く気に入らなかった。  相手の心情が自分の不注意な発言ひとつで変わったことに、キャスターは解かるはずも なく続けていた。 「あ、あなたの知りたいことは全部教えてあげるから……だから……お願いだから……わ たしの前から消えて――」 「……うるさい」 「っ!?」  ぽつりと呟いたイリヤスフィールの低い声音に、キャスターは二の句が続かなかった。 「気が変わったわ。どうせ放っておいても死ぬだけしかないと思ってたけれど……いいわ。 死にたくないんでしょう?」  バーサーカーによる戒めを解かし無邪気に微笑む少女だが、その笑みにキャスターはえ も言われぬ恐怖を感じ、背筋には冷たい汗が流れ落ちていく。  眼を細め、口元を吊り上げたままイリヤスフィールは続ける。 「いいわ。叶えてあげる。死にたくないのよね? ええ、殺しはしないわ……変わりに、 とっても面白くて楽しいことをするだけよ。わたしにとっても、あなたにとっても……」 「た、楽しいこと……?」 「ええ」  言って――  イリヤスフィールは、その手に持ったルールブレイカーの切っ先をローブの布地に引っ 掛けると、そのまま裾まで一直線に切り裂いていた。  キャスターの胸元から臍にかけて、白くなめらかな肌が露にされる。 「っ!?」  一瞬の出来事に虚を突かれたキャスターだが、慌てて口を開き、声を上げた。 「な――なんの真似っ!?」  相手の言葉に対し、逆にイリヤスフィールこそ、その返答が解からないという顔をする。 「言ったじゃない……楽しいことをするって。アナタも解かってるでしょ? 負けた女の 末路なんて、高が知れてるじゃないの」 「っ……こんなことをして、同じ女として恥ずかしくないのっ!?」 「ナンセンスねぇ……それ本気で言ってるの? だったらジョークにも値しないわよ」  唇を噛み締めているキャスターに笑みを浮かべたまま、次に少女は下着と思しき布地に もルールブレイカーの刃先を走らせていた。  ローブの間から覗くふくよかな乳房に手を這わせ、その胸乳を揉みしだく。 「いいわねぇ……おっきなおっぱい……羨ましいなぁ……」  イリヤスフィールの指から逃れようとするキャスターだが、身体は思うように動きはし ない。 「き、気安く触らないでっ!」  呻くように言葉を吐き捨てることしかできないキャスターの声など無視したまま、少女 の指先は柔らかい乳房の感触を愉しんでいた。 「いやらしくて、エッチな身体……」 「っ……」  囁かれる言葉にキャスターの顔は赤くなる。同性の……しかもこんな年端も行かない子 供に観賞されるなど、恥辱でしかない。  キャスターの手の届かない位置にルールブレイカーを置くと、イリヤスフィールは圧し かかり直し、両手でその豊かな乳房を鷲掴んでいた。  左右の乳房を無遠慮に揉まれ、キャスターは思わず痛みに顔をしかめる。  と――  髪に隠れたキャスターの耳に顔を近づけ、そっと噛む。 「――っうあっ!?」  かり、と長い耳を甘噛みされた刺激に、キャスターの口から上ずった声が漏れ出ていた。 「はしたないわよ、キャスター」  咎めるように言うと、イリヤスフィールは再度耳を噛んでいた。そのまま耳朶に舌を這 わせ舐め上げていく。  唾液に塗れ、ざらついた舌先が耳の外側や内側を這うたびに、キャスターの首筋は快感 によりぞくりと震える。  少女の舌は、耳から首筋、鎖骨へとゆっくりと移動する。時には軽く触れるかのように 舌先をちろちろと走らせ、また時にはねっとりといたぶるかのように唇を押しつけては音 を立てて吸い上げていく。責められる間中、キャスターの口から声が止むことはなかった。  また鎖骨から首筋、口元へ少女の舌先が移動して――唇をも奪われた。 「んっ……んんっ……」  眼を見開き、声を漏らすキャスターに構わず、イリヤスフィールの舌が口内に押し入っ てくる。  キャスターは唇を振り払おうとするが、少女はそれを許さない。 「んん……」  振り解けないのならば、少女の舌に噛みつき抵抗しようと試みる。だが、逆に相手の舌 先を迎えるかのように、自身の舌もまた絡み付いていた。  荒い息をつきながら、キャスターは少女の口内を貪っている。柔らかい小さな舌に対し、 唾液を交えながら自身の舌を激しく絡める。  望みもしない行為に対し、キャスターは戸惑いを隠せなかった。意思とは裏腹に、自分 の舌は別の生き物のように勝手に動き貪り続けているのだから。  突付いてくるイリヤスフィールの舌に応じては自分も絡め、自分から求めては相手の舌 が絡まってくる。   少女の口内に舌を引き込まれては、吸われ舐められる。背筋には快感が走り、甘い痺れ に意識がぼやける。 (っ……ダメっ……流されるわけには……)  薄れる意識の中、再度振り解こうとするキャスターだが……意思とは反し、首はピクリ とも動かなかった。 (なんで……なんで動かせないの……甘い痺れに囚われているとはいえ……これは異常よ ……なにか……)  ぼうっとしたまま、キャスターは眼前にある少女の宝石のような瞳を見つめていた―― 瞬間、彼女は気がついた。 (っ……まさか……魔力で拘束されている……)  キャスターの答え通りに、全てのからくりはイリヤスフィールの魔力によるもの。  先からの少女の紅い瞳に魅入られていた時点で、既に魔力のないキャスターに抗う術は ない。そう理解していても、操り人形と化している自分はどうすることもできなかった。  不覚にも、キャスターは少女の唇のほのかな甘さと髪の香りに鼻腔をくすぐられ、うっ とりとしてしまっていた。  少女が顔を離すと、されるがままに貪り吸われたキャスターの唇との合間には唾液の橋 が架かっていた。  自由になった口で大きく息をつくと、キャスターは動かない首のまま、少女を睨みつけ ていた。  双眸に宿る憎悪の念を受け流しながら、イリヤスフィールは構わずに一言命じる。 「口を開けなさい」  その言葉が呪文のように、意思に関係なくキャスターの唇は動いていた。  顎に力を入れて閉じようとするが、望みもせぬまま口蓋はだらしなく開かれる。  再びイリヤスフィールの唇が触れてくると、今度は逆に、キャスターが少女の唇を貪る ように舌を動していた。  絡み合う唾液の音は終始止むことがなかった。  少女との長い接吻を終え……イリヤスフィールが離れた時点で、唇と首にかかっていた 魔力の拘束は解かれていた。  はあはあと荒い息を漏らす相手を尻目に、少女は身体を起こして両腕を伸ばす。一方は キャスターの胸の頂をつまみ、もう一方は撫でるように腹に触れていた。  胸と腹を責められながら……さらには首筋にふうと息を吹きかけられ、キャスターは甘 く艶の混じった吐息を漏らしていた。  徐々に硬くなっていく胸の頂を強く摘み、軽く引っ張りながら弄ぶ。 「ふふっ……硬くなってきた。感じてるんでしょう?」 「ちっ、違う……違……ああああっ」  否定の言葉は一転して悲鳴に変わった。イリヤスフィールの小さな赤い舌が胸の先端に 優しく触れる。  胸に走る甘い痺れにキャスターは声を抑えることができなかった。  乳首から口を離し、イリヤスフィールは胸をそっと揉みしだく。 「嬉しそうな声上げちゃって。なあに? もっとしてほしかった?」 「――っ」  キャスターは頬を真っ赤に染めながら顔を背けることしかできなかった。  相手の反応に笑みを浮かべたイリヤスフィールは、再び胸の頂を口に含む。 「ひゃうっ!?」  ざらついた舌の感触に背筋をぞくりと震わせ、身体を仰け反らせるキャスターの反応を 愉しみながら、イリヤスフィールは執拗に舌先で転がすように乳首を舐める。  荒い呼吸により、キャスターは唾液にまみれた双丘を激しく上下させていた。  不本意な悲鳴を漏らしたことを後悔しているのだろう。彼女は唇を噛み締めると、これ 以上無様な声を漏らさぬようにと必死に堪えている。 (今更無駄なことしちゃって)  眼で笑いながら、イリヤスフィールは更に舌を絡めていく。ちゅうと吸いつけば、ぴち ゃぴちゃと舌先で愛撫する。乳首を口に含み吸い立てている姿は、さながら赤子のようだ。 「っっ……」  眼を瞑り懸命に耐えるキャスターの姿を見て、少女は別の行為へ移っていく。  舌による甚振りから胸が解放されたことに安堵したのか、キャスターは瞼を開いていた。  だが、それは甘い考えだった。イリヤスフィールは責め苦を止めたわけではない。  覆いかぶさる少女の指は、キャスターの胸を掴み力任せに握り締めていた。  乱暴に揉み潰されるたびに、白い果肉は自在に形を変えられ、紅い痕を残していく。 「痛っ――」  眉を寄せて呻く相手を気にも留めず、イリヤスフィールは暴力的に乳房を鷲掴みにして いた。 「馬鹿みたいに大きなおっぱい。なにを食べたらこんなに大きくなるのかしら? それと も、いろんな男を誑かしては揉まれて大きくなったのかしら?」  食い込む指の狭間から、行き場の失った果肉が溢れるようにはみ出るさまを見て、少女 は冷酷的な笑みを浮かべていた。  対して責め掛けを受けるキャスターは唾液を口元から垂らし、髪を振り乱して悶絶する。 その声すらも、少女の加虐心を煽る要因のひとつと言えよう。 「いい声……もっと聴かせて、キャスター」 「ふっ、ふざけないでっ! さっさとわたしから離れなさいっ!」  顔を真っ赤に染め、唾液と涙で汚れながらも、キャスターはイリヤスフィールをキッと 睨みつけていた。  小娘如きにこのような屈辱的な扱いを受け続けていることに、彼女は悔しくてならなか った。  が、睨みつけてくる相手の視線に少女は全く怯みもしない。それもそのはずだろう。魔 力も枯渇し、手も脚も出ずにいるサーヴァントなど恐れるに値しない。  それを態度で示してか、こねこねと乳房を弄りながらイリヤスフィールは訊ね言う。 「こんなに大きいんだから……ミルクぐらい出るわよね? ねぇ、ミルクは出ないの?」 「なっ――出るわけないでしょう!」  唐突の言葉に対し、キャスターは今までにないぐらいに顔を真っ赤にして反論していた。 「むーっ、つまんないの」  然も残念と言わんばかりに少女はぷうと頬を膨らませる。だがそれも一瞬のこと。  出ないと知るや否や、それ以上の興味は失ったのか、イリヤスフィールは次の行動へと 移っていた。  また胸を噛まれると悟り、キャスターは必死に身を捻ろうとするが肢体は動きはしない。  そうこうしているうちに、少女の白く奇麗に生え揃った歯は乳首を捕らえ――食い込ん でいく。  こり、と噛み潰されてキャスターは身体を跳ね上げる。顎を反らし、口からは嬌声を上 げていた。 「――か、噛まないでっ! おかしくなるっっ! 胸――噛まないでぇっっ!」 「馬鹿ね……おかしくなりそうなら、我慢しないで素直におかしくなればいいじゃない」  犬歯でこりこりと噛まれる度に、キャスターの口から喘ぎが漏れる。  右の乳首を噛みながら、左の乳首には指先で強く押し潰すように刺激していく。  抗えないキャスターは背を仰け反らせ、口の端から涎を垂れ流しながらその刺激に耐え るしかなかった。 「さてと……」  ひとしきり胸への愛撫に堪能したのか、イリヤスフィールは身体を起こす……が。  胸から口を離した少女は、とある一点を見入っていた。  その視線の先が気になりキャスターも身体を起こし、イリヤスフィールの見つめる先に 視線を向け――なにをされるか勘付いたのか、短い悲鳴を漏らしていた。 「や、やめ――」 「あら、察しがいいじゃない。いやらしいことに関しては勘がイイのね、キャスターって。 おっぱいばっかりじゃ不公平よね。こっちも気持ちよくしてあげるわ」  ショーツ越しの股間に指を這わせ、イリヤスフィールは円を画くように弄りはじめた。  クリトリスの位置に狙いを定め、ぐりぐりと押し潰していく。刹那、キャスターの口か らは悲鳴が上がる。  指戯によりショーツの箇所は濡れそぼり、徐々にではあるが素肌を透けさせている。  弄っていた指が不意に停まると、股間の中央へとつぷりと押し込まれていた。同時に湿 った音が上がる。 「濡れてるわね。こんなに漏らすぐらい気持ちよかったんだぁ」 「ち、違うわよっ!」 「そうかしら? なら直に見てあげる」  言って、ルールブレイカーを拾い上げるとショーツの端を切り捨てていた。  用の成さなくなった下着は股間に張りつくただの布切れと化す。それを少女は剥ぎ取り、 熱のこもった股間を外気に晒していた。  今まで下着に覆われていた箇所が急にひんやりとした空気に冷やされたため、キャスタ ーの股間は僅かに蠢く。 「ふうん……奇麗なピンク色……」  まじまじと恥裂を覗き込み、状況を逐一口にする。  少女の突き刺すような視線に耐えられず、キャスターは恥ずかしさのあまりに眼を瞑る しかない。 「セラやリーズリットとも違うんだ。このビラビラも違うみたい……キャスターって、結 構毛深いのね」 「っ……」  羞恥により歯を食いしばり、顔を朱に染めているキャスターを軽く一瞥すると、イリヤ スフィールは股間に息を吹きかける。ピクピクと痙攣したように恥裂は蠢いていた。  股間に伝わる吐息に背筋が震え、濡れる肉びらを摘まれるたびにキャスター口からは声 が漏れる。  小陰唇の柔らかい感触を愉しみながら、指先で強弱をつけて引っ張っている少女のひん やりとした指先に触れられる度に、キャスターは太腿を痙攣させていた。  「汗臭い匂い……ふふ、ちゃんと手入れはしているの? 少し臭うわよ……」 「そ、そんなわけないでしょう! 馬鹿なこと言わないでっ!」 「そうかしら? チーズの匂いがするけれど」 「ちょ――いやっっ――そんなところ嗅がないでっ!!」 「ふふっ……」  ルールブレイカーに魔力を干渉させて簡単な結界を施し背後へ放り捨てると、両脚を押 さえたまま、イリヤスフィールは鼻を近付けクンクンと鳴らす。さながら仔犬のように。  キャスターは羞恥により顔を真っ赤にしてもがいていた。大切な箇所の恥ずかしい部位 の匂いを嗅がれるなど、嬉しいわけがない。  もっとも、イリヤスフィールの言葉は口からのでまかせだ。とは言え、でまかせでもキ ャスターを自虐するには十分効果がある。  と―― 「あは……おつゆがでてきた。なに? 見られて感じてるわけ? とんだ淫乱女ね、キャ スターって」 「そ――そんなことあるわけないでしょうっ!」   ぶんぶんと頭を振るキャスターに、イリヤスフィールは鼻で笑う。 「あらそう? なら確かめてあげる。こんなにだらだら垂らしてるおつゆはなんなのかし らねぇ? まさかおもらし? イイ歳しながら粗相したわけ?」  言って、じっとりと愛液で濡れている膣口に舌を這わせ、少女は音を立てて啜っていた。 「す、啜らないでっ!」 「甘ぁい……ふふ……この味は、おしっこじゃないわよねぇ……いやらしい……ほら、聴 こえるでしょう? こんなに溢れさせておきながら感じてないですって? よくもそんな ことが言えるものね、淫乱キャスター」 「違うっ! わたしは淫乱なんかじゃない! これは全部あなたが――」 「あはははははっ――なに? 無様に感じて惨めったらしく濡らしてるのは紛れもなくキ ャスター自身じゃない。下の口からみっともなく涎垂れ流してるクセに勝手なこと言うん じゃないわよ、この変態。わたしなんかにいいように弄ばれて感じてるなんて、恥ずかし くないの? あなたはただの淫乱よ。この淫乱サーヴァント!」 「違うっ! 違う、違うっ!」  駄々をこねる子供のように……いやいやとするキャスターに構わず、イリヤスフィール は濡れそぼっている真っ赤な肉へ顔を近づけていた。  近づけるに連れ、イリヤスフィールの鼻腔には、キャスターの『女』としての香りが強 く立ちこめる。  決して不快な匂いではない、甘ったるく芳ばしい香り。それでいて強烈な牝の匂いをた っぷりと堪能しながら、少女は舌を伸ばしていた。  ぴちゃりと音を立てて舌先が触れると、クレヴァスの谷間をゆっくりと丹念に舐め上げ ていく。  舐め取っても舐め取っても溢れてくる淫蜜により、寧ろ噴き零れる量は増していく。  イリヤスフィールの顔は既に滴る蜜によりべとべとだったが、綺麗な顔を汚すことに全 く気にも留めずに、唾液を塗りつけては愛液を啜り喉の奥へと流し飲み干していく。  下から上へと舐めつける際に聴こえる、ぴちゃぴちゃという淫らな水音。さらには、ざ らつく少女の舌の熱が秘裂を這うたびに、キャスターの頭の中はなにも考えられずに真っ 白になっていく。  イリヤスフィールの奉仕に応えるように、キャスターのヴァギナもまた収縮する。  熱に浮かされて上ずったような声を耳にしながら、むっとする匂いに酔いしれたまま、 少女は甘い蜜を啜り上げる。  つぷと舌を突き入れては淫蜜を吸い上げるイリヤスフィールに、キャスターは身体を痙 攣させてされるがままだった。  少女の執拗な責めに忙しなく嬌声を上げ、頤を反らして狂うしかない。 「やめ……な、さい……」  制止の声など聴こえはしない。イリヤスフィールはヴァギナに唇を押し当て、ちゅうと きつく吸い上げていた。  吸い上げながら、視界には既に勃起しているクリトリスを捉えている。にぃと笑みを浮 かべ、少女は言う。 「お豆もこんなにぷっくりしてて……ねぇ、噛んでもいい? いいわよね?」  返答を待たずにイリヤスフィールは口を運ぶ。  一方、正確な思考を成さないキャスターの意識は霞んでいる。ただぼんやりとした面持 ちのまま、少女の言葉を反芻していた。  噛む? 何処を?  未だに意識がはっきりとしないが……唐突にその言葉の意味を理解したのか、慌てて彼 女の口から言葉が漏れる。 「よ――よしなさいっ――馬鹿なマネはやめて――許して――」  怯えるキャスターは懇願するしかない。 「いい声で啼きなさい」  言って――  股間に顔を埋めたイリヤスフィールはクリトリスに噛み付いていた。 「――――」  声にならないキャスターの絶叫が夜のしじまに空しく響く。  ぎりと噛み千切るかのように歯を立て、イリヤスフィールはさらに強く噛み潰していた。  それに伴いキャスターの口から漏れる悲鳴も大きくなる。  快感に脳裏を白く焼き尽くし、痙攣するのも構わず――少女に思う存分甚振り続けられ、 キャスターはその都度身体を仰け反らされていた。  イリヤスフィールがようやく唇を離した頃には、とうの彼女の顔は惚けていた。激しい 快感と痛みに打ちのめされ、眼は焦点を定めておらず、だらしなく開いたままの口からは 涎を垂らしている。 「そろそろ頃合かしらね……」  言って、イリヤスフィールは視界の端に自身のサーヴァントの姿を捉えていた。          全身に力が入らない。  強烈な快感の余韻に意識を朦朧とさせ、ぐったりとしていたキャスターだが、長く鮮や かな髪を掴まれ、その身を無理矢理起こされていた。  手荒に扱われていながらも、惘然とする彼女の耳元でイリヤスフィールが囁く。 「ほら、見て、キャスター」 「……え?」  示すイリヤスフィールの指先を虚ろな視線で追い―― 「っ、ひっ――」  それまではっきりとしなかった彼女の意識は瞬時に覚醒することとなる。  眼を大きく見開き、怯えた苦鳴を口から漏らすキャスターの反応を面白がりながら、イ リヤスフィールはくすくすと笑い続けていた。 「すごいでしょう……バーサーカーのおちんちん。あなたを見て、あんなにビクビクして るの……ふふ、もう我慢できないみたい」  視野に映ったのは、隆々と天を向いて反り返って脈打つバーサーカーの剛直だ。  理性を奪われているバーサーカーとはいえ、眼前で繰り広げられていた痴態には男の本 能は抗うことがないのだろう。  胴に太い血管を幾筋も浮かび上がらせた怒張がその証を物語っている。  しかし、なによりもキャスターが眼を見開かされた理由はその剛茎だ。屹立したペニス の太さは尋常ならざるサイズを誇っている。  イリヤスフィールに呼び寄せられた巨人がゆっくりと近づき、膝を着く。  バーサーカーのどす黒いペニスを鼻先に押し付けられ、キャスターは咄嗟に顔を背けて いた。  むっとするような獣臭が鼻をつく。 「きっ……汚いモノを押しつけないでっ!」 「汚いなんて、そんな失礼なこと言わないでよ。これからあなたがペロペロしゃぶって気 持ち良くさせるんだから」 「い、いやよっ! 誰が……誰がこんなモノをっっ!」  胸が詰まるような饐えた牡の匂いが鼻先に漂う。こんな醜悪なもので口腔を穢されるな ど冗談ではない。  コルキスの女王の誇りに懸けて、そんな娼婦じみた真似事を認められるわけがない。考 えただけで吐き気がする。  抵抗するキャスターではあったが、イリヤスフィールに髪を掴まれ、顔を無理矢理バー サーカーの股間に押し付けられていた。  唇にペニスが擦りつけられる。 「いやっ!」 「ほら……いい加減はやく咥えなさいよ。でないと、また腕をへし折るわよ」  含みを帯びたその言葉に、キャスターは身体をびくりと振るわせ息を詰める。  肋骨や、折られた右腕からは痛みが引いたわけではない。未だ尾を引いた鈍痛となり、 身体を蝕んでいることに変わりはない。  そんな身体に更なる追い討ちをかけるように、左腕まで折られようものならば―― 「……痛い目に遭いたくないでしょう? 身体潰されて無理矢理咥えさせられるよりも、 自分から進んで咥えた方がマシじゃないかしら?」 「っ……」  歯噛みし、キャスターは少女を睨みつける……が、どうすることもできなかった。  ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるイリヤスフィールの言う通りに、自分に選択肢な どはない。 「くっ――」  それでも一度だけ眼を伏せると――彼女は観念したのか、嫌悪感を顔に滲ませながら、 唇を小刻みに震わせ、ゆっくりと開いていた。  力のない自分の情けなさと惨めさをこらえ、キャスターは舌をおずおずと伸ばし、ペニ スの先端に触れさせる。 (き……気持ち悪い……)  硬く膨れ上がった亀頭から伝わる熱に戸惑いながらも、キャスターは舌を押しつけ這わ せていく。  先端の割れ目に沿って舌を動かし雁首を舐め上げ、僅かに透明な液体を滲ませる鈴口に 唇を運んでは啜り上げる。 「んふっ、んうっ……」  朱唇を窄めて刺激し、舌を巻きつけるように絡めていく。  亀頭に舌を這わせ、強弱をつけて舐め回していたキャスターは、白く細やかな指を肉幹 に触れさせていた。左手で恐る恐ると触れてみたバーサーカーのペニスは、中に鉄の芯で も入っているかのような硬さだ。  息を漏らしながら、今度は裏筋に舌全体を押しあてると、唾液をたっぷりとまぶし舐め つけていく。  ペニスの根元から先端へ蠢く舌は蛇のよう這い、左手は陰嚢を持ち上げ揉みしだく。 「……はあっ……んうっ……んんんっ……はあっ……はあっ……」  唾液と舌を鳴らし、陰嚢を手で弄びながらしゃぶり続けるキャスターだが、イリヤスフ ィールの視線がどうしても気にかかっていた。  意識しないように心掛けてはいたが、恥ずかしい姿を見られている現実により、つい横 横目で少女の姿をちらちらと窺ってしまう。無論、イリヤスフィールもキャスターの心情 など手に取るように解かっている。  故に少女は口を開いた。 「結構巧いじゃない。裏切りの魔女と呼ばれるだけあって、男の扱いには手馴れてるって ことかしら? ああ、お話の中では裏切るのは男の方だったわね。イイように男に裏切ら れて捨てられては、また別の男に取り繕うのにも一苦労よね……媚びへつらうためにも、 劣情はなによりも簡単な手段だし。言ってみれば、常套句ってとこかしら?」 「…………」  忌み嫌う己の呼び名を耳にしたキャスターは、憎しみを篭めてイリヤスフィールを睨み つけていた。  呪術的な類のものには長けた彼女だが、この時ばかりは自分の眼に、相手を睨むだけで その命を奪えるような魔術特性が備わっていればと悔やみさえした。 「なに? その眼……まさか、魔女って呼ばれて怒ってるワケ? そんな姿晒してまで呼 び名にだけは拘るなんて、とんだお笑い種だわ」  突き刺すような鋭い眼光を素知らぬ顔で受け流し、少女は鼻の先でせせら笑う。 「わたしを睨んでる暇があるのかしら?」 「…………」  悔しさに呻くことしか出来ないキャスターは、視線を戻し奉仕を続けざるをえなかった。  喉からくぐもった喘ぎ声を漏らしながら先端を丹念に舐め上げると、大きく張ったエラ の部分を舌全体で包み唾液を絡ませる。  舐め上げては吸引を繰り返し、舌先で尿道口をくすぐるようにほじると、ペニスの側面 に舌を押し当て、顔だけで動かすように舐めつけていく。  丹念な動きで隅々まで這い回るキャスターの舌により、唾液に塗れたペニスは闇夜の中 でも濡れ光っていた。 「ん、んん……」  犬のように舌を張りつかせる彼女に、イリヤスフィールが声をかける。 「舐めてるだけじゃ終わらないわよ。ちゃんと咥えなさいよ」 「……っ」  少女の命令に、キャスターは口を大きく開かせペニスの先端を咥え込むと、ルージュを 引いた唇に亀頭を沈ませていく。 「ふうっ……んん……」  口腔を埋め尽くす肉塊のおぞましさと、焼けつくような熱に吐き気を覚えながらも、キ ャスターは懸命に舌を絡ませる。  頭を前後に振り、舌と口内粘膜全体を使って逞しいペニスを摩擦していく。  亀頭の先端が何度も喉を突くたびに、彼女は嘔吐感に胸を焼かれた。 「く……っ……ふぅっ……」  滲み出た腺液を搾りとるように吸い立てるキャスターだが、息苦しさに満足な呼吸もま まならない。喉を犯され、窒息寸前の苦悶の表情を浮かべながら……それでも彼女は、な んとか苦しげに鼻で息をつくしかなかった。 「んぐっ……ふうっ、んんっ……んうっっ……」 「さぁてと……キャスターも気持ちよくさせてあげるわね」  背後に回ったイリヤスフィールは、裂かれたローブの隙間に手を入れ、キャスターの乳 房を揉みしだいていた。這わせた指先で胸の頂を探し当ててると、爪で摘み、容赦なく捻 り上げていく。 「っ――あああっ!? ダメ――ダメっ! 引っ張らないで――」  乳首を蹂躙する刺激にキャスターはペニスから唇を離し、弾けたように身体を痙攣させ ていた。  瞬前までの息苦さもあり、肩で大きく息を吐く彼女だが――間拍置かず――すぐさま後 ろから伸びた少女の手に髪を掴まれ、ペニスに向き直されていた。 「誰が休んでイイって言ったのよ」 「……はあっ、はあっ……お、お願い……少し、少しでいいから……少しだけ……少し休 ……休ませて……」  咥え込んでいた顎の筋肉は疲れ痺れている。なによりも彼女は呼吸を整えたかった。  だが――  懇願するキャスターに応えたのは、イリヤスフィールではなく、バーサーカーだった。  彼女の頭を掴み上げたバーサーカーは、荒い呼吸を自制する為にだらしなく開かれてい た唇に有無を言わさず猛ったペニスを割り込ませていた。 「んぶぉっ!? ぶふっっ――んむぅっ!? んんっ――」 「もっとちゃんと舐めなさいよ。そんなんじゃ、バーサーカーは全然気持ちよくなんか無 いわよ」 「ふぐぅっ――んぐぅっ――んっ、んんっ――」  イリヤスフィールもキャスターの後頭部を押さえつけ、より喉奥にペニスを咥え込ませ ていく。 「ん、んんっ――んうっっ――っ」 「ほら、あなたも頭を振りなさいよ。バーサーカーに動かせるんじゃなくて、キャスター が動きなさいよ」  言って、イリヤスフィールは再びキャスターの乳房に指を這わせ、柔らかい質感を堪能 していた。  胸を弄ばれ、口腔を犯されるキャスターは無意識のうちに上目遣いでバーサーカーの顔 を盗み見る。  ペニスの表面を柔らかくて温かい舌で舐めつけていても、巨人の口から呻く声が漏れる ことはない。これが、相手がなにかしらの反応を見せるのならば、奉仕させられている身 とはいえ――最悪ながら――まだ幾らかマシなものと割り切れるものがあるだろう。  だが、反応を見せないバーサーカーはまるで人形のようであり、その人形のような相手 の奉仕をさせられている自分の姿は酷く滑稽でしかない。あまりの惨めさに押し潰されそ うになる。  それでもキャスターは激しく頭を振り、唇でペニスを締め上げ先端を吸い上げる。舌先 で鈴口を突つき、くぐもった声を上げながらしゃぶり続けていた。  ぬめりを帯びたキャスターの唇。その温かい口中粘膜にペニスを包まれているバーサー カーの心情はいかなるものか。  理性を剥ぎ取られた巨人の表情に変化はない。キャスターの奉仕に気分が高まっている のかいないのか……  なんにせよ、表情のないバーサーカーからそれを見出すことはできなかった。 「くふっ――」  ペニスを突き込まれているキャスターの口からは鼻声が上がる。  はたして彼女自身は気づいているのだろうか? 今の自分は左腕と両膝を地に着かせ、 屈辱的な犬の姿勢をとっていることに。  そんな相手の姿を見て、イリヤスフィールもまた高揚していた。自分にもペニスがあれ ば、彼女を犯したいとさえ考えていたほどに。しかし同様に、その望みが叶わぬことも重 々承知している。  よって、イリヤスフィールはその欲望を別の形で埋めていく。ローブの裾を摘みたくし 上げると、張りのある尻を露にさせていた。 (ちょっ――)  胸中で叫ぶキャスターを見透かしたように、イリヤスフィールは白い尻たぶを左右に押 し広げ覗き込んでいた。 (じょ――冗談でしょう――) 「こっちも奇麗なものね……」  小さな蕾の周りを指でなぞると、その些細な刺激に敏感に反応し、蠢き始める。 「んぐっ!? んんっ!!」  好き勝手に尻を這う少女の指先を払いのけるために、思わずキャスターは腰を振ってい た。だが、笑みを浮かべたイリヤスフィールは、躾けるかのように尻たぶをぺしりと叩い ていた。  痛みに思わずくぐもった悲鳴を上げたキャスターに、少女の嘲笑が漏れる。 「そんなに腰振っておねだり? やっぱりキャスターってば変態じゃない」 「ぅ――んぅっ――」  違う、と懸命に声を発するキャスターに構わず、イリヤスフィールは蕾に指を押し当て、 そのまま突き挿れていた。 「――っっっ!?」 「あはは――なによ、すんなり入るじゃない。なに? もしかしてキャスターってば、お 尻の穴の方が好きなワケ? 奇麗な顔してる割には、とんだあばずれじゃないの」  軽口を叩きながら少女は更に指を沈めていく。  指とはいえ、後穴に異物を挿れられていく刺激に耐えられず、キャスターはペニスを吐 き出し悲鳴を漏らす。 「いたっ――痛いっ――痛いのっ――やめ――やめてぇ――ッ!」  キャスターの口から漏れる悲痛な叫びに――イリヤスフィールは、より一層指の動きを 激しくさせた。痛いぐらいに締めつける窄まりに、少女の指は根元まで呑み込まれていた。  締めつける人差し指を鉤爪状に折り曲げ、腸壁を引っ掻くように責め立てる。 「ちょっと、気持ちいいからって締めつけないでよ。わたしの指が千切れちゃうじゃない」 「抜いてっ――指……指抜いてぇ! お願い――お願いだからァァァ――」  頭を――髪を振り乱して叫ぶキャスターだが、くつくつと笑いながら少女は肛虐を繰り 返すだけ。 「嬉しそうにお尻振っちゃって……とんでもない淫乱ね」 「あぐっ、うっ――うううっ――」  指の抽挿を止める気配を見せない相手に対し、キャスターは口を閉ざすしかなかった。 これ以上悲鳴を漏らしては、相手をただ愉しませるだけだ。  直腸内を掻き回される刺激に、彼女は唇を噛み締めて堪えるしかなかった。 「ふぅん……頑張るじゃない」  反応を見せなくなり、肩で息をするキャスターに視線を落とし、イリヤスフィールはも う片方の手で尻たぶを撫で回す。 「でも……これならどうかしらねぇ……」 「っ……?」  耳に聴こえた含みを帯びた声音に不安を覚えたキャスターは背後を振り返る。だが、そ れよりも早く、イリヤスフィールは腰を屈めて膝を着いていた。  と――  指を引き抜くと、腸液でてらてらと滑るそこへ――イリヤスフィールは舌を押し付けて いた。 「ひっ!? あっ――ああっ――ふああああっ!?」  指とは違う舌のざらつきの責めに、肩で息を漏らすキャスターの吐息に熱が帯びていく。  キャスターのアヌスを這う舌は、皺の一本一本までくすぐるように丹念に舐めつけてい く。その刺激にキャスターは背筋を震わせ、いやいやと首を振っていた。  だが――  少女の柔らかく熱い舌先でぴちゃぴちゃと舐められていくうちに、キャスターは力が抜 けてされるがままになっていく。  舌先を直腸内に差し込めた途端、キャスターは身体を大きく仰け反らせていた。 「やめっ――やめっ――」 「んっ……ぷはぁっ……ふふ、お尻の穴ほじられて感じてるの? 痛みは我慢できても、 快感は我慢できないみたいね。ふふ……キャスターのオマンコ痙攣してるわよ?」 「やっ――イヤっ! もうやめてっ――んぶぅっ!?」  痺れるような快感に身体を支配されたキャスターの頭を掴み、バーサーカーはペニスを 口腔に咥えさせていた。  バーサーカーに頭を掴まれ、道具でも扱うかのように乱暴に喉奥を突き込まれる衝撃に 脳まで揺さぶられ、キャスターは悲鳴をくぐもらせて身悶えた。  唾液が口の端から溢れ出し、喉を伝い落ちていく。  バーサーカーにとって、キャスターが泣き叫ぼうが苦しもうが、そんなものは知ったこ とではない。求めるものは己が快感のみでしかない。  イリヤスフィールもまた菊座をより強く責め立てながら、蜜を滴らせている秘裂にも指 を差し込み掻き回していた。  淫靡な粘着音を上げながら根元まで飲み込まれた指を動かし、膣壁を引っ掻くように責 め立てては、キャスターの身体を激しく痙攣させる。  刹那、バーサーカーの変化に気がついたのは、そのマスターだった。 「……射精そうなのね」  キャスターの尻から顔を離したイリヤスフィールの口元が吊り上がる。  双乳に手を伸ばし、揉み立てながら彼女の耳元で囁きかける。 「そろそろイキそうなんですって。いい? お口の中に出してもらったら、ちゃんと飲ん であげるのよ。バーサーカーの精液なんだから」 「…………」  少女の声音を耳にしながらも、キャスターの意識は霞んでいた。  荒いリズムで口腔を突き込んでくるペニスの存在感。口内全体に伝わる熱さ。イリヤス フィールの指先に執拗に弄られる乳房の刺激に、いつしか彼女の理性は消えかけていた。  キャスターは頬を窄めてペニスを強く吸い上げる。 「ふぅん、んぶっ――」  喉奥でくぐもった声を上げ、ペニスを咥えた顔を激しく前後に揺らす……瞬間、怒張が 爆ぜた。 「うぐっ!? んんんっ!?」  今までにない力で彼女の喉奥にペニスを押し込み、バーサーカーは体液を迸らせていた。  喉を精液で激しく叩きつけられ、キャスターは眉根を寄せ、顔を歪ませる。  口腔は大量に吐き出された白濁液に溢れていく。苦悶の声を漏らしながら、慌ててペニ スから口を離そうとしたキャスターだが、それをイリヤスフィールは認めなかった。 「飲めって言ったでしょう! 少しでも吐き出したりこぼしたりしたら、その首をへし折 るわよ!」  両手でキャスターの頭を押さえつけたイリヤスフィールは、逆にペニスをより深く咥え させていた。  顔を離すことを許されないキャスターは、身体を震えさせながら、口中に注ぎ込まれた 精液を已むなく飲み込むしかなかった。  白く細い喉をごくりごくりと鳴らし、嚥下していく。 「むぐっ……んっ……うぅん……」  僅かに飲みきれなかった精液が涎と混じり、口の端からこぼれ落ちた。 「そうよ。音を立てて啜りなさい。バーサーカーのおちんちんに残った精液も、ちゃんと 吸い出しなさい」  少女の命じるままに、キャスターは頬を窄めて鈴口を啜り立てていく。  下品な音を周囲に響かせながら、舌先を尿道に潜り込ませ、残った精液を一滴残らず吸 い上げると、喉を鳴らして飲み下す。  喉に絡まる生臭く苦い濁液の味に顔を顰めるキャスターの唇から、バーサーカーのペニ スがゆっくりと引き抜かれると、入れ違いに少女の手が伸び、俯こうとしていた彼女の顎 を掴んでいた。  脱力するキャスターの口を無理矢理開かせ、口内に精液が残っていないのを確かめると、 イリヤスフィールは満足そうに笑みを浮かべた。  序で、イリヤスフィールはキャスターの髪を一房手に取ると、バーサーカーのペニスに 付着していた精液と唾液の残痕を拭い払っていた。  少なからず、キャスターは自分の髪に自信を持っていた。決して疎かにはせずに手入れ をし、丹念に梳いたその自慢の鮮やかな紫髪まで穢されるというあまりの仕打ちに、双眸 からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。 「どう? バーサーカーのザーメン……臭くて苦くて美味しいでしょう。ふふ、その様子 だと泣くほど美味しかったのかしら?」 「……美味しいわけないでしょう……気持ち悪いだけよ」  あくまで軽口を叩く少女に、キャスターは涙に濡れた瞳で睨みつけていた。できること なら、今すぐ口の中に指を入れて嚥下した汚液を吐き出したかった。 「あらそう? 上の口に合わないんだったら、下のお口でたっぷり味わいなさいよ」 「な、に……?」  聴き咎めた言葉の意味を問い返そうとした瞬間、バーサーカーはキャスターの片脚を無 造作に掴み、引き倒していた。 「っ……!?」  突然のことに受身を取れる間もなく――キャスターは背中を強打し、息を詰まらせる。  仰向けの格好のまま、咽る彼女の身体にイリヤスフィールが再び圧しかかっていた。 「ちょっ……なにを……」  腹部に馬乗りする少女を退けようとするが腕に力が入らない。そうしているうちに、イ リヤスフィールはキャスターの股間に指を這わせていた。 「ひっ……やめ、やめなさいっっ! やめ……ひあああっ!?」  言葉の最後を悲鳴に転じ、キャスターは喉を仰け反らしていた。  股間に顔を埋めたイリヤスフィールは、先と同じく秘裂に舌を這わせ丹念に舐めつけて いく。  指先で淵をくすぐるように這わせなぞりながら、薄く小さな唇を押しあてては、膣奥か ら溢れてくる蜜を音を立てて吸い上げる。  そして――  舌と指先でほぐした秘裂が愛液により十分潤っているを確認すると、イリヤスフィール は両手で膣口をこじ開けていた。 「ほら、バーサーカー」  導かれるまま、バーサーカーは隆々とそそり立っている己の剛直をキャスターの秘裂に あてがっていた。  秘肉に伝わる熱に、彼女は身体を震わせる。 「や……やめ、やめなさい……無理……そ、そんなの無理よ……入ら……入らない――」 「無理かどうか、そんなのやってみないとわからないじゃない。バーサーカー、構わない からさっさとハメなさい」  面倒くさそうに命令を下すマスターの声に、バーサーカーは力強く己のペニスを突き挿 れていた。 「――っっ――あああっ――ああああああっ――」  膣口を亀頭が押し広げ――まだ先端しか入っていないというのに、秘裂からは軋んだ悲 鳴が上がり出す。  キャスターの腹から退け、イリヤスフィールは厭きれたように口を開く。 「なぁに? まだ先っぽ程度なのに、この程度で悲鳴上げてたら持たないわよ?」  絶叫を漏らし、大きく眼を見開くキャスターに構わず、バーサーカーは腰を押し進めて いく。  全身は汗ばみ、白い肌は桜色に上気している。だらしなく開かれた唇からは涎を垂れ流 し、彼女は苦鳴を上げた。 「うああぁぁぁっ! あぐぅっ――ぁ、ぁぁ……ふぅぁぁぁっ!」  激しく身体を痙攣させる相手に対し、バーサーカーはなおも体重をかけて亀頭を沈めて いく。  淫惨な肉音を響かせながら肉を押し潰して割り入ってくる剛直本体の圧迫感に、キャス ターの意識は裏返っていた。 「は――入ってくるぅっ――太いのがあっ――ああっ……あっ、あああっ――苦し―― 苦し……いっ――」  涎を吐きながら、キャスターは狂ったように泣き叫ぶ。  狭い膣内を亀頭に無理矢理押し広げられ、堪え難い激痛が走るたびに彼女は身体をのた うち回せて悲鳴を上げ続けた。  締めつける襞を大きく張ったエラに擦り上げられ、腰から力が抜けかかる。それにも拘 らず、キャスターはバーサーカーの身体の下から這い出そうとした。  だが、必死に逃げようとするキャスターの首を押さえつけて動きを封じると、バーサー カーは体重をかけて腰を沈めた。 「ひいっ!?」  ペニスを一気に子宮口まで押し込まれた衝撃に、キャスターは呼吸を詰まらせ全身を震 わせていた。  身体を激しく痙攣させ、あさましくよがり狂う彼女の姿を見て、イリヤスフィールは罵 倒する。 「あはははは、どうかしら、キャスター……気持ちいい? よがってないでちゃんと応え なさいよ。どうなの? バーサーカーの逞しいおちんちんは? 突き込まれて気持ちいい んでしょう?」  勝手なことを口にする少女にキャスターが返答できるはずがない。串刺しにされた彼女 は激痛に悲鳴を上げるのみ。  無論のこと、バーサーカーがキャスターの身体への気遣いや遠慮などは微塵もない。 「かはぁっ――」  股間が裂かれたような強烈な痛みに頤を反らしたキャスターは口をぱくぱくと震わせ、 苦しげな吐息を漏らしていた。 「どう、キャスター。バーサーカーのおちんちんは……大きくて気持ちいいでしょう?」 「……ふざっ……ふざけ……ないでっ! はやく……はやく止めさせ……なさいっ! お 腹……お腹がぁっ……や、破れっ……破れるぅっっ、ぁ、がぁっ」  顔面蒼白になりながらもキャスターはそう言葉を吐き捨てる。こんな状態だというのに、 彼女の瞳の奥には強い殺気を秘めていた。  だが、そんな気丈もイリヤスフィールはフンと鼻で一笑に付す。 「こんな楽しことやめるわけないじゃない。それにまだ始まったばかりじゃないの。どう せそのうち嫌でも慣れてくるわよ。まぁ、この程度で死にはしないだろうけれど……これ 以上は無理みたいね。つまんないの」  膣口にペニスが根元まで完全に埋没しなかったのは面白くないが、イリヤスフィールの 視線は、とある箇所に注がれていた。  見れば、キャスター腹部にはバーサーカーのペニスの輪郭がくっきりと浮かび上がって いる。  妊婦のように膨れたその腹に手を伸ばしたイリヤスフィールは、おもむろに――それで いて力強く、ぐいと押しつけていた。 「――ひぃ――ぁ、が……お、押さないでっっ――」  突き挿れられているだけでも意識を保つことが叶わないというのに、そこへ更に外部か ら腹部を刺激されては、キャスターの理性は軋みを上げる。 「すごいわね。まるで赤ちゃんがいるみたい」  制止の悲鳴を無視したまま、少女はなおも腹部を圧迫し責め立てる。  頤を反らし、キャスターは口から嬌声を上げ続けた。瞳は屈辱に歪み、羞恥の涙が頬を 伝いこぼれていく。  バーサーカーの体躯に見合うかのように、ペニスのサイズも常識外れのもの。それを咥 え込んでいる膣口は限界まで拡張されている。 「さすがにきつそうね」  掠れた声を漏らし悶えるキャスターを一瞥すると、イリヤスフィールは手を離し、口の 端を笑みの形に吊り上げる。 「痛い? 苦しい? 悔しい? でも光栄に思いなさい。キャスター如きが、わたしのバ ーサーカーの相手をさせてあげてるんだから。さあ、バーサーカー……遠慮はいらないわ。 気が済むまで、思う存分愉しみなさい。ああ、間違っても気持ち良すぎるからって殺しち ゃダメよ?」 「んぐぅっっ――あうぅ……あぅ、はぁッ……!?」  引きつるように締めつけてくるヴァギナに、バーサーカーは腰を突き動かし抽挿を開始 する。キャスターの身体を押さえつけ、締まる膣内からエラの辺りまでずるりとペニスを 引き抜くと、また一気に子宮口を衝き上げるように押し込んでいた。 「いぃぃっ――やめ――やめてぇぇぇ――動か――動かないでぇぇっ……!」  なんとか逃げ出そうとして腰を引くキャスターだが、満足に身体を動かせるわけもなく、 結果として、逆に更に奥へとペニスを捻り込まれることになる。  バーサーカーが腰を引けば、ペニスが嵌まり込んでいるキャスターの身体ごと浮かび上 がり、また腰を突き込めば、彼女の身体ごと地面へと叩きつけられる。 「――あがぁぁっ!?」  ぴくぴくと痙攣する膣壁を荒々しく擦りつけられ、身を引き裂かれるような激痛にキャ スターは気が狂いそうだった。 「お、お願い――お願いだから――抜いてぇぇ……し、死んでしまう――これ以上は死ん でしまうからあぁぁっ――」 「この程度でサーヴァントが死ぬわけないじゃない。情けないわよキャスター」  絶息し、涙と涎を垂れ流して喘ぐキャスターに、イリヤスフィールは嘲りの声を投げつ ける。  膣内を無情に蹂躙する暴力にキャスターの視界はぼやけ、吐き気さえこみ上げる。 「――ぎっ――」  ズン、と一突きするごとに、硬い亀頭は膣奥の子宮口を容赦なく殴りつけ、ペニスを抜 くその勢いには、内臓さえも引き摺り出されたかのような感覚に囚われる。  その断続的な相互の繰り返しに、キャスターは苦しげに顔を歪めて悲鳴を漏らし続ける ことしかできなかった。 「ッ――はあっ、はあっ……あがぁっ――」  バーサーカーの圧倒的な力で胎内を掻き回され、子宮口をごつんごつんと殴りつけられ るたびにキャスターの瞼の裏には星が散り、腹を突き破られるような凄まじい衝撃によっ て、彼女の意識は白く霞かかっていく。  バーサーカーのペニスの輪郭が浮き沈みする腹部を指でなぞりながら、イリヤスフィー ルは言う。 「奥の奥まで掻き回される気分はどう? 無理矢理恋焦がさせられたイアソンでは味わえ なかった快感でしょう? 彼のおちんちんはこんなに大きくなかったでしょう? ふふ、 滅多に味わえるものじゃないんだから、別に遠慮しなくてもいいのよ」 「う、うる……さいっ……うるさいっっ……」  焦点の定まらない瞳で睨みつけるキャスターだが、イリヤスフィールは相手にしない。 指を腹部から臍へ移動させ、その窪みをぐにぐにとほじりながら囁いていた。 「あなたの下のお口は随分といやらしい音を立てているじゃない」 「――っっ」  指摘の通りに、容赦のないバーサーカーの責めに合わせて、キャスターの秘裂からは淫 靡な水音が奏でられている。それは当然キャスターの耳にも届いており、彼女は顔を真っ 赤に染めながら歯を食いしばっていた。 「好きなだけ悶えなさいよ。バーサーカーが何回でもイカせて上げるんだから」  肉がぶつかり合う音を森に響かせ、バーサーカーは華奢なキャスターの腰に己の腰を激 しく打ちつけ蹂躙する。  子宮口を突き上げる強烈な痺れが脳天を貫き、キャスターは細い喉を大きく仰け反らせ、 髪を振り乱して泣き喚いた。  扇情的な肢体を激しくくねらせ、涙や涎を撒き散らす……もはや恥も外聞もない。  半端ではない力で抜き差しを繰り返され、逞しく張ったエラに膣襞を擦り上げられて、 硬い亀頭で最奥を叩かれ続けるキャスターも昇りつめてゆく。 「い、いやっ――もうダメっ……ダメ――おかしくなる――おかしくなるっっっ」 「だからさっきも言ったでしょう? おかしくなりそうなら、なってしまえばいいじゃな いって」 「いやっ――いやあっっっ」  小刻みに身体を痙攣させるキャスターとは対照に、バーサーカーにも変化があった。  力強く腰を打ちつけていることに変わりはないが、キャスターの細くくびれた腰をバー サーカーの厳つい手が掴んでいる。 「…………」  それがなにを意味するのか、イリヤスフィールはすぐに気がついていた。バーサーカー にとって、二度目の射精の気配が近づいていることに。  故に、少女は淡々と告げていた。 「喜びなさいキャスター。バーサーカーは、またイキそうなんだって。気持ちよすぎて我 慢できないんですって。ふふ……でも、ちょっとばかり早漏いわよねぇ? ねぇ、キャス ターもそう思うでしょう?」  瞬間、キャスターはハッと眼を見開き、僅かばかりの理性を取り戻していた。 「は、離して――いや――いやぁぁぁっ――離してぇぇぇぇっ!!」  逃げられるはずもないのだが、キャスターは必死に身体をくねらせていた。左腕は空を 掴み、両脚は空しく宙を蹴る。 「お――お願いだからっ――もうこれ以上わたしを辱めないでっっ!」 「ちょっと、なに馬鹿みたいに必死になってるのよ。別に死ぬわけじゃないじゃない。寧 ろ魔力を分けてもらえるんだから、犬のように感謝しなさいよキャスター」 「やめてっ――いやっ、いやあぁぁぁぁっ!」  陵辱されて生き永らえるなど、キャスターにとっては堪えられるものではない。  そんな目に遭ってまで無様に現界するなど、彼女のプライドが許さなかった。 「いやよっ――いやっっ――わたしは穢されてまで現界なんてしたくないのよっ! さっ さと殺しなさいっっ――!」  肉のぶつかり合う音が響く中、叫ぶキャスターに、イリヤスフィールは肩を竦めてみせ ていた。 「何度も同じことを言わせないでよ。楽しいことをするって言ったでしょう? 殺すわけ ないじゃないのよ。案外キャスターも物分かりが悪いのね。胸やお尻にばっかり無駄に栄 養がいって、肝心の頭の方には回らないのかしら?」 「いやっ――いやよ絶対にっっ! 離して――離しなさいっ、ヘラクレスッッッ!! やめ、 やめなさいと言ってるでしょうっ!? わたしをこれ以上愚弄しないでっ! お願いだから ……お願いだからぁっっ!」  懸命に身体を仰け反らせて懇願するが、バーサーカーが理解する筈もなく、行為が止む ことはない。 「はあっ――いやっ、いやあああぁぁっっ」  子宮を激しく突き上げられ、キャスターは髪を振り乱し更に暴れる。  膣内の痙攣の心地よい震えが伝わったのか、バーサーカーは咆哮を上げ、本能が求める ままペニスを奥まで埋め込んでいた。  刹那、子宮口に叩きつけた亀頭が激しく爆ぜ、白濁液を流し込む。 「ああ、ああああ……はああああああっっっ」  膣内を精液で満たされたキャスターは身体を弓なりに反り返らせ、小刻みに痙攣させて いた。  射精を受けた膣奥は、びくびくと爆ぜるペニスを強烈に締めつけ、より奥へ飲み込もう と妖しく蠢き収縮する。 「あっ――ああっ……あふっ……あ、ああっ……」  迸る長い射精を最奥に受けながら、白い喉を反らせたキャスターの口は半開き、唾液を 垂らし、ぐったりと脱力してアクメを漂っていた。  やがては、行き場の失った精液が結合部から溢れ出していた。 「うっ……ううっ……」 「嫌がってた割には随分感じてたようじゃない。本当は気持ちよかったんでしょう?」 「そ、そんな……こと……な……い……」  反論はするが、呂律が回らず巧く喋れはしなかった。 「いっぱい出したわねバーサーカー……キャスターもイッちゃったみたいだし……気持ち よかった? バーサーカー」  そう問いかてくる主の声音に――バーサーカーが返答することはなかった。  一方、キャスターは涙ながらに掠れた息をついていた。 「も、もう……これ、で……これで、気……気が、済んだでしょう? わ、わたしを…… わたしを……辱めたことに、満足……したでしょう? お、終わったんだから……はやく ……はやく……わたしの前から消え……消えて、ちょう……だい……」  バーサーカーの精を胎内に得たことによって、皮肉にも身体には魔力が満ちていくのが 解かった。摂取したとはいえ、今しばらくは現界できえる程度だが、後はその朽ち果てる 時間をキャスターはただ独りで過ごしたかった。そのためにも、眼の前に立つイリヤスフ ィールの顔を見たくなかった。声を聴きたくなかった。一分でも一秒でも早く消えてほし かった。  掠れながらそう漏らした相手に――心底可笑しそうに、イリヤスフィールは声を上げて 笑い出していた。  哄笑する銀髪の少女にキャスターの虚ろな視線が向けられた。 (どうして……笑っているの……?)  理解できずにいるキャスターに、けらけら笑いながら――哀れんだようにイリヤスフィ ールは言葉を吐く。 「終わった? なにが? 馬鹿じゃないの? 終わってなんかないわよ? 寧ろ、これか らなんだから」  少女がそう言い終えると同時に、バーサーカーのペニスが再びキャスターの秘裂を貫い ていた。  悲鳴を漏らすキャスターを尻目に、巨人は荒々しく抽挿を再開する。 「高だか一回二回射精して解放されると本気で思ってるわけ? 負け犬は無様な姿を晒す ものよ。それが女となれば尚更ね」  くつくつと笑みを絶やさずに、イリヤスフィールは紅い瞳を細めていた。 「よかったわね。バーサーカーはあなたを気に入ったみたいよ? それに……精液を受け たんだから、死にはしないでしょう? 糧を得たんだから」  そう言うと、少女はキャスターの傍らにしゃがみ込み、倒れ伏す彼女の髪を無造作に掴 み持ち上げる。 「ほら、いつまでもへばってるんじゃないわよ。まだまだこれからなんだから……無様な イキ顔晒しまくってもらうわよ」 「い……いやよ……いや、いや……いや、いや、いや、いや……いやああああぁぁっっ」  終わりのない陵辱劇に――キャスターはあらん限りの声音で絶叫していた。          窓から覗く空は既に黒。陽は既に沈み、夜の帳が降りている。  室内には髪を梳く音。  煌びやかな調度品に囲まれた一室には、君主の美しく奇麗な髪に無言のまま櫛を通すセ ラと、鏡面台の前に座らせられ、その侍女に髪を梳かれて退屈そうにしているイリヤスフ ィールのふたりが居る。  髪を梳かれている合間、イリヤスフィールは暇そうにしながらも鏡面に映る自分の顔を 見つめていた。  鏡の中の少女もまた暇そうな表情をしている。  自分自身が映っているとはいえ、イリヤスフィールは己の顔を見て、つまらなそうな顔 をしているなと人事のように胸中で呟いていた。  自分自身の顔を見つめていても、然したる発見などなにもない。次いで少女は、同じく 鏡に映っているセラを見る。  侍女は無表情のままに髪を梳いている。 (そういえば……セラは声を上げて笑ったりしないわよね……)  黙々とこなすセラに対し、イリヤスフィールはそんな事を考えていた。  脳裏で声を上げて笑う侍女の姿を想像してみるが、すぐにその考えを改める。あまりに も似合わなさすぎた。  と……  イリヤスフィールの視線に気がついたからなのか、不意にセラが口を開いた。 「お嬢さま、よろしかったのですか?」 「なにが?」  脳内で勝手な妄想をしていたイリヤスフィールは鏡越しに訊き返す。  侍女は銀の髪に櫛を通しながら、再び主に問いかけていた。 「あのサーヴァントのことです」  『あのサーヴァント』との言葉を聴き、そこでようやくセラがなにを言いたいのかを理 解した。  つまらなそうな表情を浮かべ、イリヤスフィールは鏡面に映る自分を見る。鏡の中の少 女も同じくつまらなそうな顔をしていた。  「セラは心配性ね。なにもできないわよ。精神は壊れたし、用心のために逆らわないよう に絶対服従の意味を込めての令呪も使わせたんだし」 「…………」 「それとも、セラはバーサーカーがキャスターに負けるとでも思っているの?」 「いえ、そのようなことは微塵も思いませんが……」 「ならいいじゃない。セラだってバーサーカーの実力はわかってるんだし」  そこで一言区切り、イリヤスフィールはくすりと笑う。 「それに、キャスターには少なからずこの城の役には立ってもらうわ。龍脈の流れを組ん でいない土地とはいえ、『陣地形成』は魅力的ではあるわ」  少女の指摘通りに、今この城は神殿に見立て、冬木の街から魔力が流れてきている。こ れで護りに些かの役には立つ。  陣地形成が魅力的だとはいえ、それは格別本心からのものではない。護るよりも攻める 方法を好むものもあるし、正直に言えば、陣地形成など然して必要とはしていない。殺す 気になればいつでも殺せることが出来るのだが、キャスターを生かしておくことに意味な どは特にない。森での一件同様、メディアとしての過去を知った上での同情心を引き摺っ ているわけではないし、イリヤスフィールは毛ほども思っていない。  生かしておく明確な理由などは持ち合わせてはいない。それでも唯一強いて上げるとす れば、ただの気まぐれでしかないのだから。 「もっとも……バーサーカーさえ居れば、護りなんて関係ないんだし」 「? お嬢さま? なにか仰いましたか?」  呟きはセラには聴こえなかったのだろう。イリヤスフィールは一言、なんでもないとだ け答え、鈴を転がしたような含み笑いを漏らしていた。  聖杯戦争はアインツベルンたる己が勝ち残り、聖杯を手にするのは自分だ。  その為には邪魔な連中は全て殺してしまわなければならない。数日前に戦った衛宮士郎 のサーヴァント……アインツベルンの裏切り者のセイバーも必要ない。あのサーヴァント も首を刎ねてからバーサーカーに犯させようと、イリヤスフィールは決めていた。  今回参戦している冬木のセカンドオーナー兼遠坂家当主、遠坂凛は大して気にも留める 相手ではない。それに、機に乗じてマキリもなにかしらの動きを見せるかもしれないが、 昔と違い、今は衰退――もとい、魔術師の血の廃れた家系など眼中にはない。  自分にとって必要のない者たちを根こそぎ処分した後で、衛宮士郎とともにこの城に住 む……それが少女にとっては、とても愉しみでならなかった。  聖杯を手にし、衛宮士郎をも手に入れれば、なにも言うことはない。  逸る気持ちを抑えてはいるが、それが愉しみで愉しみで――イリヤスフィールは笑わず にはいられなかった。 「しかし……聖杯を起動させるためには、サーヴァントは六騎必要です」 「キャスター一騎が欠けた程度、どうとでもなるわ。その分わたしの魔力を回して補えで もすればなんら問題はないし。それに、キャスターにはもっと別のことで役に立ってもら うんだから」 「別のこと……ですか?」 「ええ。忠実なペットをシロウにあげたら、喜んでくれるかもしれないじゃない」  そう呟きながら、少女は内心愉しみでならなかった。  キャスターをプレゼントしたら、彼はどんな顔をするだろうか?  衛宮士郎も男だ。忠実な性欲処理ペットを貰えば喜びもするだろう。そのためには、よ りよく躾けておかなければならないな、と少女は考えていた。  先から話に出るその当のキャスターは、アインツベルン城の地下に軟禁されている。い や、厳密に言えば放逐だろうか。  未だにキャスターが消えずに現界できているタネ明かしは簡単なものだ。この少女と契 約しているからである。  本来、一介の魔術師がサーヴァントとの二重契約などはできるものではない。  否……  正確には、できなくはないが、しないと言った方が正しいだろう。  二騎のサーヴァントをひとりのマスターが使役したとしても、その二騎とも本来の力を 全て発揮することはできない。  サーヴァントは契約上、魔術師の持つ魔力に左右される。例として、百の魔力を持つ魔 術師が一騎のサーヴァントと契約すれば、魔力の供給ラインは一本となる。  百の力は常にラインを通して流れているため、サーヴァントは魔術師の持つ魔力の恩恵 を受けて力を発揮できる。  だが、それが複数契約となれば話は別だ。  魔術師が二騎のサーヴァントと組むとなると、当然魔力の供給ラインもまた二本に増え る。元々百の魔力しか持たない魔術師から同時に魔力供給を受けてしまえば、サーヴァン トの力も劣ってしまう。  極端な話をしてしまえば、百という数を半分にすれば当然五十となる。その簡単な理屈 の通りにサーヴァント同士は五十パーセントの力がやっとだ。  一方の魔力供給を停めれば、残るもう一方は力を十二分に発揮することは可能だろう。  しかし、そうなってしまうと魔力供給を堰き止められたサーヴァントは自身の持ち合わ せている魔力だけで活動しなければならない。  現界しているだけでも常に魔力は消費している。霊体化していれば幾分かは抑えられは するが、それでも魔力を消費していることに変わりはない。  したがって、複数契約などは、お世辞にも効率的だとは言い難い。  尚且つ、バーサーカークラスのサーヴァントを使役できる魔術師は、過去五回の聖杯戦 争中、誰ひとりとしていなかった。  魔力消費の激しいバーサーカーを操れずに早々に脱落していく魔術師や、バーサーカー の暴走により自滅するケースが殆どだからだ。  それが本来の魔術師ならばの話となるが、イリヤスフィールはその全ての常識を覆す、 まさに例外中の例外としか言いようがなかった。  バーサーカーをサーヴァントに従えていながら、キャスターとも契約したことに問題は ない。  アインツベルンの知識と技術の全てを持って造られ、聖杯の器たる依り代と成す規格外 の魔力を持ち合わせる彼女だからできるものだ。  イリヤスフィールの魔力許容量は、バーサーカーを余裕でカバーすることができた。そ こにもう一騎のサーヴァントと戯れで契約したとしても、魔力になんら支障はなかった。 そのお陰で、キャスターは未だに生き永らえていることになる。  とは言え、現界できていることがキャスターにとって幸せだというものではない。寧ろ 生き永らえた地獄だろう。 「そう言われれば、今日はまだキャスターの顔を見ていなかったわね……」  ぼそりと呟いた少女の声音に、セラの眉がぴくりと動く。 「……また地下に行かれるのですか?」 「ええ。せっかく拾って飼っているんだもの。様子を見ないわけには行かないじゃない」 「…………」 「? なにか問題でもある?」 「いえ……そのようなことはございませんが……」  それ以上セラは口にしなかったが、主が口にした『飼っている』という言葉を頭の中で 反芻していた。  この城は鳥籠に。キャスターは翼のもがれた鳥と表現するのに的を得すぎた言葉だった。  イリヤスフィールの玩具然となった今のキャスターに、かつての女王メディアの面影は 残っていない。  少女の命のままに、四六時中バーサーカーの性欲の相手をさせられている手前、精神は 既に崩壊し、肉欲に溺れるだけの堕落した女性へと変貌を遂げていた。そこにサーヴァン トたるキャスターの威厳などは微塵もなかった。  嬌声を上げ、自ら腰や尻を振ってはバーサーカーに奉仕を続けているキャスターの姿は、 セラにとっては嫌悪するものだった。  日に日に堕落していき、はしたない格好が眼に停まるキャスターを見て、イリヤスフィ ールは手を叩いて笑いの種にしていたが、セラには受けがよくなかった。同じ女として、 あさましい姿を曝け出しているキャスターは侮蔑の対象でしかない。  なによりも、そんなキャスターが同じ『女』だということが、セラは気に入らなかった。 「セラ、どうかしたの?」 「……は?」  突然の主の声に、セラは顔を上げていた。鏡面に映る少女は不思議そうに小首を傾げて いる。 「眉間……すごい皺寄ってるわよ」 「…………」  イリヤスフィールの指摘通りに、鏡に映るセラの眉間には深い皺が刻まれていた。  眼に障るキャスターの痴態を思い出しているうちに、その不快さに自分でも知らぬ間に 眉根を寄せて顔を顰めていたのだろう。  見れば主の髪を梳く手も停まっていたことにセラは気づく。努めていつもの口調で彼女 は応えていた。 「いえ、なんでもありません」  言って、再びイリヤスフィールの髪に櫛を通す。  『そう?』とだけ漏らし、イリヤスフィールも大して気にも留めずにそれ以上はなにも 言わなかった。  セラもまたなにも言わない。どのようなことであれ、この侍女にとって主の幸せは自分 の幸せでもある。イリヤスフィールが幸せでありさえすればそれでよい。自分はなにも言 うことはないのだから。  櫛を置き、セラは恭しく頭を垂れる。 「お待たせいたしました、お嬢さま」  小さく頷き、少女は椅子から立ち上がる。  ようやく退屈な時間から解放された今、イリヤスフィールの顔にはアインツベルンの魔 術師としての笑みが浮かんでいる。 「さてと……じゃあ、無様な姿を拝見しに行こうかしら」  鏡面に映る己自身に、少女はそう囁いていた。