山との出会い

 世の中不思議なもので、ひょんなことから違った世界が開けるものである。私が山登りをするようになったのは50歳を過ぎて何か趣味を持とうと思っていた事と、偶然が重なり合った結果からだった。生まれて今までおよそ登山とは縁もゆかりも無かった私がここ5年その虜に成ってしまった。「鶺鴒の湯」に行くきっかけがどんな理由からだったかはさだかでないが、その前に一度行った記憶からしておそらく妻がみんなに声を掛けたのであろう。二台の車に分乗して出かけた。昼に少し早く露天風呂にゆったりとつかり、食事の準備が出来るのを二階の部屋で、思い思いのスタイルで過ごした事が微かに思い出される。男たちは持って来たつまみを肴にビールを飲み横になって休息を楽しむ者もいた。 

  やがて宿?のお手伝いさんが、昼食の準備が出来たことを告げに来てみんなで階下に降りていく。囲炉裏のある場所が三つほど、まだお客も少なくほとんど空いている。大勢のおごりか一番真中の良い席に陣取り、車座で炉をかこんで早速ビールの注文。それからイワナ・・・・等々誰からともなく一升瓶のオーダーも有った。広い席もほぼ満員となり飲むほどに声も大きく、周囲のことなどお構いなし!!非常に盛り上がった一時であった。  なにしろ二升の酒を飲み干したんだからなあ。  そのほかにビール多々??
用を足しに席を立った帰り際妙齢な婦人から『こんちゃん!』見ると、やや Y 子ちゃんではないか。月並みの挨拶やグループの仲間の事などを話していると、そこに仲間の一人が通りかかり会話に加わった。なんの話から登山の話題に変わったか今持って不明だが、話が弾んで今度一緒に行こうとの約束とあいなった。 酒のせいかはたまた美女のせいか ? 後日談として聞くところ一緒だったおふくろさんから酔っぱらいの男の約束などあてにしないほうがいいよ・・・と言われたとか。 しかし例外もあった。次の週みんなで登山靴とリュックを揃え、初めて登ったのが粟が岳の加茂コース ! 

 残暑の厳しい8月末。喘ぎながらそして汗で下着を濡らしながら、まさに死ぬ思いで良くぞ頑張った。それはY子の励ましと我々男3人・女4人の気力と体力の賜物? いまもって当時の苦しさが鮮明に思い出される。頂上で思わず ≪ばんざーい≫ と叫んだ M子の声に周りの人たちから、暖かなねぎらいの声をかけて貰い俺も ≪自分の気力・体力に感謝≫ を喜んだ。 

 誤解を招かないよう彼女とのいきさつを少し・・・もっともあとで誤解されたのだが!工業の同級生で宮島君が居た。悠久山駅のそばが自宅で冬のスキー授業の時など、毎年の様に道具等預かってもらったりして少し親しかった。卒業してから全く会う事もなかったが、小学校での長女の父親参観日・・確か2〜3年生の時、教室でばっ たりと出会った。勿論名簿から宮島君と自分が同じクラスであることは知ってはいたが・・。 その後まもなく急病で帰らぬ人となった。しばらくしてあるスナックで手伝っている時にその同級生の奥さんに会ったのが初対面で Y 子だった。ママも19年生まれで美人のうえ、 俺とは妙に気が会い!!? 同級生の様なつき合いをしていた。そんな環境とざっくばらんな雰囲気の中で、気安く気ままなつき合い方をしていた。最も Y ちゃんはアルバイト(愛する夫を亡くし沈んでいる彼女を励ますために気晴らしにと声をかけたという。スナックのママとは高校の同級生)で週二回程店に出ていたのだろうか。何分明るくて朗らかで話題が尽きず楽しく付き合っていた、そんないきさつも知らず人は想像力が豊かである。あらぬ目で見られ周囲までも疑心暗鬼にさせる。  

 その年の体育の日平漂山の素晴らしい紅葉を見に行こうと彼女に誘われ大勢で出かけた。登りはじめからきつい傾斜で途中何度も息を整え、苗場山の雄姿を背にしながら鉄塔の下で小休止。それから木々の間を潜り抜けようやく山頂にたどり着く。かなりの人たちが居たが記念写真を撮り待望のお昼とする。あの時のビールのおいしかったことはまだ忘れない。その上見渡す限りの大パノラマ。今まで経験した事の無い素晴らしい景色に感動し此処に来た幸福を感謝した。 

 人間は本当に心から楽しいとき言葉を失いこの世に生を受けたことに素直に感謝できるのだ。こうした気持ちの昂ぶりをしばらく忘れていた。仙ノ倉への途中の紅葉の素晴らしさは較べる対象を知らない。まさに絶品だった。 その上帰りには山小屋経由の紅葉のトンネル。そして林道を歩き右手後方に見えた山頂を目にしながら、又くる日を心に期し今日の良き日の思いでとした。秋の陽に輝く山々を振り返りながら・・・・・その後光明山を案内され湯沢のトレッキングコースにも行った。以後山登りの楽しみを多少なりとも味わい、素晴らしい自然に出会えた事を感謝している。そして再び何事もなかった様にみんなで山に行き風呂で汗を流し、一つのテーブルを囲みながら今日あった事を肴にし、次回の予定を語りながらおいしい酒を飲みたいものである。


                               '98・11/ 7 木枯らし吹く初冬の午後

       

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