基本特許の『法則』
中小企業に基本特許は可能か
よく中小企業経営者の方から「基本特許は大企業だけで、中小企業は応用特許しかない」という声を聴くことがあります。
確かに、大企業や一部のハイテク型ベンチャー企業でないと扱えない分野は存在します。例えば、半導体、LCD(液晶表示装置)、CCD(電荷結合素子)などの産業資本財・要素技術の分野では、大企業数社の寡占状態となっいます。また、最近のマルチメディア分野での、DVD(デジタル・ビデオディスク)、パソコンOS(基本ソフト)、通信ソフトなどのデファクト・スタンダード(事実上の標準規格)を巡る競争では、ソニーや東芝などの大企業とマイクロソフトやゼネラル・マジックなどの一部の米ベンチャー企業だけが争っているというのが現状です。
一方、中小企業、特に地方の中小企業は、量的には小さい「すき間」市場の商品を多く扱っている、ハイテク志向というよりもローテク志向的である、などの特徴を持っています。このような、ローテク型の中小企業は、基本特許を取得することはできないのでしょうか。
十分に可能だというのが私の考えですが、以下では、中小企業が基本特許を取得できるための「成功法則」を、幾つかの実例をも参照しながら、探ってみたいと思います。なお、ここで言う「基本特許」には、要素技術に関する基礎研究から生まれる発明の特許だけでなく、応用研究や開発研究から生まれる発明の特許で基本的な内容を有し範囲の広い特許をも、含めています。
地方企業の「ジャパニーズ・ドリーム」
現在の変革期は、尾張の織田信長や甲斐の武田信玄などのような地方の戦国大名が自分の領地を固め力を蓄えて中央を攻めた戦国時代と、かなり似た状況になっているように思います。
例えば、香川県高松市に本社を置き全国に向けて家庭教師派遣業を展開中のトライグループ(平田修社長)、平成6年に株式公開しカジュアル衣料販売で全国制覇を目指す山口県宇部市のファーストリテイリング(柳井正社長)などのように、地方で独自の手法や仕組みを確立し中央を攻める地方のベンチャー企業が今、注目されています。
「基本特許」取得の3条件
これらの地方企業は比較的ローテク型が多いと言えますが、消費者に密着してその隠れた顧客ニーズをいち早く発見して取り入れるという「ニーズ発見能力」、マーケティング能力に優れているという共通点があります。
ただ、このようにして発見した「顧客ニーズ」だけでは、基本特許を得ることはできません。なぜなら、特許権を取得できる「発明」には「自然法則を利用していること」が要件になっているからです(特許法第2条)。そこで、この「自然法則の利用」という要件をクリアするために、「システム化能力」がポイントになってくる、と私は思います。つまり、自分が発見した新しい「顧客ニーズ」や独自のアイデアを実現するために、従来からあるハードウェアやソフトウェア(大企業が提供してくれる、半導体、LCD、CCD、MPU、メモリ、各種駆動装置などの様々な要素技術)を有機的に組み合わせてシステム化することにより、「発明」として構成することが可能になります。
更に、現行の特許制度は「先願主義」を採っており「早い者勝ち」となっていますので、ハイテク型かローテク型かに拘わらず、常に「先端」のアイデアである必要があります。
以上のように、「ニーズ発見能力」「システム化能力」「先端性」の3つが、中小企業が基本特許で成功するための条件ではないか、と思います。以下、このことを、実例で見てみましょう。
ICカードの基本特許
下図は、ICカードの基本特許として有名な特許第940548号「識別カード」の公告公報に開示されたものです。

この特許の請求範囲は、次のようになっています。
|
能動素子を含み外部からの入力に応答して識別用の新たな信号を発生する 集積回路を識別装置として本体に埋設 して成る識別カード。 |
つまり、「IC(集積回路)をカードに埋設して成るICカード」という内容で、極めて広いクレーム(特許請求の範囲)になっています。広い権利範囲をもたらすようなクレームをどう構成するかはセンスの問題もあり、このような広い内容の特許を取得できたのは担当した弁理士の力も大きかったと思います。
このICカードのアイデアは、1970年当時、有村国孝という青年が、古河電工を辞めて米国に行き、そこで日本より10年早いカード社会を経験し、「将来は記録容量の小さい磁気カードでは役に立たなくなるのでは」ということから発想したもので、特許出願人は有村さん個人になっています。個人でもこのような基本特許を取得できるのですから、中小企業でも十分に可能性はあると思います。
このICカードの基本特許に対しては、ICの価格が大幅に下がってICカードの製品化が現実になった1980年代後半に、大手電機メーカーなどからライセンスの申込みが殺到しました。特許期間が切れるまでの数年間のライセンス料収入は、数十億円とも百数十億円(当時)とも言われています。
とにかく、このICカードの基本特許は、72文字しか記憶できない磁気カードでは将来は役に立たなくなるという隠れたニーズを発見した「ニーズ発見能力」、ICとカードという2つの基本的要素技術を有機的に組み合わせた「システム化能力」、米国でのカード社会の現実からまだ誰も予測していない日本でのICカード利用を予測した「先端性」、の3つの条件を共に充たす好例だと言えるでしょう。