「二番手戦略」を封じるための無審査実用新案登録の活用法
1994年に実用新案法が改正されて、実用新案について無審査登録制が導入されました。これに伴い、発明又は考案をした企業では、実用新案でいくべきか特許でいくべきか、迷うということが少なくないと思われます。今回は、この点についての私見を述べてみたいと思います。なお、以下の意見の展開に当たっては、弁理士の豊田正雄氏の論文「これからの特許出願戦略」(同友館発行「企業診断」1994/5号)を参考にさせて戴きました。
実用新案と特許の比較
まず、実用新案でいくときと特許でいくときとの得失を比較してみます。
@権利化までの期間は、実用新案は出願から約6カ月なのに対し、特許は現状では出願から約2〜3年というのが平均です。
A権利期間は、実用新案は出願から10年なのに対し、特許は出願から20年となっています。
B登録までの費用は、実用新案の方が出願審査請求が不要なこと等から安上がりになっており、特許の約2/3程度の費用で済みます。
C保護対象の違いは、実用新案は「方法」と「化学物質」が対象にならないことを除いてほとんど同じです。また登録要件である進歩性についても、日用品や機械などの分野では実用新案の方が若干認められやすいという面はありますが、電気・ソフトウェアなど他の分野ではほぼ同じと言ってよいと思います。
日本の産業構造と特許構造
日本の産業構造の特色の一つとして、「総合電機メーカー」の存在が上げられることがあります。アメリカでは、日本のような「総合電機メーカー」は存在せず、インテル、マイクロソフト、アップルのように特定の分野に特化した企業が急成長しています。
このような「総合電機メーカー」が存在できるのは、日本の特許構造と深い関係があります。つまり、いくら豊富な人材と資本を備えた大企業でも、電機の全ての分野でパイオニアになることは不可能です。しかし、「二番手(又は三番手)企業」として繁栄を続けることは、ある条件が満たされる限り、十分に可能です。その条件とは、「他社が開発した独自のアイデアを使用して製造販売を継続できる」ということです。この条件を提供してきたのが、従来の(日本が「プロパテント」時代に動く前の1990年代半ばまで)日本の特許構造でした。
大企業の「二番手戦略」を許す日本の特許構造
すなわち、従来の日本の特許構造では、パイオニア企業(中小企業の場合も多い)が出願した発明の内容は出願から1年半後に公開されますが、権利化はそれよりかなり後になるので、その「無権利期間」内に、「二番手」を狙う大企業としてはその分野の研究開発を行って大量の改良発明を出願すると共に、製造販売を開始します。日本の特許庁は改良発明の特許性をかなり広く認めますので、パイオニア企業としては、自ら発明を「実施」しようとしても、これらの多くの改良発明と抵触してしまい、「クロスライセンス」に持ち込まざるを得ないことになります。その結果、パイオニア企業と二番手企業はほぼ対等の立場で製造販売競争を繰り広げ、結局生産規模の大きい企業が有利になるという構造になっていました。
「二番手戦略」を封じる実用新案登録
しかし、無審査実用新案制度の施行により、このような従来の「二番手戦略」が封じられる可能性が出てきました。
なぜなら、無審査登録制の下では、実用新案は出願から約6カ月で登録され独占権が発生します。となると、後発企業としてはそれ以後は製造販売できないことになりますので、そうなると、改良発明のための開発意欲も沸かないでしょうし、改良発明のための研究費も出しにくくなるでしょう。したがって、「二番手戦略」の基盤が大きく揺らいでしまうことになります。
逆に、独創的な新商品を開発したパイオニア企業にとっては、この無審査実用新案登録を活用することにより、大企業による後発の類似製品の大量販売を防ぐことができるということになります。
無審査実用新案登録 出願の注意点
以上のように後発企業に対する強力な防御手段となる実用新案ですが、これにも、権利期間が短いというネックがあります。ライフサイクルが短い製品なら問題ありませんが、それ以上製造販売が継続する可能性があれば、この実用新案だけでは問題が残ります。
そこで、例えば次のように、実用新案と特許との最適な組合せを図って行くことが大切になります。
@製品寿命の予測が困難な場合は、とりあえず基本的なアイデアのレベルから周辺的な実施例レベルまでの多段階のクレームを包括的に記載した特許出願をしておき、製品を発売する前後又は紛争が発生したときに、実施例レベルのクレームを「分割」し実用新案に「変更」する(手続的には一つの手続で可能)ことが考えられます。
Aまた費用に余裕があれば、予め、基本的なアイデアについては特許で出願すると共に、周辺的な実施例レベルのアイデアについては無審査実用新案で出願することが考えられます。
以上の@又はAの方法により、基本的なアイデアについては特許による長期的な保護を図り、他方、周辺的な実施例レベルについては実用新案による早期の保護を図ることができます。