鯨田雅信の「知的財産」ショート・コラム集

 

基本的な概念

お手本はいらない

ゲーム性を帯びて

研究者はアウトローであるべきだ

偶然性とセレンディピティ

眠れる名画

侵害代理業務試験

発明の同期化傾向と特許制度の変容

      トップに戻る

 

基本的な概念

「新技術の創作はあくまで個人によるのであり、その個人が大企業の研究所にいるか否かは単なる偶然にしか過ぎない」(富田徹男著「知的所有権雑考」特許ニュース1994.10.21号)

 

 これまで数百人の発明者とお会いした経験から感じることは、優れた発明やアイデアを生み出す人たちには、「基本的な問いかけ」をする人が多いということです。

 私の知人(食品業界とは無縁の人)でも、「カマボコとは何か」という問いかけから、意外な発明をした人もいます。

 今まで、私たち日本人の多くは、皆んなが当たり前としていることは疑うことなく受け入れるという習性を、刷り込まれてきたように思います。

 しかし、これからは、「基本的な概念を問題にする姿勢」がより大切になるでしょう。   

   ページのTOPにもどる

 

お手本はいらない

「俺にはお手本はいらない」(サッカーの上達法を聞かれて。中田英寿 著「中田語録」文芸春秋社)

 

 私の事務所に来られる発明者・発明家の方々を見ていますと、「独創的・突発的な発明」を生み出す人たちには、他人の言うことを鵜呑みにせず自分で考える(上司や先輩から見ると可愛いげが無い)、序列やセレモニーなど型にはまったことが嫌い、異端・少数派、などの共通の「タイプ」や「特徴」が、確かにあるように感じます。

 私の仮説ですが、このような特徴は、「その人の脳細胞やエネルギーを、発明が生まれやすい方向に、活性化させ集中させる」作用を持っているのかも知れません。

 どうも、私には、「革新的なアイデアや発明」を生み出せるかどうかは、単なる頭の良さや専門知識の多さよりも、その人の個人としての「価値観」や「生き方」がより本質的に関係しているように思えます。

   ページのTOPにもどる

 

ゲーム性を帯びて

「エジソンは蓄音機、白熱電灯、活動写真などを発明した。だが、彼の最大の発明は、発明家という職業であり、技術研究所というビジネスだった。」(名和小太郎 著「知的財産権」)

 

 特許ビジネスの先進国・米国では、ライセンス料や賠償額を極大化させるため、取りやすい相手から取る、相手が利益を上げるまで待ち伏せて訴える、契約が遅れる度に料率を引き上げて相手を追い込む、などの戦略が常識となっています。

 米国だけでなく日本でも、近年、特許ビジネスがますます「ゲーム性」「投機性」を帯びてきているように思います。しかし、これは、特許の世界が金融などと同様に大衆化されてきた結果だとも言えるでしょう。

 今後、特許制度は、「企業に独占権を与えることにより新製品開発の投下資本を回収させる」という伝統目的から踏み出して、「国家(又は国際機関)が設営する、公的なアイデア公募制度」とでも言うべきものに、その性格を徐々に変質させて行くのではないかと思います。

   ページのTOPにもどる

 

研究者はアウトローであるべきだ

「研究者はアウトローであるべきだ。」(所 真理雄・ソニーコンピュータサイエンス研究所所長)

 

 現代の最もアウトロー的な研究者の一人、中村修二氏(米カリフォルニア大教授)は、徳島県阿南市の日亜化学工業時代、社内行事や飲み会は一切無視、会議も欠席、電話にも出ないなどの過激な勤務スタイルで、世界初の青色発光ダイオードの開発に成功しました。その中村氏は、発明について、「『常識に反している』からこそ発明なんだ。」と雑誌などで述べています。

 研究の場で「常識に反する(斬新な)発想」をする人たちには、日常生活の場でも、常識や秩序に従わない(捕われない)言動をする人たちが多いのではないでしょうか。

 日本から「革命的な技術・発明」を世界に発信して行くためには、私たちの周りにいる「アウトロー」たちを快く受け入れる社会に転換することが必要だと思います。

   ページのTOPにもどる

 

偶然性とセレンディピティ

「真の強者は運の偶然性をも読む」(桜井章一 著「超絶」竹書房)

 

 ノーベル化学賞を受賞した白川英樹氏の導電性高分子の発見は、助手が触媒の配合を間違えておかしな黒い膜ができたという「偶然」が切っ掛けだったそうです。

 このように、偉大な業績を残した科学者や発明家たちの軌跡を見ると、「セレンディピティ」(思いもかけない事件や現象にたまたま遭遇してしまう能力)が大きな役割を果たしていたと言われています。

 ギャンブルなどの勝負事でも、運や偶然は最大の関心事のようで、麻雀の裏世界で20年間負けたことが無かったと言われる桜井章一氏は、「予知能力で偶然を読む」とその著書で述べています。

 発明にせよ何にせよ、「偶然を煙たがらず、偶然に翻弄されることさえも楽しむこと」が、偶然から愛され成功に至る秘訣ではないでしょうか。                          

   ページのTOPにもどる

 

眠れる名画

 「我々には、作品の本当の価値を決める『決定的な何か』を発見できるだけの能力がある」(フィリップ・モウルド著「眠れる名画」)

 

 最近は譲渡や担保のための知的財産の評価が課題とされ、金融工学の応用など様々な試みが為されています。

 しかし、発明の評価、特にその市場性の評価には、社会インフラや技術トレンドの変化などの経時的要素(将来予測)が必要となり、そこに、「誰が最初にその発明の価値を見出すか」という競争の余地が生じます。

 絵画の世界では、オークション会場に持ち込まれた誰も注目していない作品群の中から、実は大変な価値を持っている作品を誰よりも先に見抜き、格安の値段で競り落とす自営ディーラーたちが、昔から存在しています。

 知財の世界でも、BTのハイパーリンク特許や米SCOのLinux関連著作権など「眠れる特許」が後から発見されて大騒ぎになる事件が発生していますが、これからは、それが日常茶飯になって行くでしょう。

   ページのTOPにもどる

 

侵害代理業務試験

 昨年(2004年)の10月、弁理士に特許等侵害訴訟における弁護士と共同での訴訟代理人資格を付与するかどうかを決める「特定侵害訴訟代理業務試験」を受けてきました。

 この試験もそうですが、最近の弁理士制度は、不正競争防止法・著作権法・関税定率法などを職域に加え、さらに訴訟や契約の領域にも進出するなど、より「法文系の領域」へと足を踏み入れています。

 従来の「創造・権利化」の分野から「保護・活用」の分野への進出が業界のコンセンサスになっています。

 しかし、最近でも特許侵害訴訟の原告勝訴率は25%以下の低率となっており、その原因のかなりの部分が「権利書」としての特許明細書の品質にあることも事実です。

 弁理士は、従来の理系という軸足を大切にしながら、法文系の知識を、「創造・権利化」の分野、例えば「侵害訴訟や契約交渉(保護・活用)での戦いに勝てる特許明細書」の作成にこそ生かして行くべきだろうと、試験を受けながら感じました。

   ページのTOPにもどる

 

発明の同期化傾向と特許制度の変容

 最近、日本知的財産協会・専務理事の宗定勇氏の講演を聞く機会がありました。近年は多くの企業が技術による差異化を目指してR&D費を増大させた結果、皆が同じような研究に追い込まれて発明の同期化が進み、複数の企業から同じ発明が数日から数十日違いで特許出願される事態が増加している、という話が印象に残りました。

 僅か1日の違いでも一方は特許が取れて20年間独占でき他方はそれが得られないことになり、その差は甚大です。オリンピックのスピードスケートなどでも、コンマゼロ何秒という僅かの差で金メダルを貰えたり貰えなかったりして、それがその人のその後の運命を大きく変えてしまったりもしますが、そのことに、何か人生の不条理を感じる反面、勝負の厳しさや清清しさも感じます。

 特許制度も、横一線に並んで競争している競合企業の「群れ」の中から、出願日が1日でも早い企業だけに特許という独占権を与えることによって、その僅かの差を増幅し固定化させるための仕掛けなのだと感じました。

   ページのTOPにもどる