柊と大蒜と忍辱と  

 
(04/02/22 up)






 過日、あるサイトの画像掲示板へのメッセージで興味深いものがあった。
 それは、ある人が、仕事へ行く途中の市場で見かけた光景。ホワイトボードに 「人肉ノ芽」と書いてあったというのだ。
「人肉ノ芽」……、すぐに察せられるように、ボードに書いた人は、「ニンニク の芽」という意味で書きたかったのだ。実際、市場では、ニンニクの現物が置い てあるので、混乱はしないようだが、しかし、「人肉ノ芽」は、ひどい。
 別に小生が説明する必要もないだろうが、「人」と書いて「ジン」とも読める が「ニン」とも読める。「肉」は「ニク」で、すんなり。
 合わせると、「ニンニク」=「人肉」と表記したということなのだろう。仮に 由緒ある事典か辞書に「ニンニク」を漢字で表記すると「人肉」だ、と書いてあ ったら、素直な小生は信じた……だろうか。
 さて、では、「ニンニク」の漢字での表記は、どうなのか。そう、知る人ぞ知 るだろうが、「大蒜」である。あるいは、「葫」。
 なんて、知ったかぶりしているが、小生もそのメッセージに「大蒜」だと書い てあることで初めて知った次第である。
 しかし、それにしてもなぜに、「大蒜」と書いて「ニンニク」と読むのだろう か。
 実のところ、小生は、実際に「大蒜」という表記は見かけたことがある。 が、どのように読むべきなのか分からないままに放置してきた。内心では、「蒜」 はヒルと読むような気がするから「オオヒル」かな、それとも、「オオビル」か 「ダイビル」かな。でも、「蒜」は「ニラ」かもしれない、などと忖度するばか り。
 声に出して読む本などというけれど、声に出して堂々と読めるのは、余程、文 章力に自信があるか、そうでなければ、難しい漢字にルビが振ってある場合に限 ると、つくづく思った。
 ところで、小生、「ニンニクの芽」なるものを知らない。あるいは、現物は目 にしているが、現物と名称とが一致していない。
 それはネットなどで調べて、ああ、あれがニンニクの芽か、と感心した次第。 ほとんど、感動に近かったような。
 しかし、何か引っ掛かるものがある。それは、なぜ、「大蒜」を「ニンニク」 と読むのか、という点に疑問があるのだ。
 そこで、ちょっと調べてみた。そんなことを調べるからって、暇じゃあ、ない のだ。忙しくて堪らない。用事が積み重なって二進も三進もいかなくて、もう、 開き直り状態なのである。
 そんな個人的な事情というか愚痴はさておき、先に進もう。
 小生の頭の隅に、「野蒜」=「ノビル」という言葉がチラチラしている。野蒜 と大蒜との間には何か関係がありそうだ。といって、近親関係があると憶測して いるのではない(どうも、人肉を引き摺っているようだ)。何かの類縁関係があ りそうだと睨んでいるということだ。
 で、「野蒜 大蒜」でネット検索してみた。すると、以下のようなサイトをヒ ットした: 「ことばの履歴書」

 「ことばの履歴書」と題されているが、何故か、「ひいらぎ」の項なのである。
「柊(ひいらぎ)」と「野蒜 大蒜」とが、どういう関係にあるのか。
「モクセイ科に属する柊は、葉のふちに鋭いとげになった切り込みがあり、さわ るとヒリヒリします。ヒリヒリ痛む意味の古語である「ひひらく」から「ひいら ぎ」の名が生まれ」たという。「「ひいらぎ(柊)」の小枝に臭い鰯の頭を差し て門口に掲げて」悪鬼を払う風習があったとか。実際、ネギやニンニクを柊の枝 に刺す地方もある、などと書かれている。
 が、瞠目すべきは、更にその先の文面である:
「柊は、池・沼・水田などで魚や人について血を吸う生物「ヒル(蛭)」や、臭 気の強い植物「ヒル(蒜)」とも同系の言葉です」
 同系の言葉?! 一体、どういうことなのか!?
 すると、「蒜とは、ノビル(野蒜)、ニンニク(大蒜)など、刺激性が強いユ リ科の植物の古称」と続いている。「蒜を口に入れたり肌に触れたりすると、蛭 にかまれたようにヒリヒリすることから、この名が付いたと考えられてい」るの だとか。
「広辞苑」などを引くと、「ニンニク(大蒜)」と「ニンニク(忍辱)」とが並 んでいる。ただの偶然かと思っていたら、そうではないようである。ちなみに、 「忍辱」とは、六波羅蜜の一で、「もろもろの侮辱・迫害を忍受して恨まないこ と」だそうである。
 所謂食べるほうのニンニクの語源は、実は、「ニンニク(忍辱)」から来 ているというのである。で、ニンニクの古名は、大蒜(おおひる)なのだとか。 ってことは、小生が当てずっぽうに読んでいた読み方は、あながち間違いではな かったことになる。やっぱり声に出して日本語は読むべきだったのだ!?
 以上の項は、このサイトを参照:

 別のサイトによると、にんにくは、「紀元前3000年の頃には、エジプト で栽培されてい」たとか。また、東洋では古来より精力剤として珍重されたよう だが、あまりに「精力がつきすぎて人間の心を乱し、魂を失わせることがあるた め、中国の仏僧はこれを断ってい」たのだとか。
 ちなみに、小生も紫蘇ニンニクは匂いがしないということで常食している。

 さて、話がゴタゴタしてしまったが、要は、仏教用語の「ニンニク(忍辱)」 が、古名では大蒜(おおひる)だったものに、いつしか当て嵌められるようにな ったということのようである。
 文中で、「小生の頭の隅に、「野蒜」=「ノビル」という言葉がチラチラして いる」と書いたが、それは、古事記の中の下記の歌を思い浮かべてのことである:


 いざ子ども 野蒜(のびる)摘みに 蒜摘みに 我が行く道の
 香ぐはし 花橘は 上(ほ)つ枝には 鳥居枯らし
 下枝(しづえ)には 人取り枯らし 三栗(みつぐり)の
 中つ枝の ほつもり 赤ら嬢子(をとめ)を いざささば 好らしな



  
04/02/21記



 背景画像は→→→