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何故か悶々とした夜を過ごしている。なんだか先週からペンが走らない。
エッセイを書く糸口が見つからないでいるからだと思っている。 でも、理由は違うのかもしれない。 秋が深まり、冬が近づくにつれ、夜は果てしのないものになっていく。 夜の東京のそこここに、溺れそうな人がいるような気がする。 今にも溺れそうなのに、でも、当人は案外、平気な顔をしていたりする。 それどころか、その人の振る舞いは自ら墓穴を掘るようなものだったり。 逢って話したい。そうすれば全てが解決するような気がする。 でも、そんな気がするだけ。 逢えるはずもない。 その人が何処にいるのか、もう、全く分からないのだ。 仮に居場所が分かっても逢えないのかもしれない。 そもそも、その人はこの自分を知っていないかもしれないのだから。 私の書くエッセイの文のように、思いは闇夜へと宛てられたラブレターなのだ。 何かを書いているようで、その実、ただ、喚いたり叫んだり悲鳴を上げたり。 つまりは、ここに一人の人間が生きていると分かって欲しいだけ……。 絆は決して切れることはない。 絆は魂が形を失う最後の瞬間まで、その赤い糸を絡ませている。 愛する人の心には、私はもともと欠片もなかったのだ。 だから、愛が形を失う心配もない。 むしろ、恐れるとしたら、空っぽな己の心だけ。 そのガランとした空洞に、私は佇んでいる。何かを待ち受ける振りをしながら。 でも、ゴドーを待っても、いつまでも誰も来やしない。 だから、私は、懸命に悲鳴の言葉を綴り続けるのだ。 そう、星より孤独なラブレターとして。 02/10/31(02/02/ 作) 星より孤独な夜に
未明の空に満月!前日の夜まで雨が降っていたことが嘘のような澄明な空。 我等の歓びの息吹と悲しみの吐息と、焼け焦げ蒸散した原油の魂とを洗い流し、 吹き飛ばした果ての、束の間の凪の時。 仕事にあぶれた俺の、焦点の定まらない目。 明日という日がこんなにも遠くに感じられたことはない。 なのに、既に明日は今日となって、俺を圧倒する。 俺を押し潰して影を消し去ってしまう。 何処にも居場所のない俺から、一体、この期に及んで何を奪おうというのか。 体の節々を散々痛めつけておいて、身動きさえ侭ならないじゃないか。 俺には何があるのだろう。何がないのだろう。 それでも天には星と月と夜。 世間の中では影が薄くても、月が俺に蒼白なる幻のゲレンデと、苛烈なほ どの輪郭を与えてくれる。 星たちが街灯やネオンの織り成すベールにも負けずに煌いている。 一切の言い訳も愚痴も妥協をも刺し貫いて、星々の光が俺の心を凍てつかせる。 そうだ、輝く星々の光の無数の切っ先の全てが、数光年、数万光年、数億 光年の彼方から今、この俺に達した。 俺を光の十字架に磔にしたのだ。 ああ、この出会い! 俺の瞳の奥で、深浅の光たちが交差する。 私こそが、永遠で無限な世界に行き交う光の出会いの場なのだ。 限りなく間近に互いを見合った光たちは、二度と見えることのない旅を再 び続ける、何事もなかったかのように。 俺の中に、出会いという奇跡の瞬間を残したままに。 ああ、この別れ! 俺は粉塵と化した光の名残の海を漂う。哀しく蒼い海に俺の魂を浮かべる。 木の葉になって、月の海に浮かび流れ去っていく。 言の葉になって、記憶の海に溶け去った俺の肉片を拾い集める。 そうだ! 俺とは、抽象というホルマリン溶液の中の忘れ去られた標本なのだ。 02/10/22 星よりも孤独
仕事柄、よく、夜中に公園の脇に車を停めて休息することがある。煙草が吸える
なら一服するところだろうが、生憎、吸えない私は、ただ、ボンヤリ街並みや木立
や、そして夜半を過ぎた星空を眺めるばかりだ。たまには、せめて缶コーヒーでも片手に、と思ったりする。けれど、神経質なの か、どうも気が缶コーヒーのほうに向いてしまって、せっかくの風景を楽しむこと ができない。 だから、やっぱり私は、手ぶらのまま、ただ、ボンヤリ深更の空を眺めあげる。 秋も深まり、冬の気配の濃い夜空は、とてつもなく透明で深い。日中だって、ど こかの森の奥だったり、あるいは人気のない里だったりすると、天はどこまでも高 いのだろうけれど、都会のど真ん中にいては、街の喧騒が空気を揺らし、そして濁 らせてしまう。 やはり都会で星空の醍醐味を味わうには、丑三つ時が一番いいのかもしれない。 私は、たった一人で仕事をするのが好きだ。だから今の仕事を選んでいるのかも しれない。休息も勝手に自分の好きな時に楽しめる。誰に語りかけることもなく、 誰に話し掛けられることもない、都会の公園の隅っこに、ポツンと立つ影。それが 私だ。 煌煌と照る月明かりが、私の影をくっきりと大地に刻みつけてくれる。その輪郭 の鮮やかさは、私という人間のあやふやさを忘れさせてくれるほどだ。 天は、それほどにありがたきものなのだ。 街中を歩く時も、公園の片隅に憩う時も、そして部屋に篭る時も、私は独りっき りだ。もう、仕事で必要に迫られる時以外は、何ヶ月も人とお喋りしていない。で も、一向に寂しいとは思わないのだ。 別に心が豊かな人間だからってわけじゃない。もう、神経が麻痺しちゃっている んだろう。だから、ホントは淋しいのかもしれないけれど、それが分からないのか もしれない。 心に堆積した脂肪は幾重もの層と成っている。もう、自分でも自分の心が何処に あるのか分からない。 それでも数十億光年の彼方からの星の煌きは、私の目を射抜く。射抜いて、心を 直撃してくれる。忘れ去って久しいはずの誰かのことさえ、つい、思い出しそうに なってしまうほどだ。 この都会には数千万もの人がいる、らしい。なるほど、日中は、うんざりするほ どの人の熱気が溢れている。熱気が渦を巻き、トグロさえ、巻いている。なのに、 誰一人として私のことを思い出す人はいない。 それは不思議なことなのだろうか。それとも、都会では有り触れた光景に過ぎな いのだろうか。 何の能もない人間は、懸命に自分の存在をアピールしないと、簡単に忘れ去られ る。あっという間に他の人に居場所を奪われてしまう。で、昨日とは違う人間がそ こにいることに、誰も気付かない。気付くほどに閑な人間はいないし、いられない のだ。 でも、星だけは、凄まじいほどの眼力で私を突き刺す。刺し貫いて、大地に釘付 けにしてくれる。この世の誰にも不要な人間だったとしても、大地だけは私を受け 止めてくれるってことを教えてくれる。 月は大地を満遍なく浮き上がらせてくれる。安っぽい化粧は剥ぎ取って、本当に 必要なものだけを蒼い闇の海に漂わせてくれる。その蒼き海に浮き漂う生き物達、 否、モノ達さえもが、天界と言葉を交わし始めている。 そうだ、遥かな星から見たら、人間だろうが犬だろうが、電信柱だろうが、ウイ ルスだろうが、何処かの部屋の手摺だろうが、何の違いもありはしない。 だから、私のちっぽけな孤独感さえも、路上にへばり付くちり紙ほどの値打ちも ないと、心底から実感できるのだ。 私の孤独は、遠い日、誰かの歌った二十億光年の孤独とは、似ているようでもあ る。でも、やっぱり、私には私の孤独は、誰にも分からないはずのものなのだ。 そんな私のエゴイズムさえ、星の瞬きは冷たく嘲っている。そんなものが何だっ て顔で。 私は、ともすると打ちのめされそうだ。星さえも私には無情な輝きなのか、と。 ふと、悄然として帰り着く自分の姿が髣髴としてくる。 でも、瑠璃色の闇に浮かぶ遥かな街のシルエットを見ているうちに、この救いよ うのないほどの冷淡さこそが、どんな愛情よりも深く厳しいことに気付いてくる。 そうだ。私は、この吐きたくなるほどの孤独があるから、今日も私でいられるの だ。星の透明な刃は私を射抜き、私の肉体を凍てつかせ、私の心を刺し貫き、地球 の存在をも気が付かないで行き過ぎてしまう。 だったら、きっと、本当は私など、宇宙に元々、存在さえしていないってことか もしれない。 名も知らない公園の脇での、ほんの暫しの憩いの一時が、やがて終わる。 私など存在していないのだから、私の心だって、きっと、そう、星の風に吹き飛 ばされる塵埃と同様、そんな遠くない先には、粉々に砕け散るに違いない。 粉微塵の心は塵埃と一緒に中空へと舞い上がって、宇宙塵となり、永遠に漂い続 けるに違いないのだ。 そうなったならば、永遠の命を得たと同じことではないのか。 02/10/24(01/12/10原作) |