宴、それは華やかで晴れがましい宴だったろうか、それとも祭り、楽しく激しく<生>を燃焼させる祭りだったのか、キャンプファイアーのようにも思える、とにかく夜、その中に自分は居た。自分は遠い覚めた心で他の人々の仕草を、充実しきっているとでも言いたげな喜怒哀楽を、見詰めている………篝火、その周りを腕組み肩組み、紅潮し熱気を含んだ頬で人々は踊っている……踊っている。自分はひとり、木陰の下、あの世界を憧れていた……
遠い細波、無音の音が彼方から直接聞こえてくる。海岸、海もその波も白けきって白い砂漠のよう……人気は少ない、空洞のような陽の光はか弱く、見る眼に肌寒い。ある人が腹這いになって体をくねくねさせながら蠢いている、ブラームスだ。誰かにブラームスは真実に悲劇の人なのだと聞いていたが、そういえば先日、彼の一番を聞いたばかりだった……彼は軟体動物の如、波打ち際から――ちょうどそう、海棲動物が陸棲になったばかりという雰囲気を漂わせるふうにして、少し小高い砂浜を陸の方へ向かっている。陸の方は視野に入らない、彼の表情も分からない。ああ、真の苦悩の中を生きていたのだなという感慨が、幾分ためらいがちに、きまり悪げに、心の内に湧いてくる。彼への自分の心情は純粋ではない……一条の雷光にも似た激情が走った。
下宿にたどり着いた。心はもうくたくた。 部屋に閉じ篭って心の張りのいくばくかを解いた彼。しかし緊張の巣のような彼の心は弛緩しきることは決してない。言い知れぬ不安は他愛もなく彼を宙に舞い上げさせ、彼は虚空に居て、星を探し、 (星よ、悪魔よ、まどろみを)と願った。彼は心のまわりに愚昧な防護壁を作り、作り終わったと確かめた頃、目を閉じ、心を閉じる。 彼の一日、無為な時はこうして過ぎ去った。
了