久しぶりの雪の正月に思う

                                          (03/08/06 up) 





久しぶりの雪の正月に思う

仲江太陽氏のコメントに寄せて








久しぶりの雪の正月に思う







 元旦の夜遅くから雨が雪に変わった。既に夕暮れ時には冷たい雨と風で、雪の予感 があったのだが、案の定だった。雪の少ない近年の北陸では、久しぶりの雪の正月に なる。
 ところが、二日になると雪の風情を楽しむどころの騒ぎではなく、ドンドン降り頻 って、夕方には二十センチほども積もり、雪景色を見ながらの御屠蘇気分というわけ には、とてもいかなくなってしまったのである。
 老いた父と母との三人で、ささやかな夕餉の時を終えて、一服もそこそこに、小生 は、中年の鈍った体に鞭打とうと、合羽を羽織って、時折横殴りの雪模様の中、せっ せと雪掻きに励んだ。
 昼行灯で、碌に家の手伝いなどしないガキだった小生も、何故か雪掻きだけは大好 きで、手伝いを仰せつかっても知らん顔だったのに、午前、午後、夕食前、夕食の後、 寝入る前と、事情を知らない人が見たら、意地になってやっていると思われるかもし れないほどに、熱心に雪降ろしや雪掻きをしたのだった。
 ほんの十分もしないうちに体が火照ってくるのが分かる。汗で下着がびっしょりと 濡れる。合羽を着てても、首筋の透き間から、あるいはズボンに凍みて全身がぐっし ょりとしてしまう。
 でも、家の周りも、狭い庭もしっかり道をつけるまでは、手を休めることができな い。
 楽しかったのだ。雪の降るのを見るのも、降り積もった雪を降ろすのも、手で払っ てどかすのも、時には体を雪の原に転がして、一気に一面を固めてしまうのも。
 夜半近くになっても、時にはお袋が起きだしてくる時間よりもずっと早い時間に目 が覚めて、パッと着替えて表に出て、手製の橇で雪の小山から滑り降りたり、古びた スキー板を履いて、田圃の原ならぬ雪原を何処までも走り回る。
 誰一人、そんな未明の頃に出歩くはずはない。新聞配達の連中さえ、まだ活動を始 めていない。まして、田圃の原なのだ。自分が歩いたり滑ったりする跡が、唯一の人 の気配を示すものなのだ。ガキの我輩の目の先には、なだらかな雪の原が広がってい るだけ。明りなど、ほとんどといっていいほど、何もない夜明け前の銀世界なのだが、 雪明りのせいで、この時ばかりは地が天を照らし出そうとしているかのようだった。
 やがて遊び疲れると、ずぶ濡れのまま、炬燵に飛び込んで、次第次第にお尻までし とどにぬれたズボンなどが乾くのをジッと待つのだ。
 真っ白な世界は沈黙の世界そのものだ。人影も疎らになり、家の中の温もりをほん の少し離れて、甘い孤独を堪能する。誰もいない世界で、群青に輝く透明な空と白い 世界の間にただ一人立つ淋しげな自分を愛惜する。

 久しぶりの雪の正月を迎え、さすがに隠し切れない衰えかけた肉体をおして、雪掻 きをしてみると、つい熱中してしまう自分がいることに、何となく微笑ましかったり、 ホッとするような気分を味わった。
 ほんの数年で五十の大台に乗るとはいえ、自分の中にまだまだ燃えるための火種く らいは燻っていることを確認できたような気になれたからだろう。
 多くのものを失った。多くのものが自分には元々ないのだと思い知らされた。この 先、望みえるものはいかに少ないかを感じてもいる。
 それでも、心の奥の熾火は、灰に埋もれながらも燃え残っている。
 自分はまだ、決して終わった人間ではないのだ。
 汗でびっしょりの体を炬燵に深く潜らせながら、ふと、そんなことを思ったのであ る。


02/01/03 11:07





仲江太陽氏のコメントに寄せて







 仲江太陽さん、こんにちは。コメントをありがとう。

 元旦の夜半過ぎから降り出して積もったので、翌二日にせっせとやった雪掻きも、 三日は小康状態だったのですが、四日の雨で呆気ないほどアッサリ、溶けてしまい ました。一時は三十センチ近くあった積雪も、あっという間に十センチほどに。屋 根の上の落ちきれない雪も、四日の日中には煎餅布団みたいになってしまいました。
 だったら、雪掻きなどせずに炬燵の中に潜っていればよかったのに…、と思いつ つも、人や車の出入りがあるので、やっぱり、降っている其の時にやるしかないわ けです。その辺りの軽い諦念というのが、雪国人特有の優しさと辛抱強さを養って いるような気がします。 
 そうはいっても、正月休が終わって、小生は上京してしまいました。後の本格的 な雪の季節には、老いた父がやるしかないわけです。ここのところは、前回のエッ セイでは書ききれなかったけれど。
 ところで、本を出されたようですね。『パニック障害の日常』(文芸社刊)です か。もう何ヶ月も本を買えない状況にある小生は、図書館で本を借りるというのが 習慣になっています。そのうち、図書館で注文してみます。読み終えたら新刊コー ナーにさりげなく戻しておきますから。
 じゃ、また。


02/01/07 21:36