アンタッチャブルの頃  

                                             (03/07/02 up)




 5月の14日に急逝心臓病で往年の人気ドラマ「アンタッチャブル」でエリ オット・ネス役を演じて人気を博したロバート・スタック(ROBERT STACK)が 亡くなられた。
 映画にもドラマにも演劇にも疎い小生に彼の演技や役者としての存在感がど れほどのものなのか、全く知らない。56年「風と共に散る」でアカデミー助 演男優賞にノミネートされたのだし、数多くの映画に出演されたのだから、そ れなりの位置付けはあったのだろう:
 http://www.fmstar.com/movie/r/r0128.html

 ただ、自分の中では極めて大きかった、とは言える。
 小生がガキの頃、あるいは物心付き始めて間もない頃、ようやく日本の一般 的な家庭の茶の間にもテレビが鎮座するようになった。東京オリンピックを見 たいためとか、プロレスや相撲や野球や音楽バラエティなど、いろいろテレビ を買いたいと思わせる要素はあった。
 そうしたテレビ番組で小生が好んで見ていたのは、漫画も音楽もあったけれ ど、西部劇だったように思う。銃撃戦のシーンは、もしかしたら少なくとも初 めて見始めた頃は、ドラマや虚構ではなく、本当に撃ち合っているのだと思っ ていたような記憶がある。
 特に昭和30年代の後半は時代劇が映画でも全盛だったが、テレビでも活劇 が盛んに流された。番組の中で、斬り合いがあったりすると、ガキの小生は、 マジで本当に斬られていると思った。
 ガキながらに、不思議に思い、あれこれ考えた。それにしても一体、斬られ 役はどんな人が演じているのだろう、と。そして得た結論は、そうだ、分かっ た、死刑囚の方たちが、番組に悪役で登場し、主役に悪事を行った奴や許せな いとばかりに、バッタバッタと殺されるのだ、と。とんでもない納得をしたも のだった。そんなにたくさん、死刑囚がいるのかなと、一瞬、疑念を抱かない わけではなかったが、しかし、その結論を覆すのには、数年を要した。

   夢中で見入った西部劇は数多くある。まず、「ボナンザ」だろうか:
 http://www.asahi-net.or.jp/~uy7k-ymst/tv10/telwest09.htm
 それから「ララミー牧場」も欠かせない:
 http://www.ai.wakwak.com/~kimura/Laramie.htm
 とにかくテレビに夢中だった。漫画とテレビが全てだった。当時、近所に遊 び仲間がいて、小生のことを誘ってくれなかったなら、家に閉じ篭って漫画と テレビに明け暮れていたに違いない。
 そうした仲間がいてくれたので、日中、明るいうちは外で、土の上で遊びま わり、日が暮れると自宅に帰ってテレビの前にかぶりつきながら漫画に見入る 生活だった。
 ここでは漫画のことは省く。
 テレビ番組は年代がずれたり重なったりするが、「ヒッチコック」やら「逃 亡者」、「ローハイド」、「ルート66」、「コンバット」、「パパはなんで も知っている」や「ルーシー・ショウ」などなど、数え上げたらきりがない。  その中でも印象的なのが、「アンタッチャブル」なのである。番組の詳細は 下記のサイトを見てもらおう:
 http://www.asahi-net.or.jp/~uy7k-ymst/tv8/youtel29.htm
 ネットでも数多くのサイトで採り上げられている。1987年にリメイクさ れ放映されたので、その時に観た方も案外多いのではなかろうか。小生は、そ のリメイク版の「アンタッチャブル」(監督:ブライアン・デ・パルマ/出演: ケビン・コスナ―、ロバート・デ・ニーロ)も見逃していない。
 何故、このテレビドラマが印象的なのか、自分でも分からない。悪役である ギャングをネスを筆頭とする精鋭のメンバーでやっつける痛快感では恐らくな いと思う。
 日下武史の吹替えが主役のネスに相応しかったとか、時代考証がしっかりしていて、作り物めいた、わざとらしさも少なく、また、セピア色の画面にある時代の生々しさが本来は中和されるはずが、古い実録を持ち出したような鮮烈な印象を醸しだしたこと、  その面が全くないとは思わないが、実は、この世に悪人がいることが恐怖だ ったから、その悪人をやっつけて欲しい、でも、決して悪人が無くなることは ない、いや、むしろはびこるんだろうし、万が一、そんなやつ等が自分の身近 にいたら、決して逆らえないだろうな、と、マジで悩んでいた面もあったよう な気がする。
 自分は弱い奴、情ない奴なんだという、妙に諦めの早い弱虫なガキだった、 とも言えるかもしれない。
 あるいは、実はそういうことではなく、(無論、当時はそこまで分析はして いないが)自分の中の愚かしい部分、悪に傾斜しやすいだけではなく、自己主 張ができないひ弱な部分、それどころか、仮に悪の道に踏み込んだなら、その 甘い誘惑や快感に勝てる自信がまるでないと直感していたのではないかと思う。
 悪は、ある種、海に溶ける塩分のようなもので、口にすると苦いし、飲み込 むなど論外なのだけれど、塩なしで、悪なしで人間は決して生きることは出来 ない、そんな本質的なものだとも、(こんな小生意気な理屈など立てられなか ったのは無論のこととして)感じていたように思う。
 つまりは勧善懲悪のように見えて、悪がリアルでガキの小生には説得力のあ る世界として感じられてならなかったのだ。悪には勝てない、少なくとも小生 は全く敵わない。悪に立ち向かう奴等がいても、彼らに微力であってさえも協 力するなど思いも寄らない、そんな情ない限りの自分を自覚させられてしまっ た。

[ この連続ドラマの魅力の所以は多岐に渡ると思う。 日下武史の吹替えが主役のネスに相応しかったとか、時代考証がしっかりしていて、作り物めいた、わざとらしさも少なく、また、セピア色の画面にある時代の生々しさが本来は中和されるはずが、古い実録を持ち出したような鮮烈な印象を醸しだしたこと、などなど。
 しかしやはり主役を演じたロバート・スタックに求めるのが第一だろう。コメディ作品に出ていた彼に白羽の矢が立ったのは、彼の別の一面を見抜き抜擢したプロデューサー(?)の勝利なのだろう。
 ちなみに、ある程度、歴史や民族などに関心や造詣があれば、アンタッチャブルと聞くと、まず浮かぶのは、インドのカースト制度だろう。表向きは1947年のインド独立の際に廃止宣言されているが、実情はどうなのだろうか。
 カースト制度という身分制度では、上からバラモン(僧侶など)、クシャトリア(貴族・豪族・軍人など)、ヴァイシャ(商工業者など)、シュードラ(農業労働者など)という四つの身分に分けられている。しかし、実はその下にさらにアンタッチャブルと呼ばれる階級外の人々が置かれていたわけである。後にアンタッチャブルは、ガンディーによりハリジャン(神の子)と呼び返られた。日本でも江戸時代は士農工商と言いつつ、農民はシュードラ的に最下位に置かれていたが、実際にはその下に非人とかエタなどがいたようなものだ。
 カースト制については、ネットでも情報を多く入手することができる。
 例えば:
 http://www.ne.jp/asahi/fuse/abraham/asia/india/in-caste/in-caste.htm 
                                      (03/07/02 up時追記) ]


 ネスは、当然ながら、法律を頑固に執行する側に立っている。それをロバー ト・スタックが演じているのだが、彼の醒めた目が印象的だった。
 何処かニヒルな雰囲気を感じた。
 まるでオレはたまたま正義の側に立つから、職務に忠実にそれなりの情熱を 以ってギャングに立ち向かう……。が、何かの縁があって悪の側に身を投じて いたなら、やはりその立場の中で粛々と悪事を働く。悪も正義もオレには同等 の価値しかないのだ……と、目は告げているようにガキの小生は感じた。
 そうした印象は、特にリメイクされた時、改めて感じた。確かに天下の悪法 とも呼ばれることもある禁酒法を守らせる意義は、バカバカしい限りだったか ら、そういう感情をネスに漂わせるというか匂わせていたのかもしれない。  しかし、本当のところは小生は知らない。
 セピア色の単色の画面がまた、リアルだった。忘却の海の底に苦い体験とし て染み込んでいる場面が、不意に海面に、記憶の世界に悪夢として蘇ってきた ような色合いだと感じる。
 小生は、この二十年で映画館に足を運んだのは、ピンク映画を加えても10 回ほどなのではないかと思う。別に映画が嫌いというわけではないが、もう、 当時の番組ほどに圧倒的に自分の乏しい感受性に訴えかける映画やドラマに出 会えるとは思えないのである。
 それは逆に言うと自分の感受性が枯渇したということなのだろう。
 セピア色の世界よりもっとリアルな世界というと、色さえも無い、音さえも 無い世界ということになり、それは書物の世界ということになってしまったか らなのだろう。
 映画も音楽も、心行くまで愉しみたいが(音楽は車内でお気に入りの曲が流 れるのをひたすら待っている。たまに好きな曲が流れると、その一曲が干天の 慈雨のように甘美に感じられる。家にプレーヤーのない生活を送る者だからこ そ得られる至福の瞬間というわけである)、限られた時間を何に費やすかとい うと、本か居眠りということになってしまうのである。
 なんていう味気ないというか、他人には貧相な人生ということになるのだが、 それでいて本人はそれほど不満に感じていないのだから、これはこれで良しと いうことになるのだろう。


                                          03/06/22 13:56