(03/01/23 up)
茫漠とした空を見上げた。
枯れて裸になった枝の先にスズメたちが止まっている。一心に何処かを見
遣っている。
あの木は何だろうか。降り積もった雪で近寄ることが出来ない。
桜? そう、桜の木だ。寒さに凍えているけれど、それでもスズメたちの
止り木になって春を待っているのだ。
みんなに嫌われるスズメ。だけど可憐なスズメ。あのスズメ達を見ている
と、心が憂鬱になる。何故だろうか。
私を支える木はどこにあるのだろう。あの人は今、何処にいるのだろう。
でも、あの人は遠い。会おうと思えばいつでも会える。そう、今日だって会
ったばかりなのだ。あの人と言葉を交わしさえした。
「おはよう」そして「さよなら」と。
そうそう、「これ、届けてきて」と言われたっけ。書類を手渡しさえ、
された。あの人は、煙草を燻らせたままで、こちらを見向きもしなかった。
あの人の心は他の人のもの。あの人を知ったその日から、そのことは知っ
ていた。あの人たちは評判の二人だもの。
だからといって私の心をどうすることもできなかった。すぐ近くにあの人
がいる。だけど、あの人の眼中に私はいない。私はただの便利な事務員の一
人に過ぎないのだ。私なんかじゃ、見向きもしないのは当然だ。今までだっ
て誰一人、振り向いてくれた人はいないのだもの。ケラケラ笑うだけの軽薄
な女じゃ、仕方ないね。きっと、これからも同じに違いない。
薄い雲に覆われた空。あの一角だけが微かに明るい。太陽はあの辺りにあ
るのだろう。あの近くにいけたなら、少しは暖かくなれるのだろうか。
私は、今日は、うちに帰りたくない。何だか惨め過ぎて、母にも弟にも会
いたくない。家族なんて、寂しい女には鏡のようなものだ。あと、何十年も
生きるのかと思うと、気が遠くなる。何を楽しみに生きればいいのか分から
ない。友達と買い食いしたり、映画を観に行ったり、新しく出来たショッピ
ングセンターをぶらついてみたり。やたらとお喋りに興じてみたり。
それでも時間はたっぷり有り余っていた。
そんな私の二十歳頃…。
スズメたち
by kei
今年、五十路を迎えた私。
さすがにでも、この頃、やっと空漠たる心を埋めるコツを覚えてきたとこ
ろだ。
それは、やっぱり恋。
どんなに切なくて、実る見込みのない恋だって、恋のない人生などありえ
ない。私はあの人を一生愛し続けると心に誓った。私はあの人のために生き
る。あの人の面影を抱いて生きるのだ。吐き出したいほどの孤独な夜。長い
長い夜。冬の夜。炬燵に潜り込んでも、御餅を食べ過ぎて胸焼けしても、猫
のミユとじゃれ合っても、夜の底は果てしなく深い。落ちても落ちても底に
は辿り着かない。きっと、涙の一滴を落としても、地の底からポトンという
響きなど聞えないだろう。
冬のスズメたち。梢にチョコンと止まって、みんな同じ方向を向いている。
一体、何を見ているのだろう。私もあの人と同じ世界を見つめたいのに。あ
の人が何処を見ているのか分からない。毎日、一緒にいて、どうして心を重
ねることができなかったのだろう。
冬の雀
by kei
体…。体だけなら重ねることができるのだろうか。
そう。体なんて、もう、悲しいほどに簡単に重ねられる。閉ざされた空間
の中で吐息と喘ぎを、汗と涙を混ぜ合わせることができる。それはまるで平
行線だ。平行線を永遠に辿る。そして、最後の最後になって、男は勝手に去
り、私は取り残される。みんなそうだった。あの人も?!
親の勧める相手と一緒なる、べきだったのか。これで良かったのか。
いつか、あの人を見返してやりたい。あの人の彼女のことも。子供を作り、
平凡だけど幸せな家庭を作り上げる。生活に追われる。おカネの算段に苦労
する。そしていつか子供達が手を離れる時が来る。全く、予想通りの人生だ
った。
これほどに見事な仮想の現実があるだろうかと思う。あの人と添い遂げる
ことが叶わないなら、私は現実と寝るのだ。
自分が幸せになることができることを証明するために結婚したのだろうか。
それとも自分を捨ててしまって、恋心に封印してしまうために結婚したのだ
ろうか。
違う! 私は復讐のために結婚したのだ。なんに対する復讐? 自分でも
分からない。もしかしたら、人生そのものへの復讐かもしれない。私ではな
い、あの女を取る、他の女を取ることを許す人生への復讐。どうせ人生が空
虚なら、もっと空っぽにしてやる…とでも思ったのだろうか。
分からない。すべては繰り言だ。自分でも自分の人生が一貫しているなど
とは到底、信じてはいない。
もしかしたら私の子供達も私と同じ人生を繰り返すのだろうか。娘盛りの
あの子。見る影もなく太った私。心の透き間を脂肪で満たしている。こんな
になっても、恋心は死なない。何故、死んでくれないの?!
憂鬱…。そうだ、私は冬のスズメたちに嫉妬しているのだ。
同じ方向を見つめることのできるあのスズメたちを妬いているのだ。
03/01/21 21:20
(03/01/23一部改稿)
本作品は、
「小
雪ちらつく」を脳裏に浮かべながら書きました。「冬、雪、スズメ」をキ
ーワードに何かいい画像はないかと検索してヒットしたサイト「雪の降る日は」のものです。無論、小生の掌編の中身の拙さに対し、「小雪ちらつく」という画像の美しさは何の責任もありません。(03/01/23 本編up時に記す)
本作品中の挿画「冬の雀」は、
kei さんから戴いたものです。寂しいはずの光景、それでいて何処か胸の暖まる雰囲気が素敵なので拝借しました。(03/07/06 「冬の雀」up 時に記す)
本作品中の挿画「スズメたち」は、
kei さんから戴いたものです。「冬の雀」を挿画として使いたいとおねだりしたら、忙しい中、改めて描いてくれたものです。kei さん、ありがとう!。(03/07/11 「スズメたち」up 時に記す)

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