ブルームーン
(03/05/14 up)
祐介は弘美に問われて困っていた。
ブルームーンという言葉の意味は何か、というのである。
というより、弘美は、天の月を仰ぎながら、前、説明したじゃん、の一点張 りなのである。だから祐介は懸命に記憶の箱をガサゴソ引っくり返すしかなか った。
でも、何も出てこない。
出てきたのは、再放送でやっている「こちらブルームーン探偵社」だけであ る。
祐介は、この番組の中のブルース・ウィリスが好きなのだ。
というより、「ダイ・ハード」以降のウィリスは乗っているようだけど、で も、まだメジャーじゃない頃のウィリスに初々しさを感じて、ああ、初めてテ レビ放送をしていた頃に見れたなら、どんなに感激したことかと思っていた。
ウィリス演じるデビッド・アディスンを探偵として雇っている相方の女性の 名前が、幾度、番組でのキャスト紹介で確認しても、祐介は覚えられなかった。
それが、デ・ニーロ主演の「タクシードライバー」に出演したことがあると、 偶然、何かの機会に知って初めて、覚えることが出来た。そう、マデリン・ヘ イズである。
しかし、今は、テレビ番組が問題なのではない。ましてブルース・ウィリス が問題なのではない。マディ・ヘイズの名前をやっと言えるようになったと自 慢しても、弘美は馬鹿にするだけだろう。
ああ、ブルームーンってなんだっけ。そもそもこの俺に、そんな洒落た名前 を一度くらい言ったからって、その意味まで覚えられるわけがない。
ただ、なんとなく、弘美が真剣に説明していたらしいことだけは、祐介にも うっすらと思い出されてきた。
夜空を見上げると、靄でも掛かっているのか、下弦の月が朧に見える。なん だか祐介の記憶の程度を象徴しているような、曖昧な空だった。
ブルームーン……。ってことは、青い月か。青い月……。そういや、お袋が、 台所で「月がとっても青いから、遠回りして帰ろ」とかなんとか歌っていたな。 でも、まさか、そんななつメロを弘美が持ち出すわけないし。
もう、どれだけ頭の中を掻き削ってみても、何も出てきそうになかった。
ふと、去年の夏、弘美と一緒に歩きながら、月光浴のことで食い違いがあっ て、気まずい思いをしたことを思い出した。
どうも、月が絡むと、俺達の間柄は厄介なことになる…、そう思うと、祐介 は恨みを月に持っていきたい気分だった。
あーあ、早く、つまらない会話は切り上げて、何処かの物陰で弘美を抱っこ したいものだ、でも、このままじゃ、埒が開きそうにない。今夜はダメかな。 いや、決して諦めないぞ!
すると、弘美は、小さな声で、カクテル、花言葉、などと呟いた。
あ! それらの言葉で一瞬にして、すべてがハッキリした。
いつだったか、弘美と何処かのバーのカウンターに向った時、バーテンが弘 美に説明していたのを思い出したのだ。そうだ、ブルームーンという言葉の意味の 説明は弘美じゃなくて、バーテンからしてもらったんだ。だから思い出せなか ったんだ。
バーテンの説明の言葉が切れ切れに思い出されてきた。
ブルームーンというのは、月に二度、満月がある時、その二度目の満月のこ とを言う、そう、珍しい現象ということでめったにないことを意味する、……。
それからなんだっけ。
ブルームーン……。そうだ、目の前にブルームーンという名のカクテルが出 されたんだ。青色というより、水色、それとも薄紫色の透明な洒落た飲み物だ った。ジンの苦味をレモンとかで口当たりを良くしていたっけ。
ところで、めったにないって、どういうこと?
そういえば、弘美はあの時、バラにもブルームーンという品種があると言っ てたっけ。
よし! これで弘美に堂々と説明できる、そう思った祐介は弘美の顔を覗き 込んだ。が、そこには何か恥ずかしそうな、それでいて不機嫌を押し殺したよ うな表情が読み取れた。
祐介は、俺が思い出すのに時間が掛かりすぎたからなのかと思った。
でも、そのようでもない。
祐介は思い出したことを頭の中で復唱してみた。何か、抜けているものはな いか。スラスラと説明できる! しかし、何か足りない。
その瞬間だった。バーテンダーの説明の言葉を思い出した。そうだ、あの時、 バーテンの野郎、何か余計なことを言っていた。カクテルのブルームーンには、 「できない相談」という意味がある。
つまり、男が誘いかけた時、このカクテルを注文すると、「あなたとおつき あいしたくありません」ということをスマートに表現したことになるのだ、と。
てことは……、てことはだよ、弘美は俺と付き合うのが嫌になったってこと か。それを言いたくて、ブルームーンという言葉の意味を俺に思い出させよう としたのか!
でも、弘美の顔を覗き込むと、そんな切羽詰ったような表情にはとても見え なかった。そう、さっきも感じたけれど、何か恥ずかしげな、何処か悪戯っぽ いような。
弘美は祐介の視線を感じたのか、俯き加減な顔をまた、月のほうに向けた。 ほっぺが赤い気がする。
そして、祐介はやっと気が付いた。そうか! 今日は月の差し障りがあるか ら、寝床の付き合いはダメよと言っているのか!
祐介はガッカリした。これだけ苦労して思い出したのに馬鹿みたいだ。
大体、今日の月は満月じゃないぞ! そう、月に向って悪態を尽きたい気分 だった。切羽詰っているのは祐介だった。祐介は、ガックリと肩を落として、 弘美の後に付いていった。
今夜はお預けだー、という祐介の叫びが聞こえてくるような朧月夜のお話でし た。
バラ ブルームーン:
http://hanaitimonme.hp.infoseek.co.jp/shtml/bluemoon.shtml
カクテル ブルームーン:
http://www.h3.dion.ne.jp/~westtown/kaku/00.10kaku.html
今回、参考にしたエッセイ:
http://ww4.tiki.ne.jp/~wanpac/moon/h_01.html
小生のエッセイ「幻の青いバラと女心 」(5月10日号メルマガ掲載済み) に寄せてくれたMさんの発言「 花言葉ブルー・ムーン 」にヒントを得ました。 Mさんの発言を紹介できないのが残念です。
以上の皆様、ありがとうございました。
03/05/13 23:38
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