怪談? シリーズ






1.怪談? 雨の音  

2.怪談? 夢と違う  

3.怪談? かくれんぼ  





怪談? 雨の音

(04/04/16 up)





 あれは、一昔前のある夏の到来を予感させる暑い夜、突然、決まった話だ った。
 ファミレスにいつものメンバーが集まっていて、相川が退屈しのぎに何か やることがないかというと、井上が、俺、怖い場所を知っていると言い出し た。集団心理とでもいうのか、内田も榎も口々に賛成し、じゃ、みんなで行 ってみようとなったのだ。
 怖がりの織江までその気になっている。
 そう、幽霊が出るというトンネルへドライブしようというのである。車は 相川が親の車を無理を言って借りたオンボロだったが、旅の気分を損ねるこ とはなかった。
 その晩は、日中は晴れ渡っていたのが嘘のように、夕方から雨が降り出し ていた。 それとも、山間(やまあい)の九十九(つづら)折れの峠道を深く 登っていったから下界とは天候が違う、ということなのだろうか。
 噂のトンネルに着き、その手前で車を脇に寄せて停車した。
 ドライバー役の相川は、第六感の類いの感覚は鈍いほうだが、それでも、 不気味な雰囲気は感じていた。
「恐い場所だ」というイメージのせいもあるだろうが、あるいは、街灯など あるはずもない森深き町外れだからに過ぎないとも思っていた。

 どっぷりと暮れなずんでいた。生憎の雨の中、車の中から下界を見下ろす と、それでも海岸線に沿って温泉街のネオンなどが帯をなすさまや、沖合い には漁船なのだろうか、舟の灯りが蛍の光のように妖しく明滅しているのが 見えた。
 みんなでしばらく休憩した後、ゆっくりと車を進めトンネルに進入開始。  間近でヘッドライトに照らし出されたトンネルの入り口の壁を見ると、作 られてからかなりの年月が経過しているのだろう、罅割れらしき黒い亀裂が あったりして、一層、気分を盛り上げる。
 相川は、こういう体験は始めてなので、ワクワクするような妙な高揚感を 感じるている。榎も内田も 大学生だというのに、遊園地の乗り物を前にした 子供のような表情で目を輝かせていた。
 肝腎の言い出しっぺの井上は、車窓越しに海の辺りを眺め入る織江の横顔 に見惚れている。そう、井上は、とにかく織江と一緒にいる時間が欲しかっ たのだ。しかも、なんとか隣り合って坐っている。密着タイムだ。
 車の屋根を叩く雨の音が喧しい。でも、その煩さが、車の中の甘い孤独を 募らせてくれる。
 なのに、井上は、トンネルに突入する寸前、不意にラジオを入れろよ、と 言い出した。実は、一番の怖がりは井上なのだった。織江と一緒にいたいか ら、我慢しているだけなのだった。
 織江とのしばしの触れ合いを楽しんでいればいいものを、車の中の沈黙に は耐えられないものらしい。
 寂れた場所だからだろうか、それとも驟雨のせいだろうか、車と行き交う ことがまるでなかった。だから、スピードをかなり落として走らせることが できた。何かが起こる事を期待しながら。
 しかし、特に何も起らずトンネルの終端まで着いてしまった。
 みんな、拍子抜けした。
 トンネルの壁などを観察していた仲間たち全員、別に妙なモノを見たわけ ではなさそうだ。 別に相談したわけではないが、もう1度いってみようとい う雰囲気になるのも当然だったかもしれない。
 車をトンネルの出口の先でUターンさせた。

 今度も、何も起こらなかった。呆気なさ過ぎるので、 衆議一決、何度が往 復してみよう、という事になった。 雨が強くなってきたのか、雨粒が車を叩 く音がうるさくなってきた。
 3,4往復ほどしただろうか、井上が、突然、「おい、もう帰ろう」と言 い出した。
 みんなは、何も変わった事も起こらず、飽きてきたのだろう、と最初は思 った。
 だが、帰ろうと言う井上の声の調子が何処かおかしかった。相川は、井上の 様子が気になってトンネルの出口が見えるあたりで一旦車を止め、後ろを振り 向いた。
 帰ろう、と言い出した井上は肩を縮め、寒さに震えるような格好をしている。 織江のことさえ、上の空という表情だった。
 いつもクールな榎は、井上の様子を見てキョトンとしている。 「え、どうした? 何か見えたのか?」と榎が聞いたが、 「いいから、とにか くここを出よう」と井上は言うばかり。
 もしかしたら、”何か”を見たのか? みんなは期待と不安で 動悸が激し くなってきた。
 そう、みんな、井上が仲間内では一番、<繊細>な神経を持っていることを 知っているのだ。みんなが気づかないことも、井上が真っ先に気づいてしまう。 今度も、そうなのかもしれない…。
 雨は一層酷くなり、ボンネットを叩く音が耳ざわりに感じる。
 とにかく、一旦ここを出て、どこか落ち着ける場所を探す事にした。

 国道沿いのファミレスに寄り、ようやく一息ついた。
 夏も近い季節だというのに凍えるように震えていた井上も、ようやく落ち着 いてきたようだ。
「なぁ、もう大丈夫だろ? 何を見たんだよ」と相川。
「聞こえなかったのか? あれが」
 井上は、怪訝そうな顔で僕達を見た。あれに気づかないほうがおかしいと言 わんばかりだった。
 妙な怪音の類か?それとも声? 
 しかし、相川にも榎にも心当たりはなかった。
 内田も、皆目見当が付かない、といった表情をしている。
 みんな、井上の問いに答えられないでいるなか、相川は仕方なく、
「別になにも・・・まぁ、運転してたし、雨もうるさかったしなぁ。」と、呟 くばかりだった。
「聞こえてたじゃんか!」と、井上がいきなり声を張り上げた。
 みんな、驚いた。
 深夜なのでファミレスにはほとんど人はいなかったが、バイトの店員が、目 を丸くしてこちらを振り向いた。
 しかし、井上が何のことを指して言っているのか、みんな、理解できない。
「何が聞こえてたって? はっきり言ってよ」
 それまで黙っていた織江も、とうとう井上に詰問口調に問い質した。
 ずっと、井上が体を自分に押し付けていたという、苛立ちもあって、思わず 強い口調になっていたのだ。

 しばらく重い沈黙が続いたあと、井上が口を開いた。
「雨だよ、雨の音。」
「俺達はずっとトンネルの中に居ただろ!なんで雨が車に当たるんだよ!」




 榎の後日談。ザーという雨の音は、感度の悪いラジオがトンネル内で雑音を 鳴らしていたとは、その場では言えなかった。相川も内田も織江も、井上があ まり怖がっているので、笑うに笑えなかったとか。

(了)




 本作は、下記サイトの中の、「雨の音」を改作したものです。
「死ぬ程洒落にならない話を集めてみない?」
 http://kowai.sub.jp/

(04/04/16 記)






怪談? 夢と違う

(04/05/22 up)





 これは、テレビでアイドルとして活躍したことのある女性の話です。

 彼女は、アイドルだった頃、ストーカーのような男に追い回される夢を 見続けていました。
 競争が激しい世界で生きるため、ダイエットに顔パックに、仲間との付 き合いにと、苛酷な日々が続いたせいもあったのかもしれません。
 その日も、仲間と別れ、一人になると、男の影がちらつき始めたのでし た。足を速めると、男も速め、何処かのショーウインドーの前で立ち止ま ると、男も電柱の影に身を潜める。
 見ると、その手にはナイフが! 
 とうとう、彼女は我慢がならず、走って叫んで、助けを求めようとしま したが、間もなく捕まってメッタ刺しに!
   自分の物凄い悲鳴で目が醒めました。
 ああ、夢でよかった!

 ある夏の日の夜、シャワーを浴びた彼女は、お酒を買いに近所のコンビ ニに向かいました。近くだし、真夜中じゃないから、人の通りもあるだろ うと思ったのが、間違いの元でした。
 公園の側に差し掛かったら、なんと夢で見た男にソックリな男が公園の トイレの影から現れて来たではありませんか!
 恐怖のあまり彼女は電話ボックスに駆け込み、友人に電話をかけました。  怯える彼女を他所に、電話ボックスの中を一瞥するだけで、男は通り過 ぎました。 幸いにも、通りの向こうに人影が見えたからでしょうか。

 安堵の胸を撫で下ろし、ボックスを出ると、逆方向へ彼女は歩き始めま した。
 そう、怖いので、コンビニに行くのは止めて、部屋に戻ることにしたの です。
 するとまた向こうからあの男がやって来たのです!

 心臓は割れ鐘のように乱れ打ち、腋も手の平も冷や汗でじっとり濡れて います。しかし今度は逃げ込む場所がありません。恐怖のあまり、どうや ら方向を間違えて、わざわざ公園の奥へと入り込んでしまったらしいので す。
 彼女は、腰が抜けてしまって、逃げる気力も萎えてしまいました。
 まるで蛇に睨まれた蛙です。

 いよいよ男が間近に…。
 男は、しかし、彼女の横を、怪訝な表情で通り抜けるだけでした。
 男は、そのまま通り過ぎながら、小さく呟きました、
「何処であいつを見失ったんだろう…」

 そう、彼女は、シャワーを浴びて化粧を落としていたので、男は、全く の別人だと勘違いしたのでした。



 本作は、下記サイトの中の、「夢と違う」を改作したものです。
「死ぬ程洒落にならない話を集めてみない?」
 http://kowai.sub.jp/

(04/04/16 記)




怪談? かくれんぼ

(04/05/22 up)







 これはオレがまだ、現役の泥棒をやっていた頃の話だ。
 かねてより、物色していた物件があった。共稼ぎの夫婦の家だった。当然 ながら、二人とも、日中はいない。先に帰ってくる女房も、早くても五時半 過ぎの帰宅だ。旦那の帰宅時間までは把握出来ていない。まあ、夕方以降と いうことだろう。
 午前の十時を二十分ほど回った刻限だった。
 主婦達の、ゴミ出しや掃除、その他の家事が一段落し、近所も一時的に閑 散とする時間帯を狙って、家に忍び込んだ。
 どうやって鍵を開けたかって。それは内緒。営業上の秘密さ。ま、何も道 具なんてなくたって、それこそ釘の一本もあれば、大概の家は入れるのさ。
 案の定、家には誰もいなかった…、いないはずだった。オレは、父親がゴ ミを片手に、慌しく出勤するところも、母親が割烹着の格好で、歩いて十分 ほどの総菜屋にパートの仕事をするために向ったのも、近くのビルの外階段 から覗いて確認していたのだ。
 なのに、薄暗い家の中に人の気配がする…。商売柄、人の影には敏感なの は言うまでもない。
(気付かれたか…。大丈夫か…。)オレは、廊下の突き当たりの隅で石にな っていた。静寂。オレの心臓の高鳴りだけがドクンドクンと、やたらと煩い。  不意に柱時計がボーンとなった。十時半。
 床を踏む音はまるで聞えない。しかし、誰かいる。オレには分かる。勘だ けれど、狂いなどありえない。鴬張りの廊下じゃあるまいし、廊下が鳴くわ けがないのだが、廊下がキュッキュッ泣いている。誰かが風呂場と思われる 辺りからやってくるのが感じられた。
 すると、しばらくして小さな男の子の姿が現れた。どうしてガキが?!  二人暮しじゃなかったのか?!
 ガキは次第にオレのほうにやってくる。廊下の隅っこの長持の陰に身を潜 めているけれど、見つかるのは時間の問題だ。あまりに予想外で、ちゃんと した隠れ場所を確保する余裕などなかったのだ。
(くそっ、どうする?)
 逃げるに逃げようがなかった。こうなったら開き直るしかない。動悸が、 苦しいほどだ。ガキ一人、殴るかどうかして、逃げればいい…。泥棒はして も、人に手は上げないのが信条だったけれど、今回ばかりは仕方ない…のか …。万事休すだ。
 とうとう男の子は、オレの前に立った。不覚にも、つい目を閉じていたオ レは、恐る恐る目を開けた。が、男の子は、そこに誰もいないかのように、 そのまま過ぎ去っていった。回りの様子など眼中にないかのようだった。
 ガキは襖を開けて座敷に入った。そこには黒い大きな物体があった。目を 凝らして見詰めてみると、その物体の正体は、どうやら巨大な冷蔵庫らしい と分かった。座敷に、しかも、あんなにでかい冷蔵庫!
   ガキには重そうなドアを開けると、庫内から灯りが洩れる。気のせいか、 冷気がこちらまで漂ってきている気がする。ガキの顔はドアの陰になって表 情を窺うことは出来ない。背中ばかりが白熱灯の光に照らされ丸く見える。
 突然、ガキは、「見つけた!」と叫んだ。
 オレは、黙れ、声を上げたら、まずいじゃないかと叱ってやりそうになっ た。
 ガキは、庫内の奥に上体を突っ込んでいる。感じでは、手を思いっきり伸 ばしているようだ。が、なんだか様子がおかしい。手が抜けないようなのだ。 一体、何をしているのか。オレには分かるはずもなく、もどかしかった。ガ キは懸命に手を引っ張り出そうとしている。
 そのうちに、実は、庫内の何かを引き摺り出そうとしているのだと分かっ てきた。
 ガキは、なんだかブツブツ呟いている。(こんなところに隠れちゃ、ダメ だよ)と言っているように、オレには聞えたけれど、断言はできない。(か くれんぼなんだから、見つかったら、あきらめなくちゃ)とも、言っている?  そのうちに、ドスンという小さな、しかし妙に鈍い音がした。とうとう何 かを畳の上に出すのに成功したのだ。一体、獲物は何なのか。身を乗り出し て確かめたいという衝動を辛うじて制した。
(かくれんぼは終わりだよ)という声が聞こえたかと思うと、不意にまた、 パタンという音。どうやら冷蔵庫の扉が閉められたらしい。が、男の子の影 が見当たらない。死角になったのだとしても、気配くらいはあるはずだ。な のに、家の中の、人の体に由来する微妙な空気の変化の源は、どう探ってみ ても、オレの辺りにしかない。つまり、居るのはオレだけだということだ。 ガキは何処へ消えた?!
 どれほど身を潜めていたのだろう。一時間? まさか! せいぜい数分の はずだ。泥棒の仕事は、安全・的確・迅速が旨なのだ。無用な長居などする はずもない。ただでさえ、予想外の出来事に窮しているというのに。
 オレは、何も盗らないで逃げることにした。
 が、ガキが何を冷蔵庫から取り出したのか、確かめたいという欲求には勝 てなかった。空いている襖から座敷の中を覗き込んでみた。何もない?!  誰もいない! 
 オレは軍手をした手を冷蔵庫の扉の取っ手に懸け、思い切って開いてみた。 開いた瞬間、大量の水が畳の上に零れてしまった。幸い、オレの足までは水 は飛び散らなかった。恐る恐る中を覗くと、庫内の下段に油紙で包まれ麻縄 で括られた丸っこい物体が室内灯に照らされているのを発見した。
 さすがに荷を出して、紐を解く余裕などない。もう、時間がない。不審な ことだらけだったが、逃げるしかないのだ。

 数日して、新聞に小さな記事が載っていた。その共稼ぎ夫婦が自分たちの 子どもを殺したと自首したというのだ。
 何でも、家に泥棒に入られ、よりによって冷蔵庫の中が荒らされ、庫内に 冷凍していた子供が見つけられてしまった、だから、二人で相談し、観念し て自首することにした、そう記事には書いてある。
 体罰を加え、衣服で一杯の箪笥に押し込んでおいた、気が付いたら子供は 死んでいた、とも。近所の人の話では、子供は病気で隣町の病院に長期入院 していることになっていたとか。
 泥棒? オレのことか。けれど、オレは何もしてないぞ。未遂だ。発見し たのはガキなんだぞ。
 オレは掴まっていない。だから、真相は誰にも漏らしていない。
 真相…?
 そうだ、あのガキが何処から来て何処へ去ったのか、オレには未だにさっ ぱり分からないでいるのである。

(04/04/22 記)